【えちごトキめき鉄道】雪月花や急行も薄利…経営圧迫の要因とは?

えちごトキめき鉄道の直江津駅 三セク

えちごトキめき鉄道は、妙高はねうまラインと日本海ひすいラインの2路線を運営する、第三セクターの鉄道事業者です。いずれの路線も、北陸新幹線の金沢延伸にともない経営分離された線区を継承し、2015年3月に開業しました。

リゾート列車「雪月花」や413系・455系の「観光急行」などユニークな列車で人気を博しますが、経営的には赤字が続いています。鉄道を維持するための沿線自治体の取り組みを中心に、えちごトキめき鉄道の経営を圧迫する原因について解説します。

えちごトキめき鉄道の線区データ

協議対象の区間妙高はねうまライン 直江津~妙高高原(37.7km)
日本海ひすいライン 直江津~市振(59.3km)
輸送密度(1987年→2019年)直江津~妙高高原 2,642→2,501
直江津~市振 1,026→968
増減率直江津~妙高高原 -5%
直江津~市振 -6%
赤字額(2019年)5億1,667万円
※輸送密度および増減率は、えちごトキめき鉄道が発足した2015年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

上越市、妙高市、糸魚川市、新潟県、えちごトキめき鉄道株式会社

えちごトキめき鉄道と沿線自治体

開業前から大赤字が予測されたえちごトキめき鉄道

えちごトキめき鉄道の前身は、「妙高はねうまライン」がJR東日本の信越本線(妙高高原~直江津)、「日本海ひすいライン」がJR西日本の北陸本線(市振~直江津)です。ともに幹線ですから一定の利用者がいるものの、収益の多くは特急利用によるもの。新幹線が開業すれば、激減するのが明白です。とくに北陸本線は、収入ベースで半分以下になる予測が示されていました。

こうした状況に新潟県は、2003年に並行在来線対策協議会を設置。沿線住民のマイレール意識を高め、主体的に参画してもらえるような鉄道会社をめざして協議が始まります。

ちなみに、2001年現在の輸送密度(普通列車のみ)は、信越本線(長野~脇野田)が3,848人/日、北陸本線(直江津~富山県境)は1,547人/日です。富山県などと比べて沿線人口が少なく、また過疎化の進む地域のため、「定期外客をいかに増やすか」が大きな課題でした。

えちごトキめき鉄道の利用予測
▲2007年と比較した将来の輸送密度。開業時点(2015年)で2,000人/日を割り込むという、厳しい予測が示されていた。
参考:新潟県「並行在来線経営計画概要」をもとに筆者作成

収支も黒字転換する見通しがありません。2007年に試算された開業30年間の合計赤字額は、信越本線が約50億円、北陸本線が約83億円。初期費用なども含めると、沿線自治体の負担額は両線あわせて386億円と試算されました。なお、この試算は運賃をJR時代の1.6倍にして求めた結果です。

頼みの綱は、国の貨物調整金です。ただ、貨物走行区間の長い新潟県では維持管理コストが高くなることが懸念されました。

運賃据え置きで利用者離れを抑止

運賃を値上げしても大赤字と予測された、えちごトキめき鉄道。しかし、新潟県はあえて「JR時代の運賃を据え置く」という方針を打ち出します。

第三セクターは、JR時代よりも運賃が高く設定されるのが通例です。これは、儲かる路線で赤字路線を支える「内部補助」のしくみが成立しないから。新潟県がまとめた経営基本計画では、「JRの1.3倍程度まで運賃をアップしないと経営できない」という見通しが示されていました。

ただ、急激な値上げは利用者離れを引き起こすおそれがあります。そこで、「開業から5年間はJRと同水準の運賃に据え置く」という時限措置を設けたのです。この措置で増える赤字分は、県や沿線自治体の補助金で穴埋めすることになりました。

こうして2015年3月、えちごトキめき鉄道は新たな出発を迎えたのです。

定期外客を取り込む「雪月花」と「観光急行」

開業後も、えちごトキめき鉄道は収益を確保するための取り組みを進めます。なかでも注力したのは、観光事業でした。その代表格が、2016年に運行を始めたレストラン列車・えちごトキめきリゾート「雪見花」です。

新潟県は当初から「新潟県にしかできない観光列車の運行」を計画していました。それを具現化したのが、雪見花です。車内の調度品一つひとつに、新潟県が世界に誇る技術を採用。提供される料理も、地元の割烹・レストランの有名シェフが手掛けるなど、地域をあげて「おもてなし」をしています。このサービスが評判となり、利用者は年々増加。コロナ禍前の2019年には年間で6,151人が乗車し、売上は約1億円になります。

ただ、観光列車は経費も高いため利益率はそれほどよくありません。そこで、利益率の高い列車として2021年に登場したのが「観光急行」です。JR西日本が所有していた国鉄413系・455系電車を改修した車両で、運賃と500円の急行料金を払えば乗車できます。コロナ禍での運行開始でしたが、2022年には約24,000人が乗車。車内販売なども含めた関連収入は4,450万円にもなりました。

