今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、JR肥薩線再生協議会が復旧後の利用促進策などをまとめた「復興アクションプラン」の素案を了承した話や、名鉄西尾・蒲郡線で「みなし上下分離」の導入が検討されている話題など、さまざまなニュースをお伝えします。
JR肥薩線「復興アクションプラン」が協議会で承認 – 最終合意めざす
【2024年12月2日】JR肥薩線再生協議会は、肥薩線復旧後の利用促進策などをまとめた「復興アクションプラン」の素案を了承しました。素案では、「県や沿線自治体の職員が積極的に肥薩線を利用する」「くま川鉄道との直通運転」「利用者への運賃助成」「人吉駅周辺をはじめ観光施設や景観の整備」など、20項目もの利用促進策や地域活性化策が盛り込まれています。
協議会の会長を務める熊本県の亀崎副知事は、地元メディアの取材に対して「地元の機運醸成を図りながら、我々が率先して取り組んでいくことが大事だと思っている」と述べています。復興アクションプランは、JR九州と最終合意する今年度末までに、最終案をまとめる予定です。
【解説】復旧後の利用促進を描けた「川線」、描けない「山線」
肥薩線は2020年7月の豪雨災害で甚大な被害を受け、その復旧にJR九州は難色を示していました。しかし、2022年3月から始まったJR肥薩線検討会議で、熊本県は上下分離方式の導入による鉄道の復旧を熱望。2023年12月の第5回検討会議では「JR肥薩線復興方針」を示し、沿線の地方創世プロジェクトに105億円もの官民一体投資をおこなうなど、熊本県の本気度をアピールします。
こうした経緯から2024年4月の第7回検討会議では、八代~人吉(通称:川線)を鉄道で復旧する基本合意をJR九州と締結。およそ10年後の復旧をめざし、沿線自治体は各種取り組みを進めています。
その取り組みを具体化する組織が、JR肥薩線再生協議会のなかに設置された「JR肥薩線プロジェクト推進ワーキンググループ」です。このワーキンググループは、観光利用と日常利用の両面から復旧後の利用促進や地域振興などを検討する組織。沿線12市町村にくわえ民間事業者も交えて、具体案を検討しています。
ワーキンググループの第1回会合は、2024年6月10日に開催。「観光利用部会」と「日常利用部会」の2つにわかれ、JR肥薩線復興方針に記載された施策をベースに模索していきます。
たとえば、観光利用に関してはJR只見線の取り組みなどを参考に、沿線を流れる球磨川の自然を活かした観光施設や景観の整備を提案。新たな観光列車の導入や、旅行商品の組成なども検討されるようです。また、日常利用に関してはマイレール意識の醸成をめざす取り組みを提案。自治体職員の鉄道利用、くま川鉄道との直通運転、二次交通の整備、子ども向けの鉄道イベントや鉄道を使った学校行事の実施などを計画しているようです。
ワーキンググループの検討内容は「復興アクションプラン」にまとめられ、協議会に提出。12月2日に了承されました。
さて、肥薩線の復旧が確定したのは八代~人吉の線区です。残る人吉~吉松(通称:山線)について、JR九州は2024年3月に「沿線自治体と協議を始めたい」という意向を示しますが、2024年12月7日現在で協議は始まっていません。
この線区は熊本県と宮崎県、鹿児島県の3県にまたがるため関係者も多く、仮に協議が始まっても難航することが予測されます。また利用者が非常に少ないことも懸念事項。観光利用はともかく、日常利用は皆無に等しい線区であることも、復旧を阻む一因になっています。八代~人吉のように、「復興方針」や「アクションプラン」を描けるのか。沿線自治体の今後の動向が注目されます。
※八代~人吉の復旧が決まるまでの経緯は、以下の記事で詳しく解説しています。
その他の鉄道協議会ニュース
名鉄西尾・蒲郡線は「みなし上下分離が現実的」 – 西尾市が見解示す
【2024年12月2日】名鉄西尾・蒲郡線について、沿線自治体の西尾市は「みなし上下分離がもっとも現実的」という考えを示しました。これは西尾市の定例市議会に出された一般質問に、市民生活部長が回答したものです。
同線区は、西尾市と蒲郡市が年間2億5,000万円を支援しながら運行していますが、2026年度以降の支援については決まっていません。そこで、両市と名鉄の三者が協議を続けており、2024年9月には「上下分離方式も選択肢のひとつ」という見解を示していました。また、同年11月21日に開かれた名鉄西尾・蒲郡線対策協議会では三者協議の中間報告がされており、公有民営の上下分離方式を軸に検討していることが伝えられています。
なお、三者は2024年度末までに最終的な方向性を示す予定です。
※西尾・蒲郡線の存廃をめぐる沿線自治体と名鉄との協議の流れは、以下の記事で詳しく解説しています。
JR水郡線で全線開通90周年のイベント開催
【2024年12月1日】JR水郡線の全線開通90周年を祝うイベントが、茨城県大子町と福島県塙町で開催されました。
大子町では、茨城県の沿線自治体で構成される水郡線利用促進会議が企画した「水郡線フェス」を開催。沿線グルメの提供やコンサートなどが開催され、多くの人で賑わっていたようです。また塙町では、福島県生活環境部が主催の「ふくしま鉄道博」を開催。記念式典には福島県の内堀知事も出席し、「イベントを通じて水郡線はマイレールだという思いを共有し、守っていこう」とあいさつしました。
※水郡線の存続をめざす沿線自治体とJR東日本の協議や取り組みは、以下の記事で詳しく解説しています。
北陸新幹線「京都駅」の位置 – 与党PTが選定検討作業に入る
【2024年12月4日】与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームは、北陸新幹線の京都駅の位置やルートを選定する検討作業に入りました。北陸新幹線の京都駅の位置について、国土交通省は2024年8月に3つの案を提示。駅の地下を南北に通る「南北案」、同じく地下を東西に通る「東西案」、JR桂川駅付近の地下に新駅を作る「桂川駅案」が示されています。
今回の検討作業では、JR西日本や沿線自治体にヒアリングを実施。このうち、JR西日本の長谷川社長は「利用者の立場からすると現在の京都駅に近いところが望ましい」と要望したそうです。一方、福井県の杉本知事は駅の位置には触れず、工事費用の増加を懸念して「地方負担に対する十分な配慮」をお願いしたそうです。
次週には大阪や京都の自治体にもヒアリングを実施。2024年内に京都駅の位置を決める方針です。