【若桜鉄道】SL&観光列車化の経済効果は1億円超!鉄道存続をかけた挑戦

若狭鉄道の列車 三セク・公営

若桜鉄道は、郡家と若桜を結ぶ約20kmの第三セクター鉄道です。前身は国鉄若桜線ですが、特定地方交通線に指定され経営分離。いったんJR西日本に継承された後、1987年10月に若桜鉄道として再出発します。

SLを活用したイベントや車両の観光列車化などで盛り上がりをみせる若桜鉄道ですが、経営的には赤字続き。一時は廃止も検討されました。それを救ったのは、沿線の自治体と住民による手厚い支援です。ローカル線の再生に向けて、自治体や住民が取り組んできた内容を解説します。

若桜鉄道の線区データ

協議対象の区間若桜線 郡家~若桜(19.2km)
輸送密度(1987年→2019年)1,138→383
増減率-66%
黒字額(2019年)30万円
※輸送密度および増減率は、若桜鉄道が発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※黒字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

若桜町、八頭町、鳥取県

若桜鉄道と沿線自治体

「地域の足」である若桜鉄道をなくしてはいけない

開業直後の若桜鉄道は年間60万人前後の利用者数を維持し、1999年には約67万人にまで増加します。しかし、この年をピークに減少に転じます。理由は、利用者の約7割を占める通学定期客の減少です。沿線の少子化・過疎化は今後も続くと予測され、利用者数の増加は見込めない状況でした。

▲若桜鉄道の通学利用者数は2001年がピークに。通勤定期客や定期外客を含めた全体の利用者数は、1999年をピークに減少傾向にある。
参考:若桜町・八頭町「若桜谷公共交通活性化総合連携計画」のデータをもとに筆者作成

一方で赤字額は年々拡大し、2005年には約5,400万円に膨れ上がります。沿線自治体は開業前に積み立てた運営助成基金で補てんを続けますが、このまま赤字が続くと2008年に枯渇する見込みです。

危機的状況に陥った若桜鉄道に対して沿線自治体は2006年に、「若桜谷の公共交通を考える協議会」を設置。鉄道の存続・廃止も含めて議論することになりました。

ただ、若桜鉄道は沿線住民にとって大切な「地域の足」です。沿線には学校や医療機関が少なく、鳥取市まで足を運ぶ住民も少なくありません。並行する路線バスはあるものの、豪雪で運休になる日もあります。こうした理由から沿線自治体は、「若桜鉄道の役割は大きい」という認識に至ったのです。

沿線自治体が議論を進めていた2007年、国は地域公共交通活性化再生法を施行します。「この法律にもとづく制度を活用すれば、若桜鉄道を存続できる」。そう考えた沿線自治体は、2008年7月に「若桜谷公共交通活性化協議会」という法定協議会を設置。同年10月には総合連携計画を作成し、若桜鉄道の経営改善方策を示します。

上下分離方式への移行で開業以来初の黒字に

協議会では、駅や線路といった若桜鉄道の鉄道施設を沿線自治体が保有する「上下分離方式」への移行が示されます。施設の修繕や設備投資などに必要な費用は、沿線自治体が負担。固定資産税もなくなるため、若桜鉄道の経営は大きく改善します。

なお、沿線自治体が負担する設備投資費用は当初10年間、国が約1億円を補助。鳥取県も年間で約2,500万円の財政支援をおこないます。公的支援のほかにも、沿線自治体は利用促進や経費削減で若桜鉄道をサポートしています。主な取り組みを紹介しましょう。

  • 自治体職員による利用促進
  • マイレール意識の醸成(サポーターズクラブの結成、枕木オーナーなど)
  • 沿線住民による利用促進(自治会による回数券購入など)
  • 観光関連商品の企画販売(団体ツアー誘致、関連グッズ販売など)
  • 地域住民による環境美化活動
  • 定期通学者への助成制度
  • 免許返納者への優遇措置
  • イベントの企画実行(SL車両運転体験など)
  • 観光列車・ラッピング車両による誘客

…など

自治体職員が利用促進に貢献している点も、若桜鉄道の特徴です。若桜町と八頭町で、あわせて約100名の職員が鉄道の通勤にシフト。公務でも利用することで、全体的な利用者の増加につなげます。

沿線住民も自治会による回数券購入のほか、「若桜鉄道サポーターズ」という支援団体を結成。イベント企画やグッズ開発などで若桜鉄道を盛り上げている点も、特筆すべきポイントです。

こうして、2009年4月から新たな体制で再スタートした若桜鉄道。手厚い支援のおかげで、2009年度は開業以来初となる黒字を達成します。しかし、黒字経営は長く続きませんでした。

