週刊!鉄道協議会ニュース【2024年9月29日~10月5日】

富山地方鉄道の駅 協議会ニュース

今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、富山地方鉄道の支援協議に富山県が参加の意向を示した話や、大阪府と大阪市が夢洲(ゆめしま)アクセス鉄道の検討会を立ち上げる話題など、さまざまなニュースをお伝えします。

富山地方鉄道の支援協議に県が参画も「みなし上下分離」は否定的

【2024年9月30日】富山地方鉄道の沿線7市町村が富山県庁を訪問し、事業者への支援に関する協議に県も参画するよう要望しました。富山県の新田知事は、県を含めた検討組織の設置に同意。「各自治体の共通課題や固有の課題についても丹念に話し合いたい」と語りました。

ただ、沿線自治体が求める「みなし上下分離」の導入については、費用負担が大きいことから「議論する段階ではない」という考えを伝えたようです。そのうえで、「これまでと同様の維持活性化に関する検討には、県も参加する」と新田知事は述べ、新たに設ける検討組織で今後の支援策を議論したいとしています。

【解説】みなし上下分離に否定的な富山県・今後の支援はどうなる?

富山地方鉄道の鉄軌道事業は、軌道は黒字が続いていますが、鉄道は赤字が慢性化しています。コロナ禍前は、軌道やバス事業などの利益で鉄道の赤字をカバーし、会社全体では黒字経営でした。

■富山地方鉄道(鉄軌道事業)の営業損益の推移(単位:万円)

富山地方鉄道(鉄軌道事業)の営業損益の推移
参考:「鉄道統計年報」をもとに筆者作成

しかし、2020年度以降はコロナの影響で経営が悪化。その後、鉄道の利用者数の回復は鈍く、また電気代や資材価格などの高騰が続き、2023年度の赤字は9億9,127万円にまで膨らみます。

危機的状況に陥った富山地方鉄道は、2023年末に「再構築に向けた勉強会」の設置を沿線自治体に申し入れます。これを受けて沿線自治体は、2024年2月に勉強会を設置。鉄道の現状や課題を共有するとともに、国土交通省に対して支援制度の確認をおこなうなど、問題解決に向けて動き始めます。

勉強会で検討した結果、「上下分離方式」「みなし上下分離」「他事業者に経営移管」などの再構築案を提示。富山地方鉄道の意向から「みなし上下分離」を念頭に、協議会を立ち上げて検討することが確認されました。

一方、勉強会に参加していない富山県も、富山地方鉄道への支援策について模索を始めます。沿線自治体などが提言した「みなし上下分離」についても、独自に調査。北陸鉄道の事例をもとに試算したところ、事業費は総額600億円になるという結果が示されています。なお、この試算結果は路線長の単純比較で算出したものですから、あくまでも参考費用です。

この試算結果を受けて富山県の新田知事は、9月19日の県議会定例会で「国が半分負担しても、県と沿線自治体には150億円ずつの負担になる。相当の覚悟が必要であり、丁寧な議論が必要だ」と発言。みなし上下分離の導入に否定的な考えを伝えます。

その5日後の9月24日、沿線自治体は首長会議を開催。どのような支援策でも富山県の協力は欠かせないことから、県にも協議に参加してもらうことで一致します。そして9月30日に沿線自治体は、富山県に協議への参加を求める要望書を提出。県も参画する協議組織の設置が決まりました。

協議はこれから本格的に始まりますが、富山地方鉄道の経営がひっ迫していることから早急な対応が求められます。沿線自治体は当初、2024年度中に方向性をまとめるとしていましたが、みなし上下分離のような数百億単位の支援は半年程度で決められません。まずは、単年度の赤字補てんといった支援をしながら、数年かけて最終的な支援形態を決めるとみられます。

ここで気になるのが、富山地方鉄道の各路線の利用状況です。コロナ禍前(2019年)の輸送密度は、本線が2,330人/日、上滝線が1,531人/日、不二越線が1,269人/日、立山線が872人/日。このうち観光利用の多い立山線は、コロナ禍には500人前後にまで落ち込み、赤字も増大したと考えられます。抜本的な経営改善が図られない場合、一部区間の廃止も検討されるかもしれません。今後の協議に注目したいところです。

