【南阿蘇鉄道】上下分離を即決!鉄道が復旧できた理由とは

南阿蘇鉄道の長陽駅 三セク・公営

南阿蘇鉄道は、立野から高森までを結ぶ第三セクター鉄道です。2016年に発生した熊本地震で、大きな被害を受けた南阿蘇鉄道。沿線自治体は、被災直後から全線復旧をめざし、さまざまな検討や支援を続けてきました。

そして2023年7月15日、全線で運行再開。復旧までの7年間に、沿線自治体はどのように動き全線再開へと導いたのか、その経緯を紹介します。

南阿蘇鉄道の線区データ

協議対象の区間高森線 立野~高森(17.7km)
輸送密度(1987年→2019年)694→564
増減率-19%
赤字額(2019年)345万円
※輸送密度および増減率は1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

高森町、南阿蘇村、熊本県、南阿蘇鉄道

南阿蘇鉄道と沿線自治体

南阿蘇鉄道に甚大な被害をもたらした熊本地震

2016年4月、最大震度7の揺れが二度襲った熊本地震。南阿蘇鉄道は、4月16日に発生した2回目の地震で、トンネルや橋梁が変形するなど甚大な被害を受けました。

災害から一カ月も経たない同年5月11日、沿線自治体は鉄道の全線復旧と被害の少ない一部区間の早期復旧を決定します。そして7月31日に、高森~中松間の7.1kmが運転を再開。南阿蘇鉄道は、全線復旧に向けて動き始めたのです。

ただ、立野~中松間は被害が甚大で、復旧は容易ではありません。とくに第一白川橋梁は、全長166.3m、高さ約60mの橋を架け替える必要があり、膨大な復旧費用が見込まれます。この費用が示されたのは、地震発生から1年後のことでした。

熊本地震による南阿蘇鉄道の被害状況
▲熊本地震による南阿蘇鉄道の被害状況。立野~長陽間に、第一白川橋梁や犀角山トンネルなどの被害の大きかった鉄道施設が集中している。
出典:広報みなみあそ(2017年6月号)

南阿蘇鉄道の災害復旧をめぐる協議会設置までの経緯

2017年4月16日、国土交通省は「南阿蘇鉄道の鉄道施設災害復旧調査に関する報告書」を公表します。このなかで、南阿蘇鉄道の不通区間を復旧するには、費用が65~70億円、工事期間は約5年と見積もられます。この費用のうち約40億円が、第一白川橋梁の復旧工事費です。

南阿蘇鉄道の年間運賃収入は、約1億円。赤字経営の鉄道事業者に、この費用は出せません。仮に、鉄道軌道整備法による国の補助を受けられたとしても、少なくとも3分の1は事業者負担ですから、20億円以上の負担が見込まれます。

なお、調査報告書には「長期的なビジョンを持って、復旧のあり方を検討することが重要である」と記されており、国の制度を使う場合は持続可能な公共交通網の策定が求められました。

そこで沿線自治体は、復旧方法を検討するための組織として、2017年4月28日に「南阿蘇鉄道再生協議会」を設置。さらに、復旧後の持続可能な公共交通網を策定するために「南阿蘇鉄道沿線地域公共交通活性化協議会」を、同年5月2日に設置します。この二つの組織が連携を取りながら、鉄道の復旧方法と復旧後の支援を検討していくことになります。

上下分離方式を即決した沿線自治体

2017年6月2日、復旧方法を検討する南阿蘇鉄道再生協議会の第2回が開催されます。65~70億円もの復旧費用は、沿線自治体にとっても大きな負担です。そこで自治体は、国への支援要望として、復旧費用の国庫補助率のかさ上げなどを求める考えで一致。その後、第3回(2017年9月28日)には、必要な予算項目を追加して要望活動をしていくことを決めます。

国に支援を求めると同時に、沿線自治体は第4回(2017年10月31日)の協議会で、南阿蘇鉄道の「上下分離方式」の導入を決定します。導入を決めた理由は、国の「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧補助」という制度を活用することが目的でした。

この補助制度は、熊本地震のような激甚災害で鉄道路線が被災した場合、復旧費用を国と自治体が2分の1ずつ負担するというもの。これにより、鉄道事業者の負担を大きく軽減できます。さらに、自治体負担分の95%は普通交付税措置が受けられ、国が事実上97.5%を負担してくれる制度なのです。

ただし、この制度を活用するには上下分離方式を導入するなど、抜本的な経営構造の改革が求められます。そこで、沿線自治体は制度活用を視野に、南阿蘇鉄道の上下分離方式への移行を決めたのです。
ちなみに、特定大規模災害等鉄道施設災害復旧補助は、東日本大震災を機に生まれた制度で、南阿蘇鉄道はこの制度の適用第1号になりました。

沿線自治体は、なぜ上下分離の導入を即決できたのか?

