【土佐くろしお鉄道】過疎地域の鉄道を守るためにできること

土佐くろしお鉄道の宿毛駅 三セク・公営

土佐くろしお鉄道は、中村線と宿毛線が一体運行する「四万十くろしおライン」と、「ごめん・なはり線」の愛称を持つ阿佐線を運営する、第三セクターの鉄道事業者です。

いずれの路線もJR四国の土讃線と直通運行しており、乗り換えなしで高知駅まで行けるなど、利便性を高めることで利用を促しています。ただ、沿線人口の減少やモータリゼーションの影響などで、利用者数は減少傾向です。地域の鉄道を守るために、沿線自治体が実施している取り組みを紹介します。

土佐くろしお鉄道の線区データ

協議対象の区間中村線 窪川~中村(43.0km)
宿毛線 中村~宿毛(23.6km)
阿佐線 後免~奈半利(42.7km)
輸送密度(1988年→2019年)1,229→848
増減率-31%
赤字額(2019年)5億524万円
※輸送密度および増減率は、土佐くろしお鉄道(中村線)が開業した1988年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

「土佐くろしお鉄道中村・宿毛線運営協議会」
四万十市、宿毛市、土佐清水市、四万十町、黒潮町、大月町、三原村、高知県

「ごめん・なはり線活性化協議会」
室戸市、安芸市、南国市、香南市、東洋町、奈半利町、田野町、安田町、北川村、馬路村、芸西村、高知県

土佐くろしお鉄道と沿線自治体

土佐くろしお鉄道をめぐる協議会設置までの経緯

土佐くろしお鉄道は、特定地方交通線に指定された国鉄中村線を継承するため、1986年に設立。中村線は、いったんJR四国に移管された後、1988年に開業します。その後、国鉄時代に建設工事が凍結された宿毛線を1997年に開業。同じく工事が凍結していた阿佐線を2002年に開業させ、3線109kmを有す鉄道事業者になりました。

ただ、いずれの路線も利用者の減少や赤字が見込まれることから、沿線自治体は各線の開業前に協議会を設置。「土佐くろしお鉄道中村・宿毛線運営協議会」「ごめん・なはり線活性化協議会」という2つの組織を中心に、さまざまな利用促進策に取り組んでいます。

法定協議会の設置

ごめん・なはり線(阿佐線)の開業から3年後の2005年、土佐くろしお鉄道の利用者数は年間約209万人にまで達しました。しかし、少子化や過疎化、道路整備の進展などの影響で、2005年をピークに減少へと転じます。

土佐くろしお鉄道の年間利用者数の推移
▲土佐くろしお鉄道の年間利用者数の推移。2014年以降は200万人を割り込むようになった。
出典:高知県東部広域地域公共交通協議会「高知県東部広域地域公共交通網形成計画」

一方で、赤字額は年々増加。沿線自治体は、各路線で鉄道経営助成基金を設置して赤字補てんを続けてきましたが、沿線地域の過疎化が著しく今後も赤字額の増加が見込まれます。とくに、四万十くろしおライン(中村線・宿毛線)の沿線は、人口減少にくわえ高齢化も深刻な問題になっており、地域公共交通の再編が急がれていました。

そこで2008年6月、中村線・宿毛線の沿線自治体は地域公共交通活性化再生法にもとづく「高知西南地域公共交通協議会」を設立。国や県の支援を得ながら、バス路線を含めた持続可能な公共交通ネットワークの確立を目指すことになります。

また、利用者数が比較的に落ち着いていたごめん・なはり線も、通勤定期客の減少や高規格道路の延伸などの影響で、利用者数の減少に歯止めがかからなくなります。そのため、2018年3月に「高知県東部広域地域公共交通協議会」という法定協議会を設置。地域公共交通網形成計画を策定し、利用促進策を中心とした取り組みを始めることになりました。

土佐くろしお鉄道のこれまでの取り組み

四万十くろしおラインは、JR四国の土讃線に直通する特急列車の収入が全体の約7割を占める一方、地元利用が少ないという特徴があります。一方、ごめん・なはり線は日常利用が多い路線ですが、通勤定期客の減少が深刻化していました。

こうした沿線の利用状況を踏まえ、土佐くろしお鉄道と沿線自治体が取り組んできた、利用促進活動の一部を紹介します。

  • JR四国の路線への直通列車運行
  • 企画列車・ラッピング列車の運行(だるま夕日号など)
  • 企画乗車券の販売(シニアパス、おでかけきっぷなど)
  • 新駅開業(あき総合病院前駅)
  • サポーターズクラブの設置
  • パークアンドライド

…など

四万十くろしおラインでは、沿線住民の利用促進を目的に、普通列車の運賃を全線で100円にする実証実験を実施しています。この取り組みで利用者数は約2.8倍に増えたものの、一時的なイベントでしかなく、恒常的に利益が得られる施策が求められていました。

そこで考えられたのが、毎週末に使える「土佐くろおでかけきっぷ」というフリーきっぷです。大人500円、子ども300円で中村線・宿毛線の普通列車が全線乗り降り自由のきっぷで、子ども用は夏休み期間も設定されています。2017年から販売されており、販売枚数のもっとも多い10月には月間で約1,600枚も売れているようです(2017年・2018年の実績)。

また、ごめん・なはり線では、2021年に「あき総合病院前」を新設しています。これは、地域公共交通網形成計画の策定時に住民アンケートをした際、住民の要望を受けて実現したものです。新駅開業により、通院者や病院勤務者の利用が増えたことはもちろん、駅周辺に住む通勤定期客も増加し、ごめん・なはり線の利用者数はコロナ禍前より約1割増えたそうです。

ごめん・なはり線の利用者が増加したのは、単に「新駅をつくったから」という理由ではなさそうです。土佐くろしお鉄道では、2018年3月から「土佐くろシニアパス」という、65歳以上の方が利用できる定期券を発行しています。通常の定期券よりも安く、週1回の利用でも元が取れる価格に設定されています。

土佐くろシニアパスは、発売当初から月平均で約30人が利用。その後も、堅調に利用者が増え続けています。こうした高齢者や免許返納者向けの施策が成功していたことも、新駅設置の効果を高めたと考えられるでしょう。

このほか、マイレール意識の向上を目的としたサポーターズクラブも、土佐くろしお鉄道の成功例といえます。年会費は1,000円ですが、特典として1,000円分の鉄道・バス共通回数乗車券が付いています。さらに、1,000円ごとにポイントが交付され、これをためると共通回数乗車券がプレゼントされます。会員数は3,000人を超えており、増収効果に寄与しているようです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【四国】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
四国地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

地域鉄道の再生・活性化モデル事業の検討調査
https://www.mlit.go.jp/common/001064373.pdf

地方鉄道の誘客促進に関する調査
https://www.mlit.go.jp/common/001293544.pdf

高知県鉄道ネットワークあり方懇談会
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/070301/files/2019052000119/file_2019527116199_1.pdf

なはり線開業から20周年!延べ2360万人が乗車(高知新聞)
https://www.kochinews.co.jp/article/detail/575266

土佐くろしお鉄道中村・宿毛線における活性化策(運輸総合研究所)
https://www.jttri.or.jp/survey/zisseki/archives_event/pdf/railway.pdf

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