【JR西日本】廃止の危機感を持ち続けた「越美北線」の40年

越美北線の九頭竜湖駅 JR

越美北線は、福井市の越前花堂から大野市の九頭竜湖をつなぐ、JR西日本のローカル線です。本来は「国鉄越美線」として、岐阜県の美濃太田までつながる予定でした。しかし、国鉄の経営悪化により建設工事は中断。岐阜県側の美濃太田から北濃までの区間(越美南線)はJRに継承されず、長良川鉄道に移管されます。

こうした背景から、越美北線の沿線自治体では国鉄末期から公共交通を守る運動が活発でした。ここでは、「越美北線と乗合バスに乗る運動を進める会」と「越美北線観光利用促進協議会」の動きを中心に、越美北線の歴史を紹介します。

JR越美北線の線区データ

協議対象の区間JR越美北線 越前花堂~九頭竜湖(52.5km)
輸送密度(1987年→2019年)772→399
増減率-48%
赤字額(2019年)8億4,000万円
営業係数1,366
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

大野市、福井市、福井県、福井県バス協会、JR西日本(金沢支社)

越美北線と沿線自治体

越美北線をめぐる協議会設置までの経緯

越美北線の沿線自治体が、公共交通に関する協議の場を設置したのは1981年です。「越美北線と乗合バスに乗る運動を進める会(以下、「乗る運動を進める会」)」という団体名で、現在も大野市に事務局があります。

この団体は、当時の国鉄再建法で越美北線が廃止候補に挙がったことから設立されました。ただ、沿線は積雪の多い地域で代替ルートが不通になる日があることから、鉄道は存続。JR西日本に移管されます。

とはいえ、利用者の減少に歯止めがかからず、いつ廃止になるかわかりません。乗る運動を進める会では、イベントや啓発活動など利用促進への取り組みを続けるほか、駅周辺の美化活動など積極的に運動していました。

福井豪雨で越美北線が廃止の危機

2004年7月に福井豪雨が発生。越美北線は、足羽川にかかる鉄橋が5本流出したほか、19カ所で路盤が流出するなど甚大な被害を受けます。越美北線を復旧するには、足羽川の河川改修が必要です。そこで、福井県とJR西日本は2005年2月、復旧に向けた基本合意を締結します。

ただ、越美北線の利用者数は減少が続いています。それに、不通区間を走る代行バスの利用者数も日に日に減少しており、復旧しても廃止議論が出ることが予測されます。そこで大野市は、利用者を取り戻すために、関西からの観光誘致のため旅行プランを企画したり、沿線各地で花の植栽活動をしたりと利用促進キャンペーンを実施します。

また、全線復旧の3カ月前にあたる2007年3月には、乗る運動を進める会が中心となって「越美北線利用促進計画」を策定。現状と課題をまとめたうえで、利用促進の基本方針を示します。この計画は5年ごとに見直され、4期目に入る2022年度からは「越美北線・広域路線バス利用促進計画」と名称を改め、現在に至っています。

さらに、2008年2月には地域公共交通活性化再生法にもとづく法定協議会を設置。JR西日本と協議を重ね、連携計画を進めることになりました。

こうした取り組みもあって、代行バスで減少した越美北線の利用者は増加に転じ、2010年には災害前よりも利用者数が多くなったのです。

越美北線の乗車人員の推移
▲復旧した2007年(平成19年)から乗車人員は増加に転じ、翌年以降は1日900人台を維持している。
参考:越美北線と乗合バスに乗る運動を進める会「越美北線・広域路線バス利用促進計画」のデータをもとに筆者作成

越美北線観光利用促進協議会の設置

2021年3月、乗る運動を進める会に参画する大野市と福井市にくわえ、福井県とJR西日本金沢支社が連携協定を結びます。この協定は、2024年に予定される北陸新幹線の敦賀延伸開業を見据え、越美北線の観光利用促進を目的とした協定です。協定締結とあわせて、「越美北線観光利用促進協議会」も設置されます。

この協議会では、越美北線の魅力向上や周遊滞在の促進、情報発信による誘客など利用促進につながる「観光計画」を策定。具体的には、ラッピング列車の運行など、新幹線の開業に向けての取り組みをスタートしています。

また、沿線自治体では福井大学と共同して「越美北線利用促進アクションプログラム」を作成。沿線住民へのアンケート調査などをもとに、鉄道利用者に限定したクーポンの配布やクラウドファンディングなど、さまざまな施策を検討中です。

越美北線のこれまでの取り組み

越美北線の沿線自治体が中心となって取り組んでいる、利用促進策の一部を紹介します。

  • ラッピング列車の運行(恐竜化石号、越前大野城号など)
  • 沿線住民を対象としたイベント列車の運行(ふれあいホタル号、一乗谷あかりサミット号など)
  • ARアプリを活用した観光利用促進
  • 利用者への助成金交付
  • 駅周辺の美化活動
  • イベントでの啓発活動
  • グッズの販売(携帯用時刻表、ラッピング列車ペーパークラフトなど)
  • サポート企業の募集(回数券進呈や「環境にやさしい企業」としてPR)

…など

越美北線では、2010年からラッピング列車を運行しています。当初は一部車両のみでしたが、2014年からは運行する全車両がラッピング列車に。さらに、2018年からはデザイン変更もおこなっています。

ARアプリは、越美北線観光利用促進協議会の事業として開発。駅でアプリを起動すると戦国武将などのARキャラクターが沿線案内をしたり、車内では旬の情報や観光情報が動画で閲覧できたりと、観光誘客に向けた取り組みを始めています。

こうした観光客向けの取り組みが進められる一方で、越美北線の脅威となるのが、並行する高速道路(中部縦貫自動車道)です。現在、中部縦貫自動車道の一部区間が大野ICまで開通していますが、2023年には大野IC~九頭竜ICが開通します。この区間は、越美北線とほぼ並行するため、移動ニーズが大きく変化することが予測されます。

さらに、2027年度には岐阜県の白鳥ICまで延伸する予定で、白鳥ICでは東北北陸自動車道とつながります。これにより、名古屋方面からも「車の利便性」が高まるのです。

コロナ禍で利用者が大きく減少した越美北線。アフターコロナになっても、高速道路の延伸により厳しい状況が予測されます。一方で、北陸新幹線の延伸開業も控えており、沿線自治体にはさらなる取り組みの強化が求められるでしょう。

なお、越美北線とつながる予定であった越美南線(現・長良川鉄道)の協議については、以下のページで紹介しています。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【中部】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中部地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

ローカル線に関する課題認識と情報開示について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf

越美北線今昔物語(大野市)
http://www.city.ono.fukui.jp/shisei/kouho-koucho/kouho-ono/kohourabyoushi.files/etsumihokusenkonjyakumonogatari.pdf

越美北線の観光利用促進に関する連携協定締結式(福井市)
https://www.city.fukui.lg.jp/fukuisi/mayor/photo/ph20210305.html

地域公共交通活性化・再生総合事業の実務のポイント(中部運輸局企画観光部交通企画課)
https://www.jttri.or.jp/survey/zisseki/archives_event/090626kensyu/pdf/02_kurihara.pdf

広報おおの 2021年4月号(大野市)
https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/assets.ikouhoushi.jp/attachment/magazine_issue_file/files/89095/published_89095.pdf

どうなる?どうする?JR越美北線(大野市)
https://www.city.ono.fukui.jp/kurashi/douro-kotsu/tetsudou/etsumi_action.files/etsumi_action.pdf

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