SL復元から始まった観光誘客へのシフト

上下分離方式への移行で黒字転換した若桜鉄道ですが、2012年度には再び赤字に転落します。利用者全体の約7割を占める高校生は、少子化の影響で激減。過疎化も追い打ちをかけ、沿線住民だけに頼る利用促進は限界を迎えていたのです。

こうした状況に2016年度からは、若桜鉄道が所有する車両も沿線自治体が取得。維持管理費や燃料費なども自治体が負担することが決まります。これにより再び黒字転換しますが、単なる「赤字の付け替え」では自治体も疲弊してしまいます。

若桜鉄道を活用して、自治体も稼がなければならない。そこで、まず着目したのは「SL」を使った観光誘客。国鉄時代に走っていたSLを復元し、若桜鉄道の観光の目玉とする案が浮上したのです。

しかしSLを走らせるには、車両の移譲や転車台・給水塔の復元など莫大な初期投資が必要です。これらの費用は、沿線住民が募金で支援。かつて国鉄若桜線でも活躍していたC12形のSL導入を実現します。

2015年4月11日に、SLを使った社会実験を若桜~八東間で実施します。実験の目的は「SLでどれだけの地域経済効果があるのか」を検証することでした。その結果、鳥取県外の観光客も含め13,468人を集客、経済波及効果は1,805万円に及んだのです。

ただ、全線で本格的に運行するとなれば、車両や軌道の整備などに5億~10億円が必要とされます。このため2025年現在では、若桜駅構内でSL運転体験イベントを実施するなど限定的な活用にとどまっています。

若桜鉄道を「観光資源」と捉える取り組みへ

SLを使った社会実験で、観光誘客による施策が地域に大きな便益をもたらすことがわかった沿線自治体。ここから、若桜鉄道の生き残りをかけた挑戦が始まります。そのひとつが、車両の観光列車化です。

2016年3月に運行を始めた「隼ラッピング列車」を皮切りに、2018年3月からは車内を全面改装した「昭和号」の運行を開始。その後も「八頭号」「若桜号」といった、観光気分が味わえる普通列車が次々に登場します。なお、昭和号と八頭号の運行がもたらす経済波及効果は、1億3,174万円と試算されています(2018年3月~2019年12月の22カ月間における効果)。

また、八東駅で行き違い施設を整備することで、2020年からは増便を実現。ほぼすべての列車がJR因美線に乗り入れ、鳥取駅まで直通運転させることで利便性を高めています。

ほかにも、若桜駅に動態保存されているディーゼル機関車「DD16形」を使った観光列車の構想も進行中。2027年度からの運行開始をめざしています。

観光に大きくシフトしながらも、地域住民の足としての役割も果たす若桜鉄道。その挑戦は沿線自治体や住民の多大な協力のもと、これからも続きそうです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【中国】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中国地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

広報やず(2006年8月)
https://www.town.yazu.tottori.jp/uploaded/attachment/3578.pdf

地方鉄道の経営改善に関する調査
https://www.mlit.go.jp/common/001293545.pdf

若桜谷公共交通活性化総合連携計画(若桜町・八頭町)
https://www.town.wakasa.tottori.jp/material/files/group/5/2800a78cfaad11b459507a229f582e33.pdf

若桜鉄道の鉄道事業再構築事業の概要(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/000035029.pdf

地方鉄道の持続可能性に関する考察―若桜鉄道職員へのアンケート調査に基づく分析を
事例として―(社会デザイン学会 学会誌 2023 Vol.15)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/socialdesign/15/0/15_65/_pdf/-char/ja

若桜鉄道観光列車「昭和」「八頭号」運行開始以降の経済効果(麒麟のまち観光局)
https://www.kirinnomachi.jp/org/wp/wp-content/uploads/2020/02/%E8%8B%A5%E6%A1%9C%E9%89%84%E9%81%93%E3%80%8C%E6%98%AD%E5%92%8C%E3%80%8D%E3%80%8C%E5%85%AB%E9%A0%AD%E3%80%8D%E3%81%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%8A%B9%E6%9E%9C%E5%88%86%E6%9E%90%E7%B5%90%E6%9E%9C%E5%A0%B1%E5%91%8A.pdf

【三セク協だより第58号掲載】挑戦し続ける若桜鉄道II(第三セクター鉄道協議会)
https://3sec-tetsudou.jp/archives/1550

広報わかさ(2024年5月)
https://www.town.wakasa.tottori.jp/material/files/group/2/20240425.pdf

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