【由利高原鉄道】自治体支援も限界…存続をかけた新たな支援策とは

由利高原鉄道の駅 三セク・公営

由利高原鉄道(鳥海山ろく線)は、秋田おばこがアテンダントする「まごころ列車」をはじめ、さまざまな施策で利用者をもてなすユニークなローカル線です。

ただ、利用者数は年々減少。赤字額は年間1億円前後にもなり、近年は増加傾向にあります。自治体負担も増えるなかで、赤字を補てんする秋田県と由利本荘市は、国の新たな支援制度を活用して存続の道を模索しています。

由利高原鉄道に対する自治体支援の歴史を振り返ってみましょう。

由利高原鉄道の線区データ

協議対象の区間鳥海山ろく線 羽後本荘~矢島(23.0km)
輸送密度(1987年→2023年)901→327
増減率-64%
赤字額(2023年)1億574万円
※輸送密度および増減率は1987年と2023年を比較しています。
※赤字額は2023年のデータを使用しています。

協議会参加団体

由利本荘市、秋田県、由利高原鉄道、由利本荘市商工会など

由利高原鉄道と沿線自治体

由利高原鉄道に対する自治体支援の歴史

由利高原鉄道は、第一次特定地方交通線に指定された国鉄矢島線を継承し、1985年に開業しました。開業当時の輸送密度は約900人/日。厳しい経営が想定されたことから、沿線自治体は「鳥海山ろく線運営促進連絡協議会」を設置し、利用促進を中心に由利高原鉄道を支援していくことになりました。

また、秋田県も開業前の1984年9月に「由利高原鉄道運営助成基金条例」を施行。国鉄の転換交付金などを原資とする基金を設け、その運用益で赤字を穴埋めするスキームを作ります。なお、運用益で赤字を補えない場合は、沿線自治体が公的支援を投入することも決めました。

準備万端で開業を迎えた由利高原鉄道。しかし、沿線の少子化や過疎化などによる利用者減少に歯止めがかからず、赤字額は増加の一途をたどり続けます。一方で基金の運用益は、景気の悪化にともない減少。沿線自治体(由利本荘市)の負担が重くなっていったのです。

そこで由利本荘市は、2009年3月に地域公共交通活性化再生法にもとづく「由利本荘市地域公共交通活性化再生協議会」を設置。国の支援を得ることで自治体負担を軽減するとともに、バスやタクシーを含めた地域公共交通全体を見直して利用促進を強化します。そして2010年3月には、「由利本荘市地域公共交通総合連携計画(由利本荘市交通ビジョン)」を策定。地域の足を守るために、持続可能な公共交通のマスタープランを提示します。

一方で秋田県も、由利高原鉄道への支援を強化。鉄道施設の整備・改修に必要な経費は基金の一部を取り崩して充てるほか、県も公的支援の投入を決定。由利高原鉄道の経営を支えることになりました。

由利高原鉄道のこれまでの取り組み

利用促進の具体策は、鳥海山ろく線運営促進連絡協議会が中心となって取り組んでいます。由利高原鉄道とも協働で進める取り組みを、まとめておきます。

  • アテンダントの乗務(「まごころ列車」の運行)
  • 「かかし」をホームに設置
  • イベント列車・ラッピング車両の運行
  • 鉄道グッズや特産品の販売
  • 沿線施設とのコラボ企画の実施
  • 企画乗車券の販売
  • 鉄道・バスの共通乗車券・乗継割引運賃の設定
  • 通学定期の値下げ

…など

由利高原鉄道では2011年から公募社長を採用しており、ユニークなアイデアが話題を呼んでいます。

たとえば、2013年7月から運行を始めた「まごころ列車」。秋田おばこ姿のアテンダントが乗務し、利用者への案内や乗降補助、グッズ販売などの沿線PRまでおこないます。このサービスがマスメディアで取り上げられたほかSNSでも拡散されて話題になり、人気は上々のようです。

また各駅では、沿線住民が作成した「かかし」が出迎えるユニークな取り組みも。駅のにぎわい創出の一環で、毎年50体以上の新作かかしが沿線各駅のホームに飾られます。

このほかイベント列車やラッピング列車の運行、鉄道とバスの共通乗車券の発行や乗継割引運賃の設定、交通結節施設の乗降場改善などの事業も実施。これらの必要経費は、由利本荘市が補助しています。

通学定期代の値下げで利用者が大幅増加

さまざまな利用促進策に取り組んできた由利高原鉄道と沿線自治体ですが、利用者の減少が続きます。とくに通学定期客の落ち込みが大きく、2017年度には前年比で約20%も減少。その後も減少は止まらず、わずか5年で半分近くに減ってしまいます。

いくら少子化・過疎化が進む地域とはいえ、沿線地域の生徒数は半分に減っていません。生徒数の減少率より、鉄道を利用する生徒の減少率のほうが、はるかに上回っていたのです。

これに疑問を抱いた由利高原鉄道は、沿線高校を通じてアンケート調査を実施。生徒に鉄道を利用しない理由を尋ねます。その結果、「定期代が高い」という回答が多くを占めたのです。実際にJR東日本と比べると、由利高原鉄道の定期代は約2.5倍もの差がありました。

