※のと鉄道は、2024年4月6日に全線で復旧しました。この記事は、同年2月15日現在の情報をもとに作成しています。
2024年1月1日に発生した能登半島地震は、石川県を中心に各地で甚大な被害をもたらしました。鉄道関係に限ると2月15日現在で、のと鉄道の能登中島~穴水が不通になっています。ただ、4月上旬の復旧をめざすことが伝えられており、全線復旧できそうです。
復旧工事は、線路などの鉄道施設を保有するJR西日本や沿線自治体の協力も得ながら進められていますが、復旧協議はどのように進められるのでしょうか。今後の行方を推測します。
JR七尾線・のと鉄道の被害状況
まずは、能登半島地震で不通となったJR七尾線と、のと鉄道の被害状況について整理します。
JR七尾線の被害状況
JR七尾線は、金沢~羽咋が2024年1月15日までに運転を再開。さらに羽咋~七尾が1月22日に再開します。残る七尾~和倉温泉は、橋りょうのずれや駅ホームの亀裂などの被害が出ましたが2月15日に復旧し、全線で運転再開しています。
なお、一部特急列車は引き続き運転を取りやめていますので、ご利用を検討されている方はご注意ください。
のと鉄道の被害状況
のと鉄道は震源地に近いこともあり、被害は甚大でした。のと鉄道のFacebookによると、線路の曲がりや切断、土砂流入、駅施設の損壊などの被害が確認されています。
のと鉄道では、鉄道・運輸機構に「鉄道災害調査隊」の派遣を要請。1月9~10日にかけて被害状況を調査しています。この調査結果を受けて復旧の時期や費用などを検討し、比較的に軽微な被害で済んだ七尾~能登中島は、2月15日に運転を再開させます。また、能登中島~穴水も4月上旬の復旧をめざして、工事を進めているようです。
参考:のと鉄道Facebook
のと鉄道の鉄道施設をJR西日本が保有している理由
大地震によりのと鉄道が受けた被害は、線路などの鉄道施設に集中しました。その鉄道施設は、JR西日本が保有しています。のと鉄道は、JR西日本に線路使用料を払って運行しており、日本では珍しい「民民の上下分離方式」が採用されています。なぜ、このような形態になったのでしょうか。
のと鉄道はもともと、特定地方交通線に指定された国鉄能登線を継承し、1988年3月に開業した第三セクターの鉄道事業者です。能登線は、穴水から能登半島の先端にある蛸島までを走っていた路線で、2005年に廃止されています。
なお、現在のと鉄道が走る七尾~穴水は、1991年まではJR西日本の七尾線の一部であり、線路は輪島までつながっていました。七尾線は特定地方交通線に指定されなかったため、JR西日本に継承されたのです。
JRが発足した1980年代後半といえば、バブル景気の真っただ中。全国各地でリゾートブームが巻き起こっていた時代です。こうした状況に沿線自治体は、「七尾線を和倉温泉まで電化してほしい」という要望を、JR西日本に申し入れます。大阪や京都からの特急列車を和倉温泉まで乗り入れさせることで、観光誘客を図るのが狙いです。
これに対してJR西日本は、条件付きで電化に了承します。その条件とは、「和倉温泉~輪島を、のと鉄道に移管させること」でした。七尾線は特定地方交通線に指定されなかったものの、和倉温泉以北は閑散としており、今後の路線維持が懸念されたのです。
ただ、七尾線は特定地方交通線ではないため、第三セクターに移管しても国の転換交付金を得られません。というより、国鉄は消滅したのでJR西日本から資産を譲り受けることになります。つまり、沿線自治体は莫大な譲渡資金をJR西日本に払うことになるのです。
そこで、JR西日本と沿線自治体が協議。その結果、「線路などの施設はJR西日本がそのまま保有し、のと鉄道は線路使用料を払いながら運行するのが合理的」として、上下分離方式での運行に合意します。
こうして1991年9月、JR七尾線は和倉温泉まで電化されるとともに、七尾~輪島の運行はのと鉄道が担うことになりました。なお、七尾~和倉温泉の一駅間は、両社の共用区間となります。
その後、沿線の道路整備や過疎化・少子化などの理由で、穴水以北の線区は利用者が激減し、2001年には穴水~輪島が廃止に。さらに2005年には、もともとのと鉄道の線区であった能登線(穴水~蛸島)も廃止になります。
こうした経緯から、現存する七尾~穴水は、のと鉄道が第二種鉄道事業者、JR西日本が第三種鉄道事業者(七尾~和倉温泉は第一種鉄道事業者)として運営されているのです。
のと鉄道の復旧にJR西日本の考えは?
