JR宗谷本線は、北海道の旭川と稚内を結ぶ全長約260kmのローカル線です。北海道の骨格を構成する路線のひとつですが、沿線地域の過疎化などで利用者の減少が続き、近年は無人駅の廃止をはじめ合理化を進めています。
JR北海道は、2016年11月に「当社単独では維持することが困難な線区」を公表。そのひとつに、宗谷本線も含まれていました。その後、沿線自治体と協力しながら利用促進などに努めますが、宗谷本線は全線存続できるのでしょうか。自治体との取り組みを振り返りながら、今後の方向性を考察します。
JR宗谷本線の線区データ
| 協議対象の区間 | JR宗谷本線 旭川~稚内(259.4km) |
| 輸送密度(1987年→2024年) | 旭川~名寄:2,860→1,145 名寄~稚内:751→273 |
| 増減率 | 旭川~名寄:-60% 名寄~稚内:-66% |
| 赤字額 | 旭川~名寄:33億800万円 名寄~稚内:27億2,900万円 |
| 営業係数 | 旭川~名寄:661 名寄~稚内:798 |
※赤字額と営業係数は、2024年のデータを使用しています。
協議会参加団体
旭川市、稚内市、士別市、名寄市、比布町、和寒町、剣淵町、美深町、音威子府村、中川町、豊富町、幌延町、旭川商工会議所、士別商工会議所、名寄商工会議所、稚内商工会議所

宗谷本線の全線維持をめざす協議会・幹事会を設置
JR北海道が2016年11月18日に公表した「当社単独では維持することが困難な線区」では、輸送密度が200~2,000人/日未満の線区(黄線区)を「鉄道を持続的に維持するしくみの構築が必要」と位置づけ、沿線自治体と協議を始める考えが示されています。
その線区に、宗谷本線も該当。なかでも名寄~稚内は、輸送密度が300人/日前後と利用者が少なく、鉄道の廃止を不安視する自治体も現れます。
こうしたなかで沿線自治体は2017年4月に、宗谷本線活性化推進協議会のなかにJR北海道を交えて話し合う幹事会を設置します。その後、利用実態の把握や駅舎の環境改善など、利用促進につながる議論をしていくことを協議会で確認しました。
なお、上下分離方式の導入について沿線自治体は「国や道の動向を見ながら対応を検討する」ことで一致。持続的に鉄道を維持するしくみの構築まで踏み込んだ議論は、先延ばしにされたのです。
■宗谷本線の輸送密度の推移

