【JR北海道】函館本線の海線は誰が維持する?有力視される貨物専用線の未来

函館本線を走行する貨物列車 JR

函館本線の函館~長万部は、北海道新幹線の札幌延伸開業にともない、JR北海道から経営分離される並行在来線です。「海線」とも称されるこの線区では現在、普通・特急の旅客列車のほか、道内各地と本州を結ぶ貨物列車も1日50本前後運行。日本の物流を支える重要な線区でもあります。

その鉄路がいま、廃止の危機に直面しています。海線は今後も残せるのでしょうか。旅客列車の存廃に対する「自治体の考え」、貨物ネットワークの視点で検討する「国の考え」の両面から、函館~長万部は誰が維持するのかを考えます。

JR函館本線(函館~長万部)の線区データ

協議対象の区間JR函館本線 函館~長万部/大沼~森(147.6km)
輸送密度(1987年→2025年)5,492→3,235
増減率-41%
赤字額61億9,800万円
営業係数229
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と2025年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、2025年のデータを使用しています。

協議会参加団体

函館市、北斗市、七飯町、鹿部町、森町、八雲町、長万部町、北海道、渡島総合振興局

函館本線の海線と沿線自治体

【自治体の動き】三セクで海線維持を目指す沿線自治体

JR北海道が、函館~小樽の経営分離を示したのは、2010年5月のことでした。これを受けて翌年12月までに、すべての沿線自治体が同意。整備新幹線の着工が認可されるとともに、並行在来線の将来は沿線自治体に託されることが決まります。

さて、この段階で海線(函館~長万部)の沿線自治体は、第三セクター鉄道として存続させる考えでした。しかし、その後の協議で示される各種データから「本当に維持できるのか?」と、自治体は疑心暗鬼に陥ります。

2012年11月1日に開かれた、北海道新幹線並行在来線対策協議会の第1回渡島ブロック会議。ここで、函館~長万部の将来の需要予測が示されます。

函館~長万部の輸送密度は、2011年時点で3,973人/日。そのうち約9割が、特急列車の利用者です。特急利用者の多くは新幹線に移行するため、経営分離後の需要予測は普通列車の利用者数をもとに試算する必要があります。普通列車のみの輸送密度は、2011年時点で326人/日。沿線地域は少子化・人口減少が進む見込みですから、それを踏まえた2035年(当時想定していた開業年)の輸送密度は、237人/日と試算されました。

この結果に、鉄道を存続させる方針だった沿線自治体のあいだに暗雲が垂れ込めます。

2011年2035年2045年
乗車人員(人)2,9131,9771,737
輸送密度(人/日)326237205
▲函館~長万部の需要予測。開業年とされた2035年には、現況(2011年)より約2~4割も減少すると予測された。
参考:第1回渡島ブロック会議「函館線(函館・小樽間)の旅客流動調査・将来需要予測調査の結果について」をもとに筆者作成

また、2019年8月2日に開かれた第6回ブロック会議では、JR北海道が函館~長万部の収支や今後必要な大規模修繕費用などのデータを開示。収支は年間約62億円の赤字(2017年度)、今後20年間に必要な大規模修繕費用は約25億円で、ほかにも車両更新費用として約32億円が別途必要と説明します。

厳しい現実を見せられた沿線自治体は、さらに不安を増していくのです。

頼みの綱はJR貨物の「貨物調整金」だが…

ただ、これらのデータを示されても函館~長万部の沿線自治体は「鉄道を維持できる」と考えていました。なぜなら、海線には貨物列車も走っているからです。

これまでの並行在来線の事例を見ると、貨物列車が通る第三セクター鉄道は「貨物調整金」を収入の柱として運営しています。現に、2016年に開業した道南いさりび鉄道も、収入の約9割が貨物調整金です。

そこで沿線自治体の八雲町は、今後のJR貨物の運行方針について北海道交通企画監(国の機関)に確認します。北海道交通企画監は、国土交通省の内部で検討中として「情報が入り次第報告する」と返答。つまり、経営分離後も貨物列車が走るかどうか「わからない」という状況だったのです。

困惑する沿線自治体。貨物調整金頼みだった自治体間に「ここで議論しても、何も決められない」という空気が漂い始めます。

そもそも、将来の収支予測すら第6回会議(2019年8月2日)の時点では示されていません。そこで沿線自治体は、函館~長万部の具体的な収支予測を提示するよう事務局に申し入れます。この収支予測が、「海線の鉄路維持」の方針を大きく揺るがすことになるのです。

海線の収支予測に議論が紛糾

函館~長万部の収支予測は、第8回渡島ブロック会議(2021年4月26日に開催)で公表されます。沿線自治体は全線存続を目指していますが、利用者が少ない現状から全線または一部線区(新函館北斗~長万部)をバス転換することも踏まえた、以下3つのパターンで試算されました。

(1)鉄道の全線存続
(2)全線をバス転換
(3)函館~新函館北斗は鉄道存続(新函館北斗~長万部はバス転換)

