【宇都宮ライトレール】LRTは不要?ライトレール開業までに30年もかかった理由

宇都宮ライトレールのLRT 三セク

2023年8月26日、新規路線のLRT(ライトレール・トランジット)としては日本初となる「宇都宮ライトレール」が運行を開始しました。構想から30年を経てようやく「第一期」の区間が開業した宇都宮ライトレールは、宇都宮駅東口と、市の東部から芳賀町にかけて広がる工業団地とを結ぶ約15kmの軌道路線です。

開業に至るまでは政局に翻弄され、またバス事業者から反対されるなど、計画が一向に進まない時期もありました。LRTが新たに誕生するまでの紆余曲折を振り返ります。

宇都宮ライトレールの線区データ

協議対象の区間宇都宮芳賀ライトレール線 宇都宮駅東口~芳賀・高根沢工業団地(14.6km)
輸送密度約10,000
黒字額(開業3年目)1億3,600万円
※輸送密度は、宇都宮市「芳賀・宇都宮LRTの車両について」に記載されている予想値です。
※黒字額は、宇都宮市「収支計画について」に記載されている3年目の予測額です。

協議会参加団体

宇都宮市、芳賀町、栃木県、バス事業者など

宇都宮ライトレール(LRT)の路線図
出典:芳賀・宇都宮LRT公式ホームページ「LRTについて」

宇都宮市でLRT新設が決まるまでの経緯

宇都宮市で、新しい交通システムの検討が始まったのは1993年。宇都宮市街地開発組合と栃木県、宇都宮市が「新交通システム研究会」を設置したのが最初といわれます。

宇都宮市では、市の東部に造成された大規模工業団地に向かうマイカーやトラックで、激しい渋滞が頻繁に発生していました。また、この工業団地の周辺に宅地開発が進むなか、バス路線が乏しく移動が不便な地域が多いという課題もありました。これらの課題を解決するには、宇都宮都市圏を東西に貫く新たな交通システムが必要と考えた研究会は、モノレールやガイドウェイバスなど新規路線の検討を始めます。

ただ、新規でモノレールをつくると、1kmあたり100億円前後の建設費がかかり採算が取れません。もっと安価で、輸送力や定時性に長けた交通モードを求めた結果、2001年4月に次世代型路面電車の「LRT」が適していると報告。この報告を受けて宇都宮市と栃木県は、より本格的に検討する組織として、経済団体や交通事業者を交えた「新交通システム導入推進協議会」を設置します。

新交通システムの比較
▲LRTのほかにも、BRTやAGT(ガイドウェイバスなど)、モノレールとも比較。輸送力や建設費、環境面への配慮なども考慮した結果、LRTが選ばれた。
出典:栃木県「改善・充実への取組(LRT)

LRT反対派の登場―政局に翻弄された13年

宇都宮市の試算によると、LRTの建設費は1kmあたり約25億円。仮に、路線長が10kmなら250億円です。

この費用に難色を示す人が現れます。2000年に就任した、当時の栃木県知事です。これまで県と宇都宮市が一緒に進めてきたLRT計画ですが、知事は「採算性が確保できない」などの理由で、計画の凍結を求めます。さらに栃木県は、2004年度の予算からLRT調査費の計上を取りやめるなど、知事の交代により県の方針が大きく転換したのです。

この状況を打開するため、当時の宇都宮市長は、2004年の栃木県知事選挙に立候補。あわせて実施される宇都宮市長選挙にはLRT推進派の候補者を擁立し、LRTの賛否を決める選挙になります。

結果は、県知事・市長ともに推進派の勝利。県も含めて、LRT計画は再始動します。ただ、宇都宮市民のなかには「採算性が確保できない事業は税金の無駄使いだ」と、LRT反対を掲げる団体が次々に発足し、その後も推進派と反対派の問答が続きます。2008年の宇都宮市長選挙でも、推進派の現職と反対派の新人の戦いとなり、結果的には推進派の現職が勝利しますが、こうした政局に翻弄される日々が2013年まで続くのです。

バス事業者によるLRT反対運動

2006年11月、JR宇都宮駅から東武宇都宮駅にかけての中心街で「大通りにぎわいまつり」というイベントが実施されます。

このイベントでは、LRT新設に向けた社会実験もおこなわれました。まず、大通りには一般車両を通行禁止に。代わりに、LRTに見立てた路線バスのみ通行できる車線を確保し、中心街にどれだけ人が集まるかを実験したのです。沿道では、フリーマーケットなどの出店やジャズフェスティバルも開催。来場者数は約9万人と、予測(6万人)を大きく上回ります。

この実験を、複雑な思いで見ていた企業がありました。栃木県で圧倒的なシェアを誇るバス事業者の関東自動車です。関東自動車は、イベントが開催された大通りで多くのバスを運行しています。ここにLRTができると、運賃収入が激減して経営を圧迫されるのが明白です。