そこで、通学定期代をほぼ半額にする値下げを2021年4月より実施。すると通学定期客が徐々に戻り始め、2023年度には2015年度と同じ水準にまで回復します。また、由利高原鉄道を利用する高校生の割合も、2018年の22%から2023年には47.8%と倍増。沿線地域の高校生の2人に1人が、由利高原鉄道の定期客になったのです。

■通学定期客数と全体の利用者数の推移

由利高原鉄道の通学定期客数と全体の利用者数の推移
▲通学定期代を値下げした2021年から、通学定期客も全体の利用者数も増加に転じている。
参考:「由利本荘市地域公共交通活性化再生協議会」の各年度の資料をもとに筆者作成

第三セクターは、JR時代と比べて運賃が高くなる傾向があり、それも利用者離れの一因になっています。一方で運賃の値下げは、乗客が増えても利益が減るため実行しづらい施策です。ただ、由利高原鉄道の場合、年間で約70万円の収支改善につながっています。同じ悩みを抱える鉄道事業者は、定期代の値下げも一考する価値があるかもしれません。

なお由利高原鉄道では、来年度の入学生を獲得するために中学校へ足を運び、鉄道利用のPRにも努めています。

新たな支援スキームで存続の道を探る

運賃収入は増収に転じたものの、資材高騰などの影響で経費は増大しており、由利高原鉄道の赤字額は増え続けています。2022年の経常損失額は、1億円を突破しました。

こうしたなかで秋田県交通政策課は2021年12月の県議会定例会で、このまま赤字が続くと「2031年度に(取り崩しが可能な)基金が枯渇する」という見通しを提示。自治体負担の大幅な増額が予測され、現行の支援スキームは限界だと伝えます。

■由利高原鉄道の経常損失額の推移(単位:万円)

由利高原鉄道の経常損失額の推移
▲通学定期客が増加に転じた2021年度以降も、赤字額は増え続けている。
参考:「由利本荘市地域公共交通活性化再生協議会」の各年度の資料をもとに筆者作成

そこで秋田県は、国の「鉄道事業再構築事業」の活用を検討。この事業を通して社会資本整備総合交付金を国から受けることで、自治体負担額を抑えることにしたのです。

国の交付金を受けるには、由利高原鉄道に対する新たな支援スキームを含めた「鉄道事業再構築実施計画」を、自治体が策定しなければなりません。この計画を策定するために、秋田県、由利本荘市、由利高原鉄道が協議を開始。2024年10月に、新たな支援スキームが決定します。

具体的な支援内容ですが、秋田県はPC枕木化や信号通信ケーブルの地中化など鉄道施設の更新や整備、修繕・維持管理費用を全額負担。これらの施設更新や車両の更新に、国の交付金を活用します。また、由利本荘市も運営費を補助することが決定します。

ほかにも、インバウンド誘致の促進やバスとの乗り継ぎ強化といった利便性向上につながる施策も支援。これにより年間20万人台の利用者数をキープし、由利高原鉄道の経営を改善させるとしています。計画期間は、2025年度から2034年度までの10年間です。

秋田県は、秋田内陸縦貫鉄道でも鉄道事業再構築実施計画を策定。いずれの計画も2025年1月30日に、国に認定されました。これにより、県や沿線自治体の負担額は2社あわせて約1億4,000万円を軽減できる予定です。また、由利高原鉄道の基金の残高も維持できるとしています。

新たな支援スキームにより、2034年度までの存続が確定した由利高原鉄道。沿線地域の人口減少が進むなかで利用者を増やし、なんとか維持してほしいところです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【東北】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
東北地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

地域鉄道の再生・活性化モデル事業の検討調査
https://www.mlit.go.jp/common/001064373.pdf

由利高原鉄道運営助成基金条例
https://www1.g-reiki.net/pref_akita/reiki_honbun/u600RG00000558.html

平成26年度 第2回 由利本荘市地域公共交通活性化再生協議会
https://slidesplayer.net/slide/16895950/

「覚悟決めました」なぜ半額に?由利高原鉄道社長の決断(NHK)
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/83643.html

地方鉄道の誘客促進に関する調査
https://www.mlit.go.jp/common/001293543.pdf

由利本荘市地域公共交通活性化再生協議会(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/000119410.pdf

由利本荘市地域公共交通活性化再生協議会
https://www.city.yurihonjo.lg.jp/1000006/1001990/1002002/index.html

令和3年第2回定例会(12月議会)産業観光委員会・分科会提出資料(秋田県)
https://www.pref.akita.lg.jp/uploads/public/archive_0000061699_00/%E6%89%80%E7%AE%A1%E4%BA%8B%E9%A0%85%E9%96%A2%E9%80%A3%E3%80%80%EF%BC%91%EF%BC%92%E6%9C%88%EF%BC%91%E6%97%A5%E6%8F%90%E5%87%BA%E8%B3%87%E6%96%99.pdf

由利高原鉄道の鉄道事業再構築実施計画の概要(国土交通省)
https://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/content/000341433.pdf

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