三陸鉄道は、岩手県の沿岸部を縦断する全長163kmの鉄道路線です。現在は盛~久慈まで一体運行されていますが、かつては盛~釜石の「南リアス線」と宮古~久慈の「北リアス線」にわかれており、両線に挟まれた釜石~宮古間はJR東日本(山田線の一部)が運営していました。
三陸鉄道を支える「岩手県三陸鉄道強化促進協議会」の活動を中心に、沿線自治体の支援や利用促進の内容を紹介します。
三陸鉄道の線区データ
協議対象の区間 | リアス線 盛~久慈(163.0km) |
輸送密度(1987年→2019年) | 926→410 |
増減率 | -56% |
赤字額(2019年) | 4億348万円 |
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。
協議会参加団体
洋野町、久慈市、野田村、普代村、田野畑村、岩泉町、宮古市、山田町、大槌町、釜石市、大船渡市、陸前高田市
岩手県三陸鉄道強化促進協議会の設置までの経緯
三陸鉄道の前身は、国鉄の久慈線・宮古線・盛線です。いずれも国鉄再建法による第一次特定地方交通線に指定された路線ですが、廃止ではなく自治体主導の第三セクターに継承される初のケースとして、1984年に開業します。
その開業と同時に、沿線自治体が一体となって三陸鉄道を支援することを目的に、岩手県三陸鉄道強化促進協議会が設置されました。
なお、2019年にはJR東日本の山田線の一部区間(宮古~釜石間)を三陸鉄道に移管しましたが、山田線の沿線自治体も協議会に参加しており、地域全体で三陸地方の鉄道を守る体制ができていたといえるでしょう。
地域公共交通活性化再生法による鉄道事業再構築事業の活用
三陸鉄道は、開業から10年間は黒字経営でした。しかし、モータリゼーション化や少子化などの影響で利用者は減少の一途をたどり、1994年度以降は赤字経営が続いています。
沿線自治体と岩手県は、三陸鉄道の赤字を補てんするほか、鉄道近代化設備整備費補助やイベント列車整備事業費補助など、さまざまな支援をおこなってきました。しかし、こうした支援だけでは改善がみられず、限界を感じていたようです。
こうしたなか2007年、国は地域公共交通活性化再生法を施行。この法律にもとづいた「鉄道事業再構築事業」を活用して上下分離方式を採用することで、三陸鉄道の負担軽減につながらないかと、沿線自治体は2008年7月に法定協議会を設置します。
もっとも、岩手県や沿線自治体では2000年から鉄道建設公団から無償譲渡を受けた資産にかかる固定資産税を補助するなど、部分的に上下分離方式を採用していました。しかし、三陸鉄道を持続可能な地域交通として存続させるには、さらなる支援が不可欠です。
上下分離による三陸鉄道の経費削減にくわえ、観光客の誘致など利用促進策についても検討しながら、2009年3月に計画案を策定。11月には、国の認定を受け実行へと移っていきます。
なお、鉄道事業再構築事業の事業費について、設備投資費に5年間で約13億円、鉄道施設・車両にかかる修繕・維持管理費用には4年間で約6億円などの補助を受けています。
山田線の移管にも鉄道事業再構築事業を活用
2014年12月、岩手県と沿線自治体は、JR山田線の宮古~釜石間の三陸鉄道移管に合意します。この区間は東日本大震災により不通となっていた線区であり、また慢性的な赤字ローカル線であることから、JR東日本は復旧に難色を示していたのです。
そこで沿線自治体はJR東日本と協議し、復旧後の運営を三陸鉄道がおこなうことを条件に、復旧費用はJR側が負担(一部は復興交付金から支出)し、さらに無償譲渡・貸付することで合意したのです。これにより、山田線を挟んで北リアス線と南リアス線に分離していた三陸鉄道は、久慈から盛までの一体運行をができるようになります。
ただ、山田線を引き受けるとなれば、新たに従業員の確保や車両の調達、駅の整備などの多額の準備資金が必要です。そこで沿線自治体は2018年12月、再び鉄道事業再構築事業を活用して「三陸鉄道沿線地域等公共交通網形成計画」を策定。翌月には、一体的な運営により経営改善が見込まれるなどの点で国の認定を受け、準備資金を調達します。
三陸鉄道のこれまでの取り組み
三陸鉄道の利用促進策として、以下のような取り組みを実施しています。
- 団体利用・列車貸切利用
- 企画きっぷなどの運賃補助
- イベント列車の運行(こたつ列車、お座敷列車、お絵かき列車など)
- 企画乗車券の販売(全線フリーきっぷ、きたいわてぐるっとパス、通院回数券など)
- 「新・マイレール30万人運動」の実施
- 地元団体と連携した観光ガイドの派遣
- SNSやアプリ、ファンクラブ等を活用した応援企画の実施
- パークアンドライド
- JR山田線(宮古~釜石間)の移管にともなう駅前整備・新駅の設置
…など
沿線住民にマイレール意識を醸成できたことも、三陸鉄道の存続につながっています。その象徴となる取り組みが、「新・マイレール30万人運動」でしょう。企画乗車券やグッズの販売、イベントでのPRなど、各地自治体で利用促進キャンペーンを積極的に実施しています。
また、リアス線(旧・JR山田線)が移管されたことで、2019年度の乗車人員は定期客が前年比171.7%、定期外も155.0%と増加。全体の利用者は90万人を超え(2018年度は約55万人)、大幅に増えました。八木沢駅や宮古短大駅といった新駅開業や、織笠駅を高校や病院の近くに移設するといった施策も功を奏しているようです。
出典:三陸鉄道「第39期 事業報告」
とはいえ、支出も大幅に増えたため、赤字額は4億円を超えています(2019年度)。上下分離方式を採用したことで鉄道事業者の負担は軽減できているものの、自治体の負担は重くなっています。沿線住民をはじめ岩手県民に、三陸鉄道の存在意義をどのように伝えていくかが今後のポイントになってくるでしょう。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。
参考URL
鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html
第39期 決算公告(三陸鉄道)
https://www.sanrikutetsudou.com/wp-content/themes/santetsu/img/report/39jigyou.pdf
岩手県三陸鉄道強化促進協議会(岩手県)
https://www.pref.iwate.jp/kendozukuri/koutsuu/koukyou/1005390.html
三陸鉄道沿線地域等公共交通網形成計画
https://www.city.miyako.iwate.jp/data/open/cnt/3/9152/1/sanntetsumoukeiseikeikaku.pdf
特定地方交通線における経営形態の転換と現状(交通観光研究室)
【リンク切れ】http://www.osaka-sandai.ac.jp/file/rs/research/archive/12/12-15.pdf