収支予測は、初期費用と開業30年間の累計赤字額を試算。線路使用料は、道南いさりび鉄道の実績から(1)が年間約40億円、(3)は年間約8億円と仮定しました。

その結果、初期費用は(1)が約317億円、(2)が約37億円、(3)は約161億円という結果に。また開業30年間の赤字額は、(1)が約944億円、(2)が約130億円、(3)は約484億円と示されたのです。なお(3)の試算には、新函館北斗~長万部の代替バスの収支(赤字額)は含まれません。

この報告に、議論が紛糾。「初期投資額がなぜ317億円もかかるのか?」「貨物列車の本数が減れば、線路使用料も減るのか?」「お金の話だけで進めると絶対バスになる」などの意見が続出します。

自治体の不安と不満が爆発するなかで、森町が「幹事会レベルで収支予測の見直しをしてから、改めて協議しよう」と提案。これに他の市町も同意し、会議は閉会します。

函館~新函館北斗は存続をめざすことに

その後、JRから譲渡される資産の内訳や運賃改定を見越した収入の見直しなど、細部までブラッシュアップした収支予測が何度かおこなわれます。それによって億単位の改善がみられたものの、赤字額は厳しい数値のままでした。

■初期費用と開業30年間の累計赤字額(中間取りまとめ)

初期投資額30年累計収支
鉄道存続288.6億円▲744.4億円
全線バス転換30.9億円▲106.0億円
函館~新函館北斗は鉄道存続147.4億円▲391.6億円
▲鉄道+バスには、新函館北斗~長万部のバスの収支も含まれる。
参考:第10回渡島ブロック会議「函館線(函館・長万部間)における交通モード別の収支予測調査の精査について」をもとに筆者作成

ただ、2022年8月31日に開かれた第9回渡島ブロック会議で函館市と北斗市は、さらなる精査を前提に「函館~新函館北斗の鉄道存続」の考えを示しています。

函館・新函館北斗間については、そもそも新函館北斗駅の使命と申しましょうか、役割があると思っております。そういった意味では、函館・新函館北斗間の三セクというのはやはり実現はしていきたいというのが正直な考えです。

出典:「北海道新幹線並行在来線対策協議会 第9回渡島ブロック会議 議事録」より北斗市長の発言

函館~新函館北斗は、函館市の中心部と新幹線の駅をつなぐ「アクセス鉄道」の役割を担います。利用者数も多く、函館市と北斗市は鉄路維持の考えを伝えたのです。この考えに、七飯町も支持。他の町から異論は出ていません。
一方で、新函館北斗~長万部の将来に関する発言は、どの市町からもありませんでした。貨物列車の存廃にもよりますから、沿線自治体だけでは判断できないのです。

海線の貨物列車は、どうなるのか。それを決める国の会議が、ようやく始まろうとしていました。

【国の動き】4者協議で函館本線「海線」の維持へ

第9回渡島ブロック会議から3週間後の2022年10月、国土交通省は函館~長万部における貨物列車の役割を検討する新たな組織を立ち上げます。その組織が「北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する情報連絡会」です。

従来の並行在来線と同様に、第三セクター鉄道として海線を維持するのは、沿線自治体の財政力を踏まえると現実的ではありません。そこで国土交通省は、北海道との共同事務局として連絡会を設置。函館~長万部の旅客廃止も想定して、北海道と本州の安定的な物流を確保するための方策を議論することになったのです。

連絡会の構成メンバーは、国土交通省、北海道、JR貨物、JR北海道の4者。2022年11月から2023年7月まで、4回開催されました。

連絡会では、船舶や新幹線による貨物輸送の可能性も検討されています。しかし、以下の点で「代替は困難」という意見でまとまります。

■船舶や新幹線に貨物輸送を置き換えるときの課題

(1)新たな船舶や航路が必要
農作物の輸送が主のため物流量に季節変動が大きく、ピーク時に合わせた船舶輸送の供給量の確保など余剰供給となることが課題(鉄道は変動分を吸収してきた実態がある)。

(2)安定的なトラック輸送の確保
特に、道北やオホーツク地域から太平洋側の港湾までのトラック輸送の確保が懸念される。また、関西以西に直行する定期航路がなく、本州側の港湾からのトラック輸送にも同様の課題がある。

(3)CO2排出量の増加
船舶とトラックによる輸送のほうが、CO2排出量が増加する可能性がある。ゼロカーボンを目指すなかで、適切か否かの検証が必要。

(4)貨物新幹線が実現した場合の課題
仮に新幹線で貨物輸送をする場合、旅客新幹線とのダイヤ調整が必要。また、荷主の獲得や価格設定など運賃収入の確保にも課題がある。

このほか、「JR北海道の車両運用への影響」「貨物調整金で経営が成り立っている並行在来線への影響(青い森鉄道、いわて銀河鉄道など)」など、函館~長万部の鉄路がなくなると本州以南にも影響が及びます。こうした理由から、連絡会では「函館~長万部は鉄道での存続が妥当」と結論付けたのです。

また、2023年11月には物流事業者や荷主、海運関係者などにヒアリングする有識者検討会議を設置。鉄道が廃止されたときの影響を調査し、物流の観点から函館~長万部のあり方を示すことになりました。

この有識者検討会議は、2025年9月3日に中間とりまとめを公表。北海道新幹線の札幌延伸開業の時点では「貨物鉄道の機能を確保することが必要」と伝えています。ただし、「鉄道を誰が維持するのか」という問いには「今後の協議」として、明言を避けています。

【自治体の動き】新函館北斗~長万部の旅客列車は廃止か?

