【松浦鉄道】一部線区の廃止も検討…全線存続できるか?

松浦鉄道の大学駅 三セク・公営

松浦鉄道は、佐賀県の有田から伊万里や松浦など北松浦半島をめぐり、長崎県の佐世保に至る第三セクター鉄道です。

国鉄およびJR九州の松浦線を継承して1988年に誕生した松浦鉄道は、開業当初は利用促進策が成功して黒字経営でした。しかし近年は赤字が続いており、沿線自治体の支援を受けながら運営を続けています。これまでの支援内容や、一部線区の廃止が検討された経緯など、沿線自治体の動きをまとめました。

松浦鉄道の線区データ

協議対象の区間西九州線 有田~佐世保(93.8km)
輸送密度(1988年→2019年)1,166→804
増減率-31%
赤字額(2024年)1億7,940万円
※輸送密度および増減率は、松浦鉄道が発足した1988年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、2024年度の経常利益を掲載しています。

協議会参加団体

伊万里市、有田町、松浦市、佐世保市、平戸市、佐々町、佐賀県、長崎県

松浦鉄道と沿線自治体

積極的な投資が仇になった松浦鉄道

開業当初の松浦鉄道は民間主導型の経営で、利用促進策に積極的な投資を進めていました。たとえば、運行本数を開業時の87本から2000年には172本に増発。さらに、25もの新駅を設置し、利便性を高めます。

こうした施策で、利用者数は大きく増加。移管前(1987年度)の年間281万人から、1996年度には443万人に増えたのです。経営状況も、1993年度から8期連続で黒字を達成。三セク鉄道の成功例として、注目を集めました。

ところが2000年代に入ると、陰りが見え始めます。沿線にあった20校あまりの高校・大学に通う通学定期客が、少子化により減少。くわえてモータリゼーションの進展で、観光利用などの定期外客は車にシフトしていきます。こうした外的要因により2010年度の利用者数は年間290万人に減少。国鉄末期と同等にまで減ってしまったのです。

経営状況も、2001年度に赤字へ転落。増発や新駅設置などへの投資で内部留保が少なかった松浦鉄道は、施設や車両の更新費用を確保できないという窮地に立たされます。

■松浦鉄道の年間輸送人員の推移(単位:万人)

参考:松浦鉄道のIR資料にもとづき筆者作成

安全対策などに50億円超を支援

こうした状況に松浦鉄道は、2004年に経営改善計画を策定。これをもとに、沿線自治体が組織する松浦鉄道自治体連絡協議会では、松浦鉄道に対する財政支援の検討が始まります。

具体的な支援として、国の制度(鉄道軌道近代化設備整備費補助)を活用し、老朽化した鉄道施設の整備更新などの安全対策を実施します。

さらに、松浦鉄道再生支援協議会を2005年に設置して「松浦鉄道再生計画」を策定。新型車両の購入による快速列車運行をはじめ、利用促進策を計画します。なお、松浦鉄道再生支援協議会はその後、国の補助率が引き上げられる法定協議会(松浦鉄道沿線地域公共交通活性化協議会)に移行。これにより、パークアンドライドの設置やハウステンボス駅(JR九州)までの直通運行など、多額の事業費が必要な施策も実現します。

これらの事業に要した費用は、2004年度から2013年度までの10年間で総額約34億円です。このうち自治体負担額は、約23億円でした。

2014年度以降も、松浦鉄道に対する支援を継続。老朽化した施設更新などの費用として、2014年度からの10年間で総額23億円(うち自治体負担は15億8,000万円)を支援しています。

松浦鉄道のこれまでの取り組み

安全対策にくわえ利用促進の強化により、松浦鉄道の利用者数は2011年度からわずかながら増加に転じ、2013年度には約293万人に持ち直します。

ここで、松浦鉄道と沿線自治体が実施してきた利用促進の主な取り組みを紹介します。

  • 快速列車の運行
  • パークアンドライドの設置(佐々駅、江迎鹿町駅、上相浦駅など)
  • 駅周辺の再開発(伊万里有田共立病院の移転など)
  • ハウステンボス駅への直通運転
  • イベントの実施(健康ウォーキング、お客様感謝デーなど)
  • レンタサイクル事業
  • 共通乗車券の導入(長崎スマートカードなど)
  • 名誉駅長の導入
  • マイレールフォト&絵画コンテスト
  • デジタル1日乗車券の販売

