今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、阿武隈急行の存廃議論で宮城県が「鉄道の維持」を正式に公表した話や、災害で長期不通になっている米坂線と美祢線の自治体の動きなどをお伝えします。
阿武隈急行が全線存続へ – 宮城県が維持表明でも経営改善に課題
【2025年1月22日】阿武隈急行の将来について議論する沿線地域公共交通協議会が開かれ、宮城県側の自治体が県内区間の鉄路存続の方針を正式に公表しました。宮城県はこれまで、鉄道の利用者が少ないことなどを理由に、BRTやバスへの転換を含めた検討を続けてきましたが、2024年10月に「鉄道が優位」と判断。沿線3市町も、自治体ごとの財政負担割合の見直しを条件に、鉄道の存続に合意しています。
ただ、阿武隈急行の経営は厳しい状況が続いています。この日の協議会では、国からの支援を増やすために再構築事業実施計画を策定することや、人口減少時代を見据えたダウンサイジング(規模の縮小)の検討などについて話し合ったようです。
協議会の会長を務める福島大学の吉田教授は「鉄道の存続決定は、ゴールではない。地域を維持することが目的であり、地域のために鉄道をどのように生かすのかという議論が必要」と語っています。
【解説】全線存続は決定したが経営改善の具体策はこれから
利用者の減少にともない経営が悪化した阿武隈急行に対して、沿線自治体は2019年7月に「阿武隈急行線地域公共交通網形成計画」を策定。阿武隈急行を支えるために、さまざまな支援をおこなってきました。しかし、2020年の新型コロナウイルスの流行で、鉄道の利用者数は大幅に減少。その後も福島県沖地震による長期運休や物価高騰による支出増加など、経営は悪化の一途をたどり続けます。
こうしたなかで、協議会では「阿武隈急行線在り方検討会」という分科会を2023年3月に設置。鉄道の存廃を含めて話し合うことになりました。
この検討会で、自治体間の「温度差」が顕在化します。比較的に利用者が多い福島県側の自治体は、存続の方針を早々に提示。増便などの利用促進策も検討しています。一方で宮城県側の自治体は、利用者数が少ないことや、財政支援の負担割合に不満を示す自治体がいたことなどを理由に、話がまとまりません。
2024年5月に開かれた検討会では、宮城県が「BRTやバスへの転換」などの選択肢を提示。同年秋までに結論を出すとしました。そして10月には「鉄道が優位」という結論で一致。今回開かれた協議会で正式に公表したのです。ちなみに検討会は2025年3月までに、経営改善に向けた報告書をまとめる予定です。
何はともあれ、福島・宮城両県とも阿武隈急行の鉄道存続で一致したわけですが、具体的に「どのように維持するか」については、まだ結論が出ていません。これまでの協議会や検討会では、増便やサイクルトレインの運行といった利用促進案が示されています。ただ、利用促進だけでは抜本的な経営改善に及ばず、さらに踏み込んだ支援方法を検討していく必要があるでしょう。
今回の協議会では、国の「鉄道事業再構築事業」の活用を検討していることが明らかになっています。
この事業は、利便性向上に必要な事業費や上下分離などの事業構造を変更する場合などに、国の交付金(社会資本整備総合交付金など)が受けられる制度です。これを活用した北陸鉄道では、国から約57億円(15年間)の支援を受けることが決まっています。なお、国の支援を受けるには、沿線自治体が「再構築事業実施計画」を策定する必要があります。
もうひとつ協議会が検討していることに、「ダウンサイジング(規模の縮小)」もあるようです。具体的には、従来の電車からディーゼル車に置き換えるという方法も検討しています。
阿武隈急行は全線が電化されていますが、設備維持費が経営を苦しめている一因になっています。これは大手鉄道事業者にもいえることです。2024年7月の豪雨災害で長期運休となった奥羽本線の新庄~院内では、JR東日本が架線設備を撤去し「非電化」で復旧する方針を示しています。
ただ、JRのように他線から車両を転用できない阿武隈急行の場合、新しい気動車を購入したり車両基地に燃料を補給する設備を新設したりと、イニシャル・ランニングともにコストがアップする可能性があります。架線設備などの撤去で削減できる経費と比べ、どちらが合理的かを判断する必要があるでしょう。
阿武隈急行の累積損失額は、2023年度末時点で約14億6,000万円。2024年8月に開かれた協議会で、阿武隈急行の冨田社長は「近く債務超過に陥る見通し」を伝えています。経営的には「待ったなし」の状態であり、沿線自治体のスピード感のある対応が求められます。
