2022年12月19日、JR東日本は津軽線の「将来のあり方」について、沿線自治体などと協議を始める意向を示しました。存続・廃止を含めた協議対象線区は、蟹田から三厩までの約29kmです。
一部報道で、沿線自治体は津軽線の維持存続をめざすといわれていますが、実際のところはどうなのでしょうか。津軽線の現状や沿線自治体の動向などから、2023年にも設置される協議会の行方を考えてみます。
※沿線自治体とJR東日本との協議の流れや、津軽線の復旧・存続を断念するまでの経緯は、こちらのページで解説しています。
津軽線は北海道と本州をつなぐ重要路線だった
津軽線は、青森と三厩をつなぐ55.8kmのローカル線です。このうち、青森から新中小国信号場までの区間は貨物列車も運行しており、北海道新幹線が開業する前は、特急列車や寝台特急「北斗星」などの優等列車も走っていました。
2016年3月に北海道新幹線が開業すると、津軽線はローカル線に転じます。2022年現在の運行本数は、青森~蟹田間が1日9往復、蟹田~三厩間が1日5往復(うち1往復は青森~三厩直通)です。
なお、2022年8月に発生した豪雨災害で蟹田~三厩間は不通となり、12月時点で代行バスが1日3往復運行されています。JR東日本によると、鉄道の復旧工事費は最低でも6億円と見積もっており、復旧しても赤字ローカル線であることから、今後のあり方を協議することになったのです。
津軽線(中小国~三厩)の線区データ
JR東日本が協議を始めたいとしている、津軽線のデータをみていきましょう。
なお、JR東日本が公表している資料では、蟹田のひとつ隣にある中小国で分けています(青森~中小国/中小国~三厩)。以下のデータは、中小国~三厩(24.4km)であることをご承知おきください。
津軽線(中小国~三厩)の線区データ
協議対象の区間 | JR津軽線 中小国~三厩(24.4km) |
輸送密度(1987年→2019年) | 415→107 |
増減率 | -74% |
赤字額(2019年) | 7億1,100万円 |
営業係数 | 7,694 |
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。
津軽線(中小国~三厩)の輸送密度の推移
2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 |
173 | 163 | 135 | 126 | 116 | 106 | 115 | 107 | 107 | 98 |
輸送密度をみると、津軽線の利用者は年々減少しており、2021年には100人/日を下回っています。JR北海道であれば廃止の水準ですし、バス転換をしたところで赤字は確実ですから、デマンド交通が代替交通手段のメインになるでしょう。
なお、JR東日本では2022年7月より地元のタクシー会社と連携したデマンド型乗合タクシー「わんタク」を運行しています。運行エリアは外ヶ浜町と今別町の一部エリアで、津軽線の不通区間と重なります。
「わんタク」は期間限定の実証実験のため、本当は2022年9月末までの運行予定でした。しかし、8月から津軽線が不通になったことを受け、12月現在も運行中です。皮肉にも、「代替交通手段の実験」となっています。
出典:JR東日本スタートアップ「デマンド型乗合タクシー」 ▲蟹田~三厩エリアをカバーする「わんタク」は、日中30分おきに運行。タクシーなので、エリア内ならどこでも行ける。
ちなみに、津軽線沿線には高校がありません。沿線の高校生は青森市内の学校まで通っていますが、このうち東奥学園に通う生徒はスクールバスを利用しており、三厩からも乗車できます。
その他の高校に通う生徒は鉄道を利用するしかありませんが、三厩駅の乗車人員は高校生以外の乗客を含めて1日25人(2018年)。バスでも十分運べる人数です。
津軽線沿線自治体の地域公共交通計画
津軽線の協議対象区間となる沿線自治体は、外ヶ浜町と今別町です。実際の協議には、平内町や蓬田村などの沿線自治体や、青森県も参画すると想定されますが、ここでは外ヶ浜町と今別町が、津軽線を公共交通としてどのように位置付けているのかをみていきましょう。
国は、地域公共交通活性化再生法にもとづき、全国の自治体に対して「地域公共交通計画」の作成を努力義務としています。努力義務ですから必ず作成する必要はありませんが、現状の公共交通に課題を感じている自治体は、利用ニーズに適した計画を立てるよう国が推進しているのです。
しかし、外ヶ浜町と今別町は2022年12月現在、地域公共交通計画を策定していません。今別町は作成中とみられ、公募型プロポーザル方式による提案をホームページで募集中です。
また、外ヶ浜町では「第3次外ヶ浜町総合計画」のなかで、津軽線に関して次のような記述があります。
●基本的方向性
当町では、JR津軽線が青森市から三厩地区まで運行され、蟹田駅・三厩駅からは、民間交通事業者のほか、町営バスを運行しており、様々な交通ネットワークをより広く安全に利便性の高い交通基盤の整備を図ります。●主な取組み <事務事業>
出典:外ヶ浜町「第3次 外ヶ浜町総合計画」
JR(津軽線・新幹線)接続や生活拠点施設の経由を考慮した町営バスの運行体制を整備します。
外ヶ浜町では、津軽線が広域生活や経済圏域において重要な交通手段ととらえながらも、町としては、町営バスなどとの接続やネットワーク整備に注力したいと考えているようです。
厳しい言い方をすれば、外ヶ浜町は「現状の津軽線に問題はない」と考えているようにもみえますし、「JRのことまで考えられない」というのが本音かもしれません。
なお、JR東日本が協議会の設置を求めたことに対して、両町からの反応は報道されていないようです(2022年12月末時点)。
青森県は津軽線の協議会設置に賛同
では、青森県は将来の津軽線をどのようにとらえているのでしょうか。ここでは、三村青森県知事の記者会見や県議会の議事録から考察してみましょう。
津軽線が豪雨災害に見舞われていた2022年8月3日、三村知事はJR東日本が公表した「利用者の少ない線区の収支」について、次の意見を述べています。