2024年5月8日、北海道新幹線の建設主体である鉄道・運輸機構は、2030年度末としていた札幌延伸開業の時期を見直すと発表します。トンネル掘削工事が難航するなど、複数箇所で工事進捗の遅れが発生。開業時期は正式に決まっていませんが、「2038年度以降」と伝えられています。

これを受けて、北海道新幹線並行在来線対策協議会の渡島ブロック会議は、2023年12月27日の第10回を最後に、しばらく中断。協議が再開したのは、2026年3月30日(第11回)でした。

中断している2年3カ月のあいだに、海線の方向性を左右する動きがありました。長万部町が「バス転換」の方針を決定。旅客列車を支援できないという考えを伝えます。

また森町は、「特定のモードに固執することなく、最も現実的かつ持続可能な交通体系を模索していく必要がある」として、必ずしも鉄道にこだわらない考えを伝えます。八雲町は、第三セクターとして維持する可能性を示しつつも、人口減少や少子化を懸念。「鉄道の維持という観点よりも、方向性を早めに決めてほしい」と、結論を出せないもどかしさを伝えています。

一方で函館~新函館北斗の沿線自治体(函館市・北斗市・七飯町)は、明言は避けたものの「鉄道の維持」をにおわせています。2024年度は1日5,479人が利用した、函館~新函館北斗。バス転換すると100本程度の運行が必要です。ドライバー不足が叫ばれる昨今では「鉄路維持」が現実的な解でしょう。ただ、莫大な維持費が懸念点で、国や道の支援を求めています。

なお、渡島ブロックの旅客列車の存廃判断は、当初2025年度内に結論を出すとしていました。しかし、新幹線の札幌延伸開業時期がずれたことから、こちらも延期に。ただ、「1~2年以内に方向性を示したい」と沿線自治体は伝えています。

新函館北斗~長万部が貨物専用線になったら誰が維持するのか?

2026年3月末時点における沿線自治体の考えをまとめると、函館~新函館北斗は旅客列車を存続、新函館北斗~長万部はバス転換(貨物専用線)になる可能性が高そうです。仮にこの通りになれば、新函館北斗~長万部は並行在来線で初の貨物専用線として運営されることになります。この場合、海線は誰が維持することになるのでしょうか。

受益者負担の考えでみれば、新函館北斗~長万部を存続させることで大きな便益を得るのは、北海道と国、そしてJR貨物です。なかでも北海道は、道内の農作物を中心に大量の貨物を本州以南に輸送することで、大きな利益を得ています。そこで、鉄道施設を保有する第三セクター事業者を北海道が設立し、JR貨物が線路使用料を、国が貨物調整金を払って運行するという、従来の並行在来線の応用パターンが考えられるでしょう。

ただし、この場合の懸念点は「北海道の負担が大きすぎる」ことです。渡島ブロック会議が仮定した函館~長万部の貨物調整金は約40億円。これに対して、函館~長万部の維持費は約110億円(2025年度)。JR貨物の線路使用料を含めても、北海道には年間60億円以上の負担が生じる計算です。これにくわえ北海道は、函館~新函館北斗の維持費も一部担うことになるでしょう。なお、貨物調整金制度は2030年度に改正される見込みです。その内容によっては負担額が変わる可能性があります。

第三セクター方式ではなく、国の機関(鉄道・運輸機構)が鉄道施設を保有するという可能性もあるでしょう。平たく言えば、整備新幹線と同様に鉄道・運輸機構が新函館北斗~長万部の在来線を保有し、JR貨物が線路使用料を払うというスキームです。これなら、北海道に多額の負担が生じません。

ただ、国からみれば現行の貨物調整金より多くの維持費を負担することになります。また、鉄道・運輸機構が並行在来線を保有するための法制度は、現時点ではありません。それに「地域負担がない」という前例を作ると、今後、他地域でも「旅客はいらない」と考える並行在来線の自治体が増え、全国各地で旅客列車の廃止が進む可能性もあります。今後の整備新幹線計画にも、大きな影響が出てきそうです。

北海道新幹線の札幌延伸開業は、早くても2038年度。時間があるように思えますが、保有会社の準備・設立や保線作業員の雇用・育成などを考えると、悠長にはしていられません。新函館北斗~長万部は誰が保有し、維持費は誰がどのような割合で負担するのか、早めに決める必要があります。

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※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【北海道】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
北海道地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

函館線(函館・小樽間)について(北海道新幹線並行在来線対策協議会)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/stk/heizai.html

北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する情報連絡会における論点整理について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001710341.pdf

北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する有識者検討会議について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk5_000020.html

北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する有識者検討会議 中間とりまとめ
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001907957.pdf

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