JR北海道では、沿線自治体と連携して経営改善に取り組む「アクションプラン」を実施しています。
計画期間は、2019年度から2026年度までの8年間。計画最終年度には総括的な検証をおこない、鉄道事業の「抜本的な改善方策についても検討」するように、国は求めています。つまり、2027年春には黄線区(輸送密度が200~2,000人/日の線区)に対して、存廃を含めた方向性が示されるのです。
果たして、黄線区は残せるのでしょうか。沿線自治体と協働で進めてきた取り組みを振り返りながら、今後の動向を考えてみます。
JR北海道の黄線区と「アクションプラン」とは
2016年11月にJR北海道は、「当社単独では維持することが困難な線区」を公表しました。対象線区は、輸送密度が2,000人/日未満のローカル線です。
このうち、利用者が極端に少ない200人/日未満の線区(赤線区)については、原則廃止に。代替交通への転換を沿線自治体に申し入れ、2026年4月1日までにすべて廃止されます。
一方、200~2,000人/日の線区は、沿線自治体と協力しながら存続の道を探るとしています。この線区が、いわゆる「黄線区」です。
JR北海道の公表後、多くの沿線自治体からは難色を示す声が挙がります。なかには、「JRはもともと国鉄だし、今も株主である国の協力が不可欠だ」と、国に支援を求める声もありました。人口密度が低い割に、長距離路線の多い北海道。地域だけで鉄道を守るのは困難という主張です。
こうしたなかで国土交通省は2018年7月に、「事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」を発出。慢性的に赤字のJR北海道に、徹底的な経営改善を命じたのです。この監督命令で黄線区については、沿線自治体と一体となり利用促進やコスト削減、実証実験などの取り組みを求めています。これにもとづき具体的な取り組みをまとめたものが、線区ごとに策定した「アクションプラン(事業計画)」です。
アクションプランの計画期間は、2019年度から5年間(策定当初)。最終年度には総括的な検証をおこない、目標に対する達成度合いを踏まえて、事業の抜本的な改善方策を検討することになりました。
なお、期間中に感染拡大した新型コロナウイルスの影響で、計画通りに実施できなかった取り組みが全1,009件中336件もありました。このためJR北海道と沿線自治体は、計画期間の「3年間の延長」を要望。これが国に認められ、最終年度は2026年度末に変更されています。
アクションプランで設定された「目標値」
黄線区のアクションプランには、各種取り組みの状況を評価しやすいように、目標値が設定されています。その目標値は、2017年度の輸送密度と収支です。なお2024年9月4日には、さらなる収支改善に努めるため「チャレンジ目標(線区特性に応じた目標)」が追加されます。
各線区の目標値およびチャレンジ目標は、以下の通りです。
■黄線区の輸送密度と赤字額(2017年度)
| 線区名 | 輸送密度 | 赤字額 | チャレンジ目標 |
|---|---|---|---|
| 根室本線(釧路~根室) | 264 | 11億1,000万円 | 8億900万円 |
| 宗谷本線(名寄~稚内) | 352 | 55億6,400万円(※) | 23億6,400万円 |
| 釧網本線 | 374 | 14億9,700万円 | 9億7,000万円 |
| 根室本線(滝川~富良野) | 428 | 12億7,000万円 | 10億6,000万円 |
| 室蘭本線(沼ノ端~岩見沢) | 439 | 12億3,300万円 | 6億2,600万円 |
| 日高本線(苫小牧~鵡川) | 449 | 4億2,600万円 | 2億8,700万円 |
| 石北本線 | 891 | 42億4,300万円 | 31億3,700万円 |
| 富良野線 | 1,597 | 9億9,800万円 | 7億3,700万円 |
参考:JR北海道「事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画(2024(令和6)~2026(令和8)年度)」をもとに筆者作成
このほか、数値目標を細かく設定した取り組みもあり、施策ごとの評価分析もできるようになっています。
