今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、JR東日本が山田線で実証実験中のバス共同経営について2025年度より本格運用する方針を明らかにした話や、JR釜石線の沿線自治体が利用促進協議会を設立した話題などをお伝えします。
JR山田線のバス共同経営 – 2025年度から本格運用も「5年限定」
【2024年9月25日】JR東日本は、岩手県北バスと連携した共同経営を、2025年度から本格運用する方針を明らかにしました。これは、盛岡市や宮古市などで構成されるJR山田線沿線自治体首長会議で伝えたものです。
山田線では2024年4月から、JRの乗車券で盛岡~宮古の都市間バス(106特急・急行バス)に乗車できる実証実験をおこなっています。実験期間は2025年3月までの1年間です。JR東日本は、公共交通のさらなる利便性向上を目的に岩手県北バスとの連携を強め、2025年度から5年間、共同経営を運用する考えを沿線自治体に伝えました。
これに対して沿線自治体は共同経営に賛同したうえで、自治体に対する丁寧な意見聴取や実証実験の十分な検証、さらに山田線の鉄路維持を求めたそうです。
また、2024年8月の豪雨災害で不通となっている上米内~宮古について、JR東日本は上米内~区界に土砂流入の危険がある場所が新たに10カ所以上発見されたことを報告。復旧工事には地権者との相談が必要なため、同区間の運転再開時期を「未定」としたことも伝えています。
【解説】バス共同経営は「バス転換の布石」とは限らないが…
山田線の「バス共同経営計画のニュース」と、「上米内~宮古の復旧時期が未定になったニュース」が同じタイミングで報じられたため、「山田線がバス転換されるのか?」と勘違いされた人がいらっしゃるかもしれません。ただJR東日本は、「線路に流入した土砂の土地所有者との話し合いが必要」として復旧時期を未定としたことから、地権者との話がまとまり次第、復旧工事を始めると考えられます。
さて、鉄道事業者とバス事業者との共同経営の目的は、特定線区の運賃を同一にしてダイヤを調整することで利便性を高め、「公共交通全体の利用者数を増やす」ことにあります。
2024年現在の山田線の運行本数は、1日13本。1本逃すと次の列車は4時間以上も待たなければならない時間帯もあり、使い勝手の悪い路線です。一方、山田線と並走する岩手県北バスの106特急・急行バスは1日24本。日中はほぼ1時間おきに運行しています。こうした事情から、鉄道とバスを併用する沿線住民も少なくないようです。
この住民の声を聞いたJR東日本は、岩手県北バスに共同経営計画を持ちかけます。岩手県北バスも、沿線地域の過疎化やモータリゼーション進展などの影響で利用者の減少に歯止めがかからない状況だったことから、共同経営計画に賛同。2024年4月から、実証実験がスタートします。
なお、共同経営は独占禁止法上の「カルテル」に該当する可能性があります。これにより地域公共交通の維持が難しくなるのを避けるため、国は独占禁止法に特例を制定。この特例にもとづく共同経営計画を事業者が策定し、国に認可されると正式に運用できるようになります。JR東日本と岩手県北バスも、今年度中に共同経営計画を策定する予定です。
こうした実証実験がおこなわれると「バス転換への布石だ」と批判する声も少なくありません。しかし公共交通の利用者からみれば、どちらを使っても同一運賃ですし、運行間隔が平準化されるため、利用機会が増えることが期待されます。
とはいえ、もともと公共交通の利用者が少ない地域だと増加が見込めず、鉄道もバスも廃止になる可能性が高まります。山田線の輸送密度は、盛岡~上米内が227人/日、上米内~宮古が71人/日です(2023年度)。また、岩手県北バスの106特急・急行バスの年間利用者数は約17万人(2023年度)。最盛時の30万人と比べ、ほぼ半減しています。
共同経営スタート直後の4月24日、JR東日本盛岡支社の久保支社長は定例会見で「実証実験では、1日10~20人の利用があった」と伝える一方で、「2倍くらいに増えてほしい」という本音も語っています。
山田線のバス共同経営は、国の認可が下りれば、2025年度から5年間を予定しています。ある意味で山田線は「5年間の猶予が与えられた」といえるでしょう。その5年間に沿線自治体や住民が利用促進に協力しなければ、山田線は本当にバス転換されてしまうかもしれません。
