【樽見鉄道】三セク優等生が一転!鉄道の廃止は避けられるか?

樽見鉄道の沿線風景 三セク・公営

樽見鉄道は、岐阜県の大垣と樽見をつなぐ第三セクターの鉄道事業者です。開業は1984年10月。現在も運行している第三セクター鉄道では、三陸鉄道に次いで二番目に古い事業者です。

樽見鉄道は、開業からしばらくは黒字経営で「三セクの優等生」といわれていました。しかし、1997年から赤字が続き、近年は廃止の声も聞かれます。こうしたなか、沿線自治体の協議会や沿線住民が設立したNPO団体などが、樽見鉄道の支援を続けています。

樽見鉄道の線区データ

協議対象の区間樽見線 大垣~樽見(34.5km)
輸送密度(1987年→2019年)876→598
増減率-32%
赤字額(2019年)7,055万円
※輸送密度および増減率は1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

大垣市、瑞穂市、本巣市、北方町、大野町、揖斐川町、岐阜県など

樽見鉄道と沿線自治体

樽見鉄道が三セクの「優等生」から「劣等生」に転じた経緯

国鉄樽見線を継承した樽見鉄道には、かつて貨物列車が走行していました。沿線には住友大阪セメント岐阜工場があり、セメント輸送の貨物便が大垣~本巣間を運行していたのです。この貨物便が樽見鉄道の大きな収入源となっており、1994年までは年間2億円を超える運輸収入がありました。

また旅客も、岐阜や大垣の近郊路線であることから利用者数は増加。一時は、国鉄時代の1.5倍以上にまで増えたこともありました。貨物も旅客も順調な樽見鉄道は、「第三セクターの優等生」だったのです。

沿線自治体は、1989年に「樽見鉄道連絡協議会」を設置。同年には、国鉄時代の未成線区間であった美濃神海(現・神海)~樽見間を延伸開業させます。ただ、この路線延長による運営経費の増加が、後に樽見鉄道の経営を苦しめる一因になってしまいます。

1990年代に入ると、住友大阪セメントの輸送モードが鉄道からトラックにシフト。貨物の運輸収入が徐々に減っていきます。くわえて、旅客の利用者数も減少に転じ、1997年度以降は貨物・旅客ともに赤字に転落したのです。その後も赤字は改善せず、2002年度には債務超過に陥る寸前まで経営が悪化します。

NPO法人が樽見鉄道の支援をスタート

沿線自治体が組織した協議会では、駅の美化活動や沿線情報のチラシ作成などを通じて、樽見鉄道を支えてきました。しかし、それだけで赤字の解消にはつながりません。

また岐阜県は、明知鉄道や長良川鉄道など他の第三セクター鉄道に対して運用基金を設定し、欠損補助の準備をしていましたが、樽見鉄道は黒字の見通しであったことから基金を設定していませんでした。
累積欠損が徐々に増えるなかで、樽見鉄道の支援に動き始めたのが、NPO法人の「樽見鉄道を守る会」です。

2003年に設立した同法人は、沿線住民や団体に募金を呼びかけ、それをもとに車両シートやカーテン、枕木の交換費用に充てます。なお、車両シートとカーテンの張替え作業は、人件費を抑えるために、高校生を含む沿線住民がボランティアで実施しました。また、枕木には募金者の名前の入ったプレートを設置する「枕木オーナー制度」を導入しています。

これら「樽見鉄道を守る会」の支援により、合計230万円以上の経費削減につながりました。

存続か?廃止か?揺れる協議会

市民による支援の輪が広がるなかで、樽見鉄道に大きなニュースが飛び込んできます。住友大阪セメントの貨物輸送が、2006年3月に廃止されることが決まったのです。貨物が廃止になると、樽見鉄道の赤字額は億単位に膨れ上がる可能性があります。

沿線自治体は、樽見鉄道に対して経営改善計画の策定を求め、今後の支援を協議していくことになりました。支援額は年間1億円、支援期間は2008~2011年までの3年間です。