なお、JR北海道は「アクションプランの目標達成状況のみで存続・廃止を決めることはない」と伝えています。輸送密度・収支以外の指標も含め、総合的に判断する意向です。
JR北海道のアクションプランの施策内容
2019年度から始まったアクションプランの主な取り組みや各年度の検証報告は、JR北海道のWebサイトで公表されています。
ここでは、2023年度に実施した取り組みのうち、数値目標を設定した施策について振り返ってみます。
観光列車の実証運行
釧網本線で走る「くしろ湿原ノロッコ号」の停車時間見直しや、「フラノラベンダーエクスプレス」の富良野線乗り入れなど、観光列車を使った実証実験です。くしろ湿原ノロッコ号は1便あたりの人数で評価、フラノラベンダーエクスプレスは全期間(11日間)の利用者数で評価しています。
| 路線 | 事業内容 | 目標 | 実績 | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| 釧網本線 | くしろ湿原ノロッコ号の実証運行 | 150人 | 168人 | ○ |
| 富良野線 | ラベンダーエクスプレスの延長運転 | 5,000人 | 1,969人 | × |
サイクルトレインの運行
サイクルトレインは、花咲線と釧網本線で実証運行しています。いずれも目標22人に対して、惜しくも達成できませんでした。
| 路線 | 事業内容 | 目標 | 実績 | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| 花咲線 | サイクルトレイン運行 | 22人 | 18人 | × |
| 釧網本線 | サイクルトレイン運行 | 22人 | 21人 | × |
特急列車の停車駅拡大・特急料金の割引
宗谷本線では、特急列車の停車駅拡大や特急料金の割引といった施策で、利用促進を図りました。しかし、目標には遠く及ばなかったようです。
| 路線 | 事業内容 | 目標 | 実績 | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| 宗谷本線 | 比布・剣淵駅で臨時停車 | 比布駅:126人 剣淵駅:98人 | 比布駅:71人 剣淵駅:23人 | × |
| 宗谷本線 | 名寄~稚内の特急料金割引 | 125人 | 44人 | × |
普通列車に指定席導入・臨時駅への停車
花咲線では、一部普通列車の海側の席に指定席を導入し、観光誘客や増収を図りました。評価基準は、1便あたりの「販売枚数(席数)」と「利用者増加数(人数)」の2つ。販売枚数は目標を達成するものの、利用者の増加にはつながらなかったようです。
また、富良野線のラベンダー畑駅(臨時駅)では、これまで通過していた普通列車を臨時停車させる取り組みもおこなっています。目標は達成できませんでしたが、ラベンダー畑駅の利用者は大きく増加しています。
| 路線 | 事業内容 | 目標 | 実績 | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| 花咲線 | 普通列車に指定席導入 | 9席/5人 | 13.8席/1.6人 | △ |
| 富良野線 | ラベンダー畑駅に普通列車を臨時停車 | 8,000人 | 4,984人 | × |
JR定期券で路線バスにも乗れる取り組み
JR北海道の定期券で、並行する路線バスにも乗れる実証事業です。利便性を高めることで公共交通全体の利用者を増やすのが狙いでしたが、目標は達成できませんでした。なお、並行する定期路線バスがない花咲線(落石~根室)と宗谷本線(幌延~稚内)では、臨時バスを運行しています。
| 路線 | 事業内容 | 目標 | 実績 | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| 花咲線 | 落石~根室でバス実証運行 | 30人 | 23.8人 | × |
| 宗谷本線 | 幌延~稚内でバス実証運行 | 21人 | 19人 | × |
| 室蘭本線 | 苫小牧~早来でバス実証運行 | 430人 | 251人 | × |
| 日高本線 | 苫小牧~鵡川でバス実証運行 | 602人 | 176人 | × |
