週刊!鉄道協議会ニュース【2024年8月4日~8月10日】

北陸新幹線の駅が建設される京都駅 協議会ニュース

今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、北陸新幹線の未整備区間について国土交通省が詳細ルート案を提示した話や、南海トラフ地震臨時情報にともなう鉄道への影響など、さまざまなニュースを取り上げます。

北陸新幹線未整備区間の建設費は5兆円超?石川県などが反発

【2024年8月7日】与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームは、北陸新幹線の未整備区間(敦賀~新大阪)を検討する委員会を開催しました。このなかで国土交通省が、新駅の位置を含めた詳細ルートを提示。工期や建設費の試算結果も示しています。

京都駅の位置について国土交通省は、駅の地下を南北に通る「南北案」、同じく地下を東西に通る「東西案」、JR桂川駅付近の地下に新駅を作る「桂川駅案」の3案を提示。それぞれの案で、工期と建設費が異なります。

営業キロ工期建設費
南北案144km25年3.9~5.2兆円
東西案146km28年3.7~5.3兆円
桂川駅案139km26年3.4~4.8兆円
▲建設費は今後の物価上昇により変動するとして、幅を持たせて試算している。

いずれの案も、2016年の試算(工期15年、建設費2.1兆円)を大きく上回り、費用対効果が「1」を下回る可能性があります。なお、委員会では新たな試算結果による費用対効果の提示を見送りました。プロジェクトチーム委員長の西田参院議員は、「一日も早い全線開業をめざして、駅の位置の絞り込みなどを議論したい」と述べ、2025年度の認可・着工の考えを示しています。

一方で、石川県の馳知事は定例記者会見で「着工5条件をクリアしているのかという詳細データが示されていない」と述べ、財源見通しなどの条件を満たさない可能性がある点を指摘。国に詳しい説明を求めています。

【解説】北陸新幹線のルート案に石川県が反論する理由

整備新幹線を着工するには、国土交通省が定める「5つの基本条件(着工5条件)」をクリアしなければなりません。

■整備新幹線の着工5条件

1.安定的な財源見通しの確保
2.収支採算性
3.投資効果
4.営業主体であるJRの同意
5.並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意

出典:国土交通省「整備新幹線着工に当たっての基本条件の確認等」

このうち、石川県の馳知事が指摘したのは「1.安定的な財源見通しの確保」と「3.投資効果」です。

今回、国土交通省が示した建設費の試算結果だと、未整備区間がある福井県や京都府などが「安定的な財源を確保できない」として、事業費を負担できなくなる可能性があります。また投資効果も、新幹線がいくら地域に便益をもたらすといっても、その便益より事業費のほうが高いと判断されると、整備新幹線は着工できません。

つまり、今回示された試算結果だと「北陸新幹線が全線開業できない可能性がある」として、馳知事は反発したと考えられます。

ただ、石川県には未整備区間がありません。該当線区から遠く離れた石川県は、なぜ反発したのでしょうか。その理由のひとつに、「米原ルートのほうが早く全線開業できる」と考えているからでしょう。

北陸新幹線の未整備区間のルートは当初、「小浜・舞鶴・京都ルート」「小浜・京都ルート」「米原ルート」の3案が検討されていました。このうち、小浜・舞鶴・京都ルートは「遠回りになり所要時間が増えること」、また米原ルートは「東海道新幹線への乗り入れが技術的な理由などで難しく、米原駅で乗り換えが生じること」といった理由で外され、2016年に「小浜・京都ルート」が決定します。

しかし、小浜・京都ルートも難工事が予測され、とくに京都駅付近では地下水脈への影響や建設残土処理などの問題で、環境影響評価(環境アセスメント)すら始められない状況が続いていました。

こうしたなかで、一日でも早い全線開業を望む沿線自治体などから「米原ルートのほうがよいのでは?」という声が出てきます。米原ルートは建設する距離が短く、工期は小浜・京都ルートの3分の2程度とされました。

石川県では、2024年7月の県議会で米原ルートの再考を求める決議案を可決。さらに、小松市や加賀市、能美市の議会でも可決されています。これらの都市は、2024年3月の北陸新幹線の延伸開業により、京都・大阪に行くには「敦賀で乗り換えが必要」になりました。

沿線自治体からみれば、関西へのアクセスが不便になっただけでなく、新幹線開業による経済波及効果が最大化できない状況でもあるわけです。しかも、こうした状況が今後25年以上も続きます。「そんなに待っていられるか」と考える石川県などが着目したのが、「米原ルートの再検討」です。

とはいえ、米原ルートでも東海道新幹線に乗り入れできなければ、乗り換えが発生します。現状、東海道新幹線と北陸新幹線は運行管理システムが異なるため、直通するにはシステムや全車両の改修が必要です。その費用を誰が出すのか、という問題も出てくるでしょう。