樽見鉄道は、運賃の値上げや人件費削減などの経営改善策を進めます。しかし、少子化にともなう通学定期客の減少など収入減のほうが大きく、赤字は改善しません。沿線自治体は、2012年度以降も支援を継続しますが、支援にも限界があるため「経営改善が認められない場合には、支援の打切りについて協議をおこなう」という方針を下します。

その後、樽見鉄道は沿線自治体や住民と連携した利用促進の取り組みに注力。この取り組みが協議会で認められ、2023年現在も支援は継続しています。

なお、協議会では3年おきに支援内容を見直しており、2023年現在の支援条件や補助額は以下のように取り決めています。

【財政面での支援】
支援継続の判断基準:経常損益 8 千万円台の赤字と償却前損益の黒字
支援額は、沿線 5 市町合わせて 95,000 千円を上限とする。
固定資産税補助分は、各市町が受けた納付分と同額を補助する。

出典:揖斐川町「樽見鉄道株式会社経営健全化方針」

ちなみに、2019年度の経常損益は約7,055万円の赤字、償却前損益は526万円の黒字で、支援継続の条件を満たしています。ただし、コロナ禍に入った2020年度以降は条件を満たしておらず、沿線自治体は今後どのように判断するかが注目されるところです。

樽見鉄道のこれまでの取り組み

樽見鉄道が、沿線自治体や住民と協働で進めてきた利用促進の取り組みをまとめました。

  • 観光列車「ねおがわ」の運行
  • イベント列車の運行(薬草列車、しし鍋列車、たにぐみ盆梅展列車など)
  • 沿線の学校・公共施設との連携
  • 枕木オーナー制度の導入
  • 駅待合室の改修・修繕
  • 市民駅長の導入(無人駅の委託管理)

…など

樽見鉄道は、2000年代初頭から「薬草列車」「しし鍋列車」といった車内で食事を提供するイベント列車を運行しており、「レストラン列車のパイオニア」ともいえる存在です。

これらのイベント列車にくわえ、2017年に登場したのが、観光列車「ねおがわ」です。観光列車といっても、全区間自由席、乗車券のみで乗車でき、乗りやすさを意識した特別列車を運行しています。経費削減のために、車両のエンブレムには公募デザインを採用したり、観光案内や車内アテンダントは沿線の高校生や地域ボランティアが実施したりと、沿線住民の支援で運行している点も特徴です。

また、老朽化した駅施設の改修や修繕も、地域の方々が協力しています。たとえば、北方真桑駅のホームにある屋根付きベンチの改修では、材料費は募金で集め、修繕は地元高校生などのボランティアが対応しています。こうした活動がメディアに取り上げられたことで沿線住民の関心が高まり、マイレール意識の醸成につながっている点も、樽見鉄道から学ぶべきポイントでしょう。

とはいえ、多額の赤字を計上していることには変わりなく、沿線自治体の判断を見守っていく必要がありそうです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【中部】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中部地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

第三セクター鉄道等協議会加盟各社の輸送実績・経営成績
https://www.akitakeizai.or.jp/journal/data/202203_kikou_02.pdf

地方鉄道の誘客促進に関する調査
https://www.mlit.go.jp/common/001293543.pdf

個別事例(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/tetudo/bestpractice/best%202.pdf

樽見鉄道株式会社経営健全化方針(揖斐川町)
https://www.town.ibigawa.lg.jp/cmsfiles/contents/0000010/10704/housin.pdf

岐阜県第三セクター鉄道の現状と今後の展望について(岐阜県産業経済振興センター)
https://www.gpc-gifu.or.jp/chousa/keikyou/h13/07_09/sanseku.PDF

“岐阜ローカル鉄道4路線” – 考える(OKB総研)
https://www.okb-kri.jp/wp-content/uploads/2019/04/157-research1.pdf

特定地方交通線における経営形態の転換と現状(交通観光研究室)
【リンク切れ】http://www.osaka-sandai.ac.jp/file/rs/research/archive/12/12-15.pdf

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