【信楽高原鉄道】公有民営方式で廃止の危機を乗り越えた信楽線

信楽高原鐵道の信楽駅 三セク・公営

信楽高原鉄道は、貴生川から信楽までを結ぶ第三セクターの鉄道事業者です。全線が滋賀県甲賀市にあり、沿線には信楽焼や忍者屋敷などの観光施設も多く、コロナ禍前は黒字経営が続いていました。

ただ、黒字経営の背景には沿線自治体の多大な支援があります。幾度と廃止の危機に直面してきた信楽高原鉄道が、現在も存続できている理由や、沿線自治体と一丸となった利用促進策について紹介します。

信楽高原鉄道の線区データ

協議対象の区間信楽線 貴生川~信楽(14.7km)
輸送密度(1987年→2019年)1,328→986
増減率-26%
黒字額(2019年)215万円
※輸送密度および増減率は、信楽高原鉄道が発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※黒字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

甲賀市、滋賀県、観光団体など

信楽高原鐵道と沿線自治体

信楽高原鉄道をめぐる協議会設置までの経緯

信楽高原鉄道は、国鉄信楽線(JR信楽線)を継承して1987年7月に開業しました。開業当初は利用者数が増加傾向にあり、1991年には約74万人にまで達します。また、ワンマン化や駅の無人化といった経営合理化も実施。1991年までは黒字経営で、第三セクターの「優等生」だったのです。

しかし、1991年5月に起きた列車衝突事故を境に、経営状況は大きく一転します。事故後、一時的な運休があったことにくわえ、交通環境の変化や、沿線の少子化・過疎化も拍車をかけ、赤字経営が常態化。2008年には利用者数が50万人を下回り、年間の赤字額は4,000万円を超えていました。

赤字の補てんは、沿線自治体の甲賀市や滋賀県などが支援するものの、財源は無限ではありません。こうした状況から甲賀市は、滋賀県や観光団体などと連携し、2012年に「甲賀市信楽高原鉄道沿線地域公共交通活性化協議会」を設置。鉄道の「今後のあり方」について協議することになります。

協議会では、沿線住民へのアンケートを実施し、信楽高原鉄道の必要性についても尋ねています。その結果、約6割の住民が「必要とする市民がいる限り、鉄道会社の努力に加え、市の補助(税金投入)を増加させることで信楽高原鉄道を維持すべき」と回答。この結果から、地域に必要な路線として存続の道を探ることになったのです。

信楽高原鉄道の住民アンケート回答例
▲甲賀市信楽地域の住民を対象に実施した市民アンケート調査。普段利用しない人も含め約6割の人が、公的資金の増加に賛同している。
参考:甲賀市信楽高原鐵道沿線地域公共交通総合連携計画のデータをもとに筆者作成

公有民営方式で信楽高原鉄道の存続へ

信楽高原鉄道の存続に向けて、協議会が導き出した答えは「公有民営方式への移行」でした。

これは、信楽高原鉄道が保有する線路や車両などの鉄道施設を甲賀市に無償譲渡し、信楽高原鉄道に無償で貸し付けて運行させるという、上下分離方式のスキームです。これにより、信楽高原鉄道の維持管理費は大幅に軽減し、黒字経営も目指せます。

2012年12月、甲賀市は地域公共交通活性化再生法にもとづいた鉄道事業再構築実施計画を策定。計画期間は2013年度から2022年度までの10年間で、利用促進策を含めた信楽高原鉄道への支援内容を公表します。

こうして2013年4月、信楽高原鉄道は新たな体制のもと再出発したのです。

災害復旧に地方交付税を活用

公有民営方式に移行して5カ月後、信楽高原鉄道に再び大きな危機が訪れます。2013年9月、台風18号が接近。大雨により、杣川(そまがわ)にかかる橋脚が流失し、さらに路盤の陥没や土砂崩れなど、甚大な被害が出てしまいます。

復旧費用は7億円以上。この費用について、鉄道軌道整備法にもとづく災害復旧の補助制度を活用する場合、鉄道事業者が2分の1、地方と国が4分の1ずつ負担することになります。ただ、線路などの鉄道施設は甲賀市が保有するため、事業者分を含めた4分の3を甲賀市が負担しなければなりません。

人口10万人に満たない自治体が、これだけの費用を鉄道のために支出するのは困難です。信楽高原鉄道は、再び廃止の危機にさらされます。

しかし、公有民営方式に移行したことが、信楽高原鉄道を救うことになります。公有民営方式では、自治体の助成経費に対して地方交付税の措置が受けられます。つまり、地方交付税措置を活用することで、甲賀市の負担額の95%を国が肩代わりしてくれるのです。これにより、実質の負担額は2,000万円台にまで圧縮されます。

災害から3カ月後の2013年12月、甲賀市は信楽高原鉄道の復旧を表明。それから約1年後の2014年11月に、全線復旧を果たしたのです。

信楽高原鉄道のこれまでの取り組み

信楽高原鉄道の利用促進に関する取り組みの一例を紹介します。

  • 窯元や美術館などとのコラボ企画
  • ラッピング列車の運行
  • 企画乗車券の販売(信楽焼の乗車記念切符)
  • 運転士の自社養成
  • 関連グッズの開発・販売
  • パークアンドライド・サイクルアンドライド
  • レンタサイクルの運営
  • 枕木オーナー制度の導入

…など

鉄道事業再構築実施計画では、鉄道の存続には行政だけでなく、沿線住民や法人なども含めた地域全体を巻き込むことの重要性をうたっています。

具体的には、滋賀県立陶芸の森で開催される企画展にあわせてラッピング列車を運行したり、信楽焼の窯元や忍者屋敷をめぐる観光ツアーを企画したりと、住民や法人と連携した取り組みにより地域活性化も図っています。とりわけ忍者ラッピング列車は、観光客に好評のようです。

また、企画乗車券の販売に注力していることも信楽高原鉄道の特徴です。年末には翌年の干支にちなんだ「干支きっぷ」、受験シーズンには「合格切符」などを販売。これらは信楽焼の陶器で製作されていることも、人気を集める理由です。ほかにも、キーホルダーやストラップ、ピンバッチといったオリジナルグッズの販売にも力を入れています。

公有民営方式に移行後、信楽高原鉄道はコロナ禍前まで黒字経営が続きました。ただ、これは鉄道運行の「上」のみの収支であり、線路や設備といった「下」については甲賀市などが10年間で約25億円を支援したことで実現しています。なお、この支援には国からの補助も含まれます。

鉄道事業再構築実施計画は2022年で期限が切れますが、2023年度以降も継続されます。ただし、第二期となる2023年以降は国の補助金は減額され、甲賀市の負担が重くなる見込みです。自治体の負担を少しでも抑えるために、さらなる利用促進が求められるでしょう。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【近畿】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
近畿地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

会社情報(信楽高原鐵道)
https://koka-skr.co.jp/company.html

甲賀市信楽高原鐵道沿線地域公共交通総合連携計画(甲賀市)
https://www.city.koka.lg.jp/secure/10925/shigarakikougentetudouensentiikikoukyoukoutuusougourenkeikeikaku.pdf

土地総合研究(2014年冬号)
https://www.lij.jp/html/jli/jli_2014/2014winter_p068.pdf

信楽高原鐵道の鉄道事業再構築事業の概要(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/000989239.pdf

地方鉄道の誘客促進に関する調査(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001293543.pdf

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