今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は特別編。2025年に想定される赤字ローカル線の存廃協議を大胆予測します。
すでに廃止が確定している線区からこれから協議を始める線区まで、2024年末時点での協議の進捗状況をまとめました。
廃止・休止が確定している赤字ローカル線
まずは、すでに廃止または休止が確定している赤字ローカル線について、2025年の動きを予想します。
JR留萌本線
2026年春に廃止予定の留萌本線。ただ、代替交通の詳細は公表されておらず、2025年中に正式発表される模様です。2023年に石狩沼田~留萌が廃止された際には、留萌~深川の代替交通が設置されました。これに組み込まれるのか、あるいは石狩沼田~深川で新たな公共交通網を設けるかが注目されます。
JR函館本線(長万部~小樽)
北海道新幹線の札幌延伸開業と同時に廃止が確定している、函館本線の長万部~小樽。現在、代替バスの協議が進んでいますが、ドライバー不足の影響もあり、公共交通の再構築が難航しているようです。ただ、ドライバー不足より深刻なのが利用者の減少です。持続可能な公共交通網を構築するには、民間バス事業者だけでなく、スクールバスや病院の送迎バスといった自治体などが保有する交通資産の活用も検討していく必要があるでしょう。
なお、貨物列車が走行する函館~長万部は、沿線自治体の並行在来線協議会とは別に、国土交通省と北海道が設置した検討会議でも協議中。旅客・貨物のいずれも、2025年度中に存廃の結論を出す予定です。ただ、新幹線の延伸開業時期が先送りとなっているため、在来線の存廃判断も先送りになる可能性があります。
JR津軽線(蟹田~三厩)
蟹田~三厩の廃止が確定した津軽線では、JR東日本と沿線自治体が共同で代替交通運営会社(NPO法人)を設立し、バスやタクシーが運行される予定です。その運営会社の設立について、2025年3月までにJR東日本と沿線自治体が正式合意する予定です。運行会社は2026年度中に設立され、2027年春から新たな公共交通体系がスタートします。
弘南鉄道大鰐線
弘南鉄道は、大鰐線の運行休止を2027年度末と伝えましたが、正式に決定していません。大鰐線は沿線自治体の支援がなければ運行できない状況ですが、その支援期間は2025年度末まで。そのため、支援期間の延長について沿線自治体との協議が続いています。結論は2025年3月までに出る模様です。その際に、大鰐線は休止ではなく「廃止」が決まる可能性もあります。
2025年中に存廃判断が求められている赤字ローカル線
2024年度末(2025年3月末)までに、存続または廃止の方向性が決まる赤字ローカル線は、以下の路線です。
阿武隈急行
災害やコロナなどの影響で経営が悪化し、存廃議論が浮上した阿武隈急行。福島・宮城両県の沿線自治体は、2023年3月に「阿武隈急行線在り方検討会」を設置し協議を始めます。
このうち福島県側の自治体は、利用者が多いこともあり存続の方針で一致。一方の宮城県側は利用者が少なく、また自治体間の温度差もあって意見がまとまらない様相でした。宮城県では、BRTや路線バスなどへの転換も検討しますが、2024年10月4日に「鉄道が優位」という結論で一致。存続の方針を打ち出します。
2024年末時点では、阿武隈急行に対する具体的な支援策について議論を継続中。2025年3月までに結論を出す予定です。
名鉄広見線(新可児~御嵩)
沿線自治体が年間1億円を支援することで、運行を継続してきた名鉄広見線の新可児~御嵩。ただ名鉄は2024年夏に、自治体からの支援を更新しない考えを伝えます。
その後の協議で、「みなし上下分離」による存続か、「廃止・バス転換」かの2案で検討することに。みなし上下分離の場合、自治体負担額は年間1億8,000万円に増額。さらに、設備更新費などに約17億円も別途生じるとされています。廃止の場合はバス転換になりますが、通勤通学定期客が約8割を占める路線のため、バスドライバーを確保できるかという課題も。結論は、2025年6月に出る予定です。
錦川鉄道
利用者の減少に歯止めがかからない錦川鉄道。山口県岩国市は2023年7月25日に、「錦川清流線のあり方について意見を聴く会」という検討会を設置し、今後のあり方について議論を始めます。2024年5月16日には、「現状維持」「上下分離方式への移行」「一部廃止・バス転換」「全線廃止・バス転換」の4案から、錦川鉄道の将来を決めると提示。このうち、一部廃止・バス転換に関しては、北河内~錦町の廃止を想定しているようです。
意見を聴く会では、2025年1月に検討報告書の素案をまとめる予定。2025年3月末までに、4案から1つに絞り込むとしています。
島原鉄道
2022年に設置された「島原鉄道活性化検討部会」で、鉄道のあり方を議論しています。2024年3月15日の検討部会では、「上下分離方式への移行」「LRTやBRTへの転換」「バス転換」などの選択肢を提示。その後、LRTとBRTは除外され、「上下分離方式への移行」と「バス転換」のいずれかで検討しており、2025年3月末までに結論を出す予定です。
