【IRいしかわ鉄道】金沢以西を移管しても赤字転落は防げるか?

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IRいしかわ鉄道の列車 三セク
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IRいしかわ鉄道は、北陸新幹線が金沢まで開業した2015年に、並行在来線を継承して開業した第三セクターの鉄道事業者です。2024年3月15日までの営業区間は、金沢~倶利伽羅の17.8km。距離が短く、また比較的に利用者が多い線区のため、コロナ禍前のIRいしかわ鉄道は黒字経営でした。

ただ、2024年3月に北陸新幹線が敦賀まで延伸開業すると、並行在来線の大聖寺~金沢を継承することになり、営業キロは約4倍に伸びます。金沢以西の区間を移管しても、IRいしかわ鉄道は黒字経営を維持できるのでしょうか。沿線自治体などが組織する協議会や検討会の内容から、今後の経営を考察します。

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IRいしかわ鉄道の線区データ

協議対象の区間IRいしかわ鉄道線 金沢~倶利伽羅(17.8km)
※2024年3月16日からは大聖寺~倶利伽羅の64.2km
輸送密度(2015年→2019年)金沢~倶利伽羅:15,609→14,644
増減率金沢~倶利伽羅:-6%
黒字額(2019年)2億7,447万円
※輸送密度および増減率は、IRいしかわ鉄道が発足した2015年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※黒字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

金沢市、津幡町、小松市、加賀市、白山市、能美市、野々市市、石川県

金沢以東も赤字想定だったIRいしかわ鉄道

2005年4月、金沢市と津幡町は整備新幹線の延伸にともないJR西日本から切り離される、北陸本線(金沢~倶利伽羅)の経営分離に同意します。その後、両市町や石川県などが「石川県並行在来線対策協議会」を設置。金沢~倶利伽羅の今後について、話し合いを始めることになりました。

この区間の利用状況は、1日あたり約23,000人(2012年度)。他の並行在来線と比べて、多いほうです。また、JR七尾線や富山方面などに乗り入れる利用者が多いこと、通勤通学定期客の割合が7割強もあることから、移管後も安定した収入が見込めます。

ただ、沿線の過疎化などにより利用者数は減少することが予想され、開業10年目には2万人を割り込むと試算されました。

2013年3月にまとめられた「石川県並行在来線経営計画(改訂版)」によると、開業後10年間の累計収入は約151億円(うち運賃収入が約89億円、貨物線路使用料が約50億円)。これに対して、経費の見込額は約162億円。10年間で、11億円程度の赤字が見込まれたのです。

こうした予測を踏まえて協議会では、JR西日本や富山県の事業者(あいの風とやま鉄道)への相互乗り入れや、通学通勤時間帯のダイヤ調整、さらに運賃の値上げなど経営改善の検討が必要だとまとめています。

なお、この経営計画の策定により石川県並行在来線対策協議会は解散。後継機関として「IRいしかわ鉄道利用促進協議会」を2013年11月に設置し、利用促進策を含めて開業後の諸問題を解決していくことになりました。

IRいしかわ鉄道が黒字経営の理由

2015年3月、北陸新幹線の金沢延伸開業と同時に、IRいしかわ鉄道も開業。開業前は赤字予測でしたが、ふたを開けてみると黒字経営が続いています。IRいしかわ鉄道が黒字を維持している理由として、次の4点にまとめられるでしょう。

(1)運賃の値上げ

運賃収入を増やすために、普通運賃はJR西日本の1.14倍に、平均値上げ率は1.09倍の値上げを実施しています。なお、通学定期運賃は値上げしていません。ちなみに、他の第三セクターと比べると、IRいしかわ鉄道の運賃上昇率はかなり抑えられています。

(2)七尾線に乗り入れるJR列車の運賃・料金が得られる

金沢から七尾線に乗り入れるJR西日本の列車は、途中の津幡までIRいしかわ鉄道の路線を使用します。この区間の運賃収入や、特急列車ではIRいしかわ鉄道線の特急料金も得られ、大きな収入源になっています。

▲金沢~津幡間ではJR七尾線の列車が運行されており、料金などの一部はIRいしかわ鉄道の収入になる。
出典:石川県「金沢以西延伸後の収支試算結果について」

(3)利用者の減少幅が予測より抑えられている

開業10年目の2023年度には1日2万人を割り込むと予測された利用者数ですが、実際には2万人以上をキープしています。開業した2015年には新幹線の開業効果もあって、1日26,188人(年間947.6万人)が利用。JR時代より増えています。コロナ禍の2022年でも、21,748人(年間779.8万人)と、予想を上回る健闘です。

