【NEWS】北陸新幹線の延伸ルート再検証へ – 米原ルート再燃で困惑する県も

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【2025年7月29日】北陸新幹線の与党整備委員会で委員長を務める西田参院議員は、敦賀以西の延伸ルートについて再検証する考えを示しました。

延伸ルートは2016年に、「小浜・舞鶴・京都ルート」「小浜・京都ルート」「米原ルート」の3案から、「小浜・京都ルート」が決定しています。しかし、投資効果などの点で整備新幹線の着工条件を満たさない可能性があることや、京都駅の地下化をめぐり地元住民が反対するなど、事業化が決まらない状況が続いています。

また、2025年7月20日の参議院選挙で、延伸ルートの再検証を求める新人候補者が京都府選挙区でトップ当選。与党整備委員長の西田氏は次点で当選するものの、14万票もの差をつけられました。

こうした状況から、西田氏は「もう一度検証する必要がある」と方針転換を表明。再検証の結果、米原ルートが優位とされた場合は「米原ルートに賛同する」とも伝えています。今後、与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームで3案の費用対効果などを再試算し、改めてルートを決める模様です。

【解説】「民意」は北陸新幹線の計画を変えられるのか?

北陸新幹線の延伸ルートは、2016年に与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームが「小浜・京都ルート」に決めています。その後、京都府や石川県など一部の沿線自治体が米原ルートの再考を求めますが、「一度決まったことだから」と、国はこれまで再検証を認めませんでした。

それが急転したのが、2025年7月20日の参議院選挙です。日本維新の会(以下「維新」)が京都選挙区のマニフェストで、米原ルートの再検証を提案。「費用対効果を再試算して府民に選んでいただける状態を作りたい」と、地下水問題に揺れる京都府の有権者に訴えかけます。

その結果、維新の新人議員が約33万票を獲得してトップ当選。自民党の西田氏は約19万票で、次点でした。これが、京都の民意は「小浜・京都ルートにNOを突きつけた」と捉えられたのです。

もっとも、維新のマニフェストには新幹線以外にも公約を掲げていますし、有権者も小浜・京都ルートに反対している人ばかりではありません。ただ、西田氏は短工期・低コストなどを理由に米原ルートの再検証を促す維新の主張に対して「参議院選挙での野党の主張が本当に正しいのか、明らかにしたい」と自身のYouTubeチャンネルなどで話しており、プロジェクトチームに再検証を依頼したことも伝えています。

大阪府が「米原ルート再検証」に方針転換

参議院選挙の結果を受け、維新の代表でもある大阪府の吉村知事は2025年7月22日の記者会見で「知事の立場としても、どのルートが本当に適切なのか判断すべきだと思っている」と語り、再検証の必要性を訴えています。

大阪府はこれまで、小浜・京都ルートに対して異論を唱えることはありませんでした。それが一転したのは2024年8月に、国土交通省が延伸ルートの工期と工費を公表したときだったようです。小浜・京都ルートに決定した2016年には、工期は15年、建築費は2兆1,000億円と見積もられました。それが、働き方改革や資材高騰などの影響もあり、2024年の試算結果では工期が25~28年、工費は3兆4,000億~5兆3,000億円と大きく上振れしたのです。

さらに、2025年7月の参議院選挙で自身の党の候補者が「米原ルートの再検証」を訴えてトップ当選したことから、吉村氏は小浜・京都ルートを疑問視。京都の民意を反映するうえでも、「米原ルートを比較検討したうえで判断したほうがよい」「与党だけでなく超党派で議論を深め、進めるべきだと思う」という見解を明らかにしています。

また、京都府の西脇知事は7月25日の記者会見で、選挙の結果が北陸新幹線をめぐる府民の考えを反映したとはいえないとしながらも、「国や鉄道・運輸機構は、選挙で出た民意を総合的に勘案してもらいたい」と、小浜・京都ルートの見直しに含みを持たせた発言をしています。

大阪府も京都府も、ルートによっては利害関係者になります。新線を建設する小浜・京都ルートの場合、両府にも建築費の負担が求められますが、米原ルートであれば建設費を負担せずに済むでしょう。ただし、北陸新幹線は東海道新幹線に乗り入れできないため、米原での乗り換えが必要です。このため米原ルートだと、近畿・北陸地方の地域に与える便益の低下が懸念されます。

米原ルート再燃で困惑するJR西日本と滋賀県

大阪府や京都府が米原ルートの再検証を求めるなかで、運行事業者となるJR西日本の倉坂社長は「選挙の結果は民意だが、整備新幹線との関係性は言及しかねる」と、7月23日の定例記者会見で話しています。

JR西日本としては、集客が望める京都に北陸新幹線の駅を作るのが絶対条件でしょう。とはいえ、米原ルートだと金沢方面に直通できなくなります。北陸新幹線と東海道新幹線は、運行管理システムや脱線・逸脱防止設備の違いなどにより、乗り入れができません。技術的には可能でも全車両の改修も必要なため、莫大な費用がかかります。

この費用に関して、法律(全国新幹線鉄道整備法)で定めた新幹線の大規模改修で使える「新幹線鉄道大規模改修引当金」を適用することも考えられます。ただ、この引当金は橋梁やトンネル改修といった土木関係に使うのが主で、システムや車両などの改修には適用されないとみられます。

つまり、北陸新幹線と東海道新幹線を相互乗り入れするには、JR西日本・JR東日本・JR東海が自腹を切って改修するしかありません。「国の事業のために、なぜ多額の負担をしなければならないのか」と、株主も含めて反対の声が挙がるのは必至でしょう。

現時点でのJR西日本は、どのような決着になるかを「静観」するしかないのです。

一方で、米原ルート再燃に困惑する県もあります。そのひとつが、滋賀県です。滋賀県の三日月知事は7月29日の記者会見で、参議院選挙の結果は民意として受け止める必要があるとしながらも「求めていないことを押しつけられるのは好ましくない」「財政の問題もある。国は米原ルートを望む方々に丁寧に説明する必要がある」と述べています。

仮に米原ルートに決定した場合、滋賀県にも建設費負担が生じます。ただ、県内に新駅が誕生する予定もなく、便益もそれほどないため、「米原とつなぎたいから建設費を出して」といわれても地元の賛同は得にくいでしょう。

くわえて、米原以北の北陸本線が並行在来線として経営分離される可能性もあります。これについて米原市の角田市長は、同日の記者会見で「現行の並行在来線のしくみが変われば別だが、北陸本線や湖西線は地元の貴重な移動手段だ」と述べ、地元負担の増加を懸念しています。

さまざまな課題がある北陸新幹線の延伸ルート。早期着工・実現をめざす点では、いずれの沿線自治体も共通認識ですが、強引に進めると西九州新幹線の佐賀県と同じ状況になる可能性があります。再検証に際して、国には沿線自治体に寄り添いながら丁寧な説明と議論をしていくことが求められます。

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参考URL

北陸新幹線(敦賀・新大阪間)に関するご説明資料(国土交通省)
https://www.jrtt.go.jp/project/turuhannrennrakukaigi08.pdf

全国新幹線鉄道整備法
https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC1000000071#Mp-Ch_3

全国新幹線鉄道整備法第16条第1項の規定に基づく新幹線鉄道大規模改修引当金積立計画の承認について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001125106.pdf

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