【現地調査】久留里線はなぜコスパの悪い赤字路線なのか<Part1>

久留里線の車両 コラム

JR東日本は、輸送密度2,000人/日未満の線区を対象に、収支データを公表しています。このなかで、営業係数(100円を稼ぐのに必要な費用)が関東でもっとも高い線区が、久留里線の久留里~上総亀山間です。

久留里~上総亀山の営業係数は、コロナ禍前の2019年が15,546、翌2020年は17,074と、経費が収入の100倍以上になるコスパの悪い線区です。久留里線は、なぜ成績が悪いのでしょうか。駅周辺や競合バス路線などを含め、現地を調査してきました。

久留里線のメインターゲットは高校生

久留里線は、千葉県の木更津から上総亀山までを結ぶ、全長22.6kmのローカル線です。沿線地域は、他の赤字ローカル線と同様に「車社会」ですから、利用者の大半が通学生ということになります。

現地調査の前に、久留里線沿線にある高校・高専・大学の位置関係から、公共交通の利用状況を探ってみましょう。

久留里線周辺の学校の位置
▲赤丸が、木更津駅周辺にある高校・高専・大学。国土地理院「地理院地図 / GSI Maps」を加工して作成。

木更津駅の周辺には、木更津高校、木更津東高校、通信制の学校などが集まっています。このうち、生徒数が約900人の木更津高校は東口から徒歩20分ほど、木更津東高校は生徒数が約350人で東口から徒歩5分ほどの位置です。

また、祇園駅の近くには約1,100人が通う木更津工専があります。祇園駅から徒歩20分くらいですから、久留里線を利用している学生もいるでしょう。ただ、木更津駅からバスで通学することも可能です。

さらに、沿線からやや離れたところに私立の木更津総合高校と清和大学の「君津学園」があります。生徒数は、木更津総合高校が約1,900人、清和大学が約700人と沿線地域でもっとも多いのですが、大半の学生がスクールバスを使っているようです。スクールバスは、木更津駅だけでなく、久留里方面(小櫃~上総亀山)からも運行しており、久留里線とも競合しています。

少子化時代において私立学校が学生を獲得するには、通学の利便性も重要な施策です。その一方で、久留里線の利用者数に大きな影響を与えているともいえるでしょう。

君津学園行きのバス乗り場
▲木更津駅の近くにある、君津学園行きのバス乗り場。朝夕にはバスが頻繁に運行されている。

なお、久留里駅の近くにも君津青葉高校があります。こちらに通う学生の約8割が久留里線を利用しているそうですが、全校生徒は約250人程度。JR東日本からみれば、代替バスでは輸送が難しいものの、大きな運賃収入にはならないと考えられます。

【乗車レポート】久留里線(木更津→久留里)の利用実態

通学生の利用実態は、定期券の売上枚数などで把握できます。ただ、JR東日本は公表していないため確認できません。沿線自治体とJRが組織する「久留里線活性化協議会」の場では、提示されたかもしれませんが、いずれにせよホームページ等では確認できませんでした。

では、通学生以外の利用実態はどうなのでしょうか。実際に、久留里線に乗って調査しました。なお、バス路線と競合する区間は、バスでも移動しています。

■調査概要
・調査日:2022年11月の平日
・調査区間:木更津~上総亀山(一部の駅で下車)
・天候:快晴

木更津駅 8:20発(925D)

木更津駅に停車中の久留里線の列車

最初の乗車は、8:20発久留里行きの列車です。通勤・通学時間帯ですが、下り列車なので利用者は少なく、11名が乗車しています。沿線には大きな病院もありますから、高齢者が多いと予想していたのですが、高齢者は2名だけ。比較的に若い方が多く利用しています。

木更津駅を出発した久留里線からの車窓

列車は定刻に出発。内房線と別れると、田畑の地域が広がります。線路を挟んだ反対側は住宅地です。この街づくりが、久留里線の利用者が少ない理由のひとつでしょう。

赤字ローカル線によくある光景ですが、鉄道や駅が「街の外れ」にあるため、集客しにくい構造なのです。もっとも、鉄道を敷設するには広大な土地が必要ですから、どうしても郊外に通すことになります。問題は、その後の街づくりです。

木更津市は海岸部に工業地帯が広がり、久留里線の反対側が発展していきました。いまの木更津の姿があるのは、工業都市計画が成功したからといっても過言ではありません。その一方で、久留里線沿線は取り残された感があるのです。

