【くま川鉄道】復旧はいつ?利用者数が増加に転じた理由も解説

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くま川鉄道の駅 三セク
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くま川鉄道は、熊本県の人吉温泉と湯前をつなぐ第三セクターの鉄道事業者です。沿線の高校に通う通学定期客が8割を占める典型的なローカル線ですが、少子化・過疎化により利用者は減少の一途をたどり、苦しい経営が続いています。こうしたなか、2020年7月の豪雨災害で甚大な被害を受けてしまいます。

沿線自治体がこれまで取り組んできたくま川鉄道への支援と、災害復旧の経緯についてまとめました。

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くま川鉄道の線区データ

協議対象の区間湯前線 人吉~湯前(24.8km)
輸送密度(1989年→2019年)2,190→1,104
増減率-50%
赤字額(2019年)1,946万円
※輸送密度および増減率は、くま川鉄道が発足した1989年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

人吉市、錦町、多良木町、湯前町、水上村、相良村、五木村、山江村、球磨村、あさぎり町、熊本県

くま川鉄道と沿線自治体

利用者の減少が続いたくま川鉄道

くま川鉄道は、第三次特定地方交通線に指定された国鉄湯前線を継承し、いったんJR九州を経て1989年に開業しました。開業と同時に、列車の本数をそれまでの18本から31本に増加。ラッシュ時には増結により混雑を緩和するなど、サービスの改善に努めます。その結果、開業2年目までは黒字経営を達成します。

しかし、1991年からは赤字に転落。年間140万人を超えていた利用者数は徐々に減少し、2000年代に入ると100万人を割り込みます。減少の理由は、利用者の約8割を占める通学定期客の減少です。沿線には5つの高校がありましたが、少子化により生徒数が激減。くま川鉄道の通学定期客も、1990年の約3,000人から2006年には約1,900人にまで減ってしまったのです。

こうしたなか、沿線自治体は2009年6月の株主総会で、転換交付金などをもとにした基金が「あと3年で枯渇する」と報告。廃止への危機感が強まります。そこで2010年、沿線自治体は地域公共交通総合連携計画を策定。利用促進策などを通じて、利用者の減少に歯止めをかける取り組みを始めます。この取り組みが功を奏し、利用者数の減少にストップをかけることに成功したのです。

とはいえ、赤字が解消したわけではありません。沿線自治体は新たに経営安定化補助金を設置し、くま川鉄道の赤字を補う状況が続いています。

くま川鉄道の利用者数が増加に転じた理由

利用者数が70万人を割り込んだ2015年以降、くま川鉄道の利用者数は増加に転じています。この理由として、いくつかの要因が考えられます。

そのひとつが、観光列車「田園シンフォニー」の導入です。2014年3月から運行を始めた列車で、デザインは水戸岡鋭治氏が担当。インテリアには地元産のヒノキが使用され、飾り棚には球磨地方の特産品である焼酎が陳列されています。このころから、インバウンドが増えたこともあり、くま川鉄道の利用者数の増加につながったと考えられます。

もうひとつの理由として、「高校の再編」があります。沿線の多良木高校が、2015年に募集を停止。通常であれば通学定期客の減少が見込まれますが、他の高校へ通うために鉄道を利用する高校生が増えたのです。これにより、朝ラッシュ時の乗車率は130%を超えるという、九州でも稀に見る混雑率になってしまいます。

これらの要因で、2018年のくま川鉄道の年間利用者数は、約76.6万人にまで回復したのです。

▲くま川鉄道の利用者数の推移。2015年以降は増加の一途をたどっている。
参考:あさぎり町「人吉・球磨地域公共交通計画」をもとに筆者作成

くま川鉄道のこれまでの取り組み

くま川鉄道と沿線自治体が取り組んできた、利用促進策や経費削減策などをまとめて紹介します。

  • 観光列車「田園シンフォニー」の運行
  • イベント列車の運行(ひな祭り列車、焼酎列車、自然博物館列車「KUMA」など)
  • 企画乗車券の販売(日曜限定親子きずな割引、高齢者向け格安定期券など)
  • 駅舎カフェの運営
  • グッズ販売
  • 全駅に沿線案内板を設置
  • ネーミングライツの販売

…など

観光列車「田園シンフォニー」のほかにも、イベント列車も多数運行しています。なかでも観光誘客に大きく貢献したのが、自然博物館列車「KUMA」です。老朽化した車両を改修して2009年より運行していた列車で、客室乗務員がアテンダントしながら地域の魅力を紹介していく人気列車でした(車両の老朽化により2016年に運行終了)。

また、おかどめ幸福駅や湯前駅には、行政と民間が協力したカフェを出店。定期客や観光客のいこいの場として活用されています。

上下分離方式に移行で2025年に復旧予定のくま川鉄道

2020年7月、沿線地域を襲った豪雨災害で、くま川鉄道は橋梁の流出や全車両の浸水など、甚大な被害を受けます。復旧費用は約50億円です。

その後、代行バスによる輸送を実施しますが、利用者数は約850人。大型バス10台と小型バス2台で、ピストン輸送を続けています。こうした状況を受け、沿線自治体は同年8月27日の臨時取締役会で、くま川鉄道の全線復旧を決定。12月25日には「くま川鉄道再生協議会」を設立し、復旧後の利用促進策も含めて検討していくことになりました。

そして2021年5月18日には、上下分離方式の導入を含む復旧方針がまとまります。沿線自治体は、以前よりくま川鉄道の上下分離方式への移行を検討していました。そのきっかけは、基金が枯渇すると公表した2009年。経費節減の一環として、上下分離方式も選択肢のひとつになったようです。

ただ、その後は利用者の増加もあり検討議題から外れますが、今回の災害復旧で「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧補助」を活用するための条件でもあることから、上下分離方式の導入を決めたのです。
2021年11月、全線の約7割にあたる肥後西村~湯前間で運行を再開します。

残る人吉温泉~肥後西村間は流出した橋梁の復旧工事が進められており、2025年度に全線で運転を再開する予定です。また、上下分離方式への移行にともない、鉄道施設を保有する一般社団法人を2024年6月に設立するとしています。

くま川鉄道の上下分離方式のスキーム
▲全線復旧後の上下分離方式のスキーム。くま川鉄道は、沿線自治体や熊本県が設立する新法人に線路などの鉄道施設を無償譲渡し、管理者を新法人に移行。新法人は、くま川鉄道に線路などを無償貸与する。
出典:あさぎり町「人吉・球磨地域公共交通計画」

※くま川鉄道と同時に被災した、JR肥薩線の協議会は以下のページで紹介します。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【九州】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
九州地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

人吉・球磨地域公共交通計画(あさぎり町)
https://www.town.asagiri.lg.jp/dl?q=212317_filelib_de35ea90c730b420fcef60d4768acabd.pdf

広報いつき 2018年10月号
https://www.vill.itsuki.lg.jp/kiji003271/3_271_3_dl_q=5166_filelib_d240d37246ab30a6f10b0e6af27f9c3b.pdf

令和2年7月豪雨により被災したくま川鉄道の復旧に対する支援について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001404806.pdf

くま川鉄道(運裕総合研究所)
https://www.jttri.or.jp/survey/zisseki/archives_event/pdf/railway.pdf