なお、バス転換の場合はドライバーが20人以上、車両が10台以上不足するという検証結果が報告されており、上下分離方式で鉄道を存続させる案が優勢とみられます。
存廃判断の時期は未定だが事業者と協議中の赤字ローカル線
すでに協議が進んでいるものの、存廃判断の時期が不確定な赤字ローカル線は、以下の路線です。
JR北海道の黄線区
JR北海道の黄線区(輸送密度2,000人/日未満の線区)では、2019年より沿線自治体と協力した経営改善計画「アクションプラン」を実行しています。計画期間は5年間で、2023年度末に存廃を含めた方向性を決めるとしていましたが、コロナの影響で実行できなかった事業もあるとして、現在は2026年度末まで猶予が認められています。
2024年9月4日には、2026年度末までに実行するアクションプランが決定。黄線区全体の赤字額を100億円以内にするという「チャレンジ目標」も掲げられました(2023年度の実績は約148億円の赤字)。
ただ、沿線人口の減少や高規格道路の延伸といった鉄道の利用者数を減らす外的要因もあり「目標達成は厳しい」とみる自治体も多いようです。2027年春には方向性を決めることになりますが、その後、各線区の存廃協議を始めるため結論がいつ出るかは未定です。
JR米坂線(今泉~坂町)
豪雨災害で今泉~坂町が不通になっている米坂線では、2023年9月より災害復旧協議(JR米坂線復旧検討会議)が始まっています。
2024年5月29日に開催された第3回検討会議で、JR東日本は「JRの単独運営」「上下分離方式への移行」「第三セクターへの移管」「廃止・バス転換」の4案を、アイデアベースで提示。ただ、11月19日の第4回検討会議で、復旧しても年間13億円もの赤字が生まれることから、「JRの単独運営」は現実的に厳しいという見解を示しています。上下分離方式も、年間で最大17億円もの自治体負担が生じるため、沿線自治体が否定的です。
2025年は、第三セクター案と廃止・バス転換案について議論される予定。山形・新潟両県の意見をまとめるのに時間を要す可能性が高く、2025年中に結論が出ないかもしれません。
JR吾妻線(長野原草津口~大前)
2024年5月23日に設置された「JR吾妻線(長野原草津口・大前間)沿線地域交通検討会議」で、長野原草津口~大前のあり方について協議が始まっています。12月24日の検討会議では、高校生と保護者を対象とした住民アンケートの結果を提示。BRTなど他の交通モードに転換したときの利用意向を聞いた質問では、7割以上の生徒が利用する意向を示したそうです。
2024年末時点では、今後の方向性について決める要素が少なく、2025年中に結論を出すのは難しいと考えられます。
JR久留里線(久留里~上総亀山)
2023年5月より「JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議」という組織で、久留里~上総亀山のあり方について検討。その結果をまとめた報告書が、2024年10月21日に提示されます。報告書では、鉄道は「輸送力が過剰」であり、通勤通学時間帯には「バス」、買物や通院などの需要には「デマンド交通」が適切と指摘。この報告書をもとに、2025年は君津市が設置する「地域公共交通会議」という法定協議会で存廃の結論を出す予定です。
なお、検討会議はJR東日本に対して新たな交通体系案を提示するように要望。それに先立ち、JR東日本は「JR久留里線(久留里・上総亀山間)の新たな交通体系について」というプレスリリース(2024年11月27日)で、同線区の自動車交通への転換を伝えています。
大井川鉄道(川根温泉笹間渡~千頭)
2022年9月の台風で、一部区間が長期不通に。2024年末時点では、川根温泉笹間渡~千頭が不通になったままです。沿線自治体は、2023年3月より大井川鉄道の災害復旧協議を開始。復旧費用は約22億円と見積もられました。
協議の事務局を務める静岡県は当初「必ずしも全線復旧を前提にしない」という姿勢を見せていました。ただ、2024年3月26日の第3回検討会では「早期の運行再開を目指した検討を継続する」と明言。観光資源としての重要性や、沿線住民からの期待などが、復旧を後押しした模様です。なお、復旧時期については2024年末時点で公表されていません。
JR芸備線(備中神代~備後庄原)
2024年3月26日から国の再構築協議会が始まった芸備線。当初「3年を目安に結論を出す」とされましたが、先行きは見通せない状況です。
2025年は、住民アンケート調査をはじめ36項目ものデータを収集。その分析結果を踏まえて、4月からは実証事業が始まる予定です。実証事業では、増便実験や二次交通の接続改善などもおこなわれます。これらの実験は2026年以降も続くと考えられますが、利用状況などの結果によっては、2025年度末で打ち切られるかもしれません。また、その後の協議もどのように進めるのか見通せず、協議の目安とされる3年後(2027年)までに結論が出るのか不透明です。
JR美祢線
2023年7月の豪雨災害で全線不通になっている美祢線では、2024年8月28日より「復旧検討部会」を開催。「鉄道で復旧する場合」と「鉄道以外で復旧する場合」について、幅広い観点で調査検証を進めています。