…など

2007年には新型車両の導入にあわせて、朝の通勤通学時間帯に快速列車を増発。これにより運行初年度の通勤定期収入は、対前年比で106.2%に増加したそうです。

パークアンドライドも好調のようです。2025年現在で7駅に設置。一部の有料駐車場では、定期利用者に対して駐車料金の割引サービスを実施しています。

このほか、病院などの公共施設を駅近くに移設したり、企画きっぷやバス共通乗車券を導入したりと、沿線住民向けにさまざまな利用促進策を展開しています。

有田や平戸といった観光名所も多い松浦鉄道。これらを活用した観光誘客にも注力しています。たびら平戸口駅では「日本最西端の鉄道駅」の訪問証明書を発行したり、レンタサイクル(ナビ付電動自転車)を設置したりと、観光客を呼び込む施策を展開しています。

ただ、最寄駅から観光施設へのアクセスが悪く、観光客の利用は限定的です。ハウステンボスの客を松浦鉄道に促そうと始めたJR九州との直通運転も、利用者数が伸び悩んで2020年に廃止。また、西九州自動車道の延伸により観光客の多くがバスやマイカーに流れ、松浦鉄道を使った誘客は苦戦しているようです。

上下分離方式や一部線区の廃止を自治体が検討した理由

松浦鉄道のメイン顧客は、通勤通学の定期客です。なかでも通学定期客は全体の半分以上を占めますが、少子化の影響で右肩下がりに減少。全体の利用者数にも、大きな影響を与えています。

一方で、松浦鉄道に対する自治体の補助金は年々増加傾向にあり、その額は2億円前後になります。沿線地域は人口減少が進み税収も減るなかで、自治体負担は増すばかりです。

■松浦鉄道に対する補助金の推移(単位:万円)

▲新型コロナ関連の補助金は除く。
参考:松浦鉄道の決算公告をもとに筆者作成。

2020年には、新型コロナウイルスの感染拡大が松浦鉄道の経営に大打撃を与えます。沿線自治体は特別支援として、2020年度は1億3,140万円、2021年度は1億2,340万円を、上記の支援額とは別に補助しています。また2022年には、燃料費や人件費などの高騰を含め、約9,300万円を支援しました。

こうした状況が今後も続くことに危機感を抱いた沿線自治体は、松浦鉄道自治体連絡協議会のなかに鉄道の「あり方」について検討する幹事会を2022年に設置。経営改善策を含め、コンサルタント会社に調査を委託します。

コンサルタント会社は、2024年に調査結果を報告。このなかで、松浦鉄道の今後10年間の赤字額と経営改善策が示されました。10年間の赤字額は、約13億円と試算。また経営改善に向けての施策には、運賃改定だけでなく「上下分離方式の検討」や「利用者の少ない線区のバス転換」も提言。これを受けて幹事会では、早急に対応策を検討することになりました。

ちなみに、上下分離方式を導入した際の自治体負担額は、10年間で12億円以上と見積もられました。またバス転換の線区は、松浦鉄道のなかでもっとも利用者数が少ない「伊万里~江迎鹿町」とされています。

そして2025年8月22日に開かれた協議会の総会。ここで幹事会の検討結果が報告されます。これをもとに、沿線自治体が議論。その結果、「当面、全線維持する」ことで一致し、コンサルタント会社の提案を見送ったのです。

沿線自治体が提案を見送った理由として、2024年10月に実施した運賃改定で収支が改善していることが挙げられました。このペースでいけば補助金を抑えられ、上下分離方式に移行するより負担が軽くなると自治体は判断したようです。

なお、伊万里~江迎鹿町のバス転換については、通学需要が大きなネックに。利用者が少ないとはいえ、10人以上のバス運転士が必要だとわかり、ドライバー不足が深刻化する現状では「現実的ではない」と判断されました。

こうした理由から沿線自治体は、従来の支援の継続を確認。松浦鉄道の全線存続が決まりました。

とはいえ、松浦鉄道の経営環境は厳しさを増しています。協議会では一部の自治体が「県がスクールバスを用意するなど、あらゆる交通施策を模索していく必要がある」「各自治体の観光振興で鉄道をしっかり位置付ける必要がある」など鉄道の存続や活用に懐疑的な声も聞かれ、予断の許さない状況は続いています。

自治体も財政状況が逼迫するなかで、松浦鉄道を地域活性化にどのように結びつけられるかが、今後の焦点になりそうです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【九州】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
九州地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

佐世保市(長崎県)・伊万里市(佐賀県)ほか:松浦鉄道 第3セクター鉄道の自助努力と地域支援(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/pdf/094_sasebo_imari.pdf

松浦鉄道株式会社の経営概況と事業戦略について(長崎県立大学学術リポジトリ)
https://reposit.sun.ac.jp/dspace/bitstream/10561/1216/1/v49n4p123_ezaki.pdf

松浦鉄道沿線地域公共交通活性化協議会(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/000049113.pdf

松浦鉄道の今後の在り方「当面、現状の路線を維持する」 バス代替や上下分離を見送り(長崎新聞 2025年8月24日)
https://www.nagasaki-np.co.jp/kijis/?kijiid=07a2a622daf84e4fa717619fae8bdf5c

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