【阿佐海岸鉄道】DMVは赤字でも地域経済効果は年間2億円?

阿佐海岸鉄道のDMV 三セク・公営

阿佐海岸鉄道は、DMV(デュアル・モード・ビークル)で鉄道とバスを運営する、第三セクターの事業者です。鉄道は阿波海南から甲浦までの路線を、その周辺をバスが運行しています。

世界初のDMV営業運行として、注目を浴びている阿佐海岸鉄道。なぜ、鉄道からモードチェンジしたのでしょうか。その経緯や運行開始後の効果について、検証します。

阿佐海岸鉄道の線区データ

協議対象の区間阿佐東線 阿波海南~甲浦(10.0km)
※2023年6月現在のバス運行区間は、「阿波海南文化村~阿波海南駅」「甲浦駅~道の駅宍喰温泉」「甲浦駅~海の駅とろむ(土日祝のみ運行)」
輸送密度(1992年→2019年)海部~甲浦:385→135
増減率-65%
赤字額(2019年)8,041万円
※輸送密度および増減率は、阿佐海岸鉄道が開業した1992年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

海陽町、美波町、牟岐町、東洋町、徳島県、高知県、JR四国

阿佐海岸鉄道と沿線自治体

輸送密度100人/日未満だった阿佐海岸鉄道

阿佐海岸鉄道の前身である国鉄阿佐線(阿佐東線)は、徳島県の牟岐から室戸岬を経由し、高知県の後免までを結ぶ予定でした。1973年に牟岐~海部が開業。この区間は牟岐線の一部として運行が始まりますが、その先は国鉄の経営悪化により工事が凍結します。

ただ、海部~甲浦間は構造物がほぼ完成していました。沿線自治体は、この区間を整備して鉄道の運営を決定。1992年3月に、阿佐海岸鉄道が開業します。

なお、牟岐~海部はJR四国が牟岐線として継承、高知県側の後免~奈半利は2002年に土佐くろしお鉄道として開業しています。

阿佐海岸鉄道は開業当初、年間17万人を超える利用者がありました。しかし、沿線地域の過疎化や少子化などが原因で、利用者は右肩下がりに。2010年には、4万人を割り込むまで減少します。

阿佐海岸鉄道の年間利用者数の推移
▲阿佐海岸鉄道の年間利用者数の推移。1992年の開業から2010年までは一貫して減少を続けた。
参考:四国運輸局「地域における公共交通の確保維持方策及び活性化策のあり方について」の資料をもとに筆者作成。

沿線自治体は、阿佐東線連絡協議会を中心に阿佐海岸鉄道の利用促進に努めます。その結果、2011年以降は増加に転じます。

とはいえ、輸送密度は100人/日前後しかない閑散区間であることには変わりありません。また、年間赤字額は1億円前後。開業時に12億円超を積み立てた基金も底をつきかけており、沿線自治体は鉄道としての「あり方」を検討することになったのです。

利用者の少なさを逆手にとりDMVの導入を検討

こうしたなか沿線自治体は、JR北海道が開発を進めていたDMVに注目します。当時、JR北海道は道内のローカル線でDMVの走行実験を進めていました。しかし、路線長が長く積雪の多い北海道でDMVを導入するには、課題も多かったのです。

一方、阿佐海岸鉄道の営業キロは10km弱。積雪もなく、利用者数もマイクロバスで運べる程度しかいません。鉄道としては不利でも、DMVなら公共交通として残せるかもしれない。沿線自治体は、北海道では無理とされたDVMへのモードチェンジを、本気で検討することになります。

2011年11月、JR牟岐駅から宍喰車庫の区間で走行試験を実施します。このときは、鉄道区間のみで走行試験をおこないます。その後、2012年2月には鉄道区間にくわえ、バスモードで阿波海南文化村や室戸岬などへの実証運行を実施します。

走行試験を重ねた結果、沿線自治体は「DMVは活用できる」と結論。そして2016年2月、徳島県は「10年以内にDMVの導入をめざす」と発表します。同年5月には、阿佐東線DMV導入協議会を設立。世界初となるDMVの営業運行に向けて、協議がスタートしたのです。

阿佐海岸鉄道でDMVを導入する目的

2017年2月、第2回の阿佐東線DMV導入協議会。ここで改めて、阿佐海岸鉄道でDMVを導入する目的が示されます。

・阿佐東地域の活性化に貢献
・地域公共交通の維持・充実に貢献
・防災面の強化

DMVは、鉄道とバスのシームレスな交通体系を実現するだけでなく、車両そのものが観光資源となり、新たな人流を生み出すことも期待されます。また、災害時には残った線路と道路を活用して救援物資の輸送などにも活用できます。

ただ、鉄道とバスのシームレスな交通体系を実現するには、線路と道路をつなぐ「接続施設」が必要です。阿佐海岸鉄道の起点である海部は高架駅のため、車両の出入りに難があります。そこで、地上駅であるJR四国の阿波海南に接続施設を設置。阿波海南~海部を阿佐海岸鉄道に移行することも、この協議会で確認されます。

