【わたらせ渓谷鉄道】マイレール意識だけでは残せない?「わ鐵」を支える官民の取り組み

わたらせ渓谷鉄道の大間々駅 三セク

わたらせ渓谷鉄道は、群馬県の桐生と栃木県の間藤をつなぐ約44kmの第三セクター鉄道です。社名の通り、渡良瀬川に沿って山間を蛇行しながら走るローカル線で、自然を身近に感じるとして観光客に人気のある路線でもあります。

沿線自治体では、「わたらせ渓谷鉄道連絡協議会」を設置し、観光誘客をはじめ利用促進への取り組みをおこなっています。協議会の設置経緯や取り組みについて紹介しましょう。

わたらせ渓谷鉄道の線区データ

協議対象の区間わたらせ渓谷線 桐生~間藤(44.1km)
輸送密度(1989年→2019年)828→375
増減率-55%
赤字額(2019年)1億6,274万円
※輸送密度および増減率は、わたらせ渓谷鉄道が発足した1989年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

桐生市、みどり市、日光市、わたらせ渓谷鉄道

わたらせ渓谷鉄道と沿線自治体

わたらせ渓谷鉄道連絡協議会の設置までの経緯

わたらせ渓谷鉄道の前身は、国鉄足尾線です。国鉄末期、沿線自治体は特定地方交通線に指定された足尾線の廃止を防ごうと、「国鉄足尾線存続期成同盟会」を結成。駅前に無料駐車場を設置したりフィーダーバスを運行したりと、利用促進に関するさまざまな取り組みをおこなってきました。

その結果、バス転換の除外条件のひとつ「ピーク時の乗客が一方向1時間あたり1,000人を超える」を満たすまでに利用者が増加します。これにより足尾線はJR東日本が継承し、2年間の運行継続が決定しました。

とはいえ、利用者が減れば2年後に再び廃止議論が持ち上がるかもしれません。そこで沿線自治体は、足尾線を守るために第三セクターへの転換を決断。1989年に、JR東日本から継承した「わたらせ渓谷鉄道」が開業します。開業にあわせて、沿線自治体が組織した期成同盟会を「わたらせ渓谷鉄道連絡協議会」に変更。現在に至ります。

マイレール意識だけで鉄道は残せない?

国鉄末期におこなった存続運動は、沿線住民のマイレール意識を高める契機にもなりました。年間60万人程度だった利用客数は、わたらせ渓谷鉄道に移行した初年度には約94万人にまで増加。その後も増え続け、1994年には106万人を超えます。

しかし、1995年からは再び減少に転じます。少子化・過疎化・モータリゼーションの進展にくわえ、沿線住民のマイレール意識の低下も減少の一因とされました。

このころから、わたらせ渓谷鉄道は観光利用を意識した施策へとシフトしていきます。1998年にはトロッコ列車の運行を、また2001年にはお座敷列車の運行を開始します。ただ、利用者の減少には歯止めがかからず、2003年には約69万人にまで減少してしまったのです。

わたらせ渓谷鉄道連絡協議会では、さらなる利用促進に関するアイデアを検討します。2005年には、家族4人まで使える年間フリーパスの乗車券「わたらせ夢切符」を販売しますが、想定の5分1にあたる約4,000枚しか売れず、わずか1年で発売中止になります。

協議会が知恵を絞るなか、沿線住民も「マイレール意識を高めよう」と動き始めます。2006年には市民活動団体として「わたらせ渓谷鉄道市民協議会」が設立。この組織は、イベントの企画や観光客への案内、美化活動などを通じて、わたらせ渓谷鉄道を応援しようという団体です。

自治体の協議会と沿線住民による協議会。双方が連携して、官民一体の「わたらせ渓谷鉄道の再生」に向けた取り組みが始まったのです。

わたらせ渓谷鉄道のこれまでの取り組み

わたらせ渓谷鉄道や各協議会が取り組んでいる利用促進策の一部を紹介します。

  • 観光列車(トロッコ列車)の導入
  • 地元の子どもたちが参加する清掃活動(ピカピカ大作成)
  • 各種イベントの実施(スタンプラリー、イルミネーションツアーなど)
  • 旧型車両の復元・展示
  • 散策マップ等の作成
  • ボランティア駅長(ふるさと駅長)による駅周辺の活性化
  • 行政主催の沿線観光キャラバン
  • レストラン・駅弁事業

