黄線区は3年延命?JR北海道のアクションプラン検証報告

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黄線区の日高本線の鵡川駅 コラム
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JR北海道は2024年1月30日に、「アクションプラン総括的検証報告書」を国土交通省に提出しました。この報告書には、いわゆる黄線区(輸送密度2,000人/日未満の線区)の沿線自治体と協働で実施してきた取り組みが報告されるとともに、計画期間を約3年延長したい考えが示されています。

これに対して、国はどのように評価するのでしょうか。JR北海道がまとめた報告書から、黄線区の今後について推測します。

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黄線区のアクションプランは約3年間延長に

JR北海道のアクションプランとは、黄線区の沿線自治体とJR北海道が協力して、利用促進や経費削減につながる施策をおこなう経営改善計画のことです。この計画は、2018年に発出された国の監督命令に従い、JR北海道と沿線自治体が策定しました。

計画期間は、2019~2023年度までの5年間。最終年度には、総括した検証報告書を国に提出することが求められていました。なお、総括にあたり「2017年度の輸送密度と収支を下回らないこと」という目標値も定められています。まずは、目標値の達成状況を確認してみましょう(実績は2022年度)。

■目標達成状況(2017年度→2022年度)

線区名輸送密度の変化赤字額の変化
花咲線(釧路~根室)264→19011億1,000万円→11億3,200万円
宗谷本線(名寄~稚内)352→20927億3,300万円→26億7,700万円
釧網本線374→29414億9,700万円→16億600万円
根室本線(滝川~富良野)428→26612億7,000万円→11億300万円
室蘭本線(沼ノ端~岩見沢)439→32612億3,300万円→10億6,900万円
日高本線449→3984億2,600万円→3億6,400万円
石北本線891→52542億4,300万円→48億4,900万円
富良野線1,597→1,0539億9,800万円→11億3,200万円
▲青字は目標を達成、赤字は未達成。
参考:JR北海道「アクションプラン総括的検証結果(概要)」をもとに筆者作成

輸送密度は、8線区すべてが減少しており未達成です。一方の収支は、4線区で改善したものの、赤字が拡大した線区も4線区あります。

ただ、計画期間中には新型コロナウイルスが感染拡大し、変更を余儀なくされた事業も少なくありません。そこでJR北海道は、計画通りに実施できなかった2020~2022年度の約3年間について「利用拡大や収支改善につながる事業の抜本的な改善方策の検討には至らず」として、3年間の延長を求めたとみられます。

上記の取組を進めてきたものの、約3年間にわたる新型コロナの影響等により、観光・生活面での利用は大幅に減少。

(中略)

線区特性に応じて、徹底した利用促進やコスト削減の取組を行うとともに、データとファクトに基づく議論を重ね、PDCAサイクルにより必要な見直しを行いながら、今後3年間を目途に、事業の抜本的改善方策をとりまとめることとしたい。

出典:JR北海道「アクションプラン総括的検証結果(概要)」

これにより、2023年度末までに総括する予定だった黄線区の存廃判断も、先送りされることになります。

数値目標を掲げた黄線区の2023年度の取り組み

筆者は、2023年2月に公開した「JR北海道の黄線区廃止を避けるには?アクションプランが空振りの理由」の記事で、JR北海道が進めるアクションプランの問題点について言及しています。この記事で筆者は、具体的な数値目標を掲げず計画を進めていることに疑問を呈したのですが、2023年度に実施した施策には、ファクトとデータにもとづいて目標値を掲げた事業が複数あります。

ここで、2023年度に実施したアクションプランのうち、数値目標のある施策について振り返ってみます。

観光列車の実証運行

釧網本線で走る「くしろ湿原ノロッコ号」の停車時間見直しや、「フラノラベンダーエクスプレス」の富良野線乗り入れなど、観光列車を使った実証実験です。くしろ湿原ノロッコ号は1便あたりの人数で評価、フラノラベンダーエクスプレスは全期間(11日間)の利用者数で評価しています。

路線事業内容目標実績評価
釧網本線くしろ湿原ノロッコ号の実証運行150人168人
富良野線ラベンダーエクスプレスの延長運転5,000人1,969人×

サイクルトレインの運行

サイクルトレインは、花咲線と釧網本線で実証運行しています。いずれも目標22人に対して、惜しくも達成できませんでした。

路線事業内容目標実績評価
花咲線サイクルトレイン運行22人18人×
釧網本線サイクルトレイン運行22人21人×

特急列車の停車駅拡大・特急料金の割引

宗谷本線では、特急列車の停車駅拡大や特急料金の割引といった施策で、利用促進を図りました。しかし、目標には遠く及ばなかったようです。

路線事業内容目標実績評価
宗谷本線比布・剣淵駅で臨時停車比布駅:126人
剣淵駅:98人
比布駅:71人
剣淵駅:23人
×
宗谷本線名寄~稚内の特急料金割引125人44人×