祇園駅 8:24着

11名の乗客中、4名が祇園駅で下車します。若い男性の方でしたから、木更津高専などに通う学生だったのかもしれません。

上総清川駅 8:27着

上総清川駅で、いったん下車します。自分のほかにも、若い男性1名が下車しました。

上総清川駅の近くには、木更津東邦病院がありますから、高齢の方が降りるかと予想していたのですが、下車する高齢者はいませんでした。

もっとも、上総清川駅は「高齢者に優しくない駅」ですから、仕方ないのかもしれません。

上総清川駅のホームの階段

ホームから地上に向かう場所は、階段になっています。これでは、車いすの方はもちろん、足腰の弱い方も使いづらいでしょう。

国道409号線から上総清川駅への入り口

また、駅から幹線道路に出る道は「路地裏」のような道。車の出入りもできませんし、駅への案内看板もありません。

こうした不案内な駅は、久留里線に多く見られます。普段から鉄道を利用する人ならわかっていても、利用しない方には沿線に住んでいてもわからないでしょう。

木更津東邦病院

木更津東邦病院は、上総清川駅から徒歩3分くらいの位置です。病院の前には、日東交通のバス停もあります。ただ、通院者の大半はマイカーで来ているようです。

木更津東邦病院前 8:45発(日東交通バス)

日東交通バスの馬来田線は、東横田駅まで久留里線と並走します。ここから、バスに乗ってみましょう。余談ですが、久留里線はSuicaなどの電子マネーが使えませんが、日東交通のバスは電子マネーが使えます。

日東交通バス
▲2021年10月からルート短縮され、バス停に記された「茅野」にはバスが行かない。ルート短縮から1年以上経過したが、修正されていないようだ。

バスが到着し、通院客が降りてくるかと思いきや、誰も降りません。乗客はサラリーマン風の男性が1人。自分も含め2名を乗せたバスは、東横田に向けて走り出します。途中で、木更津駅行きのバスとすれ違いますが、そのバスにも乗客は2~3人くらい。時間帯にもよるでしょうが、公共交通のニーズが少ないことがうかがえます。

なお、このバス(馬来田線)は、かつて東横田駅のひとつ先の馬来田駅付近まで走っていました。ただ、コロナの影響で利用者が減少し、2021年10月からルートが短縮されています。

東横田 9:00着

途中で乗車する人がいないまま、バスは終点・東横田に到着します。バス停は、久留里線の東横田駅近くでした。ここで、サラリーマン風の男性と一緒に下車します。

駅周辺には、金融機関をはじめ平川公民館や消防署などの行政機関もそろっています。平川公民館では、駅の待ち時間を有効活用してもらおうと、久留里線活性化協議会が公民館への誘導ポスターを作成。あわせて、久留里線利用者へのアンケート調査を実施しています。

調査は2021年から続いていますが、サンプルが集まらないようで、2022年11月の時点で結果は公表されていません。というか、久留里線利用者へのアンケートをするなら、「駅でやったほうが早い」と誰もが思うところですが…。

東横田駅前の花壇

また、協議会では駅の美化活動として「花いっぱいプロジェクト」を実施しています。東横田駅にも「中富ふれあいの会」という団体が、駅前に花壇を設置するなど美化活動に貢献しています。こうした美化活動は、小櫃駅でも実施しています。

※久留里線の協議会については、以下のページで解説しています。

横田駅 9:37発(927D)

次の列車が来るまで30分以上ありますから、木更津側に1駅戻った横田駅まで徒歩で移動します。国道409号線を西に向かい、「横田駅入口」信号を右に曲がります。周辺は住宅が並び、ここから通学する利用者も多いようです。駅の東側には、新築分譲の工事もおこなわれていました。

横田駅で乗った列車には、14名が乗車。老若男女、幅広い層です。東横田から先は並走している国道から離れ、日本の原風景ともいわれる「里山」が広がるエリアです。

東横田から久留里までの乗降客数は、以下の通りです。

・東横田:1名下車(中年の男性)
・馬来田:7名下車
・下郡:2名下車(若い女性組)
・小櫃:1名下車(中年の男性)
・俵田:0名
・久留里:3名下車

久留里方面に向かう乗車人数は、0名でした。

久留里駅 10:03着

JR久留里駅の駅舎

久留里駅は、木更津駅を除くと久留里線でもっとも利用者数の多い駅です。2021年の乗車人員は、1日288人。ただ、このうち君津青葉高校の通学定期客が約200人ですから、生活利用や観光利用といった客は100人前後しかいないようです。

もっとも、コロナ禍前は1日400人前後の乗車人員がありました。久留里駅周辺には久留里城をはじめ、「平成の名水百選」に選ばれた水の里として、醸造所が各地に点在するなど観光名所も多々あります。

久留里観光案内所
▲久留里駅の近くにある観光案内所。酒蔵をイメージした建物で、地元の銘酒も展示・販売されている。

地域の銘酒を活用して、鉄道の利用者を増やそうと取り組む第三セクターもありますから、観光資源と結びつけることで今後の利用促進に期待したいところです。

久留里から上総亀山間と、木更津方面の上り列車の現地調査は、以下のページでお伝えします。

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