【2026年4月28日】JR大糸線(糸魚川~南小谷)のあり方をめぐる本格的な検討会議が、動き始めました。この検討会議は、大糸線の沿線自治体などで構成される期成同盟会が2022年に設置した振興部会を継承。利用促進だけでなく、存続・廃止まで踏み込んだ「鉄道のあり方」議論を、有識者を交えて展開する予定です。
初会合では、大糸線の現状や沿線自治体による利用促進の取り組みなどが説明されました。会長に就任した流通経済大学の板谷教授は「存続・廃止を前提とした議論ではなく、客観的な評価軸で地域公共交通をどう刷新するか、建設的な議論を進めたい」と、会議後の会見で述べています。
検討会議は、2026年度末までに方向性を取りまとめる予定です。
【解説】3度目の正直なるか?JR西が求める「大糸線のあり方」議論とは
大糸線の沿線自治体が新たに設置したのは、「大糸線(糸魚川・南小谷間)沿線地域公共交通検討会議」という協議体です。構成メンバーは、沿線自治体の糸魚川市と小谷村、新潟県、長野県、JR西日本、そして有識者。オブザーバーとして、大町市、白馬村、JR東日本、国土交通省も参加します。
なお、この検討会議は「大糸線の将来の方向性をまとめる」ことを目的とした任意協議体です。検討会議の結果をもとに、既存の同盟会または新たに設置する法定協議会で存廃を含めた判断を下す流れになります。
「鉄道のあり方」議論を求め続けたJR西
検討会議の発起人は、JR西日本でした。ここにたどり着くまでに7年。JR西日本と沿線自治体の間には、大糸線のあり方議論の出口をめぐって深い溝があったのです。
両者の接点は、2019年2月に始まった「大糸線活性化協議会」が最初でした。この協議会は、沿線自治体の呼びかけで設置。利用者が減っている大糸線の現状を踏まえ、利用促進を検討するのが目的でした。しかし、利用促進をおこなっても大糸線の利用者数は増えません。協議会では「個々の施策が利用者増につながっているか」といった検証すらせず、漫然とした時間だけが過ぎていったのです。
こうした状況に不満を感じたJR西日本は、2021年12月に別の組織(大糸線利用促進輸送強化期成同盟会)に対して、新たな振興部会の設置を求めます。JR西日本としては「このまま鉄道として維持することが、地域にとって本当に最適なのか?」という、いわゆる「あり方」の議論をしたかったのです。
ところが、この振興部会でも利用促進の話に終始。JR西日本が求める議論ができません。しびれを切らしたJR西日本は、第4回振興部会(2023年5月9日開催)で「持続可能な交通体系に関する具体的な議論を始めたい」と訴えます。
その後、長野・新潟の両県とJR西日本が三者協議を実施。関係者が一丸となって「本格的な利用促進策・利便性向上」に取り組み、その結果を踏まえて鉄道のあり方の議論を始めることで合意します。平たく言うと、取り組みが失敗したらあり方の議論を始めることを約束したのです。
こうして2024年度から、本格的な利用促進策・利便性向上の取り組みが始まりますが、結果は芳しいものではありませんでした。もっとも、糸魚川~南小谷の輸送密度は増えましたが、それでも150人/日(2024年度)です。
この結果を踏まえ、第10回振興部会(2025年10月31日開催)でJR西日本は、あり方の議論を改めて要望。沿線自治体も承諾し、今回の検討会議の開催につながりました。
検討会議で話し合う「鉄道のあり方」議論とは?
では、JR西日本が求めてきた「鉄道のあり方」議論とは、どのような内容なのでしょうか。その答えは、2023年5月9日に開催した第4回振興部会で、すでに示されています。
持続可能な地域社会の実現に向け、線区の特性や移動ニーズを踏まえ、地域のまちづくりに合わせた、ご利用しやすい最適な地域交通体系を地域と共に模索・実現したいと考えています
出典:糸魚川市「第4回振興部会資料~大糸線沿線の活性化および持続可能な路線としての方策検討~」
あり方議論のゴールは、鉄道の存廃を決めることではありません。「持続可能な地域社会の実現」に適した地域交通体系を再構築するのが目的です。ここを見誤ると、JR西日本や国を叩くだけの不毛な議論になってしまいます。
持続可能な地域社会を実現するうえで、鉄道が必要だと訴える自治体は少なくありません。では、「鉄道をどれだけ活用してきたのか」「その活用法として実現可能かつ合理的な施策を地域で話し合ってきたのか」といわれると、大糸線を含めやってこなかった地域が大半でしょう。
こうした議論をしたうえで、地域の維持活性化に鉄道が必要という結論に至れば、JR西日本も存続に向けて協力するのです。
一方で、「線区の特性や移動ニーズ」に鉄道があっているかといわれたら、大糸線は合致しないかもしれません。運行本数が少なく利便性はよくないですし、駅前に家や目的地が少ないことも地域住民の移動ニーズに応えられず、利用者が減り続けた一因になっています。
利便性を高めるために増発したくても、糸魚川~南小谷の線区には列車の行き違いができる駅が限られます。何より、年間5億円以上の赤字を生み出す線区ですから、JR西日本からみれば増便や観光列車を走らせるといった投資がしづらい状況です。
これから始まる検討会議では、定期列車の増発や観光列車を走らせるといった案も話し合われるようです。ただ、糸魚川~南小谷の線区において、実現可能かつ合理的な施策とはいえないでしょう。
そもそも沿線住民や観光客の多くが鉄道を使わず、マイカーで移動しています。それは、列車の運行本数が少ないだけでなく、過度な車社会に合わせたまちづくりも一因でしょう。そのまちづくりを否定するわけではなく、「地域のまちづくりに合わせた公共交通」を構築することで、「ご利用しやすい最適な地域交通体系」を創造できるとJR西日本は考えているようです。
もちろん、駅を中心としたまちづくりを進めることにより、鉄道の存続につなげることも可能でしょう。ただ、そのためには自治体が多額の投資をしなければなりません。財政基盤の弱い大糸線の沿線自治体にとって、難度の高い施策です。
こうしたことを話し合うのが、JR西日本が求める「鉄道のあり方」議論であり、持続可能な地域社会の実現に求められる話し合いでもあります。
検討会議は、大糸線の将来を決める重要な場になります。地域とJR西日本の課題をひとつでも多く解決しながら、「最適な地域交通体系」を探ってほしいところです。
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参考URL
第1回大糸線(糸魚川・南小谷間)沿線地域公共交通検討会議を開催します(新潟県)
https://www.pref.niigata.lg.jp/site/koutsuseisaku/oitosen-kaigi-press.html
大糸線利用促進輸送強化期成同盟会「振興部会」(糸魚川市)
https://www.city.itoigawa.lg.jp/page/1598.html
大糸線における持続可能な方策の検討について
https://www.city.itoigawa.lg.jp/uploaded/attachment/17401.pdf
第4回振興部会資料~大糸線沿線の活性化および持続可能な路線としての方策検討~(糸魚川市)
https://www.city.itoigawa.lg.jp/uploaded/attachment/3187.pdf