2024年3月16日、北陸新幹線が福井県の敦賀まで延伸開業しました。これと同時に、並行在来線にあたるJR北陸本線の大聖寺(石川県)から敦賀までの線区を継承したのが、第三セクター「ハピラインふくい」です。
ただ、開業前から多額の赤字が見込まれており、ハッピーといえる船出ではありません。沿線自治体は、利用促進や他の鉄道事業者と連携した経費削減策で、赤字圧縮に努めています。具体的な取り組みについて、協議会の内容から紹介しましょう。
ハピラインふくいの線区データ
協議対象の区間 | ハピラインふくい線 敦賀~大聖寺(84.3km) |
輸送密度(2019年) | 5,571 |
増減率 | – |
赤字額(2024年見込み) | 7億3,000万円 |
※赤字額は「福井県並行在来線経営計画」より見込み額を掲載しています。
協議会参加団体
福井市、敦賀市、鯖江市、あわら市、越前市、坂井市、南越前町、福井県、えちぜん鉄道、福井鉄道、JR西日本など
ハピラインふくいをめぐる協議会設置までの経緯
2012年5月16日、福井県の北陸本線沿いの沿線自治体は、北陸新幹線の敦賀延伸にともないJR西日本から切り離される並行在来線の経営分離に同意します。2013年3月29日には「福井県並行在来線対策協議会」を設置。北陸本線の将来について、検討が始まりました。
協議会では当初、並行在来線に関する広報活動に注力しています。有識者による講演会の実施やリーフレットの作成、沿線の学校や経済団体などへの出前講座開催といった周知活動を通じて、鉄道の利用を呼び掛けました。
こうした活動に取り組む背景として、福井県は自家用車の世帯普及台数が全国1位の「マイカー王国」であることが挙げられます。公共交通の利用者は少なく、とくに北陸本線は外出時の移動手段として選ぶ人が1%前後しかいないという実情もありました。
▲福井市が2019年に実施した市民アンケートの結果。外出時に利用する移動手段は、自家用車が7割以上に対して、北陸本線は平日が1.5%、土日は0.5%しかいなかった。
出典:福井県並行在来線地域公共交通計画協議会「福井県並行在来線地域公共交通計画」
利用者が少なく赤字になれば、自治体の財政負担額が重くなる可能性があります。
2018年8月2日に開催された第3回の協議会では、開業後の需要と収支の予測が示されました。これによると、需要予測は2015年と比較して、開業年(この段階では2023年)には2%減、開業10年目には14%の減少が見込まれています。
一方、開業年の収入は32.9億円(うち運賃収入は14.8億円、貨物線路使用料は17.8億円と推測)と予測。これに対して支出は41.1億円で、年間8.2億円の赤字が見込まれたのです。開業後の利用者数は減り続ける予測ですから赤字増加は明白で、開業10年目には年間15億円になると試算されています。
この結果から協議会では、利用促進策に努める一方で、運賃水準の見直しや車両運用の効率化といった収支改善の検討が確認されます。
人材不足で会社設立を1年前倒すが…
赤字対策のほかにも、沿線自治体にはもうひとつ大きな課題がありました。それは「人材不足」です。
福井県の有効求人倍率は2.12倍(2019年時点)と、全国1位の高さ。新会社では、JR西日本から約170人の出向者を受け入れるものの、それ以外にも自社のプロパー社員として100人を確保する計画でした。人手不足のなかでこれだけの人員を確保するには、相当の時間が必要です。
そこで第4回の協議会(2019年7月26日)では、会社設立を1年前倒しすることを決定します。当初は2020年度中に準備会社を設立する計画でしたが、第4回協議会から3週間後の2019年8月13日に新会社を設立。すぐに社員募集を開始し、翌2020年には第1期の社員を採用します。
ところが、この早まった行為が裏目に出ます。2020年12月、国土交通省は北陸新幹線の工事遅延などを理由に、新幹線の開業時期を1年延期することを公表します。先を見越して人材を確保した新会社は、その人たちの給与などの経費が増加してしまったのです。
もっとも、開業が延期したのは国の都合です。その後、福井県は国などと協議し、開業遅延にともなう経費の増加分(約6億2,000万円)は、鉄道運輸機構が支払うことで決着します。
経費削減のためえちぜん鉄道や福井鉄道と連携
第6回の協議会(2021年10月26日)では、「福井県並行在来線経営計画」を公表します。ここには、アフターコロナを見据えた需要予測や収支予測も掲載されています。
需要予測では、第3回の協議会で示された予測から改善。開業初年度は1日あたり20,167人が利用すると見込んでいます。ただ、将来の利用者減少は避けられず、開業10年目には1割減の18,162人と試算されています。この見通しを受けて協議会では、開業後10年間は「1日2万人の利用者を維持する」ことを目標に掲げました。