※鉄道とバスの共同経営の先例といえる、JR四国の牟岐線(阿南~阿波海南)のケースは、以下のページで詳しく解説しています。
その他の鉄道協議会ニュース
JR予土線でもバス共同経営の実証実験を開始
【2024年9月27日】愛媛県とJR四国、宇和島自動車(宇和島バス)は、予土線の一部区間でバス共同経営の実証実験を始めると発表しました。これは、愛媛県の「南予南部共創型交通アクセス向上事業」にもとづいて実施されるものです。
対象線区は、予土線の宇和島~松丸。この区間のJR乗車券を持っている人は、並走する宇和島バスの一部区間にも乗車できます。実証実験の期間は、2024年10月5日から2025年1月31日までを予定。ただし、鉄道とバスの運賃差額を愛媛県が補てんする事業のため、予算が上限に達した段階で終了するとしています。
※予土線の沿線自治体とJR四国との協議は、以下のページで詳しく解説しています。
富山地方鉄道の沿線首長会議が開催 – 県に鉄道維持の支援を要望
【2024年9月24日】富山市などの7市町村は、富山地方鉄道の「みなし上下分離」の導入について話し合う沿線首長会議を、初めて開催しました。会議冒頭で、発起人である富山市の藤井市長が「富山地方鉄道への支援のあり方について、沿線自治体と合意形成を図りたい」とあいさつ。続いて富山地方鉄道の中田社長が、「鉄道事業は約10億円の赤字(2023年度)」など、厳しい経営状況や今度の見通しを報告しました。
また、富山地方鉄道は広域路線であり、富山県のまちづくりや観光にも影響を与えることから、県に参画を求めることで一致。要望書を作成し、9月30日に富山県に提出することが確認されました。
なお、9月19日の富山県議会で新田知事は、富山地方鉄道のみなし上下分離について「整備費用が約600億円になる」という見通しを示し、慎重な議論を求める発言をしています。
角田市議会で阿武隈急行の存続を可決 – 支援の増額も「やむを得ない」
【2024年9月26日】宮城県角田市の市議会は、阿武隈急行の存続を求める決議案を全会一致で可決しました。
阿武隈急行の「あり方」をめぐっては、福島県の沿線自治体は存続の方針ですが、宮城県側では自治体間の温度差があり方針が決まっていません。このうち、存続を主張する角田市は、議員から提案された鉄路存続を求める決議案を可決。決議書は黒須市長へ提出されました。
黒須市長は「角田市民の総意として受け止めており、非常に心強い。鉄路での維持を目指したい」とコメントしています。また、存続のために市の負担額が増えることについては「やむを得ない」と話しています。今後は、柴田町と丸森町、宮城県とも協議を進め、今秋にも宮城県側の方針を決める予定です。
※阿武隈急行の「あり方」をめぐる沿線自治体の協議については、以下のページで詳しく解説しています。
JR美祢線の代行バス実証実験 – 10月から開始
【2024年9月24日】美祢線の「鉄道以外での復旧の可能性」を探る実証実験が、2024年10月1日から始まります。この実証実験は、現在1日19本運行している代行バスを29本に増やし、利便性を高めるという実験です。増便する10本は主要駅のみ停車する快速運転とします。
また、利用者や沿線住民にはアンケート調査を実施。鉄道と比較するための参考データとして集められます。実証実験は、2025年3月21日まで行われる予定です。
※美祢線の災害復旧をめぐる沿線自治体とJR西日本との協議は、以下のページで詳しく解説しています。
JR釜石線利用促進協議会が設立 – モニターツアーなどを検討
【2024年9月27日】釜石線の沿線自治体は、鉄道の利用促進と沿線地域の活性化を目的とした「JR釜石線利用促進協議会」を設立しました。初会合には、沿線4市町と岩手県、JR東日本、三陸鉄道が出席。会議の冒頭で、座長を務める釜石市の野田市長が「県と沿線自治体が一体となり、釜石線の利用促進に取り組みたい」とあいさつしました。
主な利用促進策として、今年度はマスメディアでのPRや住民参加型のシンポジウムなどを計画。また、旅行商品の開発に向けた「モニターツアーの実施」のほか、「通学定期客への運賃補助」「三陸鉄道との連携」「住民アンケート調査」などの計画も挙げられたようです。具体的な内容は、今後担当者レベルで協議して決めていくとしています。