【2026年5月20日】JR北海道の綿貫社長は、単独で維持困難とする黄線区(輸送密度2,000人/日未満の線区)の存続策として示した「上下分離方式などの提案」について、沿線自治体との協議を当面見合わせる意向を明らかにしました。
この日の定例記者会見で、綿貫社長は「地域の皆様から厳しい意見があった」と、沿線自治体などの強い反発により具体的な協議に入れない状況を説明。ただ、上下分離方式などの議論は必要としたうえで「地域と直接やりとりするのは時期尚早」と述べました。今後は、国や北海道と進め方の調整を優先する考えです。
国の監督命令で求められた「2026年度末までの改善策とりまとめ」の期限が迫るなかで、今後の動向が注目されます。
【解説】JR北海道が黄線区の上下分離方式提案を撤回した理由
JR北海道は、2026年4月15日に「黄8線区を維持する仕組みの構築に向けた当社の考えについて」というプレスリリースを公表しました。
このなかで、国の監督命令にもとづき沿線自治体と連携して進めてきた「アクションプラン(経営改善計画)」の取り組みに言及。利用促進や経費削減などをおこなっても抜本的な収支改善に至らなかったとして、「当社単独では維持困難な状況が続いている」と説明しています。これまでの取り組みだけでは、利用者減少も収支も改善しないという考えを伝えたのです。
このためJR北海道は、黄線区を持続的に維持する仕組みを構築するうえで、以下4つの案を提示。沿線自治体と協議したいと、プレスリリースで伝えています。
① 線区のご利用状況に応じた輸送体系のさらなる見直し
出典:JR北海道「黄8線区を維持する仕組みの構築に向けた当社の考えについて」
② 持続的な運行に必要となる担い手の確保(踏切の除雪、駅業務の自治体への移管等)
③ 鉄道資産の自治体への譲渡による固定資産税の負担軽減
④ 運行会社と鉄道資産を保有する法人等とに分ける「上下分離方式」の検討
この提案に対して、沿線自治体などが強く反発。なかでも「上下分離方式」に関しては、「自治体も財政難だから負担できない」と、地元出身の道議会議員や国会議員からも厳しい意見がJR北海道に寄せられたようです。
こうした状況からJR北海道は、4つの提案に関する沿線自治体との協議を当面見合わせると、5月20日の定例記者会見で伝えています。
JR北海道が提案した4案の自治体負担額はいくら?
仮に、JR北海道が提案しようとした4つの案を実行すると、沿線自治体にはどれだけの負担が生じるのでしょうか。それぞれの案について深掘りしてみましょう。
① 線区のご利用状況に応じた輸送体系のさらなる見直し
列車の減便や駅の廃止など、利用状況にあわせて見直す案です。利便性は悪くなるものの、沿線自治体の負担は最小限に抑えられます。
ただ、これまでのアクションプランでも、減便や駅廃止といった施策を進めてきました。これ以上の見直しをおこなうと運賃収入の減少が見込まれ、赤字額が増える可能性があります。自治体の理解は得やすいでしょうが、JR北海道の経営的には得策ではないでしょう。
② 持続的な運行に必要となる担い手の確保
一例として、踏切の除雪や駅業務などを自治体へ移管する案を提示しています。とくに除雪に関して、JR北海道は毎冬アルバイトスタッフを雇って対応しています。しかし、人手不足で人材がなかなか集まらず、担い手の確保が課題になっているようです。
これらの施策も、アクションプランで進めてきました。ただ、除雪に関してはホームや駅周辺に限られており、新たな提案では踏切にも拡大したかったようです。
なお、自治体が負担する駅管理費は少額です。たとえば、2025年に廃止された抜海駅の年間管理費は54万~90万円、筬島駅・咲来駅・天塩川温泉駅の3駅を管理した音威子府村の負担額は年間300万円(いずれも宗谷本線)。管理費の8割程度が、除雪にかかる費用だそうです。
一方で、各線区の赤字額は億単位。踏切の除雪費などを含めても、JR北海道の抜本的な経営改善につながるかは疑問です。
③ 鉄道資産の自治体への譲渡による固定資産税の負担軽減
駅舎やホーム、車両、線路などの鉄道資産に課せられる固定資産税を抑える案です。沿線自治体の負担額はないものの、歳入が減ります。その額がいくらかはわかりませんが、JR北海道は黄線区の「諸税」の額は毎年公表しています(諸税には、法人税なども含むと考えられます)。
■黄線区の諸税額(2024年度)
| 石北本線(新旭川~網走) | 1億700万円 |
| 宗谷本線(名寄~稚内) | 4,200万円 |
| 釧網本線(東釧路~網走) | 2,400万円 |
| 根室本線(釧路~根室) | 2,600万円 |
| 室蘭本線(沼ノ端~岩見沢) | 2,800万円 |
| 富良野線(旭川~富良野) | 1,800万円 |
| 根室本線(滝川~富良野) | 3,600万円 |
| 日高本線(苫小牧~鵡川) | 1,600万円 |
トータルで約3億円の負担軽減が見込まれますが、自治体からみると歳入が3億円減ります。なお、JR北海道の黄線区の赤字額は約148億円です(2024年度)。
④ 運行会社と鉄道資産を保有する法人等とに分ける「上下分離方式」の検討
鉄道資産を沿線自治体が保有することで、施設の維持・修繕にかかる費用を抑える案です。これに関しても、JR北海道は「施設の維持や修繕にかかる費用」を公表しています。
■黄線区の「施設の維持や修繕にかかる費用」(2024年度)
| 石北本線(新旭川~網走) | 17億8,300万円 |
| 宗谷本線(名寄~稚内) | 9億6,500万円 |
| 釧網本線(東釧路~網走) | 8億5,400万円 |
| 根室本線(釧路~根室) | 5億6,300万円 |
| 室蘭本線(沼ノ端~岩見沢) | 4億7,900万円 |
| 富良野線(旭川~富良野) | 3億3,900万円 |
| 根室本線(滝川~富良野) | 3億9,100万円 |
| 日高本線(苫小牧~鵡川) | 1億1,100万円 |
いずれの路線も、億単位の負担額です。なお、上下分離方式の定義は厳密に決まっていません。他事業者では、車両の維持・修繕費も自治体が負担するケースもあります。
国と北海道との協議で黄線区はどうなる?
