【JR北海道】函館本線(函館~長万部)は貨物専用線として存続できるか?

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函館本線を走行する貨物列車 JR
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函館本線の函館~長万部は、北海道新幹線の札幌延伸開業にともない、並行在来線としてJR北海道から切り離される線区です。この線区は現在、札幌と函館を結ぶ特急列車も運行していますが、新幹線が延伸開業すれば普通列車のみのローカル線に転じます。

ただ、函館~長万部は道内各地と本州をつなぐ貨物列車が1日約50本も走り、日本の物流を支える重要な線区という側面もあります。その線区がいま、廃止の危機に直面しているのです。

函館~長万部の鉄路は、今後も残せるのでしょうか。沿線自治体が中心となって組織する「北海道新幹線並行在来線対策協議会(渡島ブロック)」の議事録を中心に、旅客列車の存続に対する自治体の考えや、貨物専用線として存続させる動きについても解説します。

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JR函館本線(函館~長万部)の線区データ

協議対象の区間JR函館本線 函館~長万部/大沼~森(147.6km)
輸送密度(1987年→2019年)5,492→3,397
増減率-38%
赤字額(2019年)67億6,600万円
営業係数257
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

函館市、北斗市、七飯町、鹿部町、森町、八雲町、長万部町、北海道、渡島総合振興局

函館本線(函館~長万部)と沿線自治体

北海道新幹線並行在来線対策協議会(渡島ブロック)設置までの経緯

2010年5月12日、JR北海道は北海道新幹線の札幌延伸で経営分離される在来線区間が「函館~小樽間」であることを正式に表明します。これを受けて沿線の15市町は、翌2011年12月までに経営分離に同意。整備新幹線の着工が認可されるとともに、並行在来線の将来は沿線自治体に託されました。

2012年9月には、沿線自治体が中心となり「北海道新幹線並行在来線対策協議会」を設置。15の自治体が一堂に会し、第1回の協議会が開催されます。ただ、長大路線であることから地域事情が異なります。そこで、第2回以降は「後志ブロック」と「渡島ブロック」の2つの地域にわけて、話し合いが進められることになりました。

ここでは、函館~長万部の渡島ブロック会議についてみていきます。

道南いさりび鉄道の開業と並行して協議開始

渡島ブロックとしての1回目の会議は、2012年11月に開催されます。

この会議では、函館~長万部間における現状の流動状況と将来の需要予測、貨物調整金などの支援制度、並行在来線の先行事例の紹介といった国や道からの説明が主でした。このうち需要予測の資料をみると、新幹線開業時(この段階では2035年度)の乗車人員は1,977人、輸送密度は237人/日と試算。2011年度比で、2~4割減になることが示されています。

2011年2035年2045年
乗車人員(人)2,9131,9771,737
輸送密度(人/日)326237205
▲函館~長万部の需要予測。開業年とされた2035年には、現況(2011年)より約2~4割も減少すると予測された。
参考:第1回渡島ブロック会議「函館線(函館・小樽間)の旅客流動調査・将来需要予測調査の結果について」をもとに筆者作成

なお、第1回ブロック会議の段階では、北海道新幹線の新青森~新函館北斗がまだ開業していません。そのため、新幹線開業後に江差線を継承する新会社設立に向けた進捗報告も、ここで説明がありました。

北海道新幹線が開業して1年後の2017年3月に開催された第5回ブロック会議では、道南いさりび鉄道の1年間の運営状況や、2014年に廃止された木古内~江差のバス転換事例について報告されています。

この段階になると、函館~長万部の鉄路維持に向けて、具体的に動き始めようと考える沿線自治体が増えてきます。なかには、「特急利用者が新幹線に移ったら、ローカル線の利用者がどれくらいになるのか」といった、細かなデータを求める自治体もみられました。こうしたデータは、JR北海道に確認する必要があります。

ちなみに、これまでのブロック会議にJR北海道は参加していません。そこで、次回の会議ではJR北海道を招集して、細かなデータを開示してもらうとともに、質疑応答をおこなうことが確認されます。

なお、道南いさりび鉄道の成り立ちや協議会の進捗状況は、以下のページでお伝えします。

貨物列車の運行はどうなる?

2019年7月に開かれた第6回ブロック会議。前回の自治体からの要望に応えて、JR北海道が初めて参加します。

JR北海道は、函館~長万部間の駅別乗車人員や収支状況、今後必要な大規模修繕費用といったデータを開示。収支は年間約62億円の赤字(2017年度)、今後20年間に必要な大規模修繕費用は約25億円で、ほかにも車両更新費用として約32億円も別途必要だと示します。

厳しい現実を見せられるなかで、沿線自治体の八雲町から新たな疑問が挙げられました。それは、JR貨物の処遇です。

従来、貨物列車が走行する並行在来線では、JR貨物の線路使用料として「貨物調整金」が支払われてきました。この貨物調整金が、新たに誕生する第三セクター鉄道事業者の大きな収入の柱になることは、沿線自治体も認識しています。貨物列車の存廃は、沿線自治体にとって重要な問題です。そこで八雲町は「貨物列車が残るかは決まっていないのか?」と、JR北海道に質問します。

