【2025年12月15日】秋田商工会議所は、秋田新幹線のルートを秋田空港経由に変更する構想を明らかにしました。2025年12月12日には秋田県に、12月15日にはJR東日本に要望書を提出しています。
要望書によると、奥羽本線の四ツ小屋駅付近から新幹線専用の線路を新設し、空港の地下に駅を新設。峰吉川駅付近で既存路線に合流する構想です。実現すれば、秋田駅や大曲駅方面へのアクセスが向上するほか、県内各地の観光振興にもつながると商工会議所は期待しています。
要望書を受け取ったJR東日本秋田支社は「真摯に思いを受け止めたい」と話しているそうです。

【解説】空港直結の新幹線駅で秋田県の観光客を増やせるか?
秋田空港は、JR秋田駅から約18kmの位置にあります。最寄り駅は奥羽本線の和田駅ですが、空港までの距離は約8kmです。そのため空港利用者の多くは、秋田駅など市の中心部に向かうリムジンバスや、マイカーで移動しています。空港の年間搭乗者数は、約122万人です(2024年)。
さて、秋田商工会議所が空港直結の新幹線駅を要望したのは、「秋田県に宿泊する観光客が少ない」ことを、理由の一つに挙げています。
国土交通省の宿泊旅行統計調査(2024年)によると、秋田県の年間宿泊者数は約315万人。このうち外国人は約12万人です。この人数は、都道府県別の順位でみると42位(外国人宿泊者数は44位)で、東北6県では最下位です。ちなみに、全国最下位は佐賀県の約234万人です。秋田県や商工会議所などは、これまでも新幹線や飛行機による観光誘客に力を入れてきました。インバウンドに関しては、国際チャーター便やクルーズ船の誘致に注力しています。
しかし思うように効果は表れず、観光誘客には交通網の大胆な改革が必要と、秋田商工会議所は考えたようです。こうして提起されたのが、秋田新幹線の空港直結駅構想でした。なお、空港直結駅構想は、1990年代に秋田青年会議所が発案。そのときの発案者が、現在の秋田商工会議所の会頭を務めているそうです。
空港直結の新幹線駅をつくるメリットは?
空港に新幹線駅を直結させる構想は、新潟(上越新幹線)、静岡(東海道新幹線)、佐賀(西九州新幹線)などの自治体でも検討されています。いずれも鉄道事業者(JR各社)が懐疑的で、実現した例はこれまで一度もありません。その理由のひとつに、「新幹線は中距離の高速移動手段だから」という考えがあるでしょう。
そもそも新幹線は、都市や拠点を高速でつなぐことを目的とした交通モードです。空港でいえば「都心部から遠い」など、アクセスの悪さを解消する手段として、新幹線を選択肢のひとつにすることもあるでしょう。この最たる例が、成田新幹線です。
成田空港は、東京都心から約60kmも離れた場所に計画されたため、アクセスが大きな課題でした。そこで国は、東京駅と成田空港を結ぶ高速鉄道として、新幹線の整備計画を1971年に決定。着工もされています。しかし、江戸川区などの沿線自治体が騒音を懸念して建設に反対。成田でも建設反対運動が活発で用地買収が進まず、工事は中断します。その後、既存の在来線を活用した空港アクセス鉄道に変更されました。
成田新幹線のように、街の中心地から空港が離れている場合は、アクセス鉄道として空港直結の新幹線駅の計画があってもよいでしょう。この観点でみると、静岡空港駅が当てはまりそうです。
静岡空港は静岡市からは近いものの、県内最大の都市である浜松市からは50km以上も離れています。空港に新幹線の駅をつくれば、浜松市民の利便性向上につながるでしょう。ただし、東海道新幹線のダイヤが逼迫していることなどの理由で、JR東海は静岡空港駅の設置に懐疑的です。
秋田空港の場合、利用者がもっとも多い秋田市の中心地から約20kmですから、空港がそれほど遠いとはいえません。仮に空港直結の新幹線駅ができても、リムジンバスやマイカーで移動する人のほうが多いと考えられます。
地域からみた空港に新幹線駅をつくるメリットは?
一方で自治体からみれば、空港に新幹線駅をつくることのメリットは大きいように思われます。ただ、地域に与える経済波及効果を考えると、新幹線駅の建設費に対して大赤字になることも想定されます。たとえば佐賀空港。西九州新幹線のルート案のひとつとして、空港直結の新幹線駅も議論されています。佐賀県の宿泊者数は全国最下位ですから、多くの人が訪れるようになると期待しているのかもしれません。
では、空港利用者は佐賀空港からどこに向かう人が多いのでしょうか。圧倒的に多いのは、佐賀駅などがある中心部です。もちろん、空港から新幹線で武雄温泉駅や嬉野温泉駅に行き宿泊する観光客やビジネス客が増えるかもしれません。しかし、佐賀県全体で考えると少数でしょうから、莫大な建設費に対する投資効果は薄いと考えられます。
「福岡空港の代替で必要」という意見もありますが、それなら新幹線で福岡県に出ていく人が多いため、佐賀県への便益はほとんどありません。つまり、佐賀空港に新幹線駅をつくって地域の発展につながるかは疑問なのです。
もっとも佐賀県などは、「新幹線の建設費負担」や「並行在来線の扱い」への懸念が大きく、佐賀駅以外の場所に新幹線を通したいという要望が強いです。とはいえ、空港利用者の移動を考えた議論をしているようには見えず、仮につくっても佐賀県のためにならないように感じます。
こうした観点で、秋田空港のケースを考えると、多くの利用者は秋田駅などがある市の中心部に向かうため「新幹線より在来線のほうが効果はあるのでは?」とも考えられます。大曲方面に向かう空港利用者もいるでしょうが、「鉄道がある」「駅がある」という理由だけで、県内の宿泊者数が増えるわけではありません。
新線をつくるとなれば、数千億単位の建設費が必要です。その一部は、開業後の便益がもっとも大きい沿線自治体にも、負担が求められるでしょう。「本当に必要な投資なのか?」「必要であれば、効果を最大化するにはどうすればよいのか」という視点で検討することも、地域には求められます。
参考URL
要望書 秋田空港直結のJR新線建設のご検討について(秋田商工会議所)
https://www.akitacci.or.jp/cciwp/wp-content/uploads/JR%E6%96%B0%E7%B7%9A%E8%A6%81%E6%9C%9B%EF%BC%88%E5%86%99%E3%81%97%EF%BC%89.pdf
宿泊旅行統計調査報告(令和6年1~12月)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001905509.pdf