関西本線は、名古屋とJR難波を結ぶ幹線です。大都市をつなぐ路線のため両都市近郊では利用者が多いものの、JR西日本が管轄する亀山~加茂に限ると輸送密度は1,000人/日前後しかありません。該当線区の大部分を占める三重県の沿線自治体は、JR西日本との協議を2022年6月より開始。データを重視した利用促進の取り組みを進めています。
ここでは「関西本線活性化利用促進三重県会議」の内容を中心に、協議の流れをみていきます。
JR関西本線の線区データ
協議対象の区間 | JR関西本線 亀山~加茂(61.0km) |
輸送密度(1987年→2023年) | 4,294→942 |
増減率 | -78% |
赤字額(2019年) | 16億3,000万円 |
営業係数 | 908 |
※赤字額と営業係数は、2021年から2023年までの平均値を使用しています。
協議会参加団体
亀山市、伊賀市、三重県、JR西日本
危機感の共有から始まった関西本線の協議会
関西本線の沿線自治体には「関西本線複線電化促進連盟」という組織が、国鉄時代の1958年から存在します。文字通り、複線化と電化の要請が主目的でしたが、2018年に組織を一新。利用者減少の抑制を目的にくわえ「関西本線整備・利用促進連盟」に改組します。
ただ、愛知県・三重県・京都府・奈良県にまたがる広域組織ですから、利用状況は地域ごとに異なります。通勤通学客で混雑する両都市近郊では利用促進をする必要がなく、自治体間の連携は薄いようです。
こうしたなかで2022年4月11日に、JR西日本が「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」というニュースリリースを発表します。このリリースでは、輸送密度2,000人/日未満の線区の収支を公表。そのなかに、関西本線の亀山~加茂も含まれていました。
亀山~加茂の輸送密度は、1,090人/日です。名古屋~亀山は14,252人/日、加茂~JR難波は68,043人/日(いずれも2019年度)ですから、桁違いに少ない線区であることがわかります。ちなみに亀山~加茂の赤字額は、14億6,000万円です(2017~2019年の平均値)。
JR西日本の公表を受け該当線区のある三重県は、沿線自治体やJR西日本と協議する「関西本線活性化利用促進三重県会議」を設立。2022年6月27日に第1回の会合を開きます。この場でJR西日本は「大量輸送という観点で、ローカル線は鉄道が持つ十分な力を出せていない」と説明。沿線地域の人口減少やモータリゼーションの進展といった社会環境の変化も利用者の減少につながっており、鉄道を維持するのが困難な状況と伝えます。
■亀山~加茂の輸送密度の推移
「このまま何もしなければ廃止になる」と危機感を抱いた沿線自治体は、三重県内の線区(亀山~島ヶ原)の利用促進に努めることを確認。住民や企業などにも危機感を共有し、地域と連携しながら取り組みを進めることになりました。
具体的な取り組みとして、まず自治体やJR西日本が調査したデータを持ち寄り現状を分析。定期客、日常利用者、観光客など各ターゲットにあわせた利用促進策を検討します。また、施策実行の結果も分析・検証したうえで改善を図りながら、利用者増加をめざすことになったのです。
データを重視した関西本線(亀山~島ヶ原)の取り組み
その後の会議で、乗車人員・駅別定期利用者の割合といったデータや、パーソントリップ調査・住民アンケート調査の結果などが持ち寄られ、現状分析が始まります。分析結果は、2022年11月15日の会議で提示。あわせて、利用促進のアイデアも提言されました。主な施策は、以下の通りです。
- リーフレットの作成
- 通勤定期客向けのモニター実験の検討・実施
- 大阪駅でのPR
- 名古屋~関西を直通運転する列車の検討・運行
…など
利用者の減少に歯止めがかからない現状を沿線住民と共有するため、リーフレットを作成して配布。危機意識を持たせるとともに、鉄道を守るために自分たちにできる具体的な「アクション」を示しています。
また、利用者の約8割が通勤通学の定期客であることから、沿線企業を巻き込んだ実証実験を検討するほか、関西方面からの観光誘客として大阪駅でPRイベントの実施が決定します。
さらにこの会議では、名古屋と関西方面を直通運行する列車の構想も提言されています。関西本線では2006年まで、名古屋と奈良を結ぶ急行「かすが」が走っていました。そこで沿線自治体は「関西本線経由で名古屋と関西を直通運転する列車を復活できないか」と、JR西日本に要望します。
JR西日本は「車両など運用面の問題があるし、JR東海との協力も必要だ」と伝えますが、三重県は「JR東海にも働きかける」と積極的な姿勢を示します。これが後に、直通運転の実証実験につながるのです。
定員100人のモニター実験に参加者が5人?
