【道南いさりび鉄道】収入の9割が貨物調整金!道南いさりび鉄道の沿線自治体の取り組み

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道南いさりび鉄道の車両 三セク
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道南いさりび鉄道は、北海道新幹線の並行在来線としてJR北海道から経営分離された木古内~函館の鉄道を継承した第三セクターです。第三セクター設立をめぐって一時は「廃止」も議論された同区間ですが、2016年3月26日に無事開業しました。

開業後、沿線自治体は「道南いさりび鉄道沿線地域協議会」を設置。利用促進に向けた、さまざまな取り組みを実施しています。協議会設置までの経緯や、これまでの取り組みについて紹介しましょう。

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道南いさりび鉄道の線区データ

協議対象の区間木古内~五稜郭(37.8km)
輸送密度(2016年→2019年)575→479
増減率-17%
赤字額(2019年)1億9,700万円
※輸送密度および増減率は、道南いさりび鉄道が発足した2016年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

道南いさりび鉄道沿線地域協議会の参加団体

函館市、北斗市、木古内町、北海道

道南いさりび鉄道と沿線自治体

道南いさりび鉄道をめぐる協議会設置までの経緯

1996年4月、JR北海道は北海道新幹線の新青森~新函館(現:新函館北斗)間の延伸にともない、並行在来線となる江差線の経営分離を表明します。このときJR北海道は、江差線の全線(五稜郭~江差)を経営分離するつもりでした。

ただ、木古内~江差間に関しては整備新幹線の予定ルートから外れており、沿線自治体は「並行在来線に当たらない」と主張。引き続き、JR北海道が運営するよう訴えます。

この件について国土交通省は2005年、地元の意見を受け入れるかたちで、並行在来線は「五稜郭~木古内」という認識を示し、木古内~江差間は並行在来線から外されます。それと同時に、並行在来線として確定した五稜郭~木古内の沿線自治体は、2005年7月に「北海道道南地域並行在来線対策協議会」を設置。新幹線開業後の江差線の経営について、検討を始めることになりました。

第1回の協議会では、今後の進め方やスケジュールについて検討。協議会の下には幹事会が設置され、他の並行在来線の事例や収支見通しの調査などを進めることが確認されます。

なお、幹事会は2005年9月から2008年2月まで全9回実施され、事例調査のほか当時JR北海道が開発中だったDMVの視察もおこなっています。また、収支見通しに必要な需要予測や収支予測といった調査は、2008年度にコンサル会社へ委託して実施することになりました。

収支予測に江差線の存廃に揺れる自治体

2009年5月、第3回の協議会。ここで、経営分離後の江差線の需要予測と収支予測が公表されます。

需要予測は、沿線人口の減少により利用者も減ることは想定内ですが、問題は収支です。単年度収支は、開業年が約8億円の赤字。その後も、年間5億円前後の赤字が見込まれたのです。累積赤字も、雪だるま式に膨れ上がり、開業から30年後の2045年には約185億円になると想定されています。

ただし、この額には「貨物調整金」が含まれていません。沿線自治体は、1日50本以上運行する貨物列車から得る収入に、期待するしかありませんでした。なお、2011年10月に開かれた第6回協議会で、貨物調整金を含めた収支予測を公表。約185億円とされた累積赤字額は、約40億円にまで圧縮される結果になりました。

運行収支(30年累計)単年度収支
鉄道40.6億円1.35億円
鉄道+バス43.8億円1.46億円
バス1.7億円0.06億円
▲経営分離後30年間の収支予測。鉄道は貨物調整金を拡充した場合を想定。「鉄道+バス(上磯~木古内をバス転換)」も試算されたが、貨物調整金が減少すると見込まれ、全線鉄道のほうが赤字額は少ない結果になった。
参考:北海道「江差線(五稜郭~木古内間)における地域交通の確保方策について」をもとに筆者作成

