【JR東日本】花輪線を存続させる方法-自治体のさらなる支援は得られるか?

花輪線の駅 JR

JR花輪線は、岩手県の好摩から秋田県の大館までを結ぶJR東日本のローカル線です。「十和田八幡平四季彩ライン」という愛称で親しまれ観光利用の多い路線ですが、沿線人口の減少や少子化の影響で、輸送密度は決してよくありません。

2022年8月、東北地方を襲った災害で花輪線は一部区間が不通に。廃止も予測されましたが、2023年5月に復旧しています。とはいえ、利用者が減り続ける現状、復旧しても安泰とは言えません。そこで、沿線自治体が組織する「花輪線利用促進協議会」が取り組んでいる施策から、花輪線の存続・廃止について考えてみましょう。

JR花輪線の線区データ

協議対象の区間JR花輪線 好摩~大館(106.9km)
輸送密度(1987年→2023年)好摩~荒屋新町:1,561→352
荒屋新町~鹿角花輪:915→62
鹿角花輪~大館:1,646→441
増減率好摩~荒屋新町:-77%
荒屋新町~鹿角花輪:-93%
鹿角花輪~大館:-73%
赤字額(2023年)好摩~荒屋新町:7億5,500万円
荒屋新町~鹿角花輪:6億300万円
鹿角花輪~大館:7億2,300万円
営業係数好摩~荒屋新町:1,837
荒屋新町~鹿角花輪:10,916
鹿角花輪~大館:2,004
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と2023年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、2023年のデータを使用しています。

協議会参加団体

盛岡市、滝沢市、八幡平市、鹿角市、大館市、岩手県、秋田県、JR東日本盛岡支社
(賛助会員)大鰐町、小坂町、北秋田市、上小阿仁村、IGRいわて銀河鉄道、地元商工団体・観光団体

花輪線と沿線自治体

花輪線利用促進協議会の設置までの経緯

花輪線利用促進協議会の源流は、1974年に国鉄花輪線の複線化と電線化を求めるために、沿線自治体などによって組織された活動から始まっています。これは、国鉄時代の花輪線が東北本線の迂回ルートとして機能していたからです。実際に、1968年の十勝沖地震で東北本線が大きな被害を受けた際には、特急はつかりが花輪線経由で運行されたこともありました。

しかし、国鉄の経営が傾き赤字ローカル線問題が浮上すると、路線維持を主目的とした活動に変更。2006年6月には「JR東日本花輪線整備・利用促進期成同盟会」と改め、利用促進のための活動に注力することになります。

その後、2009年11月に「花輪線利用促進協議会」と改組。この設立総会では、地域公共交通活性化再生法にもとづく法定協議会への移行も視野に入れた組織として、課題の整理や長期的な事業計画に関する協議を行うとしています。

なお、花輪線の列車は大館から盛岡まで通し運行が基本で、好摩~盛岡間はIGRいわて銀河鉄道線の路線を経由していることから、協議会にはIGRいわて銀河鉄道も賛助会員として参加しています。

※IGRいわて銀河鉄道の協議会については、以下のページでお伝えします。

JR東日本も参画した幹事会の実施

花輪線利用促進協議会では、年1回の通常総会のほか、事務レベルで具体的な利用促進策などを検討する幹事会を定期的に開催しています。基本方針としては、花輪線を公共交通機関としての機能を高めて利用者数を増やすことにより、鉄路存続に向けた取り組みを行っています。

協議会にはJR東日本(盛岡支社)も参加していることから、各駅の乗客数のデータなどの情報を共有しながら方策を決定していることもうかがえます。

花輪線利用促進協議会のこれまでの取り組み

花輪線の利用促進策として、以下のような取り組みを実施しています。

  • 観光向けのリーフレットの作成
  • ホームページによる情報提供
  • 旅行企画の提案
  • 花輪線応援団の募集
  • 花輪線絵画コンクール開催
  • 自治体主導のイベント開催(駅からハイキングなど)

…など

花輪線利用促進協議会を設置した理由のひとつに、「観光客を視野に入れた利用客層の拡大」があります。このため、リーフレットやホームページ、SNSなどを活用した花輪線の周知が、メインとなる取り組みです。なお、ホームページの閲覧数は年間1~2万PVとなっており、ファン(花輪線応援団)による情報発信を含めてさらなる周知活動が求められている状況です。

また、JR東日本が主催する「駅からハイキング&ウォーキングイベント」に沿線自治体が積極的に参加するなど、鉄道事業者とのコミュニケーションを密に取っている点も注目したいポイントでしょう。

とはいえ、利用者の減少に歯止めがかからない厳しい状況といえます。とりわけ、荒屋新町~鹿角花輪間はJR発足から35年のあいだに、輸送密度ベースで9割以上の減少、営業係数は1万を超えています。

花輪線の存続には、沿線自治体や岩手県・秋田県による支援も検討したいところですが、岩手県と秋田県は他の第三セクターにも多額の支援を行っています。花輪線にどれだけ支援できるかが、今後注目されるところでしょう。

災害復旧したものの先行きが不透明な花輪線

2022年8月、東北地方を襲った豪雨により花輪線の一部区間が大きな被害を受けます。その後、盛岡~鹿角花輪は早々に復旧しますが、鹿角花輪~大館は代行バスや路線バスによる振替輸送が続きました。

この線区の被害箇所は、50カ所以上。JR東日本は、復旧に向けた調査や作業方法の検討に約3カ月の時間を要し、全線復旧を目途を公表したのが同年11月になってからでした。そして2023年5月14日、鹿角花輪~大館の復旧にともない全線で運行を再開します。

ただ、花輪線の先行きは不透明です。2019年の輸送密度を見ると、長期不通となった鹿角花輪~大館は537人/日ですが、岩手・秋田県境の荒屋新町~鹿角花輪は78人/日しかありません。とりわけ荒屋新町~鹿角花輪の輸送密度は、2023年3月に鉄道の「あり方」について協議を申し入れた久留里線の久留里~上総亀山(85人/日)を下回っていますし、営業係数は1万を超えています。JR東日本の今後の動向が気になるところです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【東北】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
東北地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

花輪線利用促進協議会
https://hanawasen-ni-norouyo.org/

事務事業評価シート(盛岡市)
https://www.city.morioka.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/011/071/h26_0094.pdf

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