【由利高原鉄道】輸送密度300人/日未満でも鉄道が運営できるワケ

由利高原鉄道の駅 三セク・公営

由利高原鉄道は、秋田県の羽後本荘から矢島を結ぶ第三セクターの鉄道事業者で、全線が由利本荘市内を走ります。開業当初から経営難が予測されたことから、沿線自治体では「鳥海山ろく線運営促進連絡協議会」を設置し、由利高原鉄道を支援してきました。

しかし、利用者は減少の一途をたどることから、由利本荘市では地域公共交通活性化再生法にもとづく法定協議会を設置し、さらなる支援に取り組んでいます。

由利高原鉄道の線区データ

協議対象の区間鳥海山ろく線 羽後本荘~矢島(23.0km)
輸送密度(1987年→2019年)901→264
増減率-71%
赤字額(2019年)9,795万円
※輸送密度および増減率は1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

由利本荘市、秋田県、由利高原鉄道、由利本荘市商工会など

由利高原鉄道と沿線自治体

地活法にもとづく協議会設置までの経緯

由利高原鉄道は、第一次特定地方交通線に指定された国鉄矢島線を継承するかたちで、1985年に開業しました。第三セクターに移管された当時の輸送密度は1,000人/日に満たず、経営の厳しさが予測されたことから、沿線自治体は「鳥海山ろく線運営促進連絡協議会」を設置。利用促進策を中心に、由利高原鉄道を支援していくことになります。

また、秋田県でも開業前の1984年9月に「由利高原鉄道運営助成基金条例」を施行し、運営を助成する基金を設置します。

しかし、沿線の過疎化・少子化による利用者減少に歯止めがかからず、経営は右肩下がりの状況が続きます。これは、鉄道だけでなくバスやタクシーにもいえる課題でした。

そこで由利本荘市では、2009年3月に地域公共交通活性化再生法にもとづいた協議会として「由利本荘市地域公共交通活性化再生協議会」を設置。公共交通全体のデザインを改めて検討し、翌年3月に「由利本荘市地域公共交通総合連携計画(由利本荘市交通ビジョン)」を策定します。

なお、先述の「鳥海山ろく線運営促進連絡協議会」は現在も存続しており、由利本荘市地域公共交通活性化再生協議会と一緒に、由利高原鉄道の維持をめざして活動を続けています。また、2021年3月には秋田県全体の公共交通を検討する「秋田県地域公共交通活性化協議会」が設立され、秋田県も由利高原鉄道の継続的な財政支援を行っています。

由利本荘市地域公共交通活性化再生協議会で策定した計画

法定協議会で、由利本荘市が2010年に策定した交通ビジョンでは、次のような計画を掲げています。

  1. 地域公共交通情報の提供
    鉄道やバスの情報を一元的に提供し、公共交通情報提供の充実を図り、利用促進をめざす。
  2. 由利高原鉄道利用促進シンポジウム等開催事業
    開業25周年を契機に、記念講演会などを通じて地元利用促進の啓発活動を実施する。
  3. 由利高原鉄道利用イベント等開催事業
    由利高原鉄道を利用したイベント列車・車両ラッピングなどにより、沿線住民の関心の喚起や観光利用の推進を図る。

1の事業では、鉄道・バスの路線図や時刻表、観光マップなどを一体化したチラシを作成。沿線住民や観光客に対して、市内の地域公共交通が一目でわかる資料を提供することで、利用促進をめざします。

あわせて、講演会やシンポジウムを由利高原鉄道が開催。利用促進の啓発活動をおこなうとともに、鉄道を利用したイベントも実施して、沿線住民への興味喚起や観光利用の推進を図るとしています。

このほか、鉄道とバスの共通乗車券発行や乗継割引運賃の設定、交通結節施設の乗降場改善、ICカードの導入といった事業に関する費用についても、由利本荘市が支援することが検討されています。

由利高原鉄道のこれまでの取り組み

由利高原鉄道の利用促進策として、以下のような取り組みを実施しています。

  • 秋田おばこ姿のアテンダントが乗車する「まごころ列車」運行
  • 「かかし」をホームに設置
  • ラッピング車両の運行
  • 通学定期の値下げ
  • 企画乗車券の販売
  • 鉄道グッズや特産品の販売
  • 沿線施設とのコラボ企画の実施

…など

由利高原鉄道では2011年から公募社長を採用しており、ユニークなアイデアが話題を呼んでいることでも知られます。

たとえば、2013年7月から運行を始めた「まごころ列車」。秋田おばこ姿のアテンダントが乗務して、利用者への案内や乗降補助、グッズ販売などの沿線PRまでおこないます。このサービスが、さまざまなメディアで取り上げられたほかSNSでも拡散されて話題になり、人気は上々のようです。

また、各駅では沿線住民の作成した「かかし」がお出迎えするユニークな取り組みも。駅の賑わい創出の一環で、毎年50体以上の新作かかしが沿線各駅のホームに設置されます。

こうしたイベント施策に注力してきた由利高原鉄道ですが、普段使いの利用者を増やさなければ効果は限定的です。とくに通学定期客の落ち込みが大きく、2016年度の159人から2020年度には71人と半減していました。これでは、いくらイベント施策を実施しても全体の利用者数は増えません。

そこで、通学定期客を増やすために始まったのが、通学定期の値下げでした。これも、公募社長のアイデアです。そのきっかけは、通学定期客の「減少率」に着目したこと。少子化・過疎化が進む地域とはいえ、地域全体の生徒数の減少率よりも列車を使う生徒数の減少率のほうが、はるかに上回っていました。

これに疑問を抱いた公募社長が、沿線高校を通じてアンケート調査を実施。由利高原鉄道を利用しない理由を尋ねたところ、「定期代が高い」という回答が多くを占めたのです。実際に、JR東日本の定期代と比べると、同じ距離であれば由利高原鉄道は約2.5倍もあります。

そこで、2021年4月より通学定期代をほぼ半額にする値下げを実施。71人まで減少していた通学利用者が、2021年には120人に、さらに2022年度は127人と増加に転じたのです。

第三セクターは、JR時代と比べて運賃が高くなる傾向があり、それも利用者離れの一因になっています。値下げは乗客が増えても利益が減るため実行しづらい施策ですが、由利高原鉄道の場合、年間で約70万円の収支改善につながっており、同じ悩みを抱える鉄道事業者であれば、定期代の値下げも一考する価値があるかもしれません。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【東北】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
東北地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

地域鉄道の再生・活性化モデル事業の検討調査
https://www.mlit.go.jp/common/001064373.pdf

由利高原鉄道運営助成基金条例
https://www1.g-reiki.net/pref_akita/reiki_honbun/u600RG00000558.html

平成26年度 第2回 由利本荘市地域公共交通活性化再生協議会
https://slidesplayer.net/slide/16895950/

「覚悟決めました」なぜ半額に?由利高原鉄道社長の決断(NHK)
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/83643.html

地方鉄道の誘客促進に関する調査
https://www.mlit.go.jp/common/001293543.pdf

特定地方交通線における経営形態の転換と現状(交通観光研究室)
【リンク切れ】http://www.osaka-sandai.ac.jp/file/rs/research/archive/12/12-15.pdf

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