【JR北海道】災害が運命を分けた根室本線(滝川~新得)の存続線区と廃止線区

根室本線の赤平駅 JR

JR根室本線は、滝川から根室まで443.8kmにおよぶ鉄道路線です。このうち、滝川から新得までの区間について、沿線自治体は「根室本線対策協議会」を組織して、利用促進などに努めています。

沿線には北海道を代表する観光地・富良野もあり観光需要が期待される一方で、災害による不通区間が廃止されるという現実もありました。根室本線対策協議会の具体的な取り組みについてみていきましょう。

JR根室本線(滝川~新得)の線区データ

協議対象の区間JR根室本線 滝川~新得(136.3km)
輸送密度(1987年→2023年)滝川~富良野:725→384
富良野~新得:580→80
増減率滝川~富良野:-47%
富良野~新得:-86%
赤字額(2023年)滝川~富良野:11億2,500万円
富良野~新得:6億9,700万円
営業係数滝川~富良野:921
富良野~新得:1,784
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と2023年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、2023年のデータを使用しています。

協議会参加団体

滝川市、赤平市、芦別市、富良野市、南富良野町、新得町、占冠村

根室本線(滝川~新得)と沿線自治体

根室本線対策協議会の設置までの経緯

根室本線(滝川~新得)の沿線自治体が協議会を設置したのは、国鉄時代の1981年のことです。

この年、千歳空港(現・南千歳)~新得を結ぶ石勝線が開通。札幌と道東を結ぶメインルートが石勝線に移ったことで、滝川~新得は定期特急列車が走らないローカル線になりました。利用者の減少にともなう廃止を防ぐことを目的に、沿線自治体は「根室本線対策協議会」を設置したのです。

ただ、自治体のみで構成された任意協議会ですから、JR北海道と協働して利用促進活動をするといったことは、ほとんどありませんでした。

▲滝川~富良野間の輸送密度の推移(1987~2022年)。石勝線の開通前は5,000人/日を超えていたが、開通後は8割以上も減少。JR設立後は微増するも、1991年をピークに減少は続いている。
参考:JR北海道「輸送密度の推移(滝川・富良野間)」をもとに筆者作成

協議会の活動が一転したのは2016年11月18日、JR北海道が「当社単独では維持することが困難な線区」を公表したときです。このなかで根室本線の滝川~富良野間は、輸送密度が200人以上2,000人未満の線区(以下、黄線区)に該当し、「鉄道を持続的に維持する仕組みの構築が必要な線区」として位置付けられています。

また、富良野~新得間は輸送密度が200人未満の線区(以下、赤線区)に該当し、「鉄道よりも他の交通手段が適している」として鉄道の廃止を提案しています。

JR北海道の公表を受け、沿線自治体は2017年5月にJR北海道を交えた事務レベル検討会議を設置。このとき、協議会では以下3点を検討することで合意しています。

(1)JR北海道のコスト圧縮に向けた経費削減策
(2)日常利用や企画列車等の運行による利用促進策
(3)マイレール、マイステーションに向けた住民の意識醸成

同月には、千葉県のいすみ鉄道を視察するなど、利用促進に向けて積極的に動き始めます。

2017年8月には、富良野市の広報誌で18ページにわたって根室本線・富良野線の特集記事を掲載。「乗って守ろう!」を合言葉に、沿線住民に対する利用促進を投げかけました。

災害による不通から富良野~新得間は廃止に

JR北海道が「当社単独では維持することが困難な線区」を公表する前の2016年8月、根室本線は台風の降雨により土砂流入や斜面崩壊など多大な被害を受け、東鹿越~新得間が不通になります。

翌年JR北海道は、復旧の概算工事費用を10.5億円と公表。国の公的資金を投入するにしても、持続的に路線を維持していくことが前提として沿線自治体への理解を求めました。しかし、結果的に復旧されることなく富良野~新得間は廃止が決まります。

富良野から新得の線区が廃止に至った詳細の経緯は、以下のページでお伝えします。

道は富良野~新得間を必要としなかったのか?

沿線自治体の設置する協議会とは別に、北海道でも運輸交通審議会の作業部会として、「鉄道ネットワークワーキングチーム」を発足。大学教授やJR北海道の幹部など有識者を交えた部会で、「全道的な観点から将来を見据えた鉄道網のあり方」について検討を始めます。

この部会は、あくまでも「個別線区の存続や廃止に関して結論を出すものではない」としていますが、2018年2月に示されたJR北海道の維持困難とする線区のあり方について、根室本線の富良野~新得間は以下のように位置付けています。

圏域間のネットワーク形成や、今後の活力ある地域づくりの観点に十分配慮しながら、他の交通機関との連携、補完、代替も含めた利便性の高い最適な公共交通ネットワークの確保に向け、地域における検討・協議を進めていく。