沿線企業と連携した実証実験として、会議ではマイカー通勤者向けのモニター実験を企画します。その内容は、参加者全員に1万円分をチャージした「ICOCA」を提供するというもの。自宅から最寄駅まで車を使う人は、駅近くにあるICOCA対応の有料駐車場をパークアンドライドとして利用してもらいます。予算に限りがあるため、定員は100人。募集期間は2023年7月21日から1カ月間でした。
ところが、締め切り間際になっても参加者がなかなか集まりません。締切日の段階で、応募者はたった5人しかいなかったのです。わずか5人では有効なデータが得られないため、三重県は急遽、沿線企業への聞き取り調査を実施。「実験期間が短く1万円も使えない」などの声から、利用金額や条件を見直して参加者を再募集します。その結果、74人(18社)のモニターが集まり、なんとか実験を実施できました。
ただ、実験後のアンケートでは「鉄道で通勤するのは難しい」という声が多く寄せられたようです。沿線地域には、シャープ亀山工場をはじめ大きな工業団地が複数あります。いずれも最寄駅から離れており、「勤務先までの足がなく通勤できない」という人が多かったのです。これを解決するため沿線自治体は、駅から工業団地に向かうバスを増便するなど、二次交通の充実を図る実験も進めています。
直通運転の復活で利用者増につながるか?
一方、名古屋~関西を直通運転する列車については、三重県がJR西日本とJR東海の調整役となり、実現に向けて動きます。
現状、大阪や名古屋などと沿線自治体との移動は、マイカーがメインです。直通運転する列車を復活させれば、その一部を鉄道にシフトさせられるかもしれません。
■亀山市・伊賀市と大都市間の交通分担率(休日の観光目的のみ)
ただ、直通運転するには使用車両の準備や実務面・安全面の問題など、クリアしなければならない課題もありました。それを一つひとつ解決していき、2024年9月30日の会議で実証実験の実施が決定します。
運行区間は、名古屋から伊賀上野まで。今回は三重県内での実証実験になります。期間は2025年2月に、2日間おこなわれる予定です。「もっと期間を延ばしたほうが、よい結果が出るのでは?」とも思えますが、民間企業であるJRとしてはリスクを避けたいでしょうから、まずは実験で需要を見極めるのが大事でしょう。
利用者が多ければ、急行または特急列車の復活が実現するかもしれません。その場合、京都や奈良の沿線自治体とも協議が必要になるでしょう。他府県とも連携しながら、関西本線の全線存続をめざしてほしいところです。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。
参考URL
ローカル線に関する課題認識と情報開示について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf
関西本線活性化利用促進三重県会議の概要(三重県)
https://www.pref.mie.lg.jp/KOTSU/HP/m0009200213.htm
関西本線のあらまし(三重県)
https://www.pref.mie.lg.jp/KOTSU/HP/kansaihonsen/74408045363.htm
定員100人で応募5人 三重県の関西本線利用促進事業、交通系ICカード無料配布(伊勢新聞 2023年8月26日)
https://www.isenp.co.jp/2023/08/26/97910/
JR関西線、名古屋―伊賀上野駅間で直通の実証運行 利用促進へ来年2月ごろ実施で合意(中日新聞 2024年9月30日)
https://www.chunichi.co.jp/article/965412