【JR北海道】決着は個別協議で-札沼線(北海道医療大学~新十津川)廃止の経緯

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札沼線の終着駅だった新十津川駅 JR
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JR札沼線は、札幌のひとつ西隣に位置する桑園から北海道医療大学までを結ぶ線区です。

かつては、北海道医療大学から先の新十津川まで鉄道が続いていましたが、利用者が極端に少ないことから2020年5月に北海道医療大学~新十津川間が廃止になっています。

札幌の近郊路線とはいえ輸送密度は2桁しかなく、一部区間では1日1往復しか走らない赤字ローカル線でした。廃止に至る経緯を、沿線自治体が組織する協議会「札沼線沿線まちづくり検討会議」の動きを中心にお伝えしましょう。

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JR札沼線(北海道医療大学~新十津川)の線区データ

協議対象の区間JR札沼線 北海道医療大学~新十津川(47.6km)
輸送密度(1987年→2019年)341→71
増減率-79%
赤字額(2019年)2億7,500万円
営業係数1,253
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

当別町、月形町、浦臼町、新十津川町

札沼線(北海道医療大学~新十津川)と沿線自治体

札沼線沿線まちづくり検討会議の設置までの経緯

2016年11月18日、JR北海道が「当社単独では維持することが困難な線区」を公表しました。このなかで札沼線の北海道医療大学~新十津川までの線区は、輸送密度が200人未満の線区(以下、赤線区)に該当し、「鉄道よりも他の交通手段が適している」として鉄道の廃止を提案しています。

なお、札沼線の桑園~北海道医療大学の線区は札幌の通勤路線として輸送密度が17,000人/日を超えますが、北海道医療大学~新十津川の輸送密度は70人/日前後と、当時のJR北海道でもっとも利用者の少ない区間でした。

JR北海道の公表を受け、2017年4月には沿線4町の首長が集まり意見交換会を実施。意見交換会は7回実施された後、2018年1月に「札沼線沿線まちづくり検討会議」という協議会が設置されます。

なお、以下の進捗状況では意見交換会の内容も解説します。

存続を目指して利用促進と経費削減を検討

2017年5月に開かれた第2回意見交換会では、利用者増加をめざす具体策を検討することで一致します。そのなかで、沿線の魅力を伝えるバスツアー企画が挙がります。このバスツアーは、月形、浦臼、新十津川の町長がガイド役を務めるというのがウリ。2017年だけで計4回も実施されています。

ただ、バスツアーをしたところでJRの利用促進にはつながりませんし、一部区間はJRに乗車するとはいえ、年間3億円前後におよぶ札沼線の赤字改善にはつながりません。なお、このツアーをベースに2018年よりJR北海道が参画して、「まちもの語り」という日帰りバスツアーを企画・販売しています。

続いて沿線自治体は、コスト削減案として、石狩月形までを残す部分廃止案を提示します。札沼線の赤線区に指定された区間で、もっとも利用者が多いのが石狩月形です。ここには月形高校があるため、学生の3割程度が鉄道で通学しています。とはいえ、石狩月形の1日の乗車人員は100人にも満たず、通学している学生も30人前後しかいません。

このコスト削減案について、2017年11月に開催された意見交換会にJR北海道が出席して説明。「石狩月形まで残しても年間2億1,500万円の赤字。さらに、石狩月形駅の折り返し設備を整備するため3,500万円の初期投資が必要」という内容でした。

つまり、赤字額の大半が北海道医療大学~石狩月形までの約14kmで生じ、残る30km以上の区間(石狩月形~新十津川)の赤字額は1億円にも満たないという結果でもあったのです。

札沼線沿線まちづくり検討会議が発足した2018年1月の協議会には、再びJR北海道が参加。「バスなら今より本数や停留所を増やせ便利になる」と、改めて説明します。これに対して月形町は、札沼線の維持存続を表明します。ただ、他の町は「利用者が少なく赤字負担もできない」と、鉄道の廃止・バス転換へ傾倒し始めていました。

「バス転換も視野に」と北海道が念押し

沿線自治体の協議会とは別に、北海道は運輸交通審議会の作業部会として「鉄道ネットワークワーキングチーム」を発足。全道的な観点から、将来を見据えた鉄道網のあり方について検討を始めます。