DMVの導入時期についても、3年後の2020年までとすることが第2回の協議会で正式に決定します。

DMVは5,400万円の赤字でも経済波及効果は2億円

DMVは2020年に導入予定でしたが、駅舎改築の遅れや新型コロナウイルスの影響などにより、計画は遅れます。こうしたなか、2020年8月に開催された第6回協議会で、DMVの需要予測が示されました。開業から5年平均で見積もられた利用者数は、以下の通りです。

阿佐海岸鉄道の区間52,000人(定期:1,500人、定期外:50,500人)
JR四国からの移行区間9,000人(阿波海南~海部)
バス区間5,500人
DMV目的の利用者8,500人
合計75,000人
▲DMV運行後(5年平均)の利用者数の予測。
参考:阿佐海岸鉄道「第6回阿佐東線DMV導入協議会」の資料をもとに筆者作成。

DMVの視察を目的に訪れるビジネス客や観光客も増えていることから、「DMV目的の利用者」を別途加算し、年間75,000人の利用客を見込みました。ちなみに、2019年の阿佐海岸鉄道の年間利用者数は52,983人ですから、おおよそ4割増える計画です。

また、収支予測では約5,400万円の赤字と予測。これまでの約6,848万円(2012~2019年の平均)と比べて、1,400万円以上改善すると見込んでいます。

一見すると、DMVを導入しても赤字に変わりありません。しかし、車両自体が観光資源になるDMVなら、観光客などの増加にともなう経済波及効果が期待されます。協議会では、その効果についても予測。おみやげの販売、飲食、宿泊など、地域にもたらされるトータルの波及効果は、約2億1,400万円と推計されました。

ちなみに、DMV導入事業に要した費用は、約16億3,200万円です。イニシャルコストに年間赤字額を含めても、経済波及効果によって約10年で回収できる計算です。

項目事業費
車両製作約4.2億円
駅舎の改築(接続施設・ホーム等)約4.8億円
信号設備等の整備(阿佐東線・JR牟岐線)約6.9億円
安全性の証明約0.4億円
総事業費約16.3億円
▲DMV導入事業費の詳細。
参考:海陽町「DMV運行による阿佐東地域の活性化」の資料をもとに筆者作成。

DMV導入後の効果は?

2021年12月25日、世界初となるDMVの営業運行がスタートします。当初の予定から1年以上遅れましたが、予定通りに開業しても、コロナの影響で利用者は激減したでしょう。

開業から1週間の利用者数は、2,121人。通学定期客は冬休みで少なかったものの、DMV導入前と比べて2倍以上の利用者数です。その後も、月間で3,000人以上、前年同期と比べて1.5倍前後の利用が続きます。ただ、年間で75,000人をめざすには、月平均で6,250人の利用が必要です。

一方、地域への経済波及効果も、徐々に表れているようです。DMVの始発駅である「阿波海南文化村」の利用者数は、導入前と比べて約1.5倍に。道の駅・宍喰温泉に併設されたホテルも、宿泊客が1.5倍前後に増えているようです。

ちなみに、徳島県が実施したアンケート調査によると、利用者の6割以上がDMVの乗車が目的で、観光目的は2割程度に留まったそうです。

阿佐海岸鉄道のこれまでの取り組み

「DMVフィーバー」が続く阿佐海岸鉄道ですが、その利用者数を維持するには、沿線自治体が中心となった利用促進活動が重要なカギを握ります。DMV導入後に、阿佐東線連絡協議会や阿佐海岸鉄道が取り組んできた、利用促進策の一部を紹介しましょう。

  • DMV活用の観光ツアーの企画・売り込み
  • イベントの実施
  • 記念乗車券の販売
  • DMV関連グッズの販売
  • PR動画作成
  • マスメディアでの宣伝活動やホームページによる情報発信

…など

阿佐海岸鉄道は以前から、観光利用者の多い鉄道路線でした。DMVも観光資源のひとつですから、これに乗車することを目的とした観光ツアーの企画や、旅行代理店への売り込みに注力しているようです。

DMVの関連グッズも、売上が好調のようです。一例として、DMVの形状を模した「DMV最中」、2種類のルーを混ぜると味変する「DMVカレー」、人生の転換期における開運を願う「モードチェンジお守り」など、さまざまなグッズが販売されています。これらは、地域の菓子店や飲食店などの協力で販売しており、地域活性化にも貢献しています。

DMV導入から1年以上が過ぎ「DMVフィーバー」が収まった一方で、コロナの影響も少なくなってきた2023年。これからが、DMVの本当の力が試されます。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【四国】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
四国地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

DMV運行による阿佐東地域の活性化(海陽町 まち・みらい課)
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/soukou/soukou-magazine/135-1sougoukoutsu.pdf

第2回阿佐東線DMV導入協議会(阿佐海岸鉄道)
https://asatetu.com/dmv/wp-content/uploads/2021/11/conference02.pdf

第6回阿佐東線DMV導入協議会(阿佐海岸鉄道)
https://asatetu.com/dmv/wp-content/uploads/2021/11/conference06.pdf

第10回阿佐東線DMV導入協議会(阿佐海岸鉄道)
https://asatetu.com/dmv/wp-content/uploads/2022/03/76ae35c14f6e929725b911d51306203a.pdf

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