参考:JR北海道「宗谷線(旭川~稚内間)事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画」をもとに筆者作成
また、沿線自治体の協議とは別に、北海道は「鉄道ネットワーク・ワーキングチーム・フォローアップ会議」を設置。全道的な観点から、黄線区の将来を見据えた「鉄道のあり方」について検討を始めます。この会議が2018年2月にまとめた資料で、宗谷本線については次のように位置付けられています。
ロシア極東地域と本道との交流拡大の可能性も見据え、国土を形成し、本道の骨格を構成する幹線交通ネットワークとして、負担等に係るこれまでの地域での協議を踏まえ、維持に向けて更に検討を進める。
出典:北海道交通政策総合指針について「JR 北海道単独では維持困難な線区に対する考え方」
最後の「維持に向けて」という表現が使われているのは、宗谷本線と石北本線のみです。つまり、宗谷本線は北海道にとって重要な鉄道路線であり「存続させたい」という意思を示したことになります。なお、フォローアップ会議では「個別線区の存続や廃止に関して結論を出すものではない」としており、あくまでも沿線自治体とJR北海道との協議で存廃を決めるように求めています。
宗谷本線の廃止を防ぐ「アクションプラン」の策定
JR北海道の危機的な経営状況に対して、国は2018年7月に経営改善に向けた取り組みを着実に進めるよう「監督命令」を発出します。このなかで宗谷本線を含む黄線区に対しては、鉄道の利用促進や経費削減などに向けた取り組みを、JR北海道と沿線自治体が協力して実施するように求めました。
国の監督命令を受けて、JR北海道と沿線自治体は「アクションプラン(宗谷線事業計画)」を策定します。アクションプランの計画期間は2019年度から5年間。最終年度となる2023年度には総括的な検証をおこない、抜本的な改善方策をとりまとめることになりました。
なおアクションプランでは、各種取り組みによる改善状況を評価しやすいように、目標値が設定されています。その目標値は、「2017年度の輸送密度と収支」で設定。宗谷本線の目標値は、以下の通りです。
■宗谷本線のアクションプラン目標値
| 旭川~名寄 | 名寄~稚内 | |
|---|---|---|
| 輸送密度 | 1,452人/日 | 352人/日 |
| 収支 | 28億3,100万円 | 27億3,300万円 |
この目標値を2023年度末の段階で達成できなかった場合は、鉄道の存廃を含め抜本的な改善方策を検討することが国から求められたのです。
しかし、計画期間の5年間に想定外の出来事が発生します。新型コロナウイルスの感染拡大です。この影響で、アクションプランで計画したイベントなどの38件が中止や規模縮小を余儀なくされ、目標値を達成できませんでした。
こうした事情から、JR北海道と沿線自治体は国に「3年間の延長」を求める検証報告書を提出。これを国が了承し、計画の最終年度は2026年度末に変更されています。
宗谷本線アクションプランの実施内容
アクションプランの取り組みについて、JR北海道と沿線自治体は具体的にどのような施策をおこなってきたのでしょうか。その一部をお伝えします。
駅を高校の近くに移設
2022年3月に東風連駅を1.5km移設し、駅名を「名寄高校駅」に改称。学校からわずか200mの位置に移設し、利便性を向上させています。新しい駅は名寄市の請願で作られ、事業費は市が負担しました。なお名寄高校は、2023年度に名寄産業高校と再編統合し生徒数が増加。利用者数は、約6倍に増えたそうです。
観光列車の運行
観光列車「風っこそうや号(2019年)」「花たびそうや号(2022年~)」の運行による誘客もおこなっています。利用者には地元食材を使った弁当を提供するなど、沿線住民によるおもてなしも実施します。
観光列車の1日あたりの利用者数は、2019年度が189人、2022年度が78人、2023年度が105人、2024年度が126人でした。
特急料金の割引
沿線住民が特急列車を利用する際に、特急料金が実質10円になる助成制度を設置。差額は自治体が負担する事業をおこなっています。利用後に自治体への申請が必要ですが、2024年度は116人が利用したそうです(目標値は125人)。なお、特急列車内では沿線住民による地元特産品の販売サービスもおこなっています。
高校・病院への直通バス運行実験
公共交通全体の利用促進を図るため、列車の少ない時間帯に臨時バスの運行実験をおこなっています。
2023年8月には、稚内の高校2校に直通するバスを幌延から運行。利用者数は、1日あたり19人でした。利用者にはアンケートも実施しており、総合的に「とても便利」「まあ便利」と回答した高校生が、あわせて100%だったそうです。登校時間帯のみの直通運行だったことから、「下校時もあるとよい」「学校以外で乗降できるとよい」などの意見もありました。
また2024年12月には、高校と病院に停車する直通バスの運行実験も実施。区間は幌延~稚内にくわえ、音威子府~名寄でも運行しています。1日平均の利用者数は、幌延~稚内が9.2人、音威子府~名寄は1.4人だったそうです。
利用者の少ない駅の管理移行・廃止
1日の利用者数が3人未満の駅について、JR北海道は自治体管理への移行または廃止を提案。2021年度より、16駅を自治体管理駅に移行しました。なお、2025年までの5年間に18駅を廃止にしています。これらによりJR北海道は、年間約4,000万円の負担軽減を実現したそうです。
なお、自治体に管理移行された駅は、後に廃駅となるケースも出ています。歌内駅は、もともと代替交通網が構築されるまで存続させるという条件で自治体管理に移行したため、2022年に廃止。雄信内駅や南幌延駅は、駅舎やホーム桁の改修費を自治体が負担できないとして、2025年に廃止されています。
■宗谷本線の廃止駅(2020年以降)