2018年2月、ワーキングチームは北海道が考える各路線の位置づけを示しました。北海道にとって札沼線の北海道医療大学~新十津川間は、以下のように位置付けています。

利便性の高い最適な公共交通ネットワークの確保に向け、今後の活力ある地域づくりの観点に十分配慮しながら、バス転換も視野に、地域における検討・協議を進めていく。

出典:北海道交通政策総合指針について「JR 北海道単独では維持困難な線区に対する考え方」

文面に「鉄道」「維持・存続」といった文言は一切出てきません。むしろ「バス転換も視野に」とストレートに伝えています。

札沼線の北海道医療大学~新十津川は、地理的にみると函館本線の岩見沢~滝川と並行しています。そのため、沿線住民が札幌に向かうときは、本数の多い函館本線を利用することが多く、札沼線はほとんど活用されていません。こうした状況から、鉄道以外の輸送モードが適していると北海道は示したのです。

協議会から個別協議へ

鉄道ネットワークワーキングチームが公表した直後の2018年2月、JR北海道は北海道医療大学~新十津川間の「新しい交通体系」を公表します。自治体と協議を始める前に、沿線の利用実態に合わせたバスやデマンド交通の路線計画を提示したのです。

鉄道廃止後の新しい交通体系
出典:JR北海道「札沼線(北海道医療大学・新十津川間)の新しい交通体系の提案内容について」

さらに、北海道も交えて以下の点も協議していくことが伝えられます。

  1. バス路線の新設および既存バス路線の充実に関連する経費負担・支援
  2. バス以外の公共交通の充実
  3. 将来を見据えたまちづくりや、観光をはじめ交流人口増加策への支援・協力

この提言を受け、これまでの「4町での協議」から「各町とJRおよび北海道との個別協議」へと移行します。なお、この段階で浦臼町と新十津川町は鉄道の廃止を容認していました。また、当別町は「月形町に歩調を合わせる」とし、月形町の動向に注目が集まります。

2018年4月、高橋はるみ北海道知事(当時)が4町長と会談を実施。高橋知事は、この前日に東京で開かれた自民党のJR北海道経営問題に関する対策プロジェクトに出席し、北海道の方針を伝えるとともに、国への支援を求めていました。

この知事の要請が、同年7月に国土交通省が発出した監督命令とアクションプラン策定へとつながりますが、この段階で国は赤線区に対する支援はしないことを表明していたと推測されます。つまり、鉄道を存続させるには自治体がすべて赤字負担をしなければならないという方針が、4町長との会談で説明されたものと考えられます。

2018年5月、月形町との個別協議で、JR北海道は改めて「石狩月形までの鉄路維持も難しい」「バス転換後もJRが責任をもって担う」と伝達。これを受けて、月形町は鉄道の廃止を容認しました。

2018年8月には、改めて4町でバス転換の方向性について確認。ただ、当別町は北海道医療大学でのバス乗換施設の費用負担について、JR北海道と協議中であったことから、この日は合意に至らず、2018年12月の協議会で、廃止同意書と支援内容に係る覚書を締結しました。

札沼線の北海道医療大学~新十津川間は、自治体の意向で2020年5月7日に廃止されますが、代替バスは前月の4月1日から運行が始まっています。ただ、バスも利用者が低迷しており、今後も協議が続きそうです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【北海道】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
北海道地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道WT報告を踏まえた関係機関の取組(北海道)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/5/1/1/4/9/0/9/_/290731shiryou2.pdf

JR札沼線住民説明会概要(月形町)
http://www.town.tsukigata.hokkaido.jp/secure/13693/02-1_2kai_setsumeikai.pdf

札沼線沿線4町、まちづくり会議来月発足(朝日新聞 2017年12月23日)http://www.asahi.com/area/hokkaido/articles/MTW20171225011700001.html

JRと個別協議へ 札沼線沿線4町最適な公共交通構築で(北海道建設新聞 2018年3月6日)
https://e-kensin.net/news/104527.html

JR札沼線の存廃、北海道知事「議論加速したい」(日本経済新聞 2018年4月27日)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29952870X20C18A4L41000/

JR北海道の事業範囲の見直しに関する主な動き(北海道)
【リンク切れ】https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/5/2/8/3/6/8/6//H30sinngikaisiryou4.pdf