【野岩鉄道】首都圏の観光客が頼み – 改造6050系で挽回なるか?

野岩鉄道の湯西川温泉駅 三セク・公営

野岩鉄道は、栃木県の新藤原から福島県の会津高原尾瀬口を結ぶ約30kmの第三セクター鉄道です。東武鬼怒川線と会津鉄道に相互乗り入れしており、首都圏から会津に向かう観光客が利用者の9割以上を占めるというローカル線でもあります。

ただ、沿線地域の道路整備などにより観光客は減少。沿線自治体は「会津・野岩鉄道利用促進協議会」を組織し、利用促進などの取り組みを進めています。6050型を改修した観光列車をはじめ、具体的な取り組み内容を紹介します。

野岩鉄道の線区データ

協議対象の区間会津鬼怒川線 新藤原~会津高原尾瀬口(30.7km)
輸送密度(1987年→2019年)1,930→540
増減率-72%
赤字額(2019年)2億412万円
※輸送密度および増減率は1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

日光市、栃木県ほか(野岩鉄道の沿線のみ掲載)

野岩鉄道と沿線自治体

定期外客が95%を占める野岩鉄道

野岩鉄道は、もともと国鉄野岩線として開業する予定でした。しかし、国鉄の経営悪化により建設工事が中止に。運営は沿線自治体がおこなう条件で工事が再開され、1986年10月に第三セクターの「野岩鉄道」が開業します。また、当初の計画では非電化でしたが、新藤原で東武鬼怒川線に直通運転するために電化工事を追加発注。第三セクターでは初となる電化線になりました。

直通運転の効果もあり、開業直後は首都圏からの観光客を取り込むことに成功します。ピーク時の1991年には、年間で117万人に利用されました。ただ、経営的には赤字です。沿線自治体は施設整備補助をするほか、観光誘客や除雪・清掃といった環境美化活動により野岩鉄道を支えます。

ただ、1990年に磐越自動車道が開通すると観光客は自動車にシフト。利用者の95%以上が定期外客という野岩鉄道にとって、大きなダメージになります。赤字額も増加の一途をたどり、1997年からは沿線自治体から支援を受けながら運営を続けています。

■野岩鉄道の年間利用者数(単位:万人)

▲1994年までは年間100万人以上に利用されていたが、モータリゼーションの進展や景気低迷により、利用者数は減少の一途をたどった。
出典:福島県「アナリーゼふくしま」をもとに筆者作成

会津鉄道と連携した協議会を設置

2000年代に入ってからも、利用者の減少に歯止めがかからない野岩鉄道。沿線人口の少ないローカル線ですから、利用者を増やすには東武鉄道や会津鉄道と連携した観光誘客が求められます。

その会津鉄道では、2009年に地域公共交通活性化再生法にもとづく「会津線活性化連携協議会」を設置。国の支援を受けながら、存続の道を模索していました。そこで、会津鉄道との連携を深めようと2012年に「会津・野岩鉄道利用促進協議会」を設置。互いに手を取り合いながら、観光誘客を進めていくことになります。

ところで、利用者の少ない野岩鉄道を沿線自治体が支援し続けているのは、観光による経済波及効果が高いからです。少し古いデータですが福島県の試算によると、2006年度に野岩鉄道と会津鉄道を利用した人は、年間で約23万人。この人たちが沿線地域の旅行で消費する金額は、約26億円という試算結果をまとめています。野岩鉄道の赤字額は年間2億円前後。支援をしてもお釣りがくるという考えから、野岩鉄道を維持しているのです。

野岩鉄道のこれまでの取り組み

利用促進や売上増加をめざした野岩鉄道の取り組みの一部を紹介します。

  • 企画乗車券の販売(遊・湯・さんぽきっぷ、運転免許卒業割引きっぷなど)
  • 他社との企画乗車券の販売(ゆったり会津 東武フリーパス、野岩&東京スカイツリー周遊散策フリーきっぷなど)
  • 尾瀬夜行・スキー夜行列車の運行(東武鉄道・会津鉄道と連携)
  • 運賃の一部を助成
  • 路線愛称の設定(ほっとスパ・ライン)
  • イベント列車の運行(お座トロ展望列車など)
  • グッズ販売
  • 6050型車両の改修(観光列車化)

…など

野岩鉄道では、首都圏からの観光利用を意識したフリーきっぷをはじめ、企画乗車券を多く取り揃えています。

沿線住民向けの企画乗車券には、「運転免許卒業割引きっぷ」や「団体割引きっぷ」などがあります。運転免許卒業割引きっぷは、免許返納をした沿線の高齢者が対象。通常運賃の半額で利用できます。団体割引きっふは、8名様以上のグループ利用で運賃が最大3割引になり、東武鉄道や会津鉄道にまたがって乗車する場合でも使えます。

観光客向けの施策としては、東武鉄道や会津鉄道と提携した企画乗車券を販売するほか、「尾瀬夜行・スキー夜行列車」「特急リバティ会津」など、直通運転する臨時列車を運行しています。

沿線には鬼怒川や川治、塩原といった有名な温泉地があるため、鉄道とバスのフリーきっぷも販売しています。ただ、温泉地は駅から離れておりバス利用者もそれほど多くないようです。ほかにも、会津鉄道の「お座トロ展望列車」を借りて運行したこともありましたが、路線の半分がトンネルのため車窓を楽しめず、需要に結びつきませんでした。沿線住民の利用促進を図りつつも、巨大市場である首都圏の観光客をどのように誘客するかが、今後の課題といえます。

6050型を改修した観光列車で挽回を図る野岩鉄道

東日本大震災以降、野岩鉄道の沿線では災害が続いており、観光客も年々減少しています。さらに新型コロナウイルスの感染拡大で、利用者は大幅に減少。2021年には約17万6,000人にまで減少します。野岩鉄道は、全列車の4割を削減する減便を実施したほか、一部車両を廃車にするといった経費削減策で生き残りをかけます。

しかし、削減ばかりしていても売上は増えません。そこで着目したのが、6050型車両でした。この車両は東武鉄道などで1985年から運行していた電車で、2024年現在では野岩鉄道でしか定期運行していません。その希少性をウリに、野岩鉄道の巻き返しが始まります。野岩鉄道に現存する6050型の車両は、2編成4両です。このうち1編成を大幅に改装。畳座席や掘りごたつ席、模擬運転台などを設置し、観光列車化します。

改装費は、クラウドファンディングで集めることに。1,500万円の目標額に対して、最終的には2,184万円もの支援が寄せられました。

こうして2024年1月に、6050型を改装した「やがぴぃカー」が運行開始。週末を中心に、団体貸切列車や企画列車として活用されています。新たな観光の顔ができた野岩鉄道。インバウンド客も増えた現在、どれだけ集客できるかが注目されます。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【関東】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
関東地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

公共交通ネットワークの活性化と再生(会津若松市)
https://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/docs/2014060500064/file_contents/31_koukyoukoutu.pdf

アナリーゼふくしま(福島県)
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/17283.pdf

【三セク協だより第57号掲載】チャレンジ精神で鉄道を後世へ!!(第三セクター鉄道等協議会)
https://3sec-tetsudou.jp/archives/1109

特定地方交通線における経営形態の転換と現状(交通観光研究室)
【リンク切れ】http://www.osaka-sandai.ac.jp/file/rs/research/archive/12/12-15.pdf

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