参考:JR北海道「路線図から時刻検索」の地図をもとに筆者作成
その他の取り組み
- 地域特産品の販売やイベントの実施(「ぴっぷ駅マルシェ」の開催など)
- 鉄道利用促進ツアーの実施(トロッコ列車乗車体験、ブルーベリー狩りなどのイベント)
- 沿線高校生によるJR応援ポスターの作成
- 宗谷線フォトコンテストの実施
- 沿線保育園の園児や小学校の学生による体験乗車(沿線の魅力を学習)
- 高校生や有志者による清掃活動や環境整備
…など
宗谷本線の廃止を防ぐには?
沿線自治体の協力のもと進めているアクションプランですが、目標達成は難しい状況です。収支は年度によって改善しているものの、少子化・過疎化などの影響で利用者は減少傾向にあります。
■輸送密度の目標値との比較

参考:JR北海道の各年度の線区別利用状況をもとに筆者作成
こうした状況にJR北海道は、「アクションプランの目標達成状況のみで存続・廃止を決めることはない」としています。利用促進も重要な施策ではありますが、目標を達成したからといって宗谷本線の置かれた厳しい状況に変わりはありません。
それよりも、宗谷本線が地域住民にとって「本当に必要な公共交通か」という視点で考えることも大切でしょう。そこでJR北海道と沿線自治体は、沿線住民800人(高校生は除く)にアンケート調査を実施。宗谷本線の利用状況や今後の利用動向などを調べています。その結果は、以下の通りです。
■利用頻度

■今後の利用動向

利用頻度をみると、週2日以上から年1回以下まで利用している人の割合は合計で56%、今後の利用動向では「今度も利用する」と答えた人は41%もいます。これは、他の黄線区と比べて高いほうです。ただし、回答者には旭川~名寄の沿線住民も含みます。名寄~稚内に限ると、違う結果だったかもしれません。
アンケートでは、宗谷本線の重要度に関する質問もしており、「とても重要」が53%、「まあ重要」が26%と回答。あわせて8割以上の人が、鉄道の重要性を認識しています。
こうした沿線住民の意向に対して、沿線自治体や北海道は支援を拡大できるのでしょうか。
沿線自治体(8市町村)は2024年度に、利用促進などの事業に対して1,600万円を支援しています。ただ、沿線地域は過疎化が急速に進んでおり財源も減っていくことから、これ以上の支援は難しそうです。頼みの北海道も多くの支援はしているものの、上下分離方式の導入など抜本的な改善につながる議論までは踏み込めていません。北海道も年間3~4万人というペースで人口減少が進んでおり、財政は逼迫しています。
「国境に接する路線だから国が支援すべき」という意見も、ネット上で散見されます。ただ、国の支援を期待するには「宗谷本線が国にどれだけ便益を与えるか」を、ファクトとデータをもとに示す必要があります。国防のために必要であれば、宗谷本線の存続で受けられる便益を具体的なデータなどで示して重要性を理解させなければ、年間数十億円もの赤字に対する予算は付けられません。
2026年度末には、アクションプランの総括的な検証と抜本的な改善方策を国に報告することが決まっています。国の返答次第では、宗谷本線の「あり方」の議論を始めることになるかもしれません。利用促進だけでなく、宗谷本線の価値について国を説得できるだけの材料を、地域で模索していくことも必要でしょう。
宗谷本線の関連記事
※JR北海道のアクションプランについて、以下のページで解説しています。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

参考URL
当社単独では維持することが困難な線区について(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/161118-3.pdf
鉄道WT報告を踏まえた関係機関の取組(北海道)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/1/1/0/5/4/0/9/4/_/290731shiryou2.pdf
JR北海道の経営改善について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001247327.pdf
地域の皆様との連携(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/alignment.html
アクションプラン総括的検証報告書(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/verificationreport_05.pdf
宗谷線(旭川~稚内間)事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/executionplan_04.pdf
事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画 検証報告書(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/v_report_2024_04.pdf
