【2026年6月18日】JR西日本の定時株主総会が開かれ、京都府亀岡市の桂川市長が株主提案をおこないました。自治体の首長が鉄道事業者の株主として発議するのは、初めてのことです。
桂川市長は、定款の一部変更に関する議案を2つ提示。ひとつは、JR西日本と沿線自治体が連携する場として「地域交通共創会議」の新設を要望しています。また、北陸新幹線などの大規模交通インフラを整備する際に、JR西日本が「早期かつ安価に実現できる方策を追求する」ことを、定款に盛り込むよう求めました。
これに対してJR西日本は、「個別の業務執行に関わる事項を定款に定めるのは不適切」として反対。両議案とも否決されました。ただ、地域交通共創会議についてJR西日本は「沿線自治体は重要なステークホルダーであり連携は欠かせない」と伝えています。
桂川市長は、「自治体も株式を取得して総会で直接、地方の課題を訴えていく必要がある。今回の提案をきっかけに、地域交通の未来に向けた議論が前向きに進むことを期待したい」と、総会後の記者会見でコメントしています。
【解説】自治体が鉄道事業者の株主になるメリットと限界
京都府亀岡市は、2025年にJR西日本の3万5,000株(約1億円相当)を取得しています。株を取得するきっかけは、JR西日本がコロナ禍に実施したダイヤ改正でした。
JR西日本は、新型コロナウイルスの影響による利用者減少を受け、2021年に大規模な減便を実施します。亀岡市を通る山陰本線でも、運行本数が削減されました。その後、利用者数が回復するなかで、亀岡市などで構成される京都丹波基幹交通整備協議会は、早期の復便を要望。「コロナ禍前のダイヤに戻してほしい」と訴えます。しかしJR西日本は、コロナ禍前の水準まで利用者数が回復していないことなどを理由に、自治体の声に応じなかったのです。
JR西日本からみれば、民間企業として経済合理性や株主への説明責任も重視しなければなりません。自治体からの要望を何でも受け入れるわけにはいかないのです。
こうした状況に亀岡市は、2024年8月に開かれた市議会定例会で、JR西日本の株式購入費を盛り込んだ一般会計補正予算案を提案します。自治体として単に要望するだけでなく、「発言権の強い株主の立場から意見を伝えていこう」と考えたのです。
その後、補正予算案は可決され、JR西日本の3万5,000株を取得。取得に必要な費用は、ふるさと納税の寄付金から拠出しました。なお配当金は、鉄道の利用促進にかかる事業費などに充てるようです。
自治体が鉄道事業者の株主になる理由
亀岡市のようにJRの株を取得した自治体は、ほかにもいくつかあります。
姫新線が通る岡山県真庭市では2024年に、JR西日本の3万4,000株を購入。取得費用は手数料を含めて1億円です。配当金は利用促進イベントの事業費などに充てています。また、日南線が通る宮崎県の日南市と串間市は、2017年にJR九州の株を取得。日南市は3,800株、串間市は2,900株を保有しています。配当金は一般財源にしたり、無人駅の清掃費などに充てているそうです。
真庭市や日南市、串間市が株主になったのは、ローカル線の存廃議論で発言権を強めることが目的でした。一定以上の株式を保有すれば株主提案権を行使して、自らの主張への回答を経営陣に義務付けることが可能になります。
また、株主総会には取締役が勢揃いします。担当者レベルの交渉では届かない地方の切実な声を、経営トップに直接突きつけられることも株主になるメリットです。
さらに、自治体が株主提案をおこなえばメディアが大きく報道するでしょう。自らの主張を広く世論に訴えかけられることも、自治体にとってのメリットと言えるかもしれません。
自治体の議案が他の株主のデメリットになることも
ただ、自治体が発議した議案が必ずしも通るとは限りません。JR各社の経営方針にまで踏み込むには、高いハードルがあります。
その理由のひとつが、取得した株数が少ないこと。亀岡市の場合、3万5,000株を取得したものの、JR西日本の発行済株式総数全体から見れば、わずか0.006%程度にすぎません。株主総会で議案を可決させるには、原則として出席した株主の過半数(定款変更などの特別決議であれば3分の2以上)の賛成が必要です。他の巨大な機関投資家や多くの個人株主から圧倒的な共感を得られない限り、提案が可決される見込みはほぼありません。
また、自治体の議案は他の株主に不利益を被らせやすいという構図もあります。たとえば赤字ローカル線を存続させる議案の場合、他の株主からみると「会社の利益を損ない株価を下げる要因」になります。民間企業の取締役は、すべての株主に対して「利益の最大化」を追求しなければなりませんから、この議案は通りにくいでしょう。
なお北陸新幹線の議案について、亀岡市は「早期かつ安価に実現することで、株主の利益につながる」として発議しました。ただ他の株主の視点で考えると、全線開業後にJR西日本が安定した利益を得ることも重要ですから、「単に建設費が安い」という理由だけでは多くの株主の賛同を得にくいでしょう。もっとも、整備新幹線のルートを決めるのはJRではなく、国です。
「地域交通共創会議」の新設に関しては、他の株主からも賛同を得たようです。ただ、これは株主総会で決めることではなく、取締役会などで決める個別の業務執行のため、JR西日本は反対したようです。
こうしてみると、自治体の議案が可決される可能性は極めて低いと考えられます。とはいえ、自治体としては議案を可決させることよりも、他の株主に「地方の実情を訴えること」も目的のひとつです。
民間企業として利益を追求することは重要です。一方で公共交通事業者としては、利益ばかりを追求するのではなく、地域との関わりをもっと深めることも大切でしょう。鉄道事業者との新たな接点づくりに株主総会を活用する自治体は、今後増えていくかもしれません。
参考URL
【自治体初】JR西日本に対して株主総会で直接説明(亀岡市)
https://www.city.kameoka.kyoto.jp/soshiki/34/87092.html