【弘南鉄道】大鰐線の存廃をかけた自治体の取り組み

弘南鉄道の駅と車輛 私鉄

弘南鉄道は、青森県の弘前と黒石をつなぐ「弘南線」と、大鰐と中央弘前をつなぐ「大鰐線」の2路線を運営する私鉄です。このうち大鰐線は1952年の開業以来赤字で、近年は利用者の減少が続いています。

沿線自治体は「弘南鉄道活性化支援協議会」を設置。大鰐線の廃止が示唆されるなか、存続をめざした取り組みをおこなっています。

弘南鉄道の線区データ

協議対象の区間弘南線 弘前~黒石(16.8km)
大鰐線 大鰐~中央弘前(13.9km)
輸送密度(1987年→2019年)弘南線:4,639→2,297
大鰐線:2,917→498
増減率弘南線:-51%
大鰐線:-83%
赤字額(2019年)6,590万円
※輸送密度および増減率は1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

弘前市、黒石市、平川市、大鰐町、田舎館村

弘南鉄道と沿線自治体

弘南鉄道活性化支援協議会の設置までの経緯

沿線自治体が協議会を設置するきっかけになったのが、2013年に開かれた弘南鉄道の株主総会でした。この場で弘南鉄道は、利用者の減少に歯止めがかからない大鰐線について「2017年を目途に廃止にする」と明言したのです。

これを受けて沿線自治体は2013年8月に、地域公共交通活性化再生法にもとづいた「弘南鉄道大鰐線存続戦略協議会」を設置。国と自治体が支援することを条件に、大鰐線の廃止を撤回させます。

その後、協議会が中心となって企画きっぷの販売などの利用促進策を展開したこともあり、2016年度には大鰐線の利用者数が微増します。しかし、翌年度以降は再び減少へ。2019年度には、輸送密度ベースで500人/日を割り込んでしまったのです。

一方の弘南線も、輸送密度は2,000人/日を超えているものの、沿線人口の減少などにより減少の一途をたどっています。そこで沿線自治体は2021年に、「弘南鉄道活性化支援協議会」という新たな協議組織を設置。両線区の存続をめざして、支援計画を策定することになったのです。

沿線自治体の支援内容とコミットしたこと

協議会は2021年1月に「弘南鉄道弘南線・大鰐線維持活性化支援計画」を策定します。このなかで、路線維持の基本的な考え方が示されます。

具体的には、弘南鉄道と自治体が連携して持続可能な利用促進を実施することや、老朽化した施設の修繕・更新といった費用は、事業計画にもとづいて沿線自治体が負担することなどが明記されました。ちなみに公的支援の額は、2021年度からの10年間で約9億5,000万円です。なお、支援する代わりにそれぞれの路線に対して以下の条件も示されています。

○弘南線への支援
弘南線は、令和3年度から令和12年度までの10カ年の支援計画(前期5年、後期5年)を作成し支援する。前期支援計画の5年目に、弘南線を取り巻く環境等を考慮した上で、経営改善や修繕等の進捗状況とその後の見込みを評価し、令和8年度からの後期支援計画に生かして支援する。

○大鰐線への支援
大鰐線は、令和3年度から令和12年度までの10年間を維持することを目指して、令和3年度から令和7年度までの運行に係る5カ年の支援計画により支援するが、令和5年度末の大鰐線の経営改善や修繕等の進捗状況とその後の見込みを評価した上で、令和8年度以降のあり方を事業者と協議する。

出典:弘南鉄道弘南線・大鰐線維持活性化支援計画

このように、大鰐線に関しては2026年度以降の支援について明記されておらず、利用状況によっては2025年度で支援が打ち切られる可能性があります。

弘南鉄道では、大鰐線の経営目標として2019年度比で約2,000万円の増収をめざしており、これが2023年度にクリアできなければ廃止を視野に入れた協議が始まることになるのです。