▲2012年はJR西日本時代。コロナ禍前の2019年までは、JR時代より利用者数が増えている。
参考:IRいしかわ鉄道「経営状況」をもとに筆者作成

(4)人件費カット

IRいしかわ鉄道の従業員は、JR西日本からの出向者が過半数を占めます。開業時には70~80人の従業員のうち、JR西日本からの出向者が約50人いました。出向者の人件費は、JR西日本が約4割を負担しており、開業後10年間で約16億円の人件費を削減できます。

なおJR西日本は、IRいしかわ鉄道のプロパー社員の養成やJRのOB社員を雇用させるなど、人事面でも協力。また、金沢以西の並行在来線区間についても約180人の出向者を充て、開業後10年間で約37億円の人件費を負担する予定です。

IRいしかわ鉄道のこれまでの取り組み

利用者の減少幅が予測より抑えられたのは、IRいしかわ鉄道利用促進協議会が実施した利用促進策の影響が大きいでしょう。協議会では2014年4月に「IRいしかわ鉄道利活用促進アクションプラン」を策定。これをもとに、さまざまな取り組みを進めています。その一部を紹介します。

  • JR西日本・あいの風とやま鉄道との直通列車運行
  • 企画きっぷの販売 (IR・あいの風1日フリーきっぷ、金沢駅連絡きっぷなど)
  • 臨時列車の運行 (百万石まつりやモントレージャズフェスティバルなどにあわせた運行)
  • パークアンドライドの整備
  • 駅を活用したイベントの開催(野菜市や写真・絵画の展示イベントなど)
  • 駅周辺ガイドマップの作成
  • 環境美化活動
  • お客様カウンターの設置 (定期券や企画きっぷの販売、運転状況案内、沿線情報の提供など)
  • サポーター制度の創設 (いしてつ愛あーるクラブ)
  • グッズ販売

…など

企画きっぷの「1日フリーきっぷ」には、あいの風とやま鉄道も利用できる「IR・あいの風1日フリーきっぷ」も販売しています。週末などに使え、金沢~富山を往復するだけで元が取れるお得なきっぷです。

駅を活用したイベントでは、朝採れ野菜などの物産市、地元大学生による展示イベントなど、さまざまな催しを実施。環境美化活動を含め、マイレール意識の醸成に寄与しています。

サポーター制度では「いしてつ愛あーるクラブ」を運営。会員限定の日帰りツアーを実施するなど交流を深めており、会員数は1,000人を超えているようです(2019年9月30日現在)。

こうした取り組みもあって、IRいしかわ鉄道の利用者減少は抑えられており、黒字経営の一助になっています。

▲IRいしかわ鉄道の経常損失の推移。コロナ禍の2020~2021年を除き、黒字経営が続いている。
参考:IRいしかわ鉄道「経営状況」より、各年の事業報告(決算書)をもとに筆者作成

金沢以西の延伸で赤字に転落か?

2024年3月16日、北陸新幹線の金沢~敦賀間が延伸開業します。これにともない、JR北陸本線の金沢~大聖寺は、IRいしかわ鉄道に移管されます。

金沢以西の沿線自治体は、2012年5月に経営分離に同意。移管後の利用促進策などを検討してきました。2017年3月には、「いしかわ並行在来線金沢以西延伸対策検討会」を設置。第1回の検討会では、現状の運営状況や金沢以西の概要などを確認しています。

第2回の検討会(2019年11月)では、金沢~大聖寺間の需要予測と収支試算が報告されます。この段階で開業予定の年であった2023年度の需要予測は、輸送密度ベースで9,668/日。これは、金沢以東の7割程度の需要です。

また収支は、開業後10年間の収入が約470億円(うち運賃収入が約288億円、貨物線路使用料が約170億円)に対し、経費は約557億円と試算。10年間でトータル約87億円の赤字になると見積もられます。金沢以西には、七尾線直通列車のような「稼げる要因」が少なく、また金沢以東の黒字だけで穴埋めできない額であることから、赤字額を圧縮する施策が必要でした。