当時の関東自動車は経営危機に陥っており、産業再生機構の支援を受けながら営業を続けていました。こうした事情からLRTには反対の立場で、宇都宮市や栃木県に意見書を提出していました。

ただ、宇都宮市などの行政側としては、LRTを成功に導くうえで関東自動車の協力が不可欠でした。行政側の考えでは、LRTを幹ととらえ枝を関東自動車などのバスが担うことで、持続可能な公共交通網を構築したかったのです。その枝がなければ、幹であるLRTも利用者が伸び悩み不採算に陥る可能性があります。

こうしたなか2008年4月、関東自動車はLRTを推進する協議会の対抗組織として「バスシステム検討委員会」の設置を宇都宮市に求めます。このため宇都宮市は、BRTなどの路線バスを活かした新交通システムについても検討していくことになったのです。

しかし、関東自動車の構想は早々に打ち砕かれます。2009年3月にバスシステム検討委員会がまとめた報告書には、LRTを推進する内容となっており、関東自動車の意向が反映されていませんでした。この報告書に関東自動車は激怒。バスシステム検討委員会は解散してしまいます。

その後も関東自動車はLRT反対の立場を取り続けますが、2012年4月にみちのりホールディングスの傘下となり経営陣が刷新。LRTに肯定的な姿勢に転じ、協力するようになっていきます。

国の支援が受けられずLRT計画が最大のピンチに

2007年10月、国は地域公共交通活性化再生法を施行します。この法律ができたことで、上下分離方式を導入するなど自治体が支援する鉄軌道に対して、国からの支援が受けやすくなりました。

宇都宮市も、法律にもとづく支援制度を活用するため、LRTの事業形態を公設民営の上下分離方式にすることを決定。計画が国に認められたら建設費などの支援が得られるほか、開業後の事業者負担も大幅に軽減でき収支改善も期待されます。

国の支援を受けるのに先立ち、宇都宮市は2008年3月に第5次宇都宮市総合計画を策定。「ネットワーク型コンパクトシティ(連携・集約型都市)」という新たなビジョンを提示します。これは、中心市街地や駅周辺、産業・観光地などの各拠点に必要な機能を集約したまちづくりを進めるとともに、それぞれの拠点を利便性の高い公共交通で連携(ネットワーク化)した、都市計画のビジョンです。そのビジョンを実現するうえで、「LRTも重要な役割を担う」と総合計画では伝えています。

LRTの実現に向けて着々と準備を進めるなか、国の支援が得られなくなる最大のピンチを迎える出来事がありました。2009年8月の衆議院選挙で、当時の民主党が政権を握ったのです。

民主党はマニフェストで、自動車中心からLRTなどの公共交通を重視したまちづくりへの転換を推進していました。その一方で、公共事業の大規模削減も公約に掲げています。LRT計画が前者だと認められたら、支援の拡充が期待できます。しかし結果は、後者でした。その理由は、またもや政局にあったのです。

国との調整役を担う民主党の栃木県連の代表に、2004年の県知事選で落選したLRT反対派の元知事が就任。2009年11月、民主党の栃木県連は公共事業の見直しとして「LRT計画の中止」を、栃木県と宇都宮市に申し入れます。

栃木県と宇都宮市としては反論したいところですが、今後の政局がどうなるか不透明な状況では、計画を前に進めることができません。また、この時点では関東自動車の協力も得られていないこともあり、LRT計画は再び暗礁に乗り上げてしまいます。

地道な啓蒙活動でLRT計画が再始動

2011年2月、宇都宮市は「うつのみやが目指すまちづくりと公共交通ネットワーク」というパンフレットを市内の全世帯に配布します。市が目指すまちづくりと公共交通ネットワークについて、市民からの声を集めるのが目的です。さらに同年8月からは、市内各地でLRTの説明会を実施。市民と意見交換ができる場を設けることで、LRTの賛同を促す地道な活動が続きました。

こうした活動から、再びLRT計画に対する市民の関心が高まっていきます。そこで宇都宮市は、2012年3月に「東西基幹公共交通の実現に向けた基本方針」を策定。ネットワーク型コンパクトシティの実現に向けて、宇都宮都市圏を東西に結ぶLRTの重要性を再び示したのです。

2012年には、民主党政権が失脚。さらに、関東自動車がみちのりホールディングスの傘下となり、LRTに協力的な姿勢に転じたことも追い風となって、機運は高まってきました。

2013年10月には、宇都宮市に隣接する芳賀町が、LRT路線の延伸を求める要望書を宇都宮市に提出します。これを機に、「芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会」が同年11月21日に設置され、LRTの再検討が本格的に始まりました。この委員会には、国土交通省や栃木県の土整備部、栃木県警なども参加。さらにオブザーバーとして周辺自治体やJR東日本、東武鉄道などの公共交通事業者も参加します。そのなかには、関東自動車の姿もありました。