弘南鉄道のこれまでの取り組み

弘南鉄道の利用促進策としては、以下のような取り組みを実施しています。

  • 企画乗車券の販売(大黒様きっぷ、さっパス、弘南鉄道×津軽鉄道応援きっぷなど)
  • 高齢者向けフリーパスの販売(シルバーパス、ゴールドパス)
  • イベント列車の運行(お化け屋敷列車、納涼ビール列車など)
  • パークアンドライド・サイクルトレインの運行
  • 定期利用者の割引販売
  • オリジナルグッズ販売

…など

弘南鉄道では、企画きっぷ、フリーきっぷによる利用促進策に注力しているようです。

1日フリーきっぷ「大黒様きっぷ」をはじめ、往復乗車券に地元商店などでのお買物券がセットになった「さっパス」、沿線の医療機関や温水プールなどの施設を利用すると帰りの運賃が100円になる「わにパス」といった、ユニークなアイデアで定期外客の獲得をめざしています。

また、2022年度からは高齢者をターゲットにしたフリーパス券も販売。65歳以上の方なら、5,000円で1カ月乗り放題の「シルバーパス」と、15,000円で3カ月乗り放題の「ゴールドパス」を用意しています。

定期客についても、初めて定期購入する社会人や学生を対象にした割引販売を実施し、両線で270人の定期客を獲得しています。

ただ、定期客の獲得は路線維持につながりやすいものの、沿線人口は年々減少しています。全体のパイが小さくなるなかで、いかに定期利用者を獲得していくかが今後の存廃を左右するといえそうです。

大鰐線の存廃を決める協議が始まる

大鰐線に課せられた経営目標ですが、2023年度末の段階で未達成でした。ただ、計画期間中はコロナ禍であったことや脱線事故が発生するなど、計画策定時とは状況が異なることもありました。

こうしたなか、弘前市の桜田市長は2024年3月の定例記者会見で、大鰐線の「あり方」について協議を始める方針を明らかにします。それに先立ち弘前市では、沿線住民へのアンケート調査やクロスセクター効果の分析など、大鰐線の「あり方」を総合的に判断するための材料集めを始めました。

なお、アンケート調査では「大鰐線が必要だと思う」と回答した人が約84%、直近1年間で「利用したことがない」という人は約54%だったそうです。またクロスセクター効果では、大鰐線の代替交通を用意する際に弘前市の負担額を試算。その結果、年間で1億3,745万円となり、大鰐線への支援額(年間約8,324万円)より高くなるそうです。

この状況証拠を踏まえると、利用者数が少なくても廃止にしたときのリスクのほうが大きく、「大鰐線は存続させる価値がある」と受け取れます。

同年6月25日、弘前市長と大鰐町長は大鰐線の「あり方」について懇談会を開催します。このなかで、2021年に策定した支援計画について「コロナなどの社会情勢の変化を考慮する必要がある」として、基本方針や目標値などを見直すことで一致。存続に向けて、今後も支援を続ける方針を確認したようです。

とはいえ、現段階(2024年7月)では両市町の議会で承認されたわけではありませんし、2026年度以降の支援について何も決まっていません。2026年以降も大鰐線は存続できるのか、今後の協議の行方に注目が集まりそうです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【東北】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
東北地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

弘南鉄道弘南線・大鰐線の維持活性化(弘前市)
http://www.city.hirosaki.aomori.jp/kurashi/kotsu/2021-0207-1208-450.html

広報ひろさき_2021/11
http://www.city.hirosaki.aomori.jp/kurashi/kotsu/1101koho_tokusyu.pdf

弘南鉄道大鰐線存続戦略協議会設置要綱(弘前市)
http://www.city.hirosaki.aomori.jp/jouhou/keikaku/kokyokotu/owani-yoko.pdf

「弘南鉄道大鰐線存続戦略協議会」が平成28年地域公共交通優良団体大臣表彰を受賞します
https://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/puresu/puresu/ks160722.pdf

弘南鉄道弘南線・大鰐線維持活性化支援計画
http://www.town.owani.lg.jp/index.cfm/7,9649,c,html/9649/02_shienkeikaku.pdf

ひろさき市議会だより 令和6年3月発行
https://www.city.hirosaki.aomori.jp/gikai/dayori0603.pdf

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