その他の鉄道協議会ニュース

「夢洲アクセス鉄道」の検討会設立へ

【2024年10月3日】大阪府と大阪市は、人工島「夢洲(ゆめしま)」と桜島などを結ぶアクセス鉄道に関する検討会を設立すると発表しました。夢洲は大阪・関西万博の会場であり、その後は統合型リゾート(IR)の開発が予定されています。万博開催前の2025年1月には、大阪メトロ中央線のコスモスクエア~夢洲が延伸開業しますが、その先の舞洲(まいしま)や桜島方面への延伸計画は、事業者やルートが決まっていません。

そこで大阪府と大阪市は、採算性や実現性、技術的な課題などを整理するために検討会を設立。JR西日本、京阪、阪神、大阪メトロなどの事業者や学識経験者を集め、2024年11月から議論することになりました。検討結果は、2025年度の前半にまとめる予定です。

佐賀県議会に国交省幹部が出席「西九州新幹線は、まずルートの議論を」

【2024年10月1日】佐賀県議会の新幹線問題対策等特別委員会に、国土交通省の足立官房審議官が参考人として出席しました。足立官房審議官は、西九州新幹線の未整備区間について「ルートが具体化しなければ整備費用を算出できない。まずルートの議論をしていきたい」という考えを述べました。

佐賀県は、フル規格で整備したときの県の実質負担額が1,400億円以上と試算しています。これについて県議から「負担を軽減できるか」と問われた足立官房審議官は「ルート次第で負担額も変わる」と説明。国の支援スキームは変更できないことも伝えたようです。

また、環境影響評価(アセスメント)はルートを特定しなくても実施できるとし、「アセスを進めながらルートを検討していく手法もある」とも述べています。

※西九州新幹線の未整備区間をめぐる、佐賀県と国土交通省との「幅広い議論」の内容は、以下のページで詳しく解説しています。

赤穂線の沿線企業に「実態調査」実施へ – 岡山県の協議会

【2024年10月3日】岡山県JR在来線利用促進検討協議会が開催され、JR姫新線の取り組みや赤穂線の実態調査に関する議論がされました。

姫新線に関しては、真庭市が実施した住民シンポジウムや高校生へのアンケート調査などを共有。姫新線の潜在ニーズの把握に努めていることが報告されました。

また赤穂線に関しては、沿線の企業を対象に実態調査の実施を決めました。具体的には、「企業として公共交通の通勤を推奨しているか」「鉄道通勤のメリットやデメリット・改善点は何か」「鉄道で通勤利用しない理由は何か」などの内容を、経営者や従業員にアンケートするそうです。対象企業や質問項目などの詳細は、今後決めるとしています。

県民生活交通課の吉原総括参事は、「調査を通して、鉄道も通勤手段の選択肢として判断できるような材料を示したい」と語っています。

※姫新線、赤穂線、因美線など岡山県の沿線自治体とJR西日本との協議の流れは、以下のページで詳しく解説しています。

JR関西本線の名古屋~伊賀上野で直通運転の実証実験へ

関西本線の沿線自治体(伊賀市・亀山市)と三重県などは、名古屋から伊賀上野まで直通運転する列車の実証実験をおこなうことで合意しました。これは、沿線自治体などで構成される「関西本線活性化利用促進三重県会議」で決まったものです。

関西本線は、途中の亀山を境にJR東海とJR西日本で運用がわかれています。このうちJR西日本の線区では利用者の減少が続き、亀山~加茂(京都府)の輸送密度は1,000人/日を割り込んでいます。こうした状況に三重県は、直通運転する列車を走らせることで、地域外からの需要創出を模索。県がJR東海とJR西日本との調整役となり、直通運転が実現することになりました。実証実験は、2025年2月ごろに2日間ほどおこなう予定です。

JR宇部線・小野田線などが乗り放題の「1dayパス」販売開始

【2024年10月4日】宇部市やJR宇部線利用促進協議会などは、市内の鉄道やバスが1日乗り放題になる「宇部周遊1dayパス」を販売しました。この乗車券は、宇部市で開催される「まちじゅうエヴァンゲリオン第4弾」にあわせて企画されたものです。

対象路線は、宇部線の全線、小野田線の居能~長門長沢、宇部市交通局の路線バス(空港連絡バスを除く)です。販売・利用期間は2024年10月4日から2025年1月19日まで。価格は1,500円で、利用者全員に記念品も進呈されます。なお、販売枚数は3,000枚。完売した段階で終了となります。

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