売り上げは雪見花より少なくても、経費の少ない観光急行のほうが効率よく稼げるのです。

えちごトキめき鉄道のこれまでの取り組み

観光列車以外にも、えちごトキめき鉄道と沿線自治体は、さまざまな利用促進に取り組んでいます。一例を紹介しましょう。

  • 新駅の設置(えちご押上ひすい海岸駅)
  • 関連グッズの販売
  • イベント実施(レールパークの開園、フリーマーケット、特産品の販売会など)
  • 学校行事や団体利用者への助成(運賃・しおり作成費などの補助)
  • サイクルトレインの実施
  • ほくほく線や大糸線とのコラボ企画(雪月花の運行、スランプラリーなど)
  • 観光ガイドマップや沿線見所マップの制作
  • 駅の清掃や植栽の美化活動

…など

日本海ひすいラインでは、糸魚川高校や糸魚川総合病院の近くに「えちご押上ひすい海岸駅」を2021年8月に新設。利用者の増加をめざします。また、糸魚川市の今村新田地区でも新駅計画がありましたが、採算が取れず現段階では保留となっています。

関連グッズの販売も好調のようです。駅名標のキーホルダーなどはネット販売も実施。グッズ全体の売上は1,000万円以上にもなります。

直江津運転センターの車庫を開放した「直江津D51レールパーク」も、大人から子どもまで楽しめるとして好評です。不定期の開催ですが入場者数は毎年1万人を超え、関連収入を含めると1,500万円前後の売上になっています。

このほか、マイレール意識を醸成するために、自治体ではさまざまな事業を展開。協力者への補助金も用意しています。たとえば、遠足や社会見学などの学校行事で利用する場合は、運賃のほか「しおりの作成費」なども補助。雪月花のホームで見送りに参加する人には、駅の装飾費や乗客に配付する地産品の購入費を補助します。さらに、清掃・美化活動をされる人にはゴミ袋代やプランター代なども補助しています。

地域の方に、どれだけ協力してもらえるか。それが、えちごトキめき鉄道の存続につながっているのです。

過剰設備の維持に国の支援を求め続ける新潟県

さまざまな施策で利用促進と収支改善を進めるえちごトキめき鉄道ですが、経営的には苦しい状況が続いています。
利用者数は、運賃の値上げを抑えたことや利用促進の効果もあり、ほとんど減っていません。コロナ禍以降は減少したものの、約2割減に抑えています。えちごトキめき鉄道では、2025年度の利用者数について「9,600人を維持する」という目標を掲げています。

■1日の平均乗車人員の推移

参考:えちごトキめき鉄道「中期経営計画」および「経営計画・決算情報」をもとに筆者作成

問題は収支です。収入面では、開業前の計画より約2億5,000万円多くなったものの、費用は約6億円も増えています。その理由として、鉄道施設の老朽化が想定より早く進み補修や設備更新のコストが増加したのが大きいようです。えちごトキめき鉄道は経営改善を図るため、開業6年目に入る2020年に平均1.3倍の運賃値上げを実施。収支改善に努めます。

■2015~2020年の年平均収支(単位:億円)

旅客収入6.7維持補修費19.3
線路使用料26.1人件費12.6
運輸雑収5.9運転費等8.3
県・市の支援1.8減価償却費8.3
収益計40.5費用計48.4
▲年平均の収益は40.5億円に対し、費用は48.4億円。年間7.9億円の赤字を生み出している。
参考:えちごトキめき鉄道「中期経営計画」をもとに筆者作成

そもそも、7億円弱の旅客収入に対して費用は48億円ですから、運賃の値上げだけでどうにかなる状況ではありません。えちごトキめき鉄道の収入の3分の2は、JR貨物が支払う線路使用料です。それがあっても赤字のため、新潟県と沿線自治体は「県市安定経営補助」により、鉄道運営を支えています。ただ、自治体の支援にも限界があります。

こうした状況に新潟県と沿線自治体は、「線路使用料(貨物調整金)」や「鉄道施設の更新費用」などについて、国に見直すよう働きかけています。その理由として、たとえば日本海ひすいラインの場合、電化区間ではあるものの利用者数の少なさから気動車で運行しています。つまり、貨物列車の運行に必要な設備が老朽化して更新費が増えているのに、「なぜ線路使用料は増えないのか?」という点が、国に見直しを求める理由のひとつなのです。

同じような課題に悩む並行在来線は、全国各地にあるでしょう。貨物ネットワークを維持するうえでも、実態に見合う国の支援拡充が求められるところです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【中部】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中部地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

新潟県の並行在来線のあり方に関する報告書(新潟県)
https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/64766.pdf

並行在来線経営計画(新潟県)
https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/65108.pdf

日本海ひすいライン等利用促進協議会(糸魚川市)
https://www.city.itoigawa.lg.jp/3687.htm

地方鉄道の誘客促進に関する調査
https://www.mlit.go.jp/common/001293543.pdf

経営計画・決算情報(えちごトキめき鉄道)
https://www.echigo-tokimeki.co.jp/company/management-plan/

糸魚川市地域公共交通網形成計画
https://www.city.itoigawa.lg.jp/secure/20392/moukeikakukai%20honnpen1.pdf

えちごトキめき鉄道 中期経営計画
https://www.echigo-tokimeki.co.jp/download/company/20220331_plan.pdf

えちごトキめき鉄道利用促進団体助成事業のご案内(上越市)
【リンク切れ】https://www.city.joetsu.niigata.jp/soshiki/kotsu/riyousokusindantai.html

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