出典:北海道交通政策総合指針「JR 北海道単独では維持困難な線区に対する考え方」

富良野~新得間はかつて、札幌と道東の各都市とをつなぐ重要な路線でした。石勝線の開通によりその役割を譲ったものの、北海道は「圏域間のネットワーク形成」という表現で富良野~新得間も大切な路線であることを示しています。

その一方で、「他の交通機関との連携、補完、代替も含めた」と、鉄道を廃止にして代替交通になる可能性も示唆しており、結果的には「代替」を選ぶことになるのです。

ちなみに、滝川~富良野間については以下のように位置付けています。

住民の利用状況や、鉄道貨物輸送が地域の農産物を輸送する役割を一部担っていることを踏まえ、地域における負担等も含めた検討・協議を進めながら、路線の維持に努めていく。

※ 鉄道貨物輸送のあり方については、輸送実績及び鉄道施設の維持に要する費用負担等を考慮するとともに、道内全体の物流の効率化・最適化の観点から、トラック輸送や海上輸送も含めて総合的に対策を検討していくことが適当であり、地域における検討・協議と並行して、関係機関による議論を進めていく。

出典:北海道交通政策総合指針「JR 北海道単独では維持困難な線区に対する考え方

滝川~富良野間は貨物列車の走行区間でもあるため、沿線自治体の一存で存続または廃止を決められない一面もあります。こうした点も踏まえて、「路線の維持に努めていく」という表現でまとめているのでしょう。

ただ、宗谷本線や石北本線のように「維持に向けて」という強い存続の意思がされていない点は確認しておきたいポイントです。

根室線事業計画(アクションプラン)の策定

2018年7月、国土交通省はJR北海道の経営改善に向けた取り組みを着実に進めるよう監督命令を発出。このなかで、沿線自治体などと一体となった取り組みを2019年度より5年間実施するように求めました。その具体的な取り組みをまとめたものが、「根室線事業計画(アクションプラン)」です。

アクションプランは、第1期(2019~2020年度)と第2期(2021~2023年度)にわけて、鉄道の利用促進や経費削減などに向けた取り組みを、JRと沿線自治体が一緒に実施する内容になっています。そして、最終年度となる2023年度に総括的な検証をおこなうとしています。

※2024年1月30日にJR北海道が国に提出した「アクションプラン総括的検証報告書」の内容については、こちらの記事で解説しています。

※JR北海道のアクションプランの詳細内容や、改善が求められるポイントについて、以下のページで解説しています。

根室本線(滝川~新得)アクションプランの実施内容

根室本線における具体的な取り組み内容は、以下の通りです。

  • 観光ルート充実に向けたモニターバスの運行
  • 代行バス乗継駅の東鹿越にホームへの階段・手すりを設置
  • PR動画の制作
  • 地元企業など150の事業所に利用促進を伝えるリーフレットの配布
  • 沿線小学校の学生による体験乗車(列車の乗り方などを学習)
  • 列車利用客限定の抽選会の実施
  • 観光列車利用客のおもてなし
  • イベントにあわせた臨時観光案内所を駅に設置
  • 駅の花壇整備・美化活動

…など

コロナ禍のため、アクションプランで計画していたイベントなどが中止になるなど、想定通りに進まない一面もありますが、そのなかでもモニターバスの実証実験は特筆すべきポイントでしょう。

北海道を代表する観光スポット・富良野とトマムをつなぐモニターバスの実証実験を2020年より実施。8~9月の土日限定で1日1往復の運行ですが、2021年には125名が乗車したそうです。この実験は、2022年現在も実施されています。

また、2020年度には沿線の魅力を伝えるPR動画を制作し、YouTubeで公開。公開から1年で1万回以上再生されています。ただ、その後も動画制作を続けていますが、視聴回数は伸び悩んでいるようです。

2022年1月、沿線自治体は富良野~新得間の鉄道存続を断念。廃止・バス転換が決まりました。鉄道の廃止日は、2024年4月1日。前日の3月31日が最終運行日となる予定です。富良野~新得間が廃止に至った経緯については、以下のページで詳しく紹介します。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【北海道】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
北海道地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄路対策(富良野市)
https://www.city.furano.hokkaido.jp/life/docs/2018011100020.html

当社単独では維持することが困難な線区について(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/161118-3.pdf

鉄道WT報告を踏まえた関係機関の取組(北海道)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/5/1/1/4/9/0/9/_/290731shiryou2.pdf

広報ふらの
https://www.city.furano.hokkaido.jp/life/gyosei/kouhou/

JR北海道の経営改善について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001247327.pdf

第1期事業計画(アクションプラン)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/actionplan_01.html

第2期事業計画(アクションプラン)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/actionplan_02.html

JR根室本線の維持・存続に向けて(滝川市)
https://www.city.takikawa.lg.jp/page/1129.html

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