JRフリーきっぷで路線バスにも乗れる取り組み
JR北海道が販売する「1日散歩きっぷ」などのフリーきっぷで、路線バスにも乗れる実証事業です。石北本線では、札幌往復きっぷの片道を高速バス利用可とする取り組みも実施しています。
評価は、石北本線のみ目標達成、ほかは未達成でした。
| 路線 | 事業内容 | 目標 | 実績 | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| 石北本線 | 路線バスとの共通フリーパス販売 | 100人 | 136人 | ○ |
| 石北本線 | 札幌往復きっぷの片道をバス利用可 | 100人 | 216人 | ○ |
| 根室本線 | 1日散歩きっぷの路線バス利用可 | 100人 | 35人 | × |
| 室蘭本線 | 1日散歩きっぷの路線バス利用可 | 151人 | 47人 | × |
| 日高本線 | 1日散歩きっぷの路線バス利用可 | 52人 | 14人 | × |
音声ガイドアプリの導入
列車が観光スポットに近づくと、スマホから音声ガイドが自動で流れる音声ガイドアプリの実証事業です。評価基準はアプリへのアクセス数。前年比で300%以上のアクセスがあり、目標達成です。
| 路線 | 事業内容 | 目標 | 実績 | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| 釧網本線 | 音声ガイドアプリのアクセス数 | 前年比10%増 | 300%以上増 | ○ |
可視化された潜在ニーズの低さ
アクションプランで掲げた目標を達成するには、自治体および関係団体の努力はもとより、沿線住民の協力が大事です。仮に観光客の利用を増やそうと計画しても、観光列車を走らせるだけでは利用者が増えません。観光客に「その駅や地域で降りてみたい」と思わせる施策が必要であり、その施策には観光客をもてなす沿線住民の協力も欠かせないのです。
しかし、アクションプランの実施例を見ていると、JR北海道と観光団体など一部の人だけが頑張り、地域全体で盛り上がっているようには見えません。コロナの影響で、住民協力の施策が実現できなかった一面もあるでしょう。ただ、それを差し置いても、やはり沿線住民の意識の薄さを感じるのです。
それを証明データが、アクションプランの「調査実証事業」で明らかになりました。この事業では、黄線区に居住する沿線住民に利用頻度や利用意向などを尋ねたアンケート調査を実施しています。ここでは、高校生を除く18歳以上の沿線住民に対する「利用頻度」と「今後の利用意向」を聞いたアンケート結果についてお伝えしましょう。
鉄道の利用頻度
沿線住民が普段、鉄道をどれくらい利用しているかを聞いたアンケートです。線区ごとの結果は、以下の通りです。

宗谷本線、石北本線、富良野線は、比較的利用している人の割合が高いことがわかります。ただし、この3線は旭川市近郊の利用者も含みます。仮に、「宗谷本線の名寄~稚内のみ」「石北本線の上川~網走のみ」を対象としたアンケートを実施すれば、まったく違う結果が出ていたでしょう。
一方、日高本線、釧網本線、花咲線は利用している人の割合が低く、「週2日以上」利用する人は花咲線が0.4%、釧網線に至っては0%です。日高本線も、91%が「全く使わない」と回答しており、普段から鉄道を利用する社会人が少ない地域だとわかります。
今後の利用意向
今後、鉄道を利用する意向をたずねたアンケートです。こちらも線区ごとにみていきましょう。

「今後も利用する」という人の割合は、旭川市近郊を含む3線は高いものの、日高本線、釧網本線、花咲線は低くなっています。これは、利用頻度と同じ傾向です。
なお、「利用するようになる」という回答は、将来を見据えると鉄道が必要になると考えている方々だと思われます。ただ、利用頻度のアンケート結果からわかるように、現在の高齢者も鉄道を使っている人は少数派です。つまり、いま鉄道を使っていない現役世代が将来使うようになるかは、いまの高齢者の姿を見れば容易に想像できます。
「鉄道がなくなると将来困る」という人には、「いま使わないと廃止になるかもしれない」という危機感がないように感じられます。
JR北海道の黄線区を残す方法はあるのか?