自ら廃線を選ぶようなことはできませんが、そうではなく地域の交通ネットワークを残すためにどうするかといった前向きなことであればもちろん協議は必要だと思います。そういったことも含めて、情報収集を進めながら、慎重に検討しなければならないと思っています。青山副知事がJR関連に明るいので、しっかり情報収集してもらおうと思っています。
出典:青森県「知事記者会見(定例記者会見)/令和4年8月3日/庁議報告ほか」
後半に出てくる青山副知事は、東北新幹線が新青森まで延伸した際に、並行在来線(現:青い森鉄道)の協議に参加した人物です。
三村知事は、鉄道だけでなく「地域の交通ネットワークを残す」ための話し合いであれば、協議会の設置は必要だと考えているようです。また、JR東日本に対しては観光誘客などの協力に感謝したうえで、対話の姿勢を示しています。
一方で、鉄道に対する思いとして、以下のようにも述べています。
鉄道は、実際の足であると同時に文化であります。いろんな夢を持つものであり、本県にとってすごく大事なものだと思っています。だから、どのようにして一緒にやっていける体制を構築できるのかやり取りしていかなければならないと本気で思っています。それだけ今までお世話になっておりますので。
出典:青森県「知事記者会見(定例記者会見)/令和4年8月3日/庁議報告ほか」
なお、8月の豪雨災害で青森県内では五能線も被災し、長期運休となりました。9月、三村知事は県議会や青森県鉄道整備促進期成会と一緒に、これらの線区の早期復旧をJR東日本へ要望します。
10月には、国土交通省の石原官房審議官と、JR東日本の渡利常務取締役を県議会に招致。赤字ローカル線の協議会設置に関することや、津軽線などの復旧について参考人質疑をおこないます。ここでは青森県企画政策部長が、協議会の設置に関して以下のように述べています。
県から協議会の設置を要望することはありません。あくまでも、事業者からの要望を受けてどうするか判断していきたいと思います。
出典:青森県議会「令和4年新幹線・鉄道問題対策特別委員会」
青森県としては、津軽線の維持存続を前提にしているものの、JR東日本から協議会の設置を求められれば応じる意向を示したのです。
それから2カ月が過ぎた12月。JR東日本は、津軽線の「将来のあり方」について協議を申し入れます。これに対して三村知事は、「鉄路での維持が必要との立場で協議に参加し、地域住民の交通を確保していく観点から最善の方策を検討していきたい」と、JR東日本からの求めに応じる姿勢です。
津軽線をめぐる協議の行方
一部報道によると、沿線自治体とJR東日本との協議会は、2023年1月にも設置されるといわれています。では今後、津軽線をめぐる協議会はどのように進んでいくのでしょうか。
NHKによると、JR東日本では「鉄道の復旧」と「新交通体系の構築」の2つの選択肢を用意していると報じています。
このうち、鉄道で復旧する場合は、沿線自治体に公的支援を求める姿勢です。該当線区の赤字額は、年間で5億~7億円。すべてとはいわないまでも、億単位の支援を求められることが予測されます。
現状から考えると、1日数十人の利用者のために億単位を支援するのは厳しいでしょう。観光の視点で考える場合も、津軽線が地域にどれだけの経済効果があるかを示す必要があります。
一方の新交通体系を構築する場合は、既存バスやデマンド交通を組み合わせた交通網の再編を検討しているようです。先述の通り、沿線自治体の外ヶ浜町と今別町は、地域公共交通計画を策定していません。この際、JR東日本やバス・タクシーなどの交通事業者と一緒に、計画を作成することも可能でしょう。
協議の流れとしては、只見線の事例と同じになると考えられます。只見線の沿線自治体は、観光を中心に鉄道の価値と地域への経済効果をアピールし、年間2億円以上をJR東日本に支援することで復旧させています。津軽線も、沿線自治体が「津軽線の価値」をJRや青森県民にどれだけアピールできるかにかかっています。存廃を決めるボールは、すでに自治体が握っているのです。
※沿線自治体とJR東日本との協議の流れや、津軽線の復旧・存続を断念するまでの経緯は、こちらのページで解説しています。
※参考事例となる只見線の協議会の流れは、以下のページで紹介しています。
参考URL
路線別ご利用状況(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/rosen_avr/
デマンド型乗合タクシー(JR東日本スタートアップ)
https://jrestartup.co.jp/tsugaru2022/?doing_wp_cron=1671852090.5413210391998291015625#sec_wnd
今別町地域公共交通計画策定等支援業務に係る公募型プロポーザル方式提案募集について(今別町)
https://www.town.imabetsu.lg.jp/news/gyousei/2022-1017-1745-1.html
第3次 外ヶ浜町総合計画(外ヶ浜町)
http://www.town.sotogahama.lg.jp/gyosei/keikaku/files/sougoukeikaku_3_zentai2.pdf
地域公共交通の課題と方向性(青森県)
https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kikaku/kotsu/files/01moukeikaku_honbun-03.pdf
令和4年度 知事記者会見録(青森県)
https://www.pref.aomori.lg.jp/message/kaiken/kaiken2022.html
青森県議会会議録検索
http://www.pref.aomori.dbsr.jp/index.php/
津軽線 JR東が鉄道で復旧と新交通体系の2案 県などに説明(NHK)
【リンク切れ】https://www3.nhk.or.jp/lnews/aomori/20221223/6080018330.html