【JR北海道】根室本線(富良野~新得)の廃止決定まで6年以上を要した理由

根室本線の幾寅駅 JR

2023年3月30日、北海道の富良野市、南富良野町、新得町、占冠村の4市町村は、JR根室本線の富良野~新得を廃止・バス転換することで、JR北海道と合意します。災害で不通になってから6年以上。沿線自治体は鉄道の復旧をめざし、さまざまな活動をおこなってきましたが、残念ながら廃止を受け入れることになりました。

富良野~新得の鉄道は、なぜ廃止されたのでしょうか。廃止になった経緯を、根室本線対策協議会の動きを中心にみていきましょう。

※滝川から富良野までの線区については、以下のページをご覧ください。

JR根室本線(富良野~新得)の線区データ

協議対象の区間JR根室本線 富良野~新得(81.7km)
輸送密度(1987年→2015年)580→152
増減率-74%
赤字額(2015年)9億7,900万円
営業係数1,854
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、根室本線が一部不通になる前の2015年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、根室本線が一部不通になる前の2015年のデータを使用しています。

協議会参加団体

富良野市、南富良野町、新得町、占冠村

根室本線(富良野~新得)と沿線自治体

台風被災で根室本線の一部区間が長期不通に

根室本線の富良野~新得は、かつて札幌と道東の各都市とをつなぐ主要幹線でした。しかし、国鉄末期の1981年10月に、千歳空港駅(現:南千歳駅)と新得駅を結ぶ石勝線が開通。道東へのメインルートが石勝線に移ったことで、富良野~新得はローカル線へと転じます。

これにより、富良野~新得の利用者数は激減。石勝線開通前(1980年)の輸送密度は4,664人/日でしたが、JRが発足した1987年には580人/日と、8割以上も減少します。さらに、沿線の少子化や過疎化、道路整備などの影響を受け、災害で不通になる前年の2015年には152人/日にまで減ったのです。

根室本線(富良野~新得)の輸送密度の推移
▲根室本線(富良野~新得)の輸送密度の推移。1989年に594人/日でピークを迎え、その後は減少傾向。災害翌年の2017年には100人/日を割り込んだ。
参考:JR北海道「輸送密度の推移(富良野・新得間)」をもとに筆者作成

こうしたなか、経営再建に取り組んでいたJR北海道は、利用者が極端に少ない線区について廃止も含めた整理縮小の検討を始めます。その線区は当初、2016年9月に公表される予定でしたが、その直前に起きたのが台風被災だったのです。

同年8月に北海道を襲った台風は、根室本線に甚大な被害を与えます。とりわけ、利用者が極めて少ない富良野~新得に被害は集中。JR北海道は、「当社単独では維持することが困難な線区」の公表を先送りにして、被害状況の確認と復旧を優先します。

2016年10月17日、富良野~東鹿越が復旧。東鹿越から先の区間は、バスによる代行輸送を始めます。この区間は土砂流入や路盤流出など被害が甚大で、復旧には相当の時間を要することが見込まれました。

それから1カ月後の11月18日、JR北海道は先送りにしていた「当社単独では維持することが困難な線区」を公表します。このなかで、富良野~新得は「他の交通手段が適している」として、鉄道の廃止が提案されたのです。

復旧費用と年間赤字額がほぼ同額

JR北海道の公表を受けて沿線自治体は2017年5月、JR北海道を交えた事務レベルの検討会議を設置します。ただ、この段階では被災区間が復旧していないばかりか、復旧費用や工事計画の公表もありませんでした。沿線自治体は「復旧が先だ」として、被災区間の復旧費用などを早急に提示するようJR北海道に求めます。

それから2カ月後の2017年7月、JR北海道は「根室線 東鹿越~上落合間の被災状況について」というプレスリリースを公表。このなかで、台風による被害状況と復旧の概算費用が公表されます。その額は、約10億5,000万円でした。

根室本線の被災状況
▲根室本線(東鹿越~落合付近)の被災状況。土砂流入、斜面崩壊、水路土砂堆積など被災箇所は広範囲におよんだ。
出典:JR北海道「根室線 東鹿越~上落合間 H28台風10号による被災状況」

経営不振のなかで起きた災害。しかも、廃止を検討している線区で起きた災害です。JR北海道は、「仮に復旧する場合、自社単独で費用を捻出できない」として、沿線自治体に支援を求めます。

なお、復旧費用に関しては国の災害復旧事業費補助を活用する案を、JR北海道は提示しています。この補助を受けるには「持続的な路線維持を確約すること」も、条件のひとつです。経営不振のJR北海道にとって、廃止を検討している線区を自社単独で維持することは困難であり、鉄道を復旧するには沿線自治体による「復旧後の支援」も不可欠でした。

ちなみに、富良野~新得の赤字額は、年間で約9億7,900万円(2015年)です。この一部を、自治体に負担してほしいとJR北海道は伝えます。さらに、河川管理者である南富良野町や北海道に対して、砂防堰堤や河川堤防の新設なども求めました。

