週刊!鉄道協議会ニュース【2024年7月21日~7月27日】

豪雨災害イメージ 協議会ニュース

今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、東北地方を襲った豪雨災害による鉄道への影響や、大船渡線と紀勢本線の協議会で議論が紛糾した話など、さまざまなニュースをお伝えします。

【2024年7月豪雨災害】山形・秋田など東北地方の鉄道への影響は?

【2024年7月27日】山形県や秋田県を中心に東北地方で梅雨末期の豪雨が襲い、各地の鉄道施設に被害が出ています。

7月27日17時時点で確認された被害状況ですが、JR東日本によると、羽越本線の酒田~羽後本荘では線路設備に軽微な被害を確認。復旧は28日12時以降になる見込みです。また大船渡線では、線路脇ののり面が約10mにわたって流出。この影響で、一ノ関~気仙沼が運転を見合わせています。奥羽本線の新庄~院内では、一部区間で避難指示が出ているため点検作業に入れず、運転再開の見込みはたっていません。

第三セクターの由利高原鉄道では、沿線を流れる子吉川が氾濫し、一部区間で冠水するなどの被害が出ましたが、28日の始発から運転が再開されます。一方で秋田内陸縦貫鉄道では、米内沢~萱草で線路の異常が確認され29日まで終日運休が決まっています。

▼最新の運行情報

JR東日本
由利高原鉄
秋田内陸縦貫鉄

【解説】もし鉄道が大きな被害を受けたら…沿線自治体に求められること

7月27日17時現在の情報をもとにした推測ですが、今回の災害で復旧に時間を要することはあるにせよ、存廃議論につながる路線は今のところないと考えられます。ただ、一部の路線では被害状況が確認できていないところがあります。また、今回被害を受けた地域では今後も激しい雨が降ると予測されており、被害状況が変わる可能性があります。

さて、豪雨災害などで鉄道施設が被害を受けたとき、復旧費用は「事業者負担が原則」です。ただし、利用者の少ない赤字ローカル線で復旧費用が数十億円規模になると、「事業者だけでは負担できない」と判断されることがあります。

このとき鉄道事業者は、「鉄道軌道整備法にもとづく災害復旧補助」など、国の支援制度の活用を検討します。ただ、国の制度は「沿線自治体も支援する」のが前提条件です。そのため鉄道事業者は、沿線自治体の理解を得るために協議会や検討会などの設置を求めます。

また、制度を使うには「復旧後の安定した経営の維持」も求められます。赤字ローカル線の場合、復旧しても経営が成り立たないとして、すぐに廃止される可能性があります。廃止となれば、復旧に投じた多額の税金は水泡に帰します。こうした税金の無駄遣いを防ぐために、沿線自治体と一緒に経営改善計画を立てて、長期的に実行していくことが求められるのです。

沿線自治体からみれば、復旧費用にくわえ運営費の負担も生じますから、財政悪化を恐れて「支援できない」という自治体も出てくるでしょう。そのような自治体に、ひとつ考えてほしいことがあります。それは、「支援した額を償還できるだけのポテンシャルが、鉄道にあるのか?」という視点です。

沿線自治体が鉄道の可能性や価値を丁寧に調べて「復旧後も支援する」と決断し、災害復旧を果たした路線も存在します。2022年に復旧したJR只見線や、2024年にJR九州と復旧の基本合意したJR肥薩線などが、その代表例です。いずれの沿線自治体も、鉄道が地域にもたらす便益を明確にし、「支援してでも復旧したほうが地域のメリットは大きい」と判断できたことが、鉄道の復旧につながりました。

一方で、鉄道の価値や活用法がわからない自治体は、復旧費用や運営費などを「負担」と捉える傾向があります。こうした考えだと、協議が始まってから事業者や国に「負担を押し付けること」が目的化してしまい、最終的に誰も負担せず廃止になるケースも少なくありません。

赤字路線であっても、鉄道が地域にどれだけの便益をもたらすのか。被災した鉄道を早急に復旧させるためにも、あらかじめ試算しておくことも沿線自治体に求められるのではないでしょうか。