普通列車に指定席導入・臨時駅への停車

花咲線では、一部普通列車の海側の席に指定席を導入し、観光誘客や増収を図りました。評価基準は、1便あたりの「販売枚数(席数)」と「利用者増加数(人数)」の2つ。販売枚数は目標を達成するものの、利用者の増加にはつながらなかったようです。

また、富良野線のラベンダー畑駅(臨時駅)では、これまで通過していた普通列車を臨時停車させる取り組みもおこなっています。目標は達成できませんでしたが、ラベンダー畑駅の利用者は2割ほど増加しています。

路線事業内容目標実績評価
花咲線普通列車に指定席導入9席/5人13.8席/1.6人
富良野線ラベンダー畑駅に普通列車を臨時停車8,000人4,984人×

JR定期券で路線バスにも乗れる取り組み

JR北海道の定期券で、並走する路線バスにも乗れる実証事業です。利便性を高めることで公共交通全体の利用者を増やすのが狙いでしたが、目標は達成できませんでした。なお、花咲線(落石~根室)と宗谷本線(幌延~稚内)では、臨時バスを運行しています。

路線事業内容目標実績評価
花咲線落石~根室でバス実証運行30人23.8人×
宗谷本線幌延~稚内でバス実証運行21人19人×
室蘭本線苫小牧~早来でバス実証運行430人251人×
日高本線苫小牧~鵡川でバス実証運行602人176人×

JRフリーきっぷでバスにも乗れる取り組み

JR北海道が販売する「1日散歩きっぷ」などのフリーきっぷで、路線バスにも乗れる実証事業です。石北本線では、札幌往復きっぷの片道を高速バス利用可とする取り組みも実施しています。

評価は、石北本線のみ目標達成、ほかは未達成でした。

路線事業内容目標実績評価
石北本線路線バスとの共通フリーパス販売100人136人
石北本線札幌往復きっぷの片道をバス利用可100人216人
根室本線1日散歩きっぷの路線バス利用可100人35人×
室蘭本線1日散歩きっぷの路線バス利用可151人47人×
日高本線1日散歩きっぷの路線バス利用可52人14人×

音声ガイドアプリの導入

列車が観光スポットに近づくと、スマホから音声ガイドが自動で流れる音声ガイドアプリの実証事業です。すでに花咲線では導入していますが、今回の実証事業では釧網本線が対象となります。

評価基準はアプリへのアクセス数。前年比で300%以上のアクセスがあり、目標達成です。

路線事業内容目標実績評価
釧網本線音声ガイドアプリのアクセス数前年比10%増300%以上増

可視化された潜在ニーズの低さ

JR北海道が提出した検証報告書には、「調査実証事業」として住民アンケートの結果も掲載しています。このアンケートでは、18歳以上の沿線住民(高校生を除く)、鉄道で通学する高校生、観光客など、さまざまなターゲットに調査しています。

ここでは、18歳以上の沿線住民に対する「利用頻度」と「今後の利用意向」を聞いたアンケート結果についてお伝えしましょう。なお、アンケートは各路線の沿線居住者800人(合計6,400人)に対して実施。回答数は2,049人(回答率32%)です。

鉄道の利用頻度

高校生を除く18歳以上の沿線住民が、鉄道をどれくらい利用しているかを聞いたアンケートです。線区ごとの結果は以下のとおりです。

黄線区の鉄道利用頻度アンケート調査の結果
▲参考:各線区の「アクションプラン総括的検証報告書」の公共交通利用実態調査(地域住民アンケート)をもとに筆者作成

宗谷本線、石北本線、富良野線は、比較的に利用している人の割合が高いことがわかります。ただし、この3線は旭川市近郊の利用者も含みます。仮に、「宗谷本線の名寄~稚内のみ」「石北本線の上川~網走のみ」を対象としたアンケートを実施すれば、まったく違う結果が出ていたでしょう。