4つの提案に対する沿線自治体などの反発を受け、JR北海道は「国や北海道と進め方を調整していく」という考えを伝えています。JR北海道は、国や北海道とも定期的に協議していますから、今後の方針について検討することになるでしょう。
では、国や北海道とは、どのような話をするのでしょうか。
想定される内容のひとつに「財政支援の枠組みの再検討」があるでしょう。黄線区の沿線自治体に億単位の支援を求めるのは、現実的に不可能です。となれば、国からの追加補助や北海道の支援を期待するしかありません。その枠組みを決めたうえで、沿線自治体にも何らかの支援を求めるという流れが順当です。
この順序について、国や北海道よりも先に沿線自治体に相談したことから、JR北海道は「地域と直接やりとりするのは時期尚早だった」と釈明したのでしょう。財政規模の小さい自治体に、いきなり多額の負担を求めても、門前払いされるのは当然の結果です。
とはいえ、国や北海道が支援を拡充するかといえば、これも難題です。
国は、民営化後のJR北海道に対して1兆円をはるかに超える支援をおこなってきました。その支援額は増え続けており、「現状維持」がいつまでも許されるわけではありません。
北海道も財政的に厳しいでしょう。上下分離ではありませんが、北海道は道南いさりび鉄道に対する赤字補てんもおこなっています。また、北海道新幹線が札幌まで延伸開業したときに経営分離される函館本線(函館~長万部)も、北海道に何らかの支援が求められます。
仮に、これらの線区と黄線区を管理するとなれば、北海道は1,100km以上の鉄道を保有し、負担額は年間200億円近くになります。北海道の人口は、2025年に500万人を割り込みました。今後も人口減少は続く見通しです。財政も逼迫するなかでこれだけの長大路線を担うのは、現実的な解とはいえません。
となれば、「鉄道として残す路線」と「他の交通モードに転換する路線」の選択が、いずれ必要になってきます。
国の監督命令では、2026年度末までに「抜本的な改善方策を検討する」よう求めています。その検討結果を報告書にまとめて、国に提出する期限が2027年3月末。その後、国の回答を受けて、沿線地自治体や北海道と「何らかの対応」をする流れになると想定されます。その対応のひとつに、各線区の本格的な存廃議論が含まれるかもしれません。
JR北海道が単独では維持困難な線区を公表してから、10年が過ぎました。10年前にも沿線自治体は上下分離方式に対して「負担できない」と反発しました。
反発をしたところで、黄線区は存続できません。本気で存続させたいのであれば、自治体や北海道が支援できる内容を具体的に示したうえで、国に求める支援内容も明確にして訴えることが第一歩です。
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参考URL
黄8線区を維持する仕組みの構築に向けた当社の考えについて
https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20260415_KO_ki8senku.pdf
石北線(新旭川・網走間)2024年度線区データ
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/8_03_2024.pdf
宗谷線(名寄・稚内間)2024年度線区データ
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/8_04_2024.pdf
釧網線(東釧路・網走間)2024年度線区データ
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/8_01_2024.pdf
花咲線(釧路・根室間)2024年度線区データ
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/8_02_2024.pdf
室蘭線(沼ノ端・岩見沢間)2024年度線区データ
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/8_07_2024.pdf
富良野線(富良野・旭川間)2024年度線区データ
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/8_05_2024.pdf
根室線(滝川・富良野間)2024年度線区データ
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/8_06_2024.pdf
日高線(苫小牧・鵡川間)2024年度線区データ
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/8_08_2024.pdf