北海道の消極的な対応に沿線自治体が反発

上記の結果は、協議会が実施される前月には各自治体に報告されています。この報告を見て、沿線自治体と北海道とのあいだで、ちょっとしたトラブルが生じます。

事の発端は2009年4月、木古内町が第三セクターへの参加を拒む姿勢を示したことに始まります。江差線の利用者は、函館市と北斗市の線区が8割以上を占め、木古内町ではほとんど利用されていません。その一方で、第三セクターを運営するには木古内町も多額の赤字補助が求められ、町の財政に大きな負担がかかることを疑問視したのです。

ただし、木古内町は鉄道の廃止を希望しているわけではありませんでした。赤字額の負担割合について議論したいという意向を示したのです。

その意向を踏まえなかった北海道は2011年10月、木古内~五稜郭の旅客を廃止にして沿線自治体にバス転換を提案します。これに対して、函館市と北斗市はもちろん、木古内町も強く反発。2012年1月には一転して、北海道が主体とする第三セクターを設置し、鉄道の存続が決まります。

そもそも、貨物列車の走行区間である江差線を存続させることで、いちばんの受益者となるのは北海道です。それなのに、鉄道の運営を沿線自治体に丸投げにして、カネを払えないならバス転換にするという北海道の姿勢に、「北海道がイニシアティブを取れ!」と沿線自治体が反発するのは当然のことでしょう。

木古内~江差は2014年5月に廃止

一方、並行在来線に該当しない江差線の木古内~江差に関しては、利用者が大幅に減少していることから、JR北海道は2012年8月に廃止・バス転換を表明。翌9月には沿線自治体(江差町・上ノ国町・木古内町)と連絡協議会を設置します。

木古内~江差の輸送密度は、わずか41人/日(2011年)。沿線自治体も、利用促進は困難と判断し、代替輸送手段が確保されることを前提に鉄道の廃止に同意します。なお、江差線の木古内~江差の廃止日は、2014年5月12日でした。

道南いさりび鉄道のこれまでの取り組み

2016年3月に、北海道新幹線の新青森~新函館北斗間が開業すると、これまでの協議会は「道南いさりび鉄道沿線地域協議会」に改名されます。新たな協議会では年2回の幹事会を開催し、経営状況の確認や経営計画の見直しについて協議しています。ちなみに、経営計画は5年ごとに見直して策定されます。

また、安定的な経営を図るため、北海道と沿線自治体が赤字補助をするほか、利用者に対しては通学定期券の補助や駐輪場の整備なども実施。積極的な利用促進策を協議しています。

2021年度からは実証実験として、駅周辺の商店や飲食店などをめぐる巡回ワゴンを列車の時刻にあわせて走らせるなど、地域の足として意識を醸成していく取り組みもおこなっています。

このほか、収支改善に向けて鉄道事業者と一体となった主な取り組みを紹介します。

  • 観光列車の運行(ながまれ海峡号、夜景列車など)
  • オリジナルグッズの販売
  • JRやバス事業者との共通フリーきっぷ(はこだて旅するパスポート)の販売
  • 沿線の高校や専門学校と共同した、菓子や缶詰の車内販売
  • 旧国鉄色の塗色による車両運行
  • 第三セクター鉄道等協議会による鉄印帳事業へ参画

貨物調整金を得ても厳しい赤字額

2011年の並行在来線対策協議会で北海道が提示した資料では、開業から30年間で約40億円もの赤字負担が生じるとされていました。単純計算で1年あたり1億3,000万円以上の赤字となりますが、実際のところはどうなのでしょうか。

開業から5年間の実績をまとめた道南いさりび鉄道の資料をみていきましょう。

▲単位は百万円。運賃収入は毎年計画よりも少ない一方、貨物調整金と地域負担(公的支援)は計画を上回り増加傾向にある。
参考:道南いさりび鉄道「道南いさりび鉄道における経営状況等について」をもとに筆者作成

