水島臨海鉄道は、岡山県倉敷市で貨物と旅客の輸送を担う第三セクター鉄道です。もともと、水島コンビナートから各地を結ぶ貨物専用線として開業しますが、1972年より旅客営業を開始。地域の足として倉敷市民に親しまれています。また、キハ30形をはじめ国鉄時代の車両が現役で走るなど、鉄道ファンにも人気のあるローカル線です。
ただ、旅客事業は赤字続きで経営を苦しめる一因に。水島臨海鉄道は、地域との連携を強めることで旅客列車の存続をめざしています。
水島臨海鉄道の線区データ
協議対象の区間 | 水島本線 倉敷市~三菱自工前(10.4km) |
輸送密度(1987年→2019年) | 2,700→3,190 |
増減率 | 18% |
赤字額(2019年) | 2,562万円(貨物含む) |
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。
協議会参加団体
倉敷市、岡山県、倉敷市商工会議所、沿線の高校など
地域とのつながりを深める水島臨海鉄道
水島臨海鉄道は、国鉄と倉敷市、岡山県などが出資する貨物専用の臨海鉄道として1970年に開業しました。貨物のピークは1972年で、当時は約134万トンを輸送。その後、トラックなどに需要が奪われ、2018年には約40万トンにまで減少します。それでも貨物事業の収支は現在も黒字です。一方の旅客は、通勤通学を中心に年間約160万人を輸送するものの、収支的には赤字が続いています。
旅客の収支を改善するには、利用促進が重要課題です。そこで水島臨海鉄道は、銚子電鉄や富山ライトレール(現・富山地方鉄道)など他の鉄道事業者を訪問。「沿線地域との結びつきの強化が利用促進に欠かせない」ことを、深く学びます。
そして2004年春に、沿線地域で開催された「倉敷雛めぐり」。このイベントで水島臨海鉄道は、沿線の保育園・幼稚園の園児に車内を装飾してもらった「お雛列車」を運行します。地域の子どもたちと一緒に、イベントを盛り上げようとしたのです。これが好評だったことから、翌年以降も運行される恒例イベントに。現在では、「七夕列車」「ハロウィン列車」「クリスマストレイン」など、季節ごとに飾り付けをした列車が走っています。
こうしたイベント列車は水島臨海鉄道から地域に提案して始めたものですが、やがて地域のほうから「こんな列車を走らせたい」と提案されることが増え始めます。2月ごろに運行される「ありがとう列車」は、沿線の高校生からの提案で始まったもの。「大切な人に感謝の思いを伝えたい」と、飾り付けは高校生が実施しています。
ほかにも、イベント来場者が描いた塗り絵を飾る「ぬりえ列車」や、地域の写真同好会が提案した「夜景列車」など、さまざまなイベント列車が考案されます。さらに、JFEスチールや大原美術館などの沿線企業とコラボした列車(名画ぬりえアート列車など)も人気を集めているようです。
水島臨海鉄道のこれまでの取り組み
イベント列車以外にも、水島臨海鉄道と沿線地域が連携した利用促進の取り組みは実施されています。一例を紹介しましょう。
- りんてつ沿線手帳の製作
- 沿線の名店とのコラボ商品開発
- イベント開催(臨鉄ガーデン)
- デザインマンホールの製作
- キハ30形などの運行(クラウドファンディングで塗装)
- 待合室設置・バリアフリー対応
- グッズ販売
- パークアンドライド
…など
「りんてつ沿線手帳」は、商工会議所の青年部や倉敷中央高校などの考案で生まれた、手作り手帳です。実際に沿線をフィールドワークでめぐり、魅力的なスポットや歴史といった名所案内も掲載しています。ほかにも、沿線の飲食店と提携したお弁当やデザートなどの商品開発もしています。
「臨鉄ガーデン」は、水島臨海鉄道の高架下を活用したマルシェです。2017年から不定期で開催しており、回を重ねるごとに参加店舗数は増加。近年は車道を歩行者天国にしてイベントを実施しています。
倉敷市でも、水島臨海鉄道をモチーフにした絵柄付きのマンホールを沿線の駅近くに設置するほか、路線バスも含めて全線無料のイベント施策に支援するなど、利用促進をサポートしています。こうした官民一体の支援もあり、水島臨海鉄道の利用者数は微増を続け、収支改善にもつながっているようです。
■水島臨海鉄道の輸送密度の推移
鉄道ファンを意識した車両導入 – 将来はLRTも検討か?
水島臨海鉄道では、国鉄時代に製造された「キハ30形」「キハ37形」「キハ38形」が現役で走っています。これらの車両は、キハ20形の置き換えとしてJR東日本より購入。2014年5月より運用しています。ただ、古い車両のためメンテナンス費が高額です。そこで水島臨海鉄道は2021年に、キハ37形・38形の修繕や塗装費用をクラウドファンディングで集める施策を実施。その結果、目標金額を上回る約2,367万円が寄せられました。
オリジナル車両のMRT300形を含めて水島臨海鉄道の列車は、製造から30年以上が経つ古参ばかりです。早いものだと、2027年ごろから車両更新が始まります。コロナ禍前には、蓄電池で自走するLRT化計画も検討されていたようですが、コロナの影響で赤字額は1億円前後まで増大。新型車両の導入は、難しいかもしれません。
地域にも鉄道ファンにも喜ばれる新たな車両の導入にも、期待したいところです。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。
参考URL
鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html
みんてつVol.72 冬号(日本民営鉄道協会)
https://www.mintetsu.or.jp/association/mintetsu/pdf/72_p16_19.pdf
水島臨海鉄道の利用促進について
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/938818_8999872_misc.pdf
倉敷市路線バス・臨鉄無料デーの実施について(水島臨海鉄道)
https://www.mizurin.co.jp/event_detail/index/170.html
水島臨海鉄道の取り組み
https://mizurin.co.jp/pdf/report.pdf