【2026年3月11日】北海道の鈴木知事は、JR千歳線の輸送力強化に向けた抜本的な改修と財政支援を求める要望書を、国土交通省に提出しました。
鈴木知事は、国家プロジェクトでもある半導体メーカー「ラピダス」の工場建設が沿線(千歳市)で進んでいることを踏まえ、産業集積による交通需要の増加を説明。「国家プロジェクトを支えるインフラとして鉄道は不可欠」と、千歳線の輸送力強化を訴えました。これに対し国土交通省の金子大臣は、混雑が常態化している新千歳空港駅の課題などを含めて「空港との連結性強化は重要。今後の対応を検討する」と答えています。
輸送力強化に向けた具体案として、単線の新千歳空港~南千歳を複線化する案や、新千歳空港駅から延伸して千歳線の下り線(札幌方面)とつなぐループ化案など、複数案を検討すると地元メディアは報じています。
【解説】ラピダス進出が追い風に!千歳線の輸送力強化はどう実現する?
千歳線はJR北海道の路線でもっとも輸送密度が高く、札幌への通勤通学客にくわえ新千歳空港利用者の輸送、エスコンフィールド北海道(北広島市)の観客輸送なども担っています。また中長距離列車として、道南・道東の各都市と札幌を結ぶ特急列車や本州などへの貨物列車も運行。さまざまな列車が往来し、北海道にとって重要な路線のひとつです。
なかでも新千歳空港と札幌などを結ぶ「快速エアポート」は、1日あたり6万人以上が利用。運行本数は1日約160本で、日中は毎時6本(上下線あわせて12本)と高頻度で運行しています。
経営難が続くJR北海道としては、快速エアポートを増発することで運賃収入を増やしたいところですが、それには大きな課題がありました。それは、新千歳空港~南千歳が単線で整備されていること。わずか2.6kmの区間ですが列車のすれ違いができないため、現状のダイヤを維持しながらの増発は難しいといわれます。
また、新千歳空港駅のホーム長は約130mで6両編成までしか停車できません。快速エアポートはすべて6両編成で、これ以上の増結もできないのです。

利用者増加の対応が迫られるなかで北海道などは、千歳線の輸送力強化をめざす検討を1990年代から進めてきました。ただ、採算性などの問題で「構想が出ては消える」を繰り返し、実現化には至っていません。
2018年には、単線区間の複線化にくわえ、新千歳空港駅から苫小牧方面および石勝線に線路を延伸させ道南・道東方面の列車を直通化させる構想が浮上しています。ただ、この構想は地元や国が必要性に迫られ求めたのではなく、「JR北海道の経営改善アイデアのひとつ」で提言された経緯もあり、その後動きは見られませんでした。
しかし、今回は少し異なります。それは、国家プロジェクトでもある「ラピダス」の建設計画が追い風になっているからです。ラピダスは日本の半導体メーカーで、新千歳空港の近くでは次世代半導体の量産をめざす第2工場の建設計画が進んでいます。本格的に稼働すれば、関連企業などの産業集積や人口流入により周辺の交通需要は大きく増加することが予想されます。
北海道の鈴木知事は「国の地域未来戦略では、ラピダスをはじめ必要なインフラ整備にも投資していく方針。そのインフラのなかに、鉄道も入ると思う」と述べ、千歳線の輸送力強化にも国が投資してほしいと訴えています。
つまり「JR北海道の経営改善策」という側面が強かったこれまで構想に、「日本経済を支える国家プロジェクトの基盤整備」という名目もくわわり、地域や国にも必要性が迫られてきたわけです。こうした観点からも、千歳線の輸送力強化に向けた抜本的な改善が進むことが期待されます。
単線区間の複線化や延伸ループ化などの案も
千歳線の具体的な輸送力強化案は今後検討される見通しですが、メディアではいくつかの案が浮上していると伝えています。
そのひとつが、新千歳空港~南千歳の複線化です。この区間は現在、地上駅の南千歳駅から地下駅の新千歳空港駅へトンネルで整備されています。トンネル区間の長さは2,162m。これをもう一本掘って複線にするというものです。
もうひとつの案が、新千歳空港駅から先にトンネルを掘り進めて、千歳線の下り線(札幌方面)とつなぐループ化(スルー化)案です。苫小牧方面ではなく、札幌方面に戻る半円状の線路を延伸。これにより折り返し運転の手間が省け、運用の効率化が期待できます。
ほかにも、2018年に提唱された苫小牧方面や石勝線とのスルー化なども検討される模様です。いずれの案も、現状の毎時6本運行が限界とされる列車を増発でき、千歳線の輸送力が高まるとされています。
逼迫する千歳線で増発は無理?
しかし、千歳線では特急列車や貨物列車も頻繁に走行します。空港周辺の線路を改良しても、その先(南千歳~札幌)で列車が詰まる可能性があり、「現状のダイヤを維持しながら増発するのは難しい」という見方もあるようです。
建設費の負担も大きな課題です。1988年に着工した新千歳空港~南千歳の新線部分(空港敷地内)の工費は約107億円(関連施設や車両新造などを含めた総事業費は約173億円)。このときは空港整備特別会計を活用して国が約36億円を支援し、残りはJR北海道が負担しています。
あれから40年近く経ち物価高騰も続くなかで、建設費は当時の数倍に膨らむと推測されます。経営難に苦しむJR北海道には拠出できず、千歳市や北海道など沿線自治体にも負担が求められるかもしれません。
さらに問題なのが、JR北海道の人手不足です。近年のJR北海道は離職者が毎年100人以上生じています。増発を見込んで採用者を増やしても辞める人が多数いるため、運転士などのやりくりに苦慮しているようです。実際に、2020年のダイヤ改正で快速エアポートを毎時1本増発した際には、札幌圏の函館本線の列車を毎時1本減便するなど、他線区にも影響を与えています。さらに毎時1本増発した2025年のダイヤ改正でも、函館本線の運行本数は減っています。
こうした課題があるなかで、千歳線の輸送力強化の現実的な解は「増結」かもしれません。つまり、7両以上の列車が停車できるように、新千歳空港駅などのホーム長を延ばす案です。新たな線路を敷設するより建設費を抑えられますし、増発しなくても輸送力を高められます。
たとえば、新千歳空港駅だけのホーム長を伸ばせば、南千歳・新札幌・札幌のみ停車する特別快速を走らせることができます。千歳や恵庭など快速停車駅のホーム長も延ばせば、すべての快速エアポートに適用できるかもしれません。
もっとも、増結にも技術的な課題があるでしょうし、JR北海道にとっては車両の増備などの負担が増えることになります。いずれにしても、最大の壁はやはり財源です。北海道新幹線の札幌延伸工事でも建設費の高騰が問題となるなかで、千歳線の改良に国や沿線自治体がどこまで踏み込めるかが焦点といえます。
参考資料・URL
JR千歳線改良へ支援要請 北海道知事、国交相に(日本経済新聞 2026年3月11日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC11A330R10C26A3000000/
JRガゼット 1992年8月号(交通新聞社)
新千歳空港駅 路線改修へ 苫小牧・道東方面直通に 国交省検討(北海道新聞 2018年5月2日)