【ひたちなか海浜鉄道】三セクの「勝ち組」になれた施策とは

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ひたちなか海浜鉄道の駅 三セク
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ひたちなか海浜鉄道は、第三セクター運営の鉄道事業者のなかで「勝ち組」とされる路線のひとつです。もともと、茨城交通の湊線という鉄道路線でしたが、三セクに移行してから利用者数は増加の一途をたどっています。

ひたちなか海浜鉄道は、どのようにして利用者数を伸ばしていったのでしょうか。沿線自治体が組織した「湊鉄道対策協議会」の取り組みを踏まえて紹介しましょう。

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ひたちなか海浜鉄道の線区データ

協議対象の区間湊線 勝田~阿字ヶ浦(14.3km)
輸送密度(2008年→2019年)1,205→1,773
増減率47%
赤字額(2019年)3,988万円
※輸送密度および増減率は、ひたちなか海浜鉄道が発足した2008年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

ひたちなか市、地元自治会、湊線沿線高校、地元NPO、茨城県など

ひたちなか海浜鉄道と沿線自治体

ひたちなか海浜鉄道の協議会設置までの経緯

ひたちなか海浜鉄道は、茨城交通の湊線を継承して2008年に開業した第三セクターです。湊線は、1965年代には年間約350万人が利用する鉄道路線でしたが、モータリゼーション化の影響により利用者は減少。2005年には70万人台にまで落ち込みます。くわえて、茨城交通のメイン事業であるバスも利用者が大きく減少し、経営難に陥っていました。

2005年12月、茨城交通は湊線を2008年3月に廃線にすることをひたちなか市に申し入れます。しかし、ひたちなか市は存続を強く主張。財政支援も視野に、湊線の存続に向けて協議会の立ち上げを決めます。こうして2006年6月に、「ひたちなか市湊鉄道対策協議会」が設置されました。

また、ひたちなか市の自治会や商工会議所、沿線高校といった沿線住民も鉄道の存続に向けて行動を始め、2007年1月には市長を会長とする「おらが湊鐵道応援団」が発足。湊鉄道対策協議会とともに、利用促進策や財政支援策などに協力する団体として活動を続けています。おらが湊鐵道応援団の会員は、約2,000人もいるようです。

沿線住民を巻き込んだ鉄道存続運動

湊鉄道対策協議会では、地域住民の利用促進を念頭に存続に向けた具体的な方向性を検討していきます。

第2回の協議会(2006年7月)では、沿線の高校をはじめ市民に対するアンケート調査の実施を決定。アンケートの予告や結果などは市報に詳細を掲載するなど、積極的に市民に協議会の活動内容をアピールしていきます。

鉄道の存廃を決める協議の内容は、往々にしてクローズにされる傾向がありますが、湊鉄道対策協議会では情報をオープンにすることにより、市民の関心を高めようという狙いもあったようです。

第3回(2006年9月)では、茨城交通に対する支援策が協議されるとともに、利用促進に向けた社会実験についても協議。社会実験の具体案として、バスとの乗り継ぎ乗車券発行や臨時バスの運行、地魚干物作り体験や港町ハイキングといったイベントによる利用促進案が盛り込まれています。なお、この社会実験は、先のアンケート調査の回答にあった案を参考に企画されています。

最終的に、湊線は茨城交通から分社化され、ひたちなか市と茨城交通が出資する第三セクターが運営することで存続が決定しました。

鉄道施設への支援について

茨城交通が鉄道事業からの廃止を申し入れた理由のひとつに、老朽化した施設の更新にかける予算がなかったことも挙げられます。茨城交通の収支予測によると、2007年度から2011年度までの5カ年で、車両の更新や検査、ATS更新などに約11億円もの事業者負担が生じると試算していました。この額を自社単独で捻出できないという事情も、鉄道廃止の一因としています。

これについて、国の鉄道軌道近代化設備整備補助制度を活用して、国・茨城県・ひたちなか市がそれぞれ3分の1ずつ支援。本来は事業者が負担する分も、ひたちなか市が負担することで設備などの更新をおこなっています。

