【天竜浜名湖鉄道】鉄道の存続に向けた沿線自治体・住民の取り組み

天竜浜名湖鉄道の駅 三セク・公営

天竜浜名湖鉄道(天浜線)は、掛川から新所原をつなぐローカル線です。東海道本線のう回路として戦時中に建設された路線ですが、利用者は少なく、国鉄末期には特定地方交通線に指定されたことから、第三セクターとして再出発しました。

沿線自治体では、「天竜浜名湖線市町会議」という協議会を設置。減少を続ける利用者数に歯止めをかけるため、さまざまな施策を実行しています。

天竜浜名湖鉄道(天浜線)の線区データ

協議対象の区間天浜線 掛川~新所原(67.7km)
輸送密度(1987年→2019年)955→756
増減率-21%
赤字額(2019年)2億5,423万円
※輸送密度および増減率は、天竜浜名湖鉄道が発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

浜松市、掛川市、湖西市、袋井市、磐田市、森町、静岡県

天竜浜名湖鉄道と沿線自治体

天竜浜名湖鉄道天浜線をめぐる協議会設置までの経緯

天竜浜名湖鉄道は、国鉄二俣線を継承して1987年に設立されました。その発足と同時に、沿線自治体は利用促進を図るための協議の場として、「天竜浜名湖線市町会議」を設置します。

協議会では、一部駅舎の維持管理費の負担やイベントにおける相互協力、沿線の学校や企業に対する利用推進など、設置当初から積極的に活動を続けます。また、いこいの広場、原田、浜松大学前などの新駅を設置し、利便性の向上にも努めました。こうした施策の甲斐もあって、乗車人員は国鉄時代よりも増加。1990年代には、年間220万人前後の利用者数を誇りました。

ただ、1997年ごろから利用者数は大きく減少します。運賃収入も1996年をピークに減少を続け、赤字額も増えてきました。こうした状況をふまえて、協議会では1999年から支援を開始。天竜浜名湖鉄道が策定した経営基盤強化計画をもとに、「投資」というかたちで公的支援の投入が始まります。

しかし、2001年の利用者数は年間200万人を割り込み、その後も減少の一途をたどり続けたのです。

自治体・鉄道事業者・沿線住民の動き

2007年には、乗車人員が約162万人にまで減少。赤字額は、約2億5,600万円にまで増えてしまいます。危機的状況に陥った天竜浜名湖鉄道に対して、天竜浜名湖市町会議では地域公共交通再生法にもとづき「地域公共交通総合連携計画」を、2008年に策定します。

この計画書では、天竜浜名湖鉄道の活性化と再生をめざし、地域住民を含めた関係各所が力を合わせて、効果的な利用促進策を展開することが示されています。具体的には、ダイヤ改正による他線との接続改善、駅待合室の改修、企画きっぷの開発など、協議会主導でさまざまな事業を進めていきます。

天竜浜名湖鉄道の事業計画
出典:国土交通省「天竜浜名湖鉄道 地域公共交通活性化・再生総合事業」

一方の天竜浜名湖鉄道も、2009年度から「新経営計画」をスタート。利便性の向上やPR活動に注力するなど、経営改善に向けた取り組みを強化していきます。

さらに、沿線住民も動き始めます。2010年には「天浜線サポーターズクラブ」が設立。駅施設の美化活動や沿線マップの作成、情報発信PRなどの活動を通じて、マイレール意識の向上につながっています。なお、サポーターズクラブの会員数は、設立初年度で500人を超えたそうです。

存続か?廃止か?天竜浜名湖鉄道の便益を調査

沿線自治体と鉄道事業者、そして沿線住民による活動が活発化する一方で、天浜線の利用者数は伸び悩みます。2008年に策定された地域公共交通総合連携計画では、5年後(2013年)の利用者数を年間167万人に設定しました。しかし、実際には約151万人と、2008年の実績(約162万人)よりも下回る結果になったのです。

こうした事態に静岡県では、天竜浜名湖鉄道の経営分析を兼ねたプロジェクトチームを発足。社会的便益を含め、天浜線の存続・廃止を検討することになります。

そして2013年、プロジェクトチームがまとめた報告書によると、天浜線がもたらす社会的便益(移動時間の短縮や観光による集客効果など)は、年間で約26億円と算出。「廃止にすると社会的な影響が非常に大きい」と、天浜線の全線存続を求める結論に至ります。この結果を受け、沿線自治体も天浜線の存続に向けた協議を開始。年間約2億5,000万円になる赤字額を、静岡県と沿線自治体と折半して補助することが決定します。

また、協議会でもいっそうの利用促進に取り組むことを確認。沿線住民の協力もあり、2015年以降は利用者数が150万人以上に回復するなど、利用者は再び増加に転じました。

その後、2019年からは5年間で約16億円の支援が決定。継続的な存続が決まっています。

天竜浜名湖鉄道天浜線のこれまでの取り組み

天竜浜名湖鉄道で、沿線自治体や住民と協力しながら実施してきた利用促進の取り組みをまとめました。

  • 企画きっぷの販売(1日フリーきっぷ、他線との連絡フリーきっぷなど)
  • 遠州鉄道との乗り継ぎ改善・待合室の改善(デジタルポスター・掲示施設などの設置)
  • レンタサイクル
  • 枕木オーナー・レールオーナー、命名権(ネーミングライツ)による経営支援
  • 沿線の緑化活動

…など

企画きっぷには、天浜線全線で利用できる「1日フリーきっぷ」のほか、掛川~西鹿島間で使える「茶畑きっぷ」、天竜二俣~新所原間で乗降自由な「みかんきっぷ」など、複数のフリーきっぷを販売しています。このほか、JR東海や遠州鉄道が発売するフリーきっぷとも連携した企画きっぷも開発し、利用促進につながっているようです。

また、サポーターズクラブでは会員の結婚や還暦祝いなどの際に、枕木オーナー・レールオーナー、一日駅長といった特典を用意。沿線住民のマイレール意識醸成が期待されています。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【中部】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中部地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

第三セクター鉄道等協議会加盟各社の輸送実績・経営成績
https://www.akitakeizai.or.jp/journal/data/202203_kikou_02.pdf

天竜浜名湖鉄道 地域公共交通活性化・再生総合事業(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/000210165.pdf

浜松情報Book(浜名湖国際頭脳センター)
http://www.hamamatsu-books.jp/category/detail/4d1828c30dbb7.html

地域公共交通に関する新技術・システムの導入促進に関する調査業務(国土交通省総合政策局)
https://www.mlit.go.jp/common/000049066.pdf

天竜浜名湖鉄道経営支援事業(浜松市)
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/83747/2019030303.pdf

特定地方交通線における経営形態の転換と現状(交通観光研究室)
【リンク切れ】http://www.osaka-sandai.ac.jp/file/rs/research/archive/12/12-15.pdf

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