黄線区の存続をめざして始まったアクションプランですが、結果は芳しくありません。目標値と2024年度の実績を比べると、輸送密度・収支ともに達成できたのは、根室本線の滝川~富良野のみです。観光施策が成功していると考えられます。
このほか輸送密度は釧網本線でも達成、収支は室蘭本線の沼ノ端~岩見沢、日高本線で達成しています(宗谷本線も、名寄~稚内は収支目標を達成している)。
ただ、その他の線区は未達成ですし、チャレンジ目標に関しては全線区で未達成です。
■2024年度の実績(カッコ内は目標値)
| 線区名 | 輸送密度 | 赤字額 |
|---|---|---|
| 根室本線(釧路~根室) | 217(264) | 13億5,200万円(11億1,000万円) |
| 宗谷本線(名寄~稚内) | 273(352) | 60億3,700万円(55億6,400万円) |
| 宗谷本線(旭川~名寄) | 1,304(1,452) | |
| 釧網本線 | 378(374) | 19億1,900万円(14億9,700万円) |
| 根室本線(滝川~富良野) | 457(428) | 11億円(12億7,000万円) |
| 室蘭本線(沼ノ端~岩見沢) | 327(439) | 10億7,100万円(12億3,300万円) |
| 日高本線 | 388(449) | 4億1,400万円(4億2,600万円) |
| 石北本線 | 669(891) | 49億9,900万円(42億4,300万円) |
| 富良野線 | 1,304(1,597) | 12億900万円(9億9,800万円) |
もっとも各線区の存廃は、輸送密度と収支以外の指標も含めて総合的に判断されるため、アクションプランの目標達成状況のみでは決まりません。
とはいえ、調査実証事業の結果が示すように「大多数の沿線住民が乗らない」「観光誘客もうまくいかない」「過疎化などの影響で利用者が増える要素がない」といった状況では、ほとんどの線区で「あり方」に踏み込んだ協議を始めることになると想定されます。
では、JR北海道の黄線区を存続させるには、どうすればよいのでしょうか。考えられるひとつの方法が「国の支援を得る」ことです。人口減少が進む沿線自治体や北海道だけで、億単位の赤字を毎年穴埋めするのは、現実的ではありません。国の支援を得ながら存続の道を探ることが、唯一の方法といえるでしょう。
ただし、国はこれまで経営安定基金や鉄道・運輸機構の特例業務勘定などで、1兆円前後の助成や貸付をJR北海道に対しておこなってきました。「支援をもっと増やせ」というのは勝手ですが、国の監督命令で始めたアクションプランの目標を達成できていない状況では、その主張は聞き入れられないでしょう。
また、鉄道が存続することで、沿線自治体には「固定資産税」や「観光客が地域に落とすお金」といった便益が生じます。このため、鉄道事業者に対する国の支援制度は「沿線自治体の支援もセット」となっており、自治体も負担する覚悟が必要です。
「現行の支援制度だと、自治体負担が大きすぎる」というのであれば、どんな支援制度が必要かを自治体側が具体的に示し、国に求めていくことも重要です。全国知事会・市長会・町村会でローカル線の支援制度に関する建設的な議論をおこない、国に訴えていくことも、自らの負担を軽減させることにつながるでしょう。
いずれにせよ、積極的に動かなければならないのは沿線自治体です。「国が何とかしてくれる」という他力本願の考えでは、どんな理由(言い訳)を並べても黄線区の鉄道は廃止されます。
2027年の春には、JR北海道から改善策の方向性が示されることが決まっています。それを受けて、「鉄道のあり方」の協議が始まる線区があるかもしれません。JR北海道が「単独では維持困難」を公表してから10年。これだけの歳月が経過しているのに、「何も改善していない」という状況だけは避けねばなりません。
参考URL
事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001247326.pdf
アクションプランとは(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/actionplan_overview.pdf
地域の皆様との連携(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/alignment.html
アクションプラン総括検証結果(概要)(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/verificationreport_01.pdf