各年度の左の棒グラフが当初の「経営計画」で、右が「実績」です。

運賃収入(青)は、いずれの年も実績が計画を下回る結果に。つまり、利用者が計画よりも減っていることを示します。

一方、貨物調整金(オレンジ)と、沿線自治体の補助(グレー)は計画よりも多くなり、とりわけ自治体の負担額は、年間1億5,000万円~2億円と、当初の試算(1億3,000万円~1億5,000万円)より増えている状況です。

道南いさりび鉄道は、運賃収入が年間1億5,000万円前後に対して、貨物調整金は15億円前後と全体の収入の9割近くを占めます。それでも赤字のため自治体負担が生じており、その額は年々増加傾向にあるという厳しい状況が続いています。

開業前の予測よりも赤字額が増えているのは、コロナによる影響だけでなく、以下の2点も挙げられます。

(1)沿線人口の減少が、当初の予測より進んでいる
(2)JR北海道から譲渡された施設の老朽化が著しく、予想以上に損傷が進んでいる

(1)に関しては、沿線人口は国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口と比べて、実際の人口(国勢調査の結果)のほうが少なくなっていることが指摘されています。人口が減れば鉄道の利用者数も減りますから、経営計画を下回る年が続いているということです。

(2)についてはレールや枕木の交換といった線路設備の修繕など、施設維持管理費が年々増加しており、2019年以降は年間10億円以上を要しています。

▲単位は百万円。費用項目では、老朽化した施設の更新費などを示す「施設維持管理費(黄色)」が、計画を大幅に上回っている。
参考:道南いさりび鉄道「道南いさりび鉄道における経営状況等について」をもとに筆者作成

道南いさりび鉄道では、観光列車の運行や企画乗車券の販売といった利用促進策だけでは収支改善は厳しいとして、沿線自治体と協力・連携した取り組みを検討していきたいとしています。

協議会で「事業形態の見直し」に言及

2023年9月11日、道南いさりび鉄道沿線地域協議会が開催され、「経営計画に基づく検証について」という資料が公表されます。

上記の通り、経営計画と実績との乖離が大きく、沿線自治体の負担額は増える一方です。そこで、経営計画の最終年(2025年)までに、さらなる収支改善策に取り組むとともに、老朽化した設備更新の費用については沿線自治体が臨時支援を検討することが確認されます。

なお、2026年度以降の経営計画も、そろそろ検討を始めなければなりません。これについて協議会では、「令和5年度(2023年度)中を目途に、今後の方向性について判断する」と提言。「事業形態の見直し」「赤字補助の負担割合の見直し」なども関係者で議論したうえで、2026年以降の方向性を示すとしています。

事業形態の見直しとは、「上下分離方式の導入」も方法のひとつですし、「バス転換」も選択肢に挙がるかもしれません。開業からわずか7年の道南いさりび鉄道は、いま大きな岐路に立たされています。

※北海道新幹線が札幌まで延伸された際には、函館本線の函館~長万部~小樽が並行在来線としてJR北海道から切り離されます。こちらの協議会については、以下のページでお伝えします。

参考URL

道南いさりび鉄道沿線地域協議会
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/stk/hkz_dounan.html

北海道道南地域並行在来線対策協議会
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/stk/hkz_kyougikai.html

第2次北斗市総合計画 令和2年度実施計画
https://www.city.hokuto.hokkaido.jp/fs/1/3/0/9/8/2/_/000_r2plan_full.pdf

道南いさりび鉄道における経営状況等について
https://www.shr-isaribi.jp/wp-content/uploads/2015/10/75295e9d70e0e5eee886a683ddd71432.pdf

経営計画に基づく検証について(道南いさりび鉄道沿線地域協議会)
https://www.city.hakodate.hokkaido.jp/docs/2020102800023/files/R5_isatetsu_keieikeikakugaiyou.pdf