ひたちなか海浜鉄道のこれまでの取り組み

ひたちなか海浜鉄道では、利用促進に向けた取り組みとして以下のような施策をおこなっています。

  • 年間通学定期の販売(約120日分の往復運賃で年間通学定期が購入できる)
  • 企画きっぷの販売(海浜公園入園券付きセットクーポン、銚電&湊線フリーきっぷなど)
  • 沿線事業者と連携した「乗車特典サービス」の実施
  • パークアンドライドの導入
  • アートイベントの開催(みなとメディアミュージアムなど)
  • アニメ・ゲーム・キャラクターとのコラボ企画
  • オリジナルグッズの制作・販売
  • 沿線自治会などによる各駅の美化活動

…など

利用促進策としては、増発や終電の繰り下げ、コミュニティバスとの接続改善といった基本的な改善策はもちろん、沿線の学校や企業などに対する「営業活動」が利用者増加につながっているようです。

一例として、年間通学定期は約120日分の往復運賃で購入できる定期券ですが、市の教育委員会とも連携して、市内に在学する中学3年生全員に試乗券とチラシを配布したり、沿線高校の入学説明会でアピールと予約受付をおこなったりと、通学時の鉄道利用をPRしています。

ひたちなか海浜鉄道では、2011年に那珂湊第二高校が閉校になるなど少子化の影響で通学利用者は減少傾向にありましたが、鉄道の通学利用者は2012年度から増加に転じ、利用者数はひたちなか海浜鉄道が開業した2008年と同水準を保っています。

また、通勤利用者に関してはパークアンドライドなどの施策により増加傾向にあるほか、自治会には回数券購入時に1回分を市が補助して11回分を9回分の価格で販売するといった地道な活動が続けられています。
ただ、2007年には70万人にまで減少していた年間の乗車人員は、2017年度には100万人にまで復活。市や県の補助も含めると、2017年度からは最終黒字を計上するまでになっています。

▲ひたちなか海浜鉄道の年間輸送人員。開業からわずか15年で3割以上も増加している。
参考:国土交通省「おらが湊鐵道応援団・湊鉄道対策協議会」および各年の決算資料をもとに筆者作成

ひたちなか海浜鉄道のPR活動の中心を担っているのが、地域住民などが組織する「おらが湊鐡道応援団」です。那珂湊駅には応援団が観光案内などをおこなうサービスステーションを運営するほか、沿線の商店や飲食店、宿泊施設などと連携した「乗車特典サービス」の展開や各駅で定期的に美化活動をおこなうなど、積極的に活動をしています。

ひたちなか海浜公園への延伸計画は実現するか?

利用者は増加傾向にあるとはいえ、ひたちなか海浜鉄道の経常損益は年間3,000万円以上の赤字です。コロナの影響を大きく受けた2021年度の経常損益は、1億円以上の赤字になっています。ひたちなか市や茨城県は、赤字に対して毎年支援をしており、2019年以降は1億円を超える補助金を支援しています。

また、沿線人口は減少の一途をたどっていることから、今後利用者の減少が予測されます。

そこで、ひたちなか海浜鉄道は観光利用者の増加を狙い、阿字ヶ浦から国営ひたち海浜公園西口付近まで3.1kmの延伸事業を計画。2021年1月に認可されました。ひたち海浜公園は、年間200万人が訪れる茨城県を代表する観光地です。これまでは、阿字ヶ浦駅から無料シャトルバスなどを運行していましたが、一度に多くの乗客を運ぶには鉄道が適しています。

とはいえ、延伸するには78億円もの事業費がかかり、一部の人たちからは「無謀」という声も聞かれます。それでも、鉄道の延伸によりひたち海浜公園の利用者が増えれば、自治体にとっては税収増も見込まれますし、何もしなければ鉄道利用者は確実に減少に転じるわけです。

一度は廃止案が挙げられた鉄道事業者ですから、二度と同じ目に合わないためにも、今こそ攻勢に出る必要があったといえるでしょう。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

ひたちなか海浜鉄道 利用促進事例
https://wwwtb.mlit.go.jp/hokushin/hrt54/com_policy/pdf/H270827hitachinakakaihintetsudou.pdf

おらが湊鐵道応援団・湊鉄道対策協議会(国土交通省)
https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/content/000164511.pdf

おらが湊鐵道応援団
http://minatosen.com/?page_id=9

ひたちなか市における、湊鉄道対策協議会の活動状況について
http://gyosei.mine.utsunomiya-u.ac.jp/since2001koki/jichi06/jichi06report/070115tsunekawah.htm