どのルート案にも、誰かにメリットがあれば誰かがデメリットを被ります。国も沿線自治体も、どこかで妥協しなければ前に進めません。仮に米原ルートの再検討を求めるなら、石川県などが「小浜・京都ルートを上回るメリットがある」「国や他の沿線自治体、JRなどが被るデメリットを抑えられる」といったことを、さまざまな観点から示す必要があるでしょう。

その他の鉄道協議会ニュース

南海トラフ地震臨時情報を受けた鉄道各社の対応まとめ

【2024年8月8日】気象庁は、宮崎県沖で発生した地震を受けて「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表しました。この発表に鉄道各社では、新幹線や特急を中心に計画運休などの対応を公表しています。お盆の帰省ラッシュ時期とも重なりますので、ご利用になる方は最新の情報を確認しながら行動されることをおすすめします。8月10日現在の鉄道各社の対応は、以下の通りです。

●JR東海
東海道新幹線は、8月9日から1週間程度、三島~三河安城で最高時速を230kmに減速して運転します。これにより、到着時間が10分以上遅れる見込みです。在来線特急では、東京と高松・出雲市を結ぶ特急「サンライズ瀬戸・出雲」が、8月9日から1週間程度の運休。紀勢本線の名古屋~新宮・紀伊勝浦を走る特急「南紀」と、飯田線の特急「伊那路」も、8月9日から1週間程度運休すると発表しています。

●JR西日本
8月9日から当面のあいだ、京都・新大阪と新宮を結ぶ特急「くろしお」は、和歌山止まりで運行されます。また、紀勢本線の御坊~新宮では、徐行運転を実施。特急「南紀」は運休です。

●JR東日本
8月8日から当面のあいだ、東海道本線の大磯~熱海、伊東線の熱海~伊東、中央本線の大月~茅野で減速運転を実施します。この影響で、東海道本線に乗り入れる湘南新宿ラインや上野東京ラインを含め、遅延や運休が発生するとしています。

●JR四国
8月9日から当面のあいだ、牟岐線の由岐~阿波海南と、土讃線の吾桑~土佐久礼で徐行運転を実施します。この影響で一部の列車に遅れの発生や、所定の乗り換えができない場合があります。また、土佐山田~高知~窪川の一部列車が運休します。

●小田急
8月9日から当面のあいだ、本厚木~小田原で減速運転を実施します。特急ロマンスカーは運行しますが、遅れや一部列車で運休が生じる見込みです。

●近鉄
8月9日から15日まで、五十鈴川~賢島を運転する特急列車の運転を取りやめます。このため、大阪難波~近鉄名古屋の名阪特急は、停車駅を増やして運転します。

今後の地震活動によっては、他の鉄道事業者でも遅れや運休が出る可能性があります。ご利用になる鉄道事業者のウェブサイトなどで、最新情報を確認してください。

阿武隈急行の存廃問題 – 宮城県は「秋までに方向性を提示」

【2024年8月5日】阿武隈急行線沿線地域公共交通協議会が開催され、沿線自治体が「鉄道のあり方」に関する意見を、初めて公表しました。

福島県の沿線自治体は、通勤通学の利用者が多いことから「鉄道の維持」で一致。一方の宮城県では、柴田町が「公共交通機関としての重要な役割はあるが、経常損失に対する自治体の負担割合は協議したい」と述べるに留まり、存廃の明言を避けました。また宮城県は、鉄道以外の交通モードに関する検討を進めていると伝え、「秋までに方向性を示したい」と、こちらも存廃の明言を避けています。

なお、この協議会では阿武隈急行の冨田社長が、累計損失額は14億6,000万円に達したことを明らかにし、「近く債務超過に陥る見通し」であることも伝えています。

※阿武隈急行が経営難に陥った理由や、沿線自治体の支援策などについて、以下のページで詳しく解説しています。

JR予土線の「運賃助成事業」 2024年度初の実施

【2024年8月8日】予土線利用促進対策協議会が利用促進の一環で設置した「遠足等への運賃助成事業」について、今年度初となる利用がありました。この制度は2018年から続いており、沿線の中学生以下が学校行事などで予土線を利用する際に、運賃の半額を自治体が補助しています。今回利用したのは宇和島市の小学生など約50人で、観光列車「しまんトロッコ」に乗車しました。

協議会は「若い世代の予土線ファンを増やしていきたい」と、制度の利用を呼び掛けています。

※予土線の利用促進策については、以下のページで詳しく解説しています。

JR山陰本線でイベント列車などの運行を協議会が決定

【2024年8月8日】JR山陰本線(下関―益田間)利用促進協議会は総会を開き、今年度の新規事業について協議しました。このなかで、サイクルトレインの試験導入を決めたほか、列車内でボディービルのコンテストを実施する、ユニークなイベント列車の運行も決定。鯨や焼き鳥など、たんぱく質の多い地元の名産品をアピールするのも狙いです。

ただ、山陰本線の下関~益田には輸送密度が200人/日程度の線区もあります。この状況にJR西日本は、利用促進のイベントも大事だと伝える一方で、「継続的な利用につながる仕組みづくりも、沿線自治体と一緒に考えたい」と述べています。

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