2024年中に開かれた検討部会では、JR西日本が単独で復旧・運営は困難と主張。地域にも運営協力を求めたいと「上下分離方式への移行」を提案しています。また、12月19日の検討部会では「BRT案」「代替バス案」を提示しました。2025年は、「第三セクターへの移行」について提案する予定。この4案から、復旧方法を検討する流れになると考えられます。
なお、検討部会は存廃を判断する組織ではありません。検討内容を報告書にまとめ、その後はJR美祢線利用促進協議会で存廃の結論を出す予定です。早ければ、2025年中に結論が出るかもしれません。
JR指宿枕崎線(指宿~枕崎)
2024年8月19日より「指宿枕崎線の将来のあり方に関する検討会議」の場で、指宿~枕崎のあり方について協議が始まっています。2024年末時点では、「鉄道を可能性を追求する」ことを目的に、沿線自治体とJR九州が議論。商工会や観光協会、沿線地域の高校生などとワークショップを開き、指宿枕崎線の活用法をまとめている状況です。
なお、検討する期間は決めておらず、いつ、どのような結論が出るかも不明です。今後は他の交通モードとの比較検討をするかもしれません。いずれにせよ、結論が出る時期は未定です。
存廃協議が始まる予定の赤字ローカル線
事業者側が沿線自治体に協議を申し入れ、または伝えている赤字ローカル線は、以下の路線です。
JR大糸線(糸魚川~南小谷)
2022年5月19日より、大糸線利用促進輸送強化期成同盟会に設置した振興部会で、JR西日本と沿線自治体との協議が始まりました。この部会では、「利用促進策を決めたい自治体」と「持続可能性を議論したいJR西日本」の議論が白熱。2024年3月14日の部会では「本格的な利用促進」をおこない、その結果次第で「持続可能性の議論」を始めることが確認されました。
本格的な利用促進は、2024年4月からスタート。旅行商品の企画・販売や臨時バスの運行など、さまざま事業を展開していますが、厳しい状況が続いているようです。早ければ2025年内にも大糸線の将来を決める協議が始まるかもしれません。
JR加古川線(西脇市~谷川)
2024年7月16日に、JR西日本が法定協議会の設置を申し入れています。沿線自治体との話し合いの結果、「大阪・関西万博が終了する2025年秋に、協議開始を判断する」ことで一致。万博終了時に利用促進の効果がなければ、協議を始めることになります。
加古川線では、通勤通学者に対する定期券購入費の補助や二次交通との接続強化、さらに、ふるさと納税の返礼品に「一日駅長体験プラン」を設定するなど、さまざまな施策を実施しています。JR西日本が求める効果が現れたら、協議の申し入れを撤回する可能性もありますが、いずれにせよ2025年秋までの取り組みが、今後の加古川線の運命を決めるといえます。
JR木次線(出雲横田~備後落合)
2024年5月23日にJR西日本は、「持続可能な地域交通体系について相談したい」と記者会見で発表。木次線の存廃協議についての考えを示します。その後、7月までに島根県や広島県など沿線自治体に対して協議を正式に申し入れますが、「どのような場で議論すべきか」といった具体的な進め方について、まだ決まっていないようです。
早ければ2025年中にも、検討会議などの協議の場が設置されるかもしれませんが、沿線自治体のなかには芸備線でも協議を進めているところもあります。話がこじれると、国の「再構築協議会」に移行する可能性もあるでしょう。2024年末時点では、いつ、どのような結論が出るかは不透明な状況です。
平成筑豊鉄道
2024年6月28日の株主総会で、鉄道のあり方についての協議を申し入れた平成筑豊鉄道。利用者の減少にくわえ、施設の更新費や修繕費の高騰、さらに豪雨災害にともなう防災対策など、さまざまな要因で今後毎年10億円の赤字が見込まれると伝えています。9月2日には、沿線自治体が「上下分離方式の導入」「BRT」「廃止・バス転換」などの方法で検討していることを公表。いずれの場合も、今後30年間で数百億円の自治体負担が生じるという試算結果が示されます。
なお、福岡県は法定協議会を設置を容認。早ければ2025年の年明けにも協議が始まる予定です。
JR肥薩線(人吉~吉松)
2024年4月に、八代~人吉の復旧が確定した肥薩線ですが、人吉~吉松については何も決まっていません。JR九州は2024年3月に「人吉~吉松の協議も始めたい」と発表。また、南日本新聞の報道(2025年1月3日)によると、八代~人吉の最終合意後に人吉〜吉松の議論を始めることをJR九州の古宮社長が明かし、2025年度より協議が始まるとみられます。
八代~人吉の検討会議では、観光誘客だけでなく「マイレール意識の醸成」も求めたJR九州。人吉~吉松の沿線でも同じ内容を求めるとみられ、沿線自治体の対応が注目されます。
JR日南線(油津~志布志)
2024年11月28日にJR九州が、鉄道のあり方について協議を申し入れる考えを示しました。協議組織については、法定協議会などに進む「前のステップ」と位置付けており、指宿枕崎線の検討会議のような場を想定していると考えられます。早ければ2025年から協議が始まるかもしれませんが、協議の場も決まっておらず、いつ、どのような結論が出るかは不明です。
赤字ローカル線の廃止を防ぐためにできることは?