ただ、これを決めるのはJR北海道ではありません。JR貨物と荷主、北海道、そして国が相談して決定することですから、JR北海道は「コメントする立場にはない」と回答します。

その返事に困惑する沿線自治体。八雲町は、オブザーバーとして参加している北海道交通企画監に、返答を求めます。北海道交通企画監は、国交省の内部で検討中として「情報が入り次第報告する」と伝えます。

【北海道交通企画監】
○ 私どもの承知している範囲で申し上げますと、今、国交省の内部で検討しているとのことですので、その辺について引き続き私たちで連絡を取って参りますので、情報が入りましたらその辺も含めて、情報共有したいと思います。

出典:北海道新幹線並行在来線対策協議会 第6回渡島ブロック会議 議事録

貨物調整金が得られるかもわからない状況に、沿線自治体はさらに困惑してしまいます。仮に、次回のブロック会議にJR貨物を招集しても、「荷主や北海道とも協議が必要」という話になるでしょう。自治体のあいだに「ここで議論しても、何も決められない」という空気が漂い始めます。

それから1年後の2020年8月に開催された第7回も、JR北海道を招集しての開催です。ここでも沿線自治体から、貨物に関する質問が集中します。たとえば、「函館~長万部の線路使用料は、いくらもらっているのか?」といった、具体的な数値を求める質問も出てきます。

なお、線路使用料はJR貨物と旅客鉄道事業者が話し合って決めるのが通例です。このため、JR北海道が受け取っている使用料が、継承する新会社が受け取る額と同じになるとは限りません。ましてや、JRグループはアボイダブルコストルールにより線路使用料が割り引かれています。つまり、ここでJR北海道に質問しても参考にならないのです。

とはいえ、沿線自治体からみれば貨物調整金が新会社の収益の柱になるわけですから、できる限り細かなデータを提示してほしいわけです。それ以前に、これまでのブロック会議では「収支予測」すら示されていませんでした。そこで沿線自治体は、函館~長万部の具体的な収支予測を提示するよう事務局に申し入れます。

収支予測の公表で議論が紛糾

第8回ブロック会議(2021年4月)では、函館~長万部間の収支予測が公表されます。ここでは、以下3つのパターンでシミュレーション結果が報告されました。

(1)全線で鉄道存続
(2)全線をバス転換
(3)函館~新函館北斗は鉄道存続

函館~新函館北斗は新幹線の乗り換え利用者も多く、2018年度の輸送密度は4,000人/日を超えています。このため、函館~新函館北斗のみ鉄道を存続させるパターンも検証されました。

まず、(1)のパターンでは初年度が18.8億円、開業から30年で約944億円の赤字です。(2)のパターンは、初年度が2.5億円、開業から30年で約130億円の赤字。そして(3)のパターンは、初年度が9.4億円、30年間で約484億円の赤字という試算結果でした。なお、(3)の試算には新函館北斗~長万部の代替バスの収支は除外しています。

この報告書に、議論が紛糾。「初期投資額がなぜ317億円もかかるのか?」「貨物列車の線路使用料が40億円と仮定しているが、列車の本数が減ればこの額も減るのか?」「お金の話だけで進めると絶対バスになる!」などの意見が続出します。

遅々として進まない協議に、森町が「幹事会レベルで検証後、ブロック会議を開いてはどうか」と提案します。細かい部分まで収支を見直したうえで、改めて協議しようということになったのです。これについて、他の市町も同意。第8回ブロック会議は閉会します。

函館~新函館北斗は存続をめざすことに

2022年8月、第9回ブロック会議が開催。JRから譲渡される資産の内訳や、運賃改定を見越した収入の見直しなど、細かい部分までブラッシュアップされた収支予測が報告されます。

ただし、赤字額は厳しい数値のままでした。(1)のパターン(全線で鉄道存続)の場合、初年度は14.4億円の赤字(約4億円の改善)、開業から30年で約817億円の赤字(約127億円の改善)です。億単位の改善がみられても、自治体にとって重い負担であることは言うまでもありません。

初期投資額2030年2040年30年累計
鉄道288.6▲14.4▲16.8▲816.8
バス37.5▲2.8▲2.9▲157.4
鉄道+バス147.7▲9.1▲11.0▲510.1
▲初期投資額と単年度収支(2030年度と2040年度)の予測(単位:億円)。鉄道+バスは、函館~新函館北斗の鉄道を存続させた場合の収支。開業年(2030年度)には約9億円の赤字が見込まれる。
参考:第9回渡島ブロック会議「函館線(函館・長万部間)における将来需要予測・収支予測調査の精査について」をもとに筆者作成

ただ、この協議会では函館市と北斗市が、さらなる精査を前提に「函館~新函館北斗間の鉄道存続」を表明しています。その際、北斗市は道南いさりび鉄道の経営状況と比較して、鋭い指摘をしていました。