一方、日高本線、釧網本線、花咲線は利用している人の割合が低く、「週2日以上」利用する人は花咲線が0.4%、釧網線に至っては0%です。日高本線も、91%が「全く使わない」と回答しており、普段から鉄道を利用する社会人が少ない地域であることがわかります。

今後の利用意向

今後、鉄道を利用する意向をたずねたアンケートです。こちらも線区ごとにみていきましょう。

黄線区の今度の利用意向アンケート調査の結果
▲参考:各線区の「アクションプラン総括的検証報告書」の公共交通利用実態調査(地域住民アンケート)をもとに筆者作成

「今後も利用する」という人の割合は、旭川市近郊を含む3線は高いものの、日高本線、釧網本線、花咲線は低くなっています。これは、利用頻度と同じ傾向です。

なお、「利用するようになる」という回答は、将来を見据えると鉄道が必要になると考えている方々だと思われます。ただ、利用頻度のアンケート結果からわかるように、現在の高齢者も鉄道を使っている人は少数派です。つまり、いま鉄道を使っていない現役世代が将来使うようになるかは、いまの高齢者の姿を見れば容易に想像できます。「鉄道がなくなると将来困る」という人には、「いま使わないと廃止になるかもしれない」という危機感がないように感じられます。

黄線区に最後通牒―2027年春に存廃判断か?

JR北海道が提出した検証報告書に対して、国土交通省は2024年3月15日、黄線区におけるアクションプラン検証期間の3年延長を容認しました。

それと同時に、国土交通省は「監督命令」を再び発出。利用促進やコスト削減などの取り組みを、沿線自治体と一体となり引き続き徹底するよう求めました。また、目標値については従来の輸送密度と収支の改善にくわえ、線区の特性に応じた新たな目標の設定も求めています。

・引き続き一体となって、徹底した利用促進やコスト削減などの取組を行い、国による支援制度も活用しつつ、徹底的にデータとファクトに基づく議論を重ねる。

・線区の特性(観光線区、都市間幹線交通など)に応じた目標を設定し、PDCAサイクルにより必要な見直しを行う。
⇒令和8年度末までに、線区ごとに事業の抜本的な改善方策を確実にとりまとめる。

出典:国土交通省「事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」

これに対してJR北海道は、監督命令の内容にもとづき「中期経営計画2026」を策定。黄線区に関しては、「次の3年が最後の機会という認識に立ち、2026年度末までに抜本的な改善方策を確実にとりまとめる」と記しています。これからの3年間が黄線区の存続・廃止をかけた「ラストチャンス」と、JR北海道は捉えているわけです。

JR北海道の経営改善を確実に進めるために、国は貨物走行線区・青函トンネルにおける修繕費や、省力化・省人化につながる投資などに対して、3年間で1,092億円の支援を約束しました。黄線区に対する支援は、これとは別におこなう予定です。ただし、黄線区への支援は「北海道や沿線自治体も支援すること」が大前提です。

ちなみに、北海道が2021~2023年度の3年間に支援した額は、約22億円とされます。ローカル線に対する支援額としては、他県と比べれば多いほうですが、黄線区の赤字額はトータルで年間約140億円(2022年度)です。あくまでも「収支改善」が目標とはいえ、沿線地域の少子化・過疎化は進む一方ですから、目標達成はいっそう厳しくなるとみられます。

2024年4月19日、JR北海道は沿線自治体の首長などと意見交換会を実施します。このなかで、沿線自治体からは「観光振興による利用者拡大など自治体も努力していく」といった発言が出される一方で、公的支援に関する話はなかったようです。もっとも、沿線自治体の財政力で上下分離などの巨額の支援は、現実的ではありません。だからといって、国におんぶにだっこの姿勢では、廃止にされる確率が上がるだけでしょう。

「自分たちにできることは何か」を改めて考え直すとともに、現行法にもとづいた「国の支援策を最大化させる手段は何か」も考える。そのうえで、北海道が中心となり黄線区を活用したマスタープランをまとめて、国と駆け引きをしていく。それが、鉄道の存続につながる唯一の道ではないでしょうか。

延命が決まったとはいえ、予断を許さない状況が続く黄線区。地域にとって、あるいは北海道にとって、鉄道の役割や価値とは何かを改めて問い直す3年間になることを願うところです。

※JR北海道のアクションプランについて、基本的な情報をまとめた記事はこちらをご覧ください。

参考URL

地域の皆様との連携(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/alignment.html

事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001730679.pdf

JR北海道グループ中期経営計画2026
https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20240401_KO_chukikeikaku.pdf