今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、JR米坂線の復旧検討会議で沿線自治体が上下分離方式なども検討することを確認した話や、山梨県が富士山登山鉄道のLRT整備を断念しトラム型の新交通システムに転換した話題など、さまざまなニュースをお伝えします。
JR米坂線の復旧検討会議「上下分離や三セク移管」も検討へ
【2024年11月19日】JR米坂線復旧検討会議の4回目の会合が開かれ、沿線自治体は上下分離方式の導入や第三セクターへの移管についても検討する考えを初めて示しました。
会議ではJR東日本が米坂線の収支について説明。不通区間(今泉~坂町)の赤字額は約13億円にのぼることが伝えられます。また、代行バスの利用者も少ないことから、JR東日本は「被災前と同じように単独運営するのは非常に難しい」と主張。一案として、上下分離方式の導入を提案しました。
なお、上下分離方式を導入した場合、沿線自治体には年間で最大17億円ほどの負担が生じるとJR東日本は説明しています。これに対して沿線自治体は、第三セクターへの移管も含めて今後議論していくことで一致したようです。会議後の記者会見で、山形県の担当者は「JRだけに復旧・運営を求めても話が前に進まないのも事実。単独運営を求めつつも、上下分離や三セク移管の可能性を検討することも重要だ」と話しています。
【解説】JR東日本に歩み寄る米坂線の沿線自治体
JR東日本は、前回の検討会議(2024年5月29日)で、復旧後の運営方式に言及し、以下4つの案を提示しました。
(1)JR東日本の単独運営
(2)上下分離方式への移行
(3)第三セクターなどへの移管
(4)廃止・バス転換
この4案をそれぞれ議論し、最終的な復旧案を決めるとしたのです。ただ、沿線自治体からみれば(1)を求めるでしょう。実際に前回の検討会議でも、「被災前と同じくJRに運営してほしい」という声が挙がりました。
しかし、今回の検討会議で沿線自治体は(1)にこだわらず、(2)~(4)についても「自治体間で検討する必要がある」と主張。上下分離や三セク移管などの可能性も探ることが確認されます。
仮に(2)~(4)に決まると、沿線自治体には大きな負担が生じます。それをわかっていながら、なぜ上下分離や三セク移管の検討を認めたのでしょうか。これについて、上述の山形県の担当者が述べたように「JRだけに復旧・運営を求めても、話が前に進まない」というのも理由のひとつでしょう。
また、沿線自治体はこれまで米坂線の価値や必要性について研究し、ファクトとデータにもとづいた利用促進策を計画しています。その一環で、8月31日には「米坂線復活絆まつり」を実施。イベント参加者に「復旧させるという強い思いを持って取り組むことが一番重要」「みんなで知恵を出していく必要がある」などと、両県知事が呼びかけました。
こうした過程において、沿線自治体の当事者意識(マイレール意識)が高まったことも、上下分離などの検討を認めた一因になったと考えられます。
その一方で、赤字ローカル線に関する「要望」を国が受け入れることに期待する一面もあるようです。
検討会議前日の11月18日、全国知事会で国土交通・観光常任委員会の委員長を務める新潟県の花角知事は、国土交通大臣や総務大臣などに対して「特別要望」をおこなっています。要望では、上下分離や三セク移管などの事業構造を変更する場合、沿線自治体に対して国が財政支援するよう求めています。
公共交通ネットワークとして不可欠なJRをはじめとする鉄道路線を維持するために、やむを得ず地方自治体が鉄道施設を保有するなどの事業構造の変更を行い、路線の維持に新たな地方負担が生じる場合は、将来にわたって安定的に維持確保できるよう、路線の維持や運営に要する費用に対する財政支援を行うこと。
出典:全国知事会「全国の鉄道ネットワークのあり方及びローカル線の安定的な維持・確保に向けた特別要望」
花角知事は、11月20日の定例記者会見で「国がどう動くのかも注視しながら(米坂線復旧後の運営方式を)探っていく」と述べています。