一方で収支は、運賃値上げなどで収入は増加するものの、初年度は7.3億円の赤字に。開業後10年間で約70億円の赤字を見込んでいます。この赤字を埋めるために、沿線自治体は経営安定基金の設置を決定。基金総額は70億円で、県と沿線自治体で拠出することが確認されます。
なお、経営計画には、えちぜん鉄道や福井鉄道と連携することでコスト削減をめざす考えも示されています。具体的には、資材の共同調達や工事を一括発注することで経費を削減するというものです。
実は、えちぜん鉄道と福井鉄道では2020年度より、施設や設備の更新にともなう工事の一括発注をおこなっており、経費削減効果が認められたという実績がありました。これにハピラインふくいも参画し、より効率的な運用をめざそうという計画です。
工事のほかにも、線路・送電線の検査や保守作業に必要な機器の共同利用も検討。2022年度より、3社合同の勉強会を開催して実現をめざします。また、技術者を派遣しあったり資機材や物資を提供したりするといった経費削減の取り組みも、検討が進められています。
ハピラインふくいの取り組み予定内容
経営計画の策定により、福井県並行在来線対策協議会は解散します。その継承団体として、2022年3月28日に「ハピラインふくい利用促進協議会」を設置。利用促進を中心に、沿線住民とも連携した取り組みを進めていくことになりました。
ハピラインふくい開業後に予定されている、主な取り組みについてお伝えしましょう。
- 新駅設置計画
- 増便・快速列車の運行
- 他の交通事業者との連携
- パークアンドライドの整備
- 駅および駅周辺の環境美化等
- サポーターズクラブの設置(ハピラインファンクラブ)
- イベント実施
…など
新駅は、越前市や福井市などで設置計画が進んでいます。
このうち越前市では、王子保~武生間の武生商工高校(旧・武生工業高校)近くに新駅が開設される予定です。武生商工高校は、2020年に2つの高校が統合して誕生した学校ですが、校舎は別れたままです。これを2025年にひとつに集約することが決まっており、それと同時に新駅を設置するため、2024年度中に工事が着手される予定です。また福井市では、福井~森田間の近町踏切付近を新駅候補地として挙げており、協議が進められています。
運行面では、普通列車の増便と快速列車の新設を予定しています。快速列車は福井~敦賀間で朝夕に計8本を設定。普通列車も含めた1日の運行本数は、24本増の126本になる予定です。ほかにも、IRいしかわ鉄道との相互乗り入れやJR線との接続改善もおこなわれ、利便性の向上に努めます。
サポーターズクラブも、2023年10月2日より会員募集が始まっています。「ハピラインファンクラブ」という組織で、年会費は1,000円(家族会員は500円)。会員には、1日フリー乗車券(1,500円相当)がプレゼントされるほか、沿線の協賛店で特典サービスも予定されています。
このほか、駅舎を活用したイベント実施や他の交通事業者との共通フリーきっぷの販売、名誉駅長の委嘱、観光イベント列車の運行なども計画中。沿線住民に愛される鉄道をめざすハピラインふくいは、これからが正念場です。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。
参考URL
福井県並行在来線地域公共交通計画(福井県並行在来線地域公共交通計画協議会)
https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/013561/heikouzairai_d/fil/zen.pdf
福井県並行在来線対策協議会
https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/013561/taisakukyo.html
ハピラインふくい利用促進協議会について(福井県)
https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/013561/riyousokusinnkyougikai.html
並行在来線会社の利用促進に向けた取組みについて
https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/013561/heikouzairai/riyousokusin1_d/fil/kaisyariyousokusin.pdf
ハピラインファンクラブ
https://hapi-line-fc.com/