…など

沿線住民が積極的に取り組みをサポートしている点が、わたらせ渓谷鉄道の特徴です。

市民協議会では、沿線イベントに鉄道で訪れる観光客の案内や誘導に協力したり、トロッコ列車の清掃イベント「ピカピカ大作戦」を実施したり、全駅イルミネーション点灯事業に協力したりと、さまざまな事業に協力しています。また、「ふるさと駅長」というボランティア駅長も、観光客の案内や駅の清掃・美化活動に取り組んでいます。

レストラン・駅弁事業も、利用促進に一助となっています。この事業では、神戸駅の構内で列車レストラン「清流」を運営するほか、地産地消にこだわった駅弁の販売もおこなっています。なかでも駅弁は、東京都内の百貨店の催事にも出店。テレビなどのメディアで取り上げられたこともあり、催事中の1週間で5,400個も販売しました(2010年京王百貨店「有名駅弁と全国うまいもの大会」にて)。

さらに、駅弁を求めて観光客が増え、2012年の冬季には乗降客が12%も増加したそうです。関連事業による効果で利用者の増加につながるのは、第三セクターでは珍しいことでしょう。

群馬県が新たな協議会を設置

沿線自治体や住民が中心となり、さまざまな取り組みで支援するものの、わたらせ渓谷鉄道の経営は決して安泰とはいえません。利用者数は減り続け、コロナ禍前の2017年には年間40万人を割り込んでいます。沿線地域は少子化・過疎化が進んでいるため、定期利用客の増加は見込めません。

■近年の利用状況(単位:千人)

▲直近10年の利用者数の推移。コロナ禍前は、観光客などの定期外客は横ばいだが、通勤通学定期客は減少傾向。全体としては右肩下がりになっている。
参考:群馬県「【わ鐵】第2回協議会資料」をもとに筆者作成

一方で、わたらせ渓谷鉄道の経費は増加傾向にあり、とくに車両や線路などの維持管理費が増え続けています。沿線自治体は、わたらせ渓谷鉄道に対して年間3億円前後の支援を続けていますが、今後は構造物の補修などに毎年1億円前後の設備投資が見込まれており、支援額はさらに増える見込みです。

■わたらせ渓谷鉄道の鉄道事業費の推移(単位:百万円)

▲わたらせ渓谷鉄道の経費の推移。2017年以降は、PC枕木化や車両更新などを自治体からの支援を得ながらおこなったため急増している。
参考:群馬県「【わ鐵】第2回協議会資料」をもとに筆者作成

こうした実情に群馬県では、わたらせ渓谷鉄道に対する支援の見直しや地域公共交通の再構築を目的とした「沿線地域交通リ・デザイン推進協議会」という新たな組織を、2023年に設置しました。この協議会は、地域公共交通活性化再生法にもとづく法定協議会で、地域公共交通計画を策定して国に認められると、設備投資や維持管理費などに対する国の支援が受けられます。

群馬県では、この協議会の構成メンバーに対して「データにもとづいた議論」をおこなうよう求めています。たとえば、トロッコ列車などを利用した観光客にアンケート調査を実施したり、住民アンケートやクロスセクター効果などをおこなったりして、その結果をもとに議論を進めていく方針です。

ちなみに、わたらせ渓谷鉄道の利用者の約6割が観光客などの定期外客です。なかでもトロッコ列車は人気で、整理券収入が年間2,000万円前後と、大きな収入源になっています。沿線地域には年間700万人もの観光客が訪れますから、ひとりでも多くの観光客に乗ってもらえるような施策を実施することも、鉄道の存続につながるでしょう。

リ・デザイン推進協議会は、わたらせ渓谷鉄道のほか上毛電鉄と上信電鉄でも進めています。いずれの協議会も、2024年度中に地域公共交通計画を策定する予定です。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【関東】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
関東地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

地域鉄道の再生・活性化モデル事業の検討調査
https://www.mlit.go.jp/common/001064373.pdf

わたらせ渓谷鐵道とその沿線地域の変遷にみる諸問題と考察(高崎経済大学論集)
http://www1.tcue.ac.jp/home1/k-gakkai/ronsyuu/ronsyuukeisai/51_3.1/oshima.pdf

わたらせ渓谷鉄道市民協議会(みどり市)
https://www.city.midori.gunma.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/192/1003192_062.pdf

わ鐵を支える人々(わたらせ渓谷鉄道)
https://www.watetsu.com/sightseeing/supporter.php

群馬県地域鉄道のあり方検討
https://www.pref.gunma.jp/page/208828.html

タイトルとURLをコピーしました