赤字ローカル線の存続には、自治体の「熱意」が重要なカギを握ります。この場合の熱意とは、「国の制度が使えるかを建設的に議論し、鉄道を維持するために行動すること」を指します。
国は、赤字ローカル線の維持に活用できる、さまざまな制度を用意しています。たとえば、2025年度よりみなし上下分離へ移行する北陸鉄道には、社会資本整備総合交付金という制度を活用し、今後15年間で約57億円を国が支援します(沿線自治体の負担は約75億円)。また、JR只見線で上下分離方式を採用している線区(会津川口~只見)でも、同じ交付金で国が約19億円、自治体が約48億円を支援して2025年から10年間を維持することになっています。富山地方鉄道や小湊鉄道、肥薩おれんじ鉄道などでも、この交付金の活用により鉄道の存続をめざしています。
ほかにも国は赤字ローカル線に対する支援制度を用意していますが、鉄道事業者に対して国が直接支援する制度はありません(完全民営化していないJR各社に対する一部制度を除く)。制度を活用できるのはあくまで自治体であり、「自治体も一緒に支援する」のが基本です。
自治体にも支援が求められるのは、受益者負担の考えにもとづくから。鉄道が廃止になると、事業者などが納める固定資産税が減ったり、代替交通の準備や赤字補てんのために歳出が増えたりと、自治体の財政が悪化するのは明白です。ただ、この負担を裏返すと鉄道が存続することで自治体が得ていた「便益」という見方もできます。
大して利用者のいない赤字ローカル線でも、なくなるといちばん困るのは沿線自治体です。だから国は支援制度を用意して、地域が本当に必要なローカル線を守るために、沿線自治体と一緒に支援していくことを求めているわけです。
どの制度を活用するのか、それを使いこなすには自分たちに何ができるのかを考えることが、国を動かす最短のルートです。それを理解したうえで赤字ローカル線の価値を正しく把握し、沿線住民にも理解と協力を求めていくことが大切でしょう。
とはいえ、国の制度を活用しても存続できない赤字ローカル線があることも事実です。国の制度は、施設や車両の更新、交通系ICカードの導入といった投資に関するものがほとんどで、運行経費に対する補助はありません。多くの赤字ローカル線は、運行経費すら賄えないのが現状です。毎年何千万、何億もの運行赤字の補てんは基本的に沿線自治体の負担であり、これを財政基盤の弱い自治体が支援していくのは非現実的でしょう。
であれば、どんな支援制度があれば鉄道を維持できるのかを自治体が具体的に示し、国に求めることも必要ではないでしょうか。ひとつやふたつの自治体が訴えても国は見向きもしないでしょうから、知事会や市長会、町村会が連名で運行経費に対する支援制度の新設などを訴えていくのも一手です。
いまさら国鉄分割民営化の検証を国に求めたところで、利用者が減っていく状況は変わらないし、赤字額が減るわけでもありません。過去の検証も大切かもしれませんが、それよりも、いまある鉄道という資産をどのように活用するのかを考えたほうが有益です。
ローカル線の現状を受け入れたうえで、「鉄道を維持するために自分たちには何ができるのか」「まちづくりや地域振興につなげる活用法はないか」を未来志向で考える。それが、本気で鉄道を残そうと頑張る自治体がやってきたことであり、廃止が懸念される赤字ローカル線を存続させる唯一の手段ではないでしょうか。