上記で説明した経緯から被災した線路などはJR西日本が保有しており、復旧にはまず「JR西日本が復旧する意思があるか」がポイントでした。
JR七尾線に関しては、輸送密度が4,000人/日を超えており(2019年)、2024年2月15日に全線復旧します。仮に廃止となれば、代替バスの確保が厳しい時代ですから、鉄道での復旧が適切でしょう。
問題は、のと鉄道の線区です。JR西日本としては「これまで通り線路使用料を払ってもらえれば復旧させます」というのが、基本スタンスでしょう。ただ、JR西日本にも復旧費用の負担が生じます。仮に、復旧費用が線路使用料だけで回収できないとなれば、残る不通区間の復旧を拒むことも考えられたのです。
ちなみに、線路使用料は年度によって異なり、2022年度は2,785万円でした。例年だと、年間3,000万円~5,000万円の線路使用料をJR西日本に払っていますが、この額は他のJR西日本のローカル線の管理費と比べると低額に抑えているといわれます。
国と沿線自治体を交えた復旧協議がスタート
2024年1月23日、国土交通相の斉藤大臣は、のと鉄道の復旧について「石川県やJR西日本などと復旧計画の策定に向けて協議を始めた」ことを明らかにしました。不通になってからわずか3週間で、国も交えた協議が始まるのは、異例中の異例です。
斉藤大臣は、鉄道災害調査隊による調査結果を受けて、のと鉄道の全線復旧に向けて支援していく考えを示しています。
また、実施した被害状況調査などの結果も踏まえ、石川県、JR西日本、「のと鉄道」と復旧計画策定に向けた打ち合わせを国土交通省も入り開始しています。
出典:国土交通省「斉藤大臣会見要旨」
引き続き、地元自治体等の要望も踏まえつつ、関係機関と密に連携し、早期復旧に向けた支援を国土交通省としてもしっかり行っていきたいと思っています。
復旧費用は2月15日の段階で公表されていませんが、1月に鉄道災害調査隊が調査した範囲では、少なくとも27カ所で被害が確認されており、億単位になることも想定されます。そこで国と石川県は、JR西日本の復旧に関する負担軽減についても話し合い、のと鉄道の早期全線復旧をめざしたと考えられます。
なお、実際にどのような支援をおこなったかは2月15日現在で公表されていません。他線の事例ですが、2022年の豪雨災害で被災した大井川鉄道では、一部区間を復旧した後に国の「鉄道軌道整備法にもとづく災害復旧補助」が適用され、費用の半分を国と沿線自治体が負担しています。これと同じケースで、のと鉄道でも復旧後にかかった費用の負担割合を関係者で話し合うことがあるかもしれません。
年間3億円の赤字を補てんする沿線自治体
大規模災害で被災した赤字の鉄道路線を復旧させるには、沿線自治体の熱意も必要です。のと鉄道も赤字ですが、石川県や沿線自治体が毎年補てんしており、公的支援を受けながら運営しています。ちなみに、のと鉄道の営業損益は3億1,135万円の赤字です(2019年度)。
一方で、沿線の過疎化は進んでおり、のと鉄道の利用者数は減少傾向になります。コロナ禍前の2019年の輸送密度は、735人/日です。
■のと鉄道の輸送密度の推移
2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
778 | 747 | 775 | 851 | 799 | 733 | 745 | 735 | 492 |
出典:鉄道統計年報
復旧しても、のと鉄道の利用者が減り続けて経営状態がさらに悪化し、鉄道事業から撤退することになれば、復旧費用もこれまでの赤字補てんも無駄になってしまいます。それを避けるために、沿線自治体は観光利用も含めてのと鉄道のさらなる利用促進に取り組むことが求められるでしょう。
大規模災害からの復興に、鉄道が一役買うケースもあります。沿線地域がのと鉄道を十二分に活用することで、一日も早い能登半島の復興を願うところです。
※鉄道の災害復旧協議中または協議後に復旧・廃止になった事例は、以下のページで紹介します。
※鉄道の災害復旧に関する事例や法律は、以下の記事で詳しく解説しています。
参考URL
のと鉄道の事例(一橋大学鉄道研究会)
https://www.ikkyo-tekken.org/studies/2005/2005_124.pdf
のと鉄道 有価証券報告書-第36期(IR BANK)
https://f.irbank.net/pdf/E04142/ir/S100QOPA.pdf