もっとも国は、上下分離方式などを導入する自治体に対する補助金制度を用意しています。しかし、現状の制度では維持費をまかなえず、沿線自治体の大きな負担になっているのも事実です。とはいえ、米坂線の利用者数は減少の一途をたどり続けていますし、代行バスで十分に輸送できていることも事実です。
こうした状況に、沿線自治体は上下分離や三セク移管を受け入れる覚悟が本当にあるのか。今後の検討会議で自治体側の発言に注目したいところです。
※米坂線の災害復旧を検討するJR東日本と沿線自治体との会議の流れは、以下のページで詳しく解説しています。
その他の鉄道協議会ニュース
山梨県が富士山登山鉄道を断念 – 新交通「富士トラム」検討へ
【2024年11月18日】富士スバルラインにLRTを整備する「富士山登山鉄道構想」について、山梨県の長崎知事はLRTの整備を断念し、「ゴムタイヤで走る新交通システムに転換する」と発表しました。
富士山登山鉄道構想をめぐっては、沿線自治体などが周辺地域の大規模開発を懸念。また、安全性や採算性にも疑問を呈していました。こうした反対意見を受けて山梨県は、大がかりな開発が不要とされる「富士トラム(仮称)」という新交通システムの導入を検討。軌道などの整備費も大幅に削減できるうえ、無人走行も可能としています。
富士トラムの具体的な検討はこれからですが、将来的にはリニア新駅などと結ぶことも想定し、議論されるようです。
※富士山登山鉄道に沿線自治体などが反対する理由や、山梨県が方針転換した理由について、以下の記事で詳しく解説しています。
一畑電車への支援計画を了承 – 総事業費は約80億円
【2024年11月21日】一畑電車沿線地域対策協議会の臨時総会が開かれ、今後10年間の支援計画の素案が了承されました。
一畑電車では、鉄道施設の維持管理費を沿線自治体などが支援する「みなし上下分離方式」を採用しています。この日示された支援計画では、レールや枕木などの老朽化が著しく早期対応が求められるとして、2025~34年度の10年間に約80億円を支援する案が示されました。支援額は、国が約23億円、島根県が約28億円、松江市が約10億円、出雲市が約18億円の負担になる見込みです。
これとは別に、一畑電車の新車両導入計画について、国の新たな制度を活用して島根県と沿線自治体が支援する案も了承されました。島根県の担当者は「一畑電車と協議を進めつつ、次期支援計画の最終案に反映させたい」と述べています。
※一畑電車に対する沿線自治体の支援内容や利用促進の取り組みなどは、以下の記事で詳しく解説しています。
ひたちなか海浜鉄道の延伸工事を国が認可
【2024年11月19日】ひたちなか海浜鉄道は、国営ひたち海浜公園の南口付近まで延伸する工事について、国に認可されたことを発表しました。
ひたちなか海浜鉄道では、阿字ケ浦から公園の西口付近まで全長3.1kmの延伸計画を進めています。総事業費は126億4,100万円になる見込みですが、物価高騰にともない事業費が増額。このため、まずは南口付近までの1.4kmを延伸し、その後西口付近へ延伸する案に変更しています。
今回認可されたのは、南口付近に設置する駅までです。事業費は59億2,300万円で、このうち約41億円はひたちなか市など自治体が負担します。延伸工事は2025年度に着手し、2030年度の開業をめざします。また、西口付近までの工事認可申請は、2030年までに判断するとしています。
※ひたちなか海浜鉄道の延伸計画や、沿線自治体の支援内容について、以下の記事で詳しく解説しています。
JR釜石線でマイレール意識醸成を目的としたシンポジウム開催
【2024年11月17日】JR釜石線利用促進協議会は、マイレール意識の醸成を目的としたシンポジウムを初めて開催しました。シンポジウムには、沿線住民など延べ450人が参加。有識者による基調講演やトークセッションなどがおこなわれました。
有識者の基調講演では、日本総研の藻谷氏が登壇。世界では上下分離方式による鉄路維持が一般的なのに対し、「先進国で鉄道に国費を投じないのは日本だけ。上下分離方式を導入して、事業者には運行のみを任せるべきだ」などと語ったようです。このほか会場では、釜石線の歴史を振り返るパネル展示もされました。