【北斗市長】
私どもは現在、道南いさりび鉄道も運営してございます。例えば運行距離だけを申し上げますと、函館・新函館北斗間というのは半分なんですね。半分の運行距離なんですが、単年度の収支というのは逆に大きな金額になっていると。この辺はかなり検討する余地は私はあるのではないかと考えております。

出典:北海道新幹線並行在来線対策協議会 第9回渡島ブロック会議 議事録

道南いさりび鉄道の赤字額は、貨物調整金や沿線自治体の補助金などを除くと、年間約15億円です。ただ、営業キロは約38kmと、函館~新函館北斗(約18km)の2倍以上あるため、前回示された年間約9億の赤字試算は高すぎるのではないかと、指摘したのです。

もっとも、単行ディーゼルが基本の道南いさりび鉄道と、3両編成の電車も走る線区では経費が大きく異なります。とはいえ、さらなる精査は必要でしょう。

函館~新函館北斗の鉄道存続については、沿線にあたる七飯町も支持しており、他の町からも異論は出ていません。一方で、新函館北斗~長万部間についての発言は一切ありませんでした。これは、貨物列車の存廃にもよりますから、沿線自治体だけでジャッジできないからです。

なお、渡島ブロックの旅客列車の存廃判断は、2025年度内に結論を出すとしています。

国・道・JR貨物・JR北海道の4者協議で「函館本線の維持」へ

第9回ブロック会議から3週間後の2022年10月、国土交通省は函館~長万部における貨物列車の役割を検討する新たな組織を立ち上げます。その組織が「北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する情報連絡会」です。

従来の並行在来線のように、沿線自治体が第三セクターとして鉄道を維持する場合、イニシャルコストが約289億円、ランニングコストが年間約14億円の赤字負担となるため、沿線自治体の財政力では現実的とはいえません。

そこで国土交通省は、北海道との共同事務局として連絡会を設置。函館~長万部間の旅客廃止も想定して、北海道と本州の安定的な物流を確保するための方策を議論することになったのです。

この連絡会の構成メンバーは、国土交通省、北海道、JR貨物、JR北海道の4者。2022年11月から2023年7月まで、4回開催されました。連絡会では、船舶や新幹線による貨物輸送の可能性も検討されています。しかし、以下の点で「船舶や新幹線での代替は困難」という意見でまとまっています。

■船舶や新幹線に貨物輸送を置き換えるときの課題

(1)新たな船舶や航路が必要
農作物の輸送が主のため物流量に季節変動が大きく、ピーク時に合わせた船舶輸送の供給量の確保など余剰供給となることが課題(鉄道は変動分を吸収してきた実態がある)。

(2)安定的なトラック輸送の確保
特に、道北やオホーツク地域から太平洋側の港湾までのトラック輸送の確保が懸念される。また、関西以西に直行する定期航路がなく、本州側の港湾からのトラック輸送にも同様の課題がある。

(3)CO2排出量の増加
船舶とトラックによる輸送のほうが、CO2排出量が増加する可能性がある。ゼロカーボンを目指すなかで、適切か否かの検証が必要。

(4)貨物新幹線が実現した場合の課題
仮に新幹線で貨物輸送をする場合、旅客新幹線とのダイヤ調整が必要。また、荷主の獲得や価格設定など運賃収入の確保にも課題がある。

このほか、「JR北海道の車両運用への影響」「貨物調整金で経営が成り立っている並行在来線への影響」など、函館~長万部間の鉄路がなくなる影響は北海道だけでなく本州以南にも及びます。こうした理由から、連絡会では「函館~長万部間は鉄道での存続が妥当」と結論付けています。

貨物も2025年度中に結論を出すことに

とはいえ、鉄道を存続させる場合でも「誰が保有するのか?」「維持費の負担方法や割合はどうするのか?」「維持管理の要員を確保できるのか?」など、こちらも課題は山積です。とくに維持管理の人材について、新幹線延伸で保線作業員が新たに必要となるJR北海道に、「貨物専用線の保線まで委託するのは難しい」という意見も出されています。新たな管理会社を立ち上げる場合でも、人材の確保や養成が必要ですから、早急に対応しなければなりません。

連絡会では、これらの課題を「有識者を含めて慎重に検討する必要がある」としたうえで、物流事業者や産業団体、自治体などとも協議を進めることで確認。最終的な結論は、旅客の結論が出されるのと同じく、2025年度内としています。

なお、廃止が確定した函館本線の長万部~小樽間の協議会については、以下のページでお伝えします。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【北海道】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
北海道地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

函館線(函館・小樽間)について(北海道新幹線並行在来線対策協議会)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/stk/heizai.html

北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する情報連絡会における論点整理について(北海道)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/8/9/2/0/1/6/3/_/%E6%83%85%E5%A0%B1%E9%80%A3%E7%B5%A1%E4%BC%9A%E8%AB%96%E7%82%B9%E6%95%B4%E7%90%86.pdf