LRTの運行を担う事業者も、2015年11月に決定します。沿線自治体や地元企業が出資する第三セクターの「宇都宮ライトレール株式会社」が設立。県内26社の出資企業のなかにも関東自動車が参画し、方針転換したことがうかがえます。なお、宇都宮ライトレールにはLRTの運行ノウハウがありません。そのため、運転士の養成や技術研修として、東急電鉄や富山地方鉄道、広島電鉄などが協力することになりました。

宇都宮ライトレール開業へ

LRTの運行事業者が決定した2015年11月には、宇都宮市と芳賀町が「芳賀・宇都宮東部地域公共交通網形成計画」を策定しています。この計画は、地域公共交通活性化再生法にもとづいて策定されたもので、これが国に認められると建設費などに多額の支援が受けられます。

2016年9月、国はこの計画を認可。LRTの着工に向けて大きく前進します。ちなみに、事業費は当初458億円とされましたが、基礎仕様の変更や建設需要の増加などの影響で最終的には684億円に増額。このうち半分を国が支援し、残りは宇都宮市と芳賀町、栃木県が負担しています。

こうして2023年8月26日に、宇都宮駅東口~芳賀・高根沢工業団地の14.6kmのLRTが新規開業します。開業時の利用者数は、平日が当初の予測通り12,000~13,000人、また休日は予測を上回る9,000~12,000人です。

なお、収支に関して開業1年目は赤字を見込んでいますが、2年目以降は利用者の増加にともない黒字になると予測。開業3年目には1憶3,600万円の黒字に、さらに8年目には開業前経費の累積損失が解消すると計画しています。

■宇都宮ライトレールの利用状況

平日(1日あたり)土日祝(1日あたり)
開業1カ月目約12,000~13,000人約15,000~16,000人
開業2カ月目約12,000~13,000人約11,000~12,000人
開業3カ月目約13,000人約11,000~12,000人
開業4カ月目約13,000人約10,000人
開業5カ月目約12,000人約9,000人
▲開業後5カ月間の利用状況。開業フィーバーもあって、当初の予測(平日12,800人、休日4,400人)を上回る利用があった。
参考:宇都宮市「芳賀・宇都宮LRT事業について」の資料をもとに筆者作成

東武宇都宮駅方面への延伸はいつになる?

宇都宮ライトレールの開業により、渋滞の減少などさまざまな影響が報告されています。電停の近くにパークアンドライドを設置し、車から公共交通機関に乗り換える人が増えたのもLRT効果のひとつです。とくに、平石や清原地区市民センター前の駐車場では7割以上が稼働しており、渋滞の緩和に貢献しています。

一方で、宇都宮市東部の路線バスは大きく再編され、LRTと接続する新設バス路線を設けましたが、利用者数は1便あたり5人未満と芳しくない状況が続いています。ただ、需要の定着には3年程度かかるとみられ、今後増えることを期待したいところです。

よい影響をさらに広げるために、宇都宮ライトレールではJR宇都宮駅西口から東武宇都宮駅など市の中心街を経由し、栃木県教育会館前までの約5kmを延伸する計画を進めています。2024年2月時点での計画では、2025年度中に工事を申請し、2030年代の開業をめざすとしています。

宇都宮ライトレール(LRT)の延伸計画
出典:宇都宮市「芳賀・宇都宮LRT事業について」

ただ、宇都宮駅の西側は東側よりもバス路線が多く、路線の再編や交通結節点の設置など課題も多いと思われます。こうした課題をクリアにし、LRTを核に自動車やバスとも共存するまちづくりを進めてほしいところです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【関東】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
関東地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

芳賀・宇都宮LRTの車両について(宇都宮市)
https://www.city.utsunomiya.lg.jp/res/projects/default_project/_page/001/006/078/150824shiryou4.pdf

収支計画について(宇都宮市)
https://www.city.utsunomiya.lg.jp/res/projects/default_project/_page/001/006/078/151112shiryou4.pdf

改善・充実への取組(栃木県)
https://www.pref.tochigi.lg.jp/h03/town/koukyoukoutsuu/koukyoukoutsuu/documents/4_lrt.pdf

宇都宮市のLRT -これまでとこれから(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/citylife/22/0/22_19/pdf

東西基幹公共交通(LRT)の取組状況等について(宇都宮市) https://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/_res/projects/default_project/_page/001/006/078/131121shiryou2.pdf

ネットワーク型コンパクトシティ(宇都宮市)
https://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/res/projects/default_project/_page/001/023/188/chu3mirai2.pdf

芳賀・宇都宮LRT事業について(宇都宮市)
https://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/res/projects/default_project/_page/001/033/975/r60201shiryo.pdf

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