【JR西日本】岡山県は因美線・姫新線・赤穂線の廃止を防げるか?

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岡山県の津山駅 JR
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岡山県は鉄道の利用促進などをめざす組織として、「JR在来線利用促進検討協議会」を設置しています。対象線区は県内を走るすべてのJR在来線ですが、なかでも利用者の少ない因美線や姫新線などの線区は、重点的に協議を進めています。

ここでは、協議会で沿線自治体が示した取り組みを中心に、重点路線に指定された因美線、姫新線、赤穂線の今後を考察します。

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JR因美線・姫新線・赤穂線の線区データ

協議対象の区間JR因美線 東津山~智頭(38.9km)
JR姫新線 上月~新見(107.2km)
JR赤穂線 播州赤穂~東岡山(46.9km)
輸送密度(1987年→2019年)東津山~智頭:1,551→179
上月~津山:1,527→413
津山~中国勝山:1,364→820
中国勝山~新見:702→306
播州赤穂~長船:-→2,178
長船~東岡山:-→10,771
増減率東津山~智頭:-88%
上月~津山:-73%
津山~中国勝山:-40%
中国勝山~新見:-56%
播州赤穂~長船:-
長船~東岡山:-
赤字額(2019年)東津山~智頭:3億9,000万円
上月~津山:4億0,000万円
津山~中国勝山:4億1,000万円
中国勝山~新見:3億5,000万円
営業係数東津山~智頭:1,963
上月~津山:887
津山~中国勝山:610
中国勝山~新見:1,349
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています(一部、隣県の線区を含みます)。
※赤字額・営業係数については、2017年から2019年までの平均値を使用しています。なお、赤穂線は非公表です。

協議会参加団体

岡山県および27市町村、JR西日本、各県民局地域政策部地域づくり推進課など

【因美線ワーキングチーム】津山市
【姫新線ワーキングチーム】津山市、新見市、真庭市、美作市、勝央町
【赤穂線ワーキングチーム】岡山市、備前市、瀬戸内市

岡山県で協議を進めるJRローカル線と沿線自治体

岡山県のローカル線をめぐる協議会設置までの経緯

2022年4月11日、JR西日本は「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」というニュースリリースを公表します。このニュースリリースでは、輸送密度2,000人/日未満のローカル線の収支状況も公表され、岡山県では因美線、姫新線、芸備線の3路線5区間が該当しました。

岡山県では、これまでにもローカル線の利用促進などを目的にJR西日本と話し合う連絡会議を設置していました。ただ、今回のニュースリリースで取り組みをいっそう強化するために組織を改編。同年7月25日に「岡山県JR在来線利用促進検討協議会」を設立します。

第1回の協議は、2022年8月31日に開催。この協議会で議論する内容は、「ローカル線の調査研究と利用促進策」であることが確認されます。調査研究に関しては、路線ごとに設置するワーキングチームが担当。それぞれの事務担当者が鉄道の課題を洗いだし、効果的な利用促進策を検討していくことも確認されます。

なお、ワーキングチームは沿線自治体からの提案で設置され、「重点的に取り組む路線」が決定します。当初は、姫新線と赤穂線の2路線を重点路線に指定。いずれも、2021年秋のダイヤ改正で減便となり、利便性の低下が問題視されていた線区です。

ちなみに芸備線は、2021年から「庄原市・新見市エリアの利用促進等に関する検討会議」で協議を進めていることから、重点路線から外れました。

因美線でもワーキングチームを設置

第2回の協議会は、2023年1月26日に開催。ここで、各路線のワーキングチームから中間報告が示されます。姫新線では地域イベントを軸に鉄道利用のきっかけ作りとなる取り組みを、また赤穂線では、通学利用者が過半数を占めることから高校生をターゲットにした施策を検討していると報告しています。

これらの報告にJR西日本は、地元メディアの取材に対して「沿線自治体より『一緒に利用促進を取り組んでいきたい』という心強い発言をいただいた」と述べています。

なお、この会では津山市から「因美線でもワーキングチームを設置したい」という申し入れがあり、関係者と調整を図ることも伝えられます。その後、2023年5月15日に因美線のワーキングチームを設置。次回の協議会で取り組みを報告することになりました。

因美線の駅別乗車人員(2021年)
▲因美線の駅別乗車人員(2021年)。津山・東津山・智頭(鳥取県)以外の駅は、利用者が2桁しかいない。
出典:岡山県「因美線ワーキングチームの活動状況」

ワーキングチームによる利用促進策が決定

2023年8月25日、第3回協議会。ここで、3線で実施する具体的な利用促進策が発表されます。それぞれの施策を、みていきましょう。

因美線の利用促進策

  • イベント列車の観光客に対するおもてなし(みまさかスローライフ列車)
  • 因美線駅カードの配布
  • デジタルスタンプラリーの開催
  • 観光列車「あめつち」の運行

…など

キハ47形を改装したイベント列車「みまさかスローライフ列車」が走る因美線では、沿線自治体がグッズや弁当を観光客に販売するなど、おもてなしイベントを企画しています。また、鳥取県とも連携して利用者への駅カードの配布や、兵庫県などと連携したデジタルスタンプラリーも検討することが報告されます。

このほか、2023年夏には観光列車「あめつち」が運行されますが、4日間で約120名の乗車だったそうです。

姫新線の利用促進策

  • 通学定期の補助
  • イベントの実施および主催者への支援
  • 予約型乗合タクシーの運行
  • 新見駅前の駐車場・駐輪場の整備
  • 団体利用者の運賃補助
  • 観光列車「SAKU美SAKU楽」の運行