仮に、87億円の赤字を運賃の値上げだけで相殺する場合、JR時代の1.46倍にしなければなりません。大幅な値上げは利用者離れを加速させますし、金沢以東より運賃の上げ幅が大きいと不公平なため、上げ幅は同等にする必要があります。

検討会では、収入・支出の両面から赤字額を圧縮するための精査を始めます。ただ、この第2回の検討会後、運賃収入が激減する「コロナ禍の時代」を迎えるのです。

沿線自治体の赤字補てんで同一運賃を実現

コロナ禍でおこなわれた第3回の検討会(2022年8月)。ここで改めて、アフターコロナを見据えた収支予測が示されます。運賃収入は、前回の試算より16億円も減少すると予測。金沢以東の線区も赤字転落したこともあり、検討会に暗雲が立ち込めます。

ただ、業務体制の見直しや、JR西日本が所有する百番街などの金沢駅高架下用地を継承することで関連事業収入を得られることもあり、収支予測は大幅に改善。赤字額は87億円から42億円に圧縮されました。

とはいえ、値上げ幅を抑えながら収支均等を保つには、赤字額を25億円以内に抑えなければなりません。そこで、沿線自治体と石川県が「運行支援基金」を設置し、赤字補てんすることが決定。これにより、大幅な運賃の値上げを避けられ、金沢以東と同じく普通運賃はJR西日本の1.14倍、平均値上げ率は1.09倍に設定されることになりました。

なお、運行支援基金は金沢以東の線区でも約30億円が用意されています。金沢以西では約50億円に設定。トータル約80億円の基金は赤字補てんのほか、将来の設備投資や災害復旧費用にも充てられる予定です。

全線で年間1,600万人以上の利用者数維持を目指す

この値上げ幅で収支均衡を保つには、利用者数を維持することが前提です。そこで第4回検討会(2022年11月)では、年間1,600万人の利用者数を確保することなどを提言した「石川県並行在来線経営計画(金沢以西延伸)」を策定。延伸後10年間で収支均衡を図ることが確認されています。

さらに経営計画では、「新幹線などとの乗り継ぎ利便性の確保」「福井県の事業者(ハピラインふくい)などと連携した企画きっぷの販売」「MaaSの積極的な活用」といった利用促進策も提言。具体的な施策の検討は、既存のIRいしかわ鉄道利用促進協議会に引き継がれることになりました。

■全線(大聖寺~倶利伽羅間)の利用者予測

1日の利用者数年間利用者数
2017年54,312人1,982万人
2024年48,373人1,770万人
2028年46,548人1,704万人
2033年44,288人1,617万人
▲石川県が試算した開業10年目までの需要予測。2017年はJR西日本の実数。開業10年目(2033年度)までは、年間1,600万人以上の利用者を目指す。
参考:いしかわ並行在来線金沢以西延伸対策検討会「石川県並行在来線経営計画(金沢以西延伸)」をもとに筆者作成

IRいしかわ鉄道利用促進協議会には、金沢以西の自治体のほか、経済団体や利用者代表として一般市民も参加しています。2023年度は沿線住民へのアンケート調査などを実施しながら、利便性の向上や駅のにぎわいづくりといった取り組みを検討・実施していく予定です。

こうした取り組みにより全線の利用者数が増えれば、赤字転落を防げる可能性があるでしょう。IRいしかわ鉄道の安定した経営状態を維持するには、沿線に住む石川県民の力にかかっているです。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

並行在来線の概要(石川県)
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/shink/heikouzairaisen/heikouzairaisennituite/heikouzairaisentoha/heikouzaitoha.html

石川県並行在来線経営計画(改訂版)
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/shink/heikouzairaisen/heikouzairaisennituite/heikouzairaisentoha/documents/keieikeikaku2.pdf

IRいしかわ鉄道利活用促進アクションプラン(IRいしかわ鉄道利用促進協議会)
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/shink/heikouzairaisen/heikouzairaisennituite/heikouzairaisentoha/documents/action_plan.pdf

いしかわ並行在来線金沢以西延伸対策検討会について(石川県)
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/shink/heikouzairaisen/iseikentoukai.html

金沢以西延伸後の収支試算結果について(石川県)
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/shink/heikouzairaisen/iseikentoukai2/documents/02_syushi.pdf

第3回 いしかわ並行在来線金沢以西延伸対策検討会(石川県)
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/shink/heikouzairaisen/iseikentoukai3/documents/20220826siryou1.pdf