とはいえ、上下分離を導入すると沿線自治体に毎年大きな負担がかかります。南阿蘇鉄道の輸送密度は600人/日前後しかなく赤字経営。沿線の人口は、今後も減り続ける見通しです。それなのに、沿線自治体はなぜ上下分離をしてまで、鉄道の復旧にこだわったのでしょうか。

その理由として、南阿蘇鉄道が「赤字でも経営は安泰だった」ことが大きいでしょう。

南阿蘇鉄道は国鉄高森線を継承し、1986年に開業しました。その際、開業後も赤字が見込まれたことから、沿線自治体は国の転換交付金とは別に、約1億9,000万円の基金を設置します。ところが、南阿蘇鉄道は開業から約30年間、転換交付金以外の基金は1円も使わずに運営してこられたのです。

■南阿蘇鉄道の経営基金状況

転換交付金県負担分町村負担分住民基金など
開業当初(1986年)3億2,400万円6,000万円6,000万円6,642万円
2017年3月時点5,400万円6,000万円6,000万円6,642万円
▲赤字補てんに使ったのは国の転換交付金のみで、県や自治体などが集めた基金は開業から約30年間、一切使っていなかった。
参考:「広報みなみあそ(2017年11月号)」より筆者が作成

ちなみに南阿蘇鉄道は、他のローカル線と同様に通学定期客が多くを占め、その利用者数は減少の一途をたどっています。それなのに、なぜ赤字補てんの少ない経営ができているのでしょうか。それは、徹底したコストダウンを図る一方で、大きな「収入の柱」を持っていたからです。その柱とは、トロッコ観光列車「ゆうすげ号」です。

開業直後から運行しているゆうすげ号の実績は、利用者数ベースでみると南阿蘇鉄道全体の約17%、運賃収入ベースでみると約42%にもなり、南阿蘇鉄道の大黒柱として経営を支えています。しかも、トロッコ列車の利用者数は安定しており、全体の運賃収入も増加傾向にあったのです。

南阿蘇鉄道の運賃収入の推移
▲南阿蘇鉄道の運賃収入の推移。約1億円の売上のうち、トロッコ列車だけで4,000万円前後を得ている。
参考:南阿蘇鉄道沿線地域公共交通計画のデータをもとに筆者作成

観光列車が成功を収めたのは、「阿蘇」という世界的に有名な観光地を走る路線であったことも大きいでしょう。観光客数は、沿線2町村だけで年間700万人以上。アジアを中心にインバウンドも年々増えて続けています。南阿蘇鉄道は、こうした観光需要を確実に取り込むことで地域住民の生活交通を維持できる、全国的にも稀有なローカル線なのです。

なお、上下分離方式への移行で自治体の負担額は、復旧後10年間で、鉄道施設や車両などの更新費用が約21億円、施設の維持修繕は約4億円と見積もられています。これらの費用は、国が2分の1、県が3分の1、残り6分の1を高森町と南阿蘇村が折半することになっています。

南阿蘇鉄道のこれまでの取り組み

全線復旧までの7年間、沿線自治体は住民を巻き込んで、さまざまな施策で南阿蘇鉄道を支えてきました。その企画・運営を担うのが、「南阿蘇鉄道復旧支援対策チーム実行委員会」や「南阿蘇鉄道復旧支援部会」などの組織です。ここで、彼らの活動を中心に南阿蘇鉄道のこれまでの取り組みをお伝えします。

全線復旧までの取り組み

  • イベント列車の運行(マンガよせがきトレイン、サニー号トレインなど)
  • トロッコ列車の企画ツアー
  • イベントの開催(駅前マルシェ、南阿蘇鉄道復活祭など)
  • 駅カフェ運営

…など

イベント列車として、著名漫画家117人による人気アニメのイラストと応援メッセージをラッピングした「マンガよせがきトレイン」や、熊本出身の漫画家・尾田栄一郎氏の代表作「ONE PIECE」をラッピングした「サニー号トレイン」などを運行。子どもから大人まで、多くの人が乗車しました。

また、トロッコ列車を活用した「復興モニターツアー」も実施。レールウォークや車内でランチがいただけるといった企画が、好評だったようです。このツアーは、関東地方の大学生が企画し、旅行会社と連携して実施。地元観光協会が調整役となり、実施されたものでした。

ほかにも、駅前マルシェなどのイベントも「復旧の盛り上がりを止めない」ために、定期的に開催したようです。

全線復旧後の取り組み

  • JR豊肥本線への乗り入れ
  • 新型列車の導入
  • バスや乗合タクシーなど二次交通との結節強化
  • パークアンドライドの設置
  • 観光MaaSの導入に向けた実証実験

…など

復旧後の取り組みは、「南阿蘇鉄道沿線地域公共交通活性化協議会」が中心となり、実現に向けて取り組みました。なかでも、立野駅からJR豊肥本線への直通列車の運行は復旧の目玉で、利用促進につながっています。直通にともなう信号やポイントなどの整備費用は、沿線自治体が負担しました。

また、復旧と同時に運行を開始した新型気動車「MT-4000形」を2両導入。観光誘客を意識し、多言語化に対応した列車です。このほか、二次交通との接続見直しや立野駅にパークアンドライドの駐車場を整備するなど、地元利用の促進にも注力しています。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【九州】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
九州地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

南阿蘇鉄道の災害復旧支援研究(第55回土木計画学研究発表会・講演集)
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00039/201706_no55/55-26-05.pdf

広報みなみあそ
https://www.vill.minamiaso.lg.jp/list00235.html

南阿蘇鉄道の鉄道施設災害復旧調査報告概要(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001181697.pdf

地方鉄道の誘客促進に関する調査
https://www.mlit.go.jp/common/001293544.pdf

国における鉄道助成制度(鉄道・運輸機構)
https://www.jrtt.go.jp/subsidy/asset/d8b7dfbc3ddc96f6731d0a376a34af97_3.pdf

南阿蘇鉄道の鉄道事業再構築実施計画の認定について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001593313.pdf

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