※阿武隈急行の経営が悪化した理由や、沿線自治体の支援内容などは、以下の記事で詳しく解説しています。
その他の鉄道協議会ニュース
JR米坂線の上下分離方式と第三セクター移行を沿線自治体が検討へ
【2025年1月22日】山形県の平山副知事と沿線8市町長が、米坂線の復旧をめざす会合を開きました。参加者は改めて「鉄道での復旧」を確認。復旧費用や復旧後の運営方法などを話し合ったそうです。
このなかで沿線自治体からは、JR東日本が示した86億円とする復旧費用について「物価高騰により、さらに増えるのでは?」と懸念する声が聞かれたようです。また、平山副知事は「上下分離方式」と「第三セクター移行」による復旧ついて、具体的に検討していく考えを示しました。
会議後におこなわれた地元メディアの取材で、平山副知事は「JRが主体で復旧してほしいが、不通から2年半も経過した。具体的な取り組みについて、県が中心となって進めていきたい」と語っています。
※米坂線の災害復旧を巡る沿線自治体とJR東日本との協議の流れは、以下の記事で詳しく解説しています。
JR美祢線の代行バス増便実験 – 沿線自治体が継続を要望
【2025年1月23日】美祢線利用促進協議会は、美祢線で実施している代行バス増便の実証実験について「実験の継続」をJR西日本に申し入れました。
この実証実験は、協議会に設置された復旧検討部会で計画し、2024年10月に開始。実験期間は、2025年3月21日までです。ただ、増便により通学定期客の取りこぼしを防いでいる一面もあることから、美祢市などの沿線自治体は2025年度以降の継続を要望しています。要望書を提出した美祢市の篠田市長は、JR西日本に感謝したうえで「通学に非常に助かっており、ぜひ継続していただきたい」と述べました。
これに対してJR西日本は、便によって利用状況に差があることから「実験結果を踏まえて検討したい」と伝えています。
※美祢線の災害復旧を巡る沿線自治体とJR西日本との協議の流れは、以下の記事で詳しく解説しています。
三岐鉄道北勢線に3年間で約11億円の財政支援
【2025年1月20日】北勢線事業運営協議会は、2025年度から3年間で11億860万円を三岐鉄道に支援する方針を決めました。三岐鉄道への財政支援は、近鉄から北勢線を継承した2003年より続いています。支援額は三岐鉄道の経営状況にあわせて3年ごとに見直され、今回の協議会では2025~2027年度の3年間の支援額が決定しました。
なお、北勢線事業運営協議会では2023年度より、北勢線の「あり方」について議論しています。現段階では基礎調査として交通モードの比較検討をおこなっており、「鉄道存続」「新たな交通システムの導入(LRTやBRTなど)」「バス転換」の3つが選択肢となっているようです。結論を出す時期は未定ですが、早ければ2025年度中にも示される模様です。
※北勢線が三岐鉄道に継承される経緯や、2023年度より始まった鉄道のあり方に関する協議の内容は、以下の記事で詳しく解説しています。
日南線のあり方協議が開始
【2025年1月23日】JR九州の古宮社長は定例会見で、日南線(油津~志布志)のあり方について、沿線自治体と協議を始めたことを明らかにしました。古宮社長は、廃止を前提としない議論とする方針を強調。「地元と打ち合わせを繰り返したい」と述べています。
日南線では、JR九州と沿線自治体が2019年度より「日南線活用に関する検討会」を実施。両者が協力して利用促進の取り組みを進めてきましたが、2024年11月にJR九州は存廃に関する協議を申し入れる考えを示していました。
※JR九州と沿線自治体が共同で取り組んできた「日南線活用に関する検討会」の経緯は、以下の記事で詳しく解説しています。
「かみくるパス」にJR北海道の路線を追加する実証実験
【2025年1月20日】北海道上川地域公共交通活性化協議会などは、上川管内の路線バスが乗り放題になる電子チケット「かみくるパス」に、JR北海道の路線を追加する実証実験をおこなうと発表しました。
かみくるパスは、旭川や美瑛、富良野などを運行する路線バスが自由に乗り降りできる、スマートフォン専用の電子チケットです。通常のチケットは、上川管内を運行する旭川電気軌道・道北バス・ふらのバスの路線で利用できます。これに、JR北海道の鉄道路線を追加した実証実験を、2025年2月1日から2月28日まで実施。対象線区は、宗谷本線(旭川~名寄)、石北本線(新旭川~上川)、富良野線の普通・快速列車です。
価格は通常と同じく、1日券が3,000円、2日券が4,000円、3日券が5,000円(小人は半額)です。この実証実験は補助金により運営されるため、予算が上限に達した段階で販売終了になります。