※鉄道の災害復旧に関する法令に関しては、以下のページで詳しく解説しています。

その他の鉄道協議会ニュース

大船渡線で沿線自治体が首長会議を開催 – 利用促進などの目標設定は先送り

【2024年7月22日】大船渡線の利用促進などを協議する「JR大船渡線沿線自治体首長会議」が開催されました。このなかで、今年度に実施するイベントなどの利用促進策について「目標値を設定するか」で議論が紛糾したようです。

会議後の記者会見で、陸前高田市の石渡副市長は「日常利用をどのように増やすかが課題。本年度の取り組みが結びつくかも、もう少し考えたい」と述べ、各施策に対する目標値が設定できなかったことを明かしました。

目標値を設定しないと「施策を実施すること」が目的化しやすく、利用者を増やすという本来の目的を見失う傾向があります。そのため、目標値は設定してほしいところですが、とはいえ日常利用客を増やすのは容易ではなく、それが目標値を設定できなかった一因だったようです。

紀勢本線の協議会でも目標値を設定できず

【2024年7月19日】紀勢本線活性化促進協議会の新宮白浜区間部会が開催され、こちらも「目標値の設定」で議論が紛糾したようです。

部会では、新宮~白浜における輸送密度を「2,000人/日」に設定しようとしました。ただ、同区間の2019年度の実績は1,085人/日です。こうした現状に、沿線自治体からは「達成できない場合はどうなるのか」「これでは、廃線に向けた議論だと誤解を招く可能性がある」といった意見が出たようです。

これに対してJR西日本は、輸送密度2,000人/日という数値に対して「利便性と持続可能性を両立させるための数値」と説明。さらに「目標値を掲げて取り組むことも大事だ」と伝え、理解を求めたようです。結局、目標値の設定は先送りとなり、次回の会合で再び協議する予定です。

12道県が並行在来線に対する国の支援拡充を求める

【2024年7月23日】北海道や長野県、鹿児島県など12道県で構成される「並行在来線関係道県協議会」は、国土交通省などに対して財政支援の要請をおこないました。国土交通省などを訪れたのは、長野県の関副知事など代表メンバーの3人です。

代表メンバーは「並行在来線は地域住民に欠かせない交通手段であり、貨物ネットワークも担う」と鉄道の重要性を主張。一方で、「インフラ設備の老朽化による多額の更新費の負担が見込まれる」として、厳しい経営状況を伝えました。そのうえで、新たな支援枠組みの創設や、多言語対応・交通系ICカード導入に対する支援拡充などを求めています。

これに対して国土交通省は、「整備に協力できるよう予算措置を考えたい」と回答したそうです。

静岡県知事と沿線首長がリニアをめぐる意見交換会を開催

【2024年7月23日】静岡県の鈴木知事と大井川流域の自治体首長(大井川利水関係協議会)が、意見交換会を開催しました。この意見交換会は、山梨県内の県境付近で進めているボーリング調査をめぐり、県境を越える前に大井川利水関係協議会の了承を得ようと、静岡県が主催したものです。

会合の冒頭で鈴木知事は、山梨県・JR東海と三者合意したことを報告。「JR東海と対話できる環境が整った」と述べ、リニア推進と水資源確保などの両立を目指す考えを伝えます。一方、自治体からは「工事後の影響や対策も担保してほしい」という意見が出され、鈴木知事は最終的に文書などで残す方針を明らかにしました。また、各首長からは細かな情報提供を求める声が多く、工学的な議論や静岡市を含めた情報公開の提案などがあったそうです。

羽田空港アクセス線 臨海部ルートも2031年度の開業をめざす

【2024年7月24日】JR東日本は、羽田空港と東京都心を結ぶ羽田空港アクセス線について、新木場駅とを結ぶ「臨海部ルート」を2031年度の開業をめざすと発表しました。

羽田空港アクセス線には、東京駅、新宿駅、新木場駅と結ぶ3つのルートを予定しています。このうち東京駅と結ぶ「東山手ルート」については、2031年度の開業予定をすでに発表しており、「臨海部ルート」も同時開業させる予定です。また、新宿駅と結ぶ「西山手ルート」は、トンネル工事などの精査が必要で、開業時期は未定としています。

具体的な計画案は、今後国や東京都と協議して決めるそうです。

タイトルとURLをコピーしました