一方、財政に不安のある沿線自治体にとって、これらの条件は飲める話ではありません。これ以降、沿線自治体はJR北海道との距離を取るようになります。

存続の道を探る沿線自治体

沿線自治体は、JR北海道を交えず、鉄道の存続方法を探り始めます。まず検討したのは、観光誘客による利用促進です。ただ、年間運賃収入が5,600万円(2015年)しかない線区で、観光で年間約10億円も稼ぐのは現実的ではありません。

続いて検討したのが、JR貨物への要請です。富良野~新得は貨物列車の走行ルートではありませんが、石勝線が災害などで不通になった際に、被災区間を代替ルートとして活用できるかもしれません。そう考えた沿線自治体は、JR貨物に相談します。しかし、JR貨物は「代替利用は難しい」と回答。この話は、立ち消えになります。

そもそも、今回の災害では石勝線も被災しており、復旧するまでの貨物輸送はトラックと船で代替しています。それに、貨物列車を走らせるには被災区間を高規格化する必要があるため復旧費用が増えますし、数十年に一度といわれる災害のために毎年約10億円もの赤字額を「誰が負担するのか」という問題も出てきます。

妙案が出ないなか、2018年7月、国土交通省はJR北海道に対して監督命令を発出。沿線自治体と協力して、経営改善に向けた取り組みを着実に進めるよう命じます。このとき国は、黄線区(輸送密度200~2,000人/日の線区)の路線維持にかかる費用について、自治体の支援額と同等の額を国も支援すると提言しています。

ただし、富良野~新得を含む赤線区(輸送密度200人/日未満)は、国の支援対象外です。つまり、富良野~新得の被災区間を復旧させたところで、復旧後の維持費用は沿線自治体がすべて負担しなければならないことを意味していたのです。

それでも頼みの綱は「国」と「北海道」

被災から4年以上を経た2020年10月、ときの赤羽国土交通大臣が北海道を訪問し、東鹿越~新得の被災箇所を視察します。このとき、沿線自治体は大臣と意見交換をおこなっています。沿線自治体にとっては、鉄道の復旧と維持に関する支援を国に直接訴えるチャンスです。しかし、大臣は「支援できない」という回答を伝えています。

国に断られ覚悟を決めたのか、沿線自治体は2021年7月、JR北海道が再三申し入れていた鉄道の廃止・バス転換を含めた協議を受け入れます。

ところが同年10月、沿線自治体は北海道に対して路線存続などを求める要望書を提出します。この期に及んで、なぜ要望書を提出したのかはわかりません。ただ、道からは「存続に向けた支援をしない」ことと、「代替交通に向けた支援は協力する」ことが伝えられます。

国からも北海道からも見放され、支援の道を絶たれた沿線自治体は、「自分たちだけで維持管理費を負担するのは困難」と判断。2022年1月28日、復旧・存続を断念することで全会一致します。

その後、代替バスについて沿線のバス事業者と協議を開始。鉄道廃止後の公共交通網の見通しがついた2023年3月30日、富良野~新得の鉄道事業廃止について、JR北海道と合意します。富良野~東鹿越の列車と東鹿越~新得の代行バスの最終運行日は、2024年3月31日になりました。

根室本線(富良野~新得)が復旧・存続できなかった理由

沿線自治体の行動を振り返ると、JR貨物や北海道、国などに訴えるばかりの「他力本願」の姿勢で、あたかも他人事のように考えている様子が多々みられます。

確かに、人口の少ない地域ですから、自治体だけで鉄道を維持できないことはわかります。ただ、他者に支援を求めるのであれば「自分たちも支援する」という姿勢を示す必要があったのではないかと思うのです。それを示せなかったことが、復旧できなかった理由のひとつとして考えられます。

もっとも、自治体が赤字負担してまで存続させたとしても、誰も幸せにならなかったでしょう。富良野~新得はあまりにも利用者が少なく、鉄道では到底維持できない線区でした。利用者が増える見込みがある地域ならともかく、過疎化が進み、代行バスの利用者数も減少の一途をたどり続けました。鉄道を復旧させたところで利用者は減り続け、いずれ廃止になることが容易に想像できる線区だったのです。

災害による不通から6年以上の歳月を要したものの、鉄道の廃止を受け入れた自治体の判断は、正しかったといえるのではないでしょうか。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【北海道】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
北海道地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

根室線 東鹿越~上落合間の被災状況について(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2017/170712-3_1.pdf

当社単独では維持することが困難な線区について(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/161118-3.pdf

鉄道WT報告を踏まえた関係機関の取組(北海道)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/5/1/1/4/9/0/9/_/290731shiryou2.pdf

JR北海道の経営改善について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001247327.pdf

第1期事業計画(アクションプラン)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/actionplan_01.html

第2期事業計画(アクションプラン)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/actionplan_02.html

日本経済新聞「JR根室線富良野―新得間、廃線へ バス転換を容認」 2022年1月28日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC288UU0Y2A120C2000000/

【令和2年10月12日】赤羽大臣が北海道を訪問(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/page/kanbo01_hy_007660.html

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