…など

姫新線の沿線自治体は、これまでにも駅前広場の整備や駅舎のバリアフリー化、トイレの改修工事といった事業を展開。他線区に先駆けて取り組みを進めてきました。

勝央町では、地元の高校生による花壇の設置や待合室に花を飾るといった美化活動を中心に、沿線住民も巻き込んだ活動を展開しています。新見市では以前より、市内の高校に通う生徒の通学定期について、運賃の2分の1を助成する事業を実施しています。この事業は引き続きおこなう予定です。

また、さまざまなイベントで鉄道の利用促進をアピールするほか、姫新線を活用したイベントの主催者には開催費用の一部を補助する制度も創設しています。

真庭市の利用促進の取り組み
▲真庭市では、美作追分駅などのトイレ改修工事を実施。利便性を高める取り組みを進めている。
出典:岡山県「県・市町村における取組状況」

赤穂線の利用促進策

  • 通学定期券の出張販売
  • 駅前広場や駐輪場の整備
  • 駅トイレのリニューアル
  • 利用促進のチラシ・ポスターの作成(赤穂線サポートブックなど)
  • イベント実施
  • 観光ツアーの企画・実施

…など

利用者の6割が通学定期客という赤穂線では、高校生向けのPRを検討。備前緑陽高校と邑久高校に足を運び、通学定期券を出張販売する計画を立案します。対象を新1年生とすることで、新規利用者の増加を図るのが狙いです。なお、実際に販売したところ151人に売れたそうです。

このほか、駅前広場や駐輪場の整備など、学生が列車を待つあいだの「居場所づくり」にも注力する予定です。

因美線の住民アンケート調査結果

第4回協議会は、2024年3月18日に開催。各ワーキングチームの取り組み状況が報告されます。赤穂線では引き続き学生をターゲットとした利用促進に注力、また姫新線ではイベント実施にくわえJR烏山線(栃木県)や上毛電鉄(群馬県)で現地視察をしたことが報告されます。

因美線では、ワーキングチームとは別の取り組みとして、住民アンケートの調査結果を報告しています。これは、津山市と智頭町の沿線住民の日常的な移動ニーズについて調査したもので、約2,000人から回答がありました。

調査結果によると、津山市民の約85%は市内のみで移動が完結。智頭町民は約51%が町内のみで完結しますが、鳥取市への移動が約42%もあります。なお、津山市と智頭町の移動ニーズは、全体の1~2%しかありません。この結果から津山市は、智頭町とも連携して因美線の利用促進を検討していくと伝えています。

▲津山市と智頭町の移動ニーズを示す住民アンケートの結果。津山市は約85%が市内で完結、智頭町は約51%が町内で完結するも鳥取市への移動が多い。
出典:岡山県「因美線ワーキングチームの活動状況」

ちなみにJR西日本は以前、これと似たようなアンケート調査を芸備線の沿線自治体でも実施しています。庄原市と新見市で実施した調査では、地域内で完結する住民が約7割を占めることから「バスを中心とした地域公共交通を充実させる必要がある」とJR西日本が提言。芸備線の「あり方」に関する協議を申し入れ、国の再構築協議会につながりました。

これと同じことが、因美線でも起きるかもしれません。とりわけ、東津山~智頭は両市町のつながりが薄く、津山市民の多くは市内で移動が完結しています。

もっとも、津山市内の移動に鉄道を使う人もいるでしょう。しかし、アンケート調査では日常移動の主な目的地についても尋ねており、津山市の場合は中央病院やイオンモール、天満屋ハピーズなど、いずれも道路沿いにある施設で最寄り駅から1~2kmも離れています。この結果から、JR西日本は「鉄道よりバスを充実させたい」と、因美線のあり方の協議に持ち込む可能性が推測されます。

気になるJR西日本の動き

3路線の取り組みは始まったばかりですが、気になるのはJR西日本が今後どのような対応をするかという点でしょう。

赤穂線に関しては、岡山市近郊の輸送密度が1万人/日、兵庫県境でも2,000人/日を超えるため、今すぐ存廃議論にはならないと思われます。

一方で因美線は、輸送密度が179人/日(2019年)と利用者が極めて少なく、JR西日本の線区で下位の路線です。また、以前から沿線自治体による取り組みが活発な姫新線も、中国勝山~新見の輸送密度は306人/日(2019年)で、利用者の減少は続いています。いずれのワーキングチームも目標値を定めた施策がないですし、そもそも利用促進策だけでJR西日本が納得するとは思えません。

岡山県と同じく兵庫県でも、各地にワーキングチームを設置して利用促進の取り組みを進めています。ただ、取り組みを始めて1年とたたない2024年1月に、JR西日本は加古川線(西脇市~谷川)の沿線自治体に法定協議会の設置を求めてきました。同区間の輸送密度は、321人/日(2019年)です。

加古川線と同等の実績である因美線や姫新線の中国勝山~新見でも、「鉄道のあり方」まで踏み込んだ協議会の設置を求めてくる可能性はあるでしょう。両線とも国の再構築協議会の基準を満たすこともあり、JR西日本の今後の動きに注目されます。

※兵庫県のJR在来線に関する協議会の流れと、JR西日本が求めた法定協議会の詳細情報は、以下のページで解説します。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【中国】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中国地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

ローカル線に関する課題認識と情報開示について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf

岡山県JR在来線利用促進検討協議会について
https://www.pref.okayama.jp/page/792753.html

因美線ワーキングチームの活動状況(岡山県)
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/907579_8668838_misc.pdf

姫新線ワーキングチームの活動状況(岡山県)
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/907579_8668837_misc.pdf

赤穂線ワーキングチームの活動状況(岡山県)
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/907579_8668836_misc.pdf