【NEWS】広島電鉄が新ダイヤ発表 – 広島駅乗り入れに至る紆余曲折の25年

広島電鉄の広島駅乗り入れ口 協議会ニュース

【2025年7月8日】JR広島駅の駅ビル2階に2025年8月3日から乗り入れを始める広島電鉄は、移設後の新ダイヤを発表しました。これは、広島駅~稲荷町~比治山下を結ぶ「駅前大橋ルート」の開業にともなうダイヤ改正です。

新たなダイヤでは、広島駅と市の中心部の所要時間が約4分短縮。広島駅~紙屋町東は、現状の約14分から約10分になります。また、一部の停留所を通過する快速をはじめ増便も実施。快速の運行は、広島電鉄では初の取り組みで2025年末までの実証運行になります。利用状況によっては、2026年以降の継続も検討されるようです。

なお広島電鉄では、駅前大橋ルートの開業にともない廃止される一部線区を活用した新規路線(循環ルート)も計画しており、こちらは2026年春の運行開始をめざしています。

広島駅周辺の新ルート
出典:広島電鉄「2025年8月3日(日) 駅前大橋ルート開業に伴う広電電車ダイヤ改正および停留場の変更について」

【解説】JR広島駅南口再開発で実現した広電乗り入れ計画

広島電鉄のJR広島駅乗り入れ計画は、2014年9月に広島市が策定した「広島駅南口広場の再整備等に係る基本方針」がベースになっています。

この基本方針では、JR広島駅の交通結節機能の強化や駅ビル・周辺地域の再開発など、南口一帯の大規模リニューアル案が示されています。周辺地域の再開発を含めた全体の完成は、2028年度末を予定。総事業費は当初、約155億円とされましたが、計画変更や物価高騰などにより最終的には約520億円に膨らむ見込みです。

このうち、広島電鉄の「駅前大橋ルート」の総事業費は約109億円です。ただし、この額は国に補助金を申請した2019年時点での試算結果で、実際の事業費はもっと高くなるとみられます。

アクセスが悪かった広島駅と中心部

JR広島駅は、広島市の中心部から2kmほど離れています。中心部の紙屋町東までの所要時間は、路面電車のダイヤ上で約14分。ただ、雨の日は25分以上かかることもあるそうです。

路面電車の定時制と速達性を問題視した広島市は、1999年11月に「新たな公共交通体系づくりの基本計画について」を策定。広島駅と中心部のアクセスを改善する、新たな交通ネットワークを提示します。この計画には、路面電車のルート変更(駅前大橋ルート案)のほか、JR西広島駅から平和大通りなどを経由してJR広島駅と結ぶ「地下鉄東西線案」なども含まれていました。

その後、この計画が中国運輸局の交通審議会で検討。2002年には路面電車のルート変更案に対して「検討する必要がある」と答申されます。これを受けて広島市は、2004年12月に検討委員会を設置。駅前大橋ルート案の本格的な議論が始まったのです。

駅乗り入れは「高架か?地下か?」

2010年8月には、広島駅南口一帯の再開発を検討する「広島駅南口広場再整備に係る基本方針検討委員会」を広島市が設置。広島電鉄、JR西日本のほか有識者も交えて議論を深めていきます。

ここで議論された項目のひとつが、路面電車の「広島駅への乗り入れ方法」です。広島市は「平面乗り入れ」「高架化」「地下化」の3案を提示。このうち平面乗り入れは、駅前交差点で渋滞を招くなど懸念事項が多いため除外。高架化と地下化に絞り込まれます。

JR西日本は「高架化」を支持。駅ビルの建て替えと一緒に進め、新幹線などとの乗り換えを改善させると訴えます。これに対して当時の広島電鉄の社長が、「高架化は勾配が大きく古い路面電車が上がれない」などの理由で反対。「地下化」を推します。

一見すると、「JR西日本vs広島電鉄」という対立構図にみえますが、実は広島電鉄の社内で地下化を推していたのは、社長のみ。他の取締役などは高架化を望んでいたのです。当時の広島電鉄では「社長の独断的な業務執行」が問題視されていました。この件に限らず、車両更新や運賃値上げといった経営計画に関わることも取締役会に報告しないなど、社内で対立が起きていたようです。

こうしたなかで2013年1月に、広島電鉄は臨時取締役会を開催。「正当な業務執行に支障をきたす」などの理由で、当時の社長が解任されます。この社内クーデターにより、広島電鉄は「高架化」に一転。同年6月に検討委員会は、高架化の案で報告書をまとめます。この報告書をもとに、広島市は「広島駅南口広場の再整備等に係る基本方針」を2014年9月に策定。路面電車が駅ビルの2階に乗り入れるという、全国初の計画が決まったのです。

廃止線区の存続運動から生まれた循環ルート

駅前大橋ルートが開業すると、既存路線の一部が廃止されます。廃止区間には、猿猴橋町、的場町、段原一丁目の3つの停留所があります。この状況で起きるのが、沿線住民による廃止反対運動です。3つの停留所の近隣住民からみれば、広島駅や市の中心部へのアクセスが不便になります。

広島市は2013年8月から、沿線住民に対する説明会を実施。廃止への理解を求めます。これに対して沿線住民からは「路面電車はゆっくり走る乗り物でよい」「定時性や速達性を求めるなら地下鉄を整備すべき」といった意見が出たようです。

こうしたなかで、地元町内会から「単に廃止するのではなく、新たな路線を作れないか」といった提案が出されます。この提案から生まれたのが、新規路線の「循環ルート」です。

循環ルートは、的場町~本通~市役所前~皆実町六丁目~段原一丁目~的場町と、市の中心部を通る環状線。これにより、廃止予定だった的場町と段原一丁目は存続。猿猴橋町のみが廃止になります。なお循環ルートを運行するには、的場町付近の軌道新設工事が必要です。この工事は、駅前大橋ルートの開業後に着工。2026年春から運行が始まる予定です。

広島電鉄の関連記事

参考URL

2025年8月3日(日) 駅前大橋ルート開業に伴う広電電車ダイヤ改正および停留場の変更について(広島電鉄)
https://www.hiroden.co.jp/topics/2025/pdf/0708_tramdia/tramdia1.pdf

広島駅南口広場の再整備等に係る基本方針(広島市)
https://www.w-shin.com/site/wp-content/uploads/2014/09/e3b38ba32f0dc041708cc81d9050696c.pdf

【第2回地元説明会資料】広島駅南口広場の再整備等について(広島市)
https://www.city.hiroshima.lg.jp/res/projects/default_project/_page/001/016/989/25523.pdf

申請者の概要(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001312762.pdf

広島駅を“語る”Vol.06(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/railroad/project/project_hiroshima/interview/06/

タイトルとURLをコピーしました