【NEWS】北勢線のあり方検討の調査報告が公表 – 赤字最小は「現状維持」

北勢線の車内 協議会ニュース

【2025年5月26日】北勢線事業運営協議会が開かれ、車両更新に端を発した三岐鉄道北勢線の「今後のあり方」に関する基礎調査の結果が公表されました。

調査報告では、「現状維持(現在の車両を更新)」「標準軌への改軌」「BRT(バス高速輸送システム)転換」の3つの方法が現実的な選択肢だと説明。それぞれの導入費用は、現状維持が約120億円、標準軌への改軌が約190億円、BRT転換が約270億円という結果になりました。また収支は、20年間の累積赤字を試算。現状維持は約150億円、標準軌への改軌は約190億円、BRT転換は約250億円の赤字と試算されています。

この結果を受けて協議会では、さらに詳しく検討したうえで1案に絞り込むとしています。

【解説】ナローゲージゆえに車両更新の問題が付きまとう北勢線

地方の中小私鉄が車両を更新するとき、大手私鉄などで使われていた中古車両を購入するのが一般的です。

しかし、三岐鉄道北勢線はレールの間隔が762mmのナローゲージ(特殊狭軌)。特殊な車両のため他社から譲り受けるのは難しく、基本的には自社で新車を製造することになります。これは、四日市あすなろう鉄道の内部・八王子線や、黒部峡谷鉄道のトロッコ電車といったナローゲージの路線でも同じ課題でしょう。

北勢線はもともと近鉄の路線でしたが、「車両更新に投資できない」ことを理由に、近鉄は廃止を提案。沿線自治体を介して、三岐鉄道に移管されました。その後、三岐鉄道は20年以上も近鉄から譲渡された車両を使い続けてきたのです。しかし、多くの車両が車齢30年以上になった現状では、更新から目を背けることはできません。三岐鉄道が保有する全24両の更新費用は「50億円以上」と、メーカーが見積っています(今回の報告書では約120億円)。

この費用を、どうするのか。車両更新の課題は、今後も付きまといます。そこで、沿線自治体などで構成される北勢線事業運営協議会は、ナローゲージの新車製造以外の方法を模索。改軌して中古電車やディーゼル車を導入したり、BRTやバスに転換したりと、さまざまな方法について議論することになりました。

議論した結果は、イニシャルコストやランニングコストを比較検討するため、外部のコンサルタント会社に調査を依頼。その結果が、2025年5月26日の協議会で示されたのです。

コンサルタント会社の検討経緯

基礎調査の結果は、北勢線事業運営協議会のホームページで公開されています。これをもとに、コンサルタント会社の検討経緯をみていきましょう。

■三岐鉄道北勢線の今後の在り方の検討に向けた基礎調査業務

【概要版】はこちら

詳細の【報告書】はこちら

まず、北勢線の利用状況について。沿線自治体の利用促進も功を奏し、利用者は増え続けています。輸送密度は2,886人/日。西桑名に近い線区では5,000人/日を超えます(2019年度)。これだけの人を運ぶのにバス転換は現実的な選択肢とはいえず、候補から外れたようです。なお、連節バスで一定の輸送力を確保できるBRTは、「増便を前提に」候補に残ります。

鉄道を残す場合は、「現状維持」または「改軌」という選択肢があります。このうち改軌については、「電化設備の撤去(ディーゼル車に転換)」「自動運転」「LRT」などが選択肢として挙げられました。

ただ、ディーゼル車の中古供給は少ないですし、電化設備の撤去工事が必要です。自動運転だと、踏切のある北勢線では特殊な免許を持つ係員が必要ですし、ホームや橋梁などの改修工事も必要です。LRTも低床車両の導入やホーム改築など、コストがかさみます。改軌するのであれば、一般的な車両を使える方法が妥当でしょう。

ちなみに狭軌ではなく標準軌にした理由について、「狭軌は工事規模が大きくなる」からだそうです。

現状維持がもっとも負担を抑えられるが…

こうして「現状維持(車両更新)」「標準軌への改軌」「BRT転換」という3つの方法を選び、それぞれの導入費用と20年間の収支(累積赤字)を試算。その結果は、導入費用・累積赤字ともに「現状維持」が、もっとも負担を抑えられると調査報告は伝えています。

ちなみに、ナローゲージの車両更新でも国の補助金が使えます。コンサルタント会社は、50億円の補助金が見込まれると試算。約120億円の導入費用(車両の更新費)を70億円に抑えられるとみています。

とはいえ、20年間の累積赤字は約150億円、単純計算で年間7億5,000万円の赤字です。三岐鉄道は沿線自治体の赤字補てんを条件に近鉄から北勢線を譲り受けたため、この額は自治体が負担しなければなりません。三岐鉄道への支援額は、2022年から2024年の3年間が10億円以上。年間で3億5,000万円前後ですから、今後倍増することになります。

今後の検討として、「一部線区の廃止」という選択肢があるかもしれません。ただ、この場合でも車両更新は必要ですし、廃止区間ではバスの確保や営業所の設置なども必要ですから、イニシャルコストはもっと増えるでしょう。

輸送量が多いためバス転換ができず、沿線地域の人口減少で財源の減少が見込まれるなかで、沿線自治体は北勢線を守り続けられるのか。自治体の判断に注目が集まります。

※北勢線が三岐鉄道に譲渡される経緯や、自治